最強勇者パーティーの「普通」担当 〜平凡な村人の僕、伝説の英雄たちに離してもらえません!〜

たら昆布

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4話

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 ナギの村の朝は、鶏の鳴き声と、乾いた薪が爆ぜる音から始まる。
 僕、テオはいつも通りに早起きして、宿屋の厨房で宿泊客に出すパンを焼いていた。香ばしい小麦の香りが立ち込める中、昨日の出来事を思い返して首を傾げる。

(……おかしい。やっぱり、どう考えてもおかしいぞ)

 昨晩から僕の宿に居座っている三人組。金髪のアレク様、黒髪ロングのヴィンス様、赤髪狼耳のガイル様。彼らは、魔王を討伐した伝説の勇者パーティーだと思う。だが、僕の知っている「勇者様」のイメージと、目の前の彼らには、あまりにも大きな溝がある。

 勇者といえば、もっとこう、常に背筋をピンと伸ばして、民衆に希望を与えるような凛々しい存在のはずだ。決して、ただの村人に「膝枕をしろ」と甘えたり、首の匂いを嗅いで「お日様の匂いだー!」と騒いだりする人たちではないはずなのである。

「……おはよう、テオ。今日も君の焼くパンは、神の祝福を受けたかのような香りがするね」

 背後から、爽やかな――爽やかすぎて、朝の薄暗い厨房には眩しすぎる声がした。振り返ると、そこにはアレク様が立っていた。
 寝起きのせいか、いつもより少しだけ乱れた金髪が、窓から差し込む朝日に照らされてキラキラと輝いている。その顔面は相変わらず非の打ち所がない美しさだが、彼が抱えているのは、僕がさっきまで使っていた「使い古しの雑巾」だった。

「あの、アレク様。それ、僕が後で床を拭こうと思ってたやつなんですけど」
「ああ、君の手を汚させるわけにはいかないからね。私が代わりに……と思ったのだが、どうにも使い方が難しくてね。魔法で浄化してしまった方が早いだろうか?」
「いえ、普通に水で洗って絞るだけです。魔法なんて無駄遣いしないでください」

 僕はアレク様から雑巾をひったくると、バケツの水でジャブジャブと洗った。
 アレク様はそれを「おお、なんて手際がいいんだ……」と、伝説の秘宝でも見るような目で見つめている。

「……失礼ですが、アレク様。一つ確認してもいいですか?」
「なんだい? 君の頼みなら、なんだって聞こう」
「みなさん、本当に本物の勇者パーティーなんですよね? いえ、その……証拠というか、何か『これぞ勇者!』っていうもの、持ってたりしますか?」

 僕が恐る恐る尋ねると、アレク様は一瞬だけ目を見開いた。そして、少しだけ寂しそうな顔をして俯く。
「そうか……。私の不甲斐ない振る舞いのせいで、君を不安にさせてしまったんだね。……ヴィンス、ガイル! 来てくれ! テオに我々の真実を示す必要がある!」

 アレク様が声を張り上げると、二階からドタバタと騒がしい足音が聞こえ、ヴィンス様とガイル様が瞬時に姿を現した。
 ヴィンス様は眼鏡を指で押し上げ、ガイル様は口にパンを咥えたまま、尻尾をパタパタと振っている。

「……テオ。疑うのも無理はありません。我々があまりに『君という安らぎ』に溺れすぎていたせいですね」
「テオ! 俺が本物の獣人戦士だってこと、今ここで見せてやるぞ!」

 三人は厨房の狭いスペースで、なぜかビシッとポーズを決めた。
 ……正直、朝の忙しい時間に厨房でやられると、邪魔でしかないのだけれど。
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