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5話
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厨房では狭すぎるということで、僕たちは宿屋の裏庭に移動した。
ここには洗濯物を干すスペースと、薪割りのための切り株があるだけの、なんてことのない広場だ。
「よし。では、テオ。まずは私のことから説明しよう」
アレク様が、腰に下げていた鞘から一振りの剣を抜いた。
その瞬間、裏庭の空気が一変した。抜かれた刀身は、まるで真昼の太陽をそのまま閉じ込めたかのような黄金の輝きを放っている。装飾には見たこともないほど大きな宝石が埋め込まれており、そこから溢れ出す威圧感は、僕のような素人でも「あ、これ触ったら死ぬやつだ」と本能で理解できるほどだった。
「これが、神から授かった聖剣『エクス・ルミナス』だ。魔王の心臓を貫いた、世界で唯一の剣だよ」
「うわあ……。本物、なんですね。すごい……」
僕が素直に感心すると、アレク様は得意げに鼻を高くした。
だが、次の瞬間、彼はその聖剣を振り上げ――。
「えいっ」
……パカンッ、という軽い音と共に、切り株の上にあった薪が真っ二つになった。
しかも、切り口が焦げている。どうやら聖剣の熱量で、切ると同時に乾燥までさせてしまったらしい。
「どうだい、テオ。これなら君も、薪割りに苦労しなくて済むだろう?」
「……アレク様。聖剣って、薪割りに使うものじゃないと思うんです」
「いいんだ。君の役に立つなら、神もきっとお許しになる」
アレク様は満足げに剣を鞘に収めた。……神様、今ごろ泣いてるんじゃないかな。
続いて、ヴィンス様が一歩前に出た。彼は何も持っていない手を、空に向かってかざす。
「次は私です。……ヴィンス・アルカナ。王立魔導学院を飛び級で卒業し、失われた古代魔法を唯一継承する者。……テオ、あそこの井戸を見ていてください」
ヴィンス様が短く呪文を唱えると、井戸から水が龍の形となって飛び出した。それは空中で美しく舞い踊り、七色に輝く氷の粒となって、僕が干していた洗濯物の上に降り注いだ。
「えっ、ちょっと!? 洗濯物が濡れ……あ、あれ?」
濡れると思った洗濯物は、氷の粒が触れた瞬間に汚れが完全に消え去り、柔軟剤のCMでも見ているかのようにフワフワになっていた。
「……これは『浄化の極光(プリズム・ピュリファイ)』。本来は都市全体の呪いを解くための広域殲滅魔法ですが、君の家事を少しでも軽減するために最適化しました」
「……ヴィンス様。それはもう、魔法の使い道として合ってるのか分かりません」
最後はガイル様だ。彼は「次は俺だ!」と叫ぶと、裏庭にある大きな岩――僕が漬物石を置く台にしている岩――を、片手でひょいと持ち上げた。
「見てろよテオ! 俺の腕力なら、このくらいの岩、片手で百個は運べるぞ! お前が山に山菜を採りに行くなら、俺が山ごと背負ってきてやる!」
「山は背負わなくていいです」
三人の「証明」は、確かに彼らが常人離れした力を持っていることを示していた。
けれど、その使い道がことごとく「僕の家事の手伝い」に向いているせいで、僕はますます「この人たち、大丈夫なのかな……」という不安を募らせることになったのだった。
ここには洗濯物を干すスペースと、薪割りのための切り株があるだけの、なんてことのない広場だ。
「よし。では、テオ。まずは私のことから説明しよう」
アレク様が、腰に下げていた鞘から一振りの剣を抜いた。
その瞬間、裏庭の空気が一変した。抜かれた刀身は、まるで真昼の太陽をそのまま閉じ込めたかのような黄金の輝きを放っている。装飾には見たこともないほど大きな宝石が埋め込まれており、そこから溢れ出す威圧感は、僕のような素人でも「あ、これ触ったら死ぬやつだ」と本能で理解できるほどだった。
「これが、神から授かった聖剣『エクス・ルミナス』だ。魔王の心臓を貫いた、世界で唯一の剣だよ」
「うわあ……。本物、なんですね。すごい……」
僕が素直に感心すると、アレク様は得意げに鼻を高くした。
だが、次の瞬間、彼はその聖剣を振り上げ――。
「えいっ」
……パカンッ、という軽い音と共に、切り株の上にあった薪が真っ二つになった。
しかも、切り口が焦げている。どうやら聖剣の熱量で、切ると同時に乾燥までさせてしまったらしい。
「どうだい、テオ。これなら君も、薪割りに苦労しなくて済むだろう?」
「……アレク様。聖剣って、薪割りに使うものじゃないと思うんです」
「いいんだ。君の役に立つなら、神もきっとお許しになる」
アレク様は満足げに剣を鞘に収めた。……神様、今ごろ泣いてるんじゃないかな。
続いて、ヴィンス様が一歩前に出た。彼は何も持っていない手を、空に向かってかざす。
「次は私です。……ヴィンス・アルカナ。王立魔導学院を飛び級で卒業し、失われた古代魔法を唯一継承する者。……テオ、あそこの井戸を見ていてください」
ヴィンス様が短く呪文を唱えると、井戸から水が龍の形となって飛び出した。それは空中で美しく舞い踊り、七色に輝く氷の粒となって、僕が干していた洗濯物の上に降り注いだ。
「えっ、ちょっと!? 洗濯物が濡れ……あ、あれ?」
濡れると思った洗濯物は、氷の粒が触れた瞬間に汚れが完全に消え去り、柔軟剤のCMでも見ているかのようにフワフワになっていた。
「……これは『浄化の極光(プリズム・ピュリファイ)』。本来は都市全体の呪いを解くための広域殲滅魔法ですが、君の家事を少しでも軽減するために最適化しました」
「……ヴィンス様。それはもう、魔法の使い道として合ってるのか分かりません」
最後はガイル様だ。彼は「次は俺だ!」と叫ぶと、裏庭にある大きな岩――僕が漬物石を置く台にしている岩――を、片手でひょいと持ち上げた。
「見てろよテオ! 俺の腕力なら、このくらいの岩、片手で百個は運べるぞ! お前が山に山菜を採りに行くなら、俺が山ごと背負ってきてやる!」
「山は背負わなくていいです」
三人の「証明」は、確かに彼らが常人離れした力を持っていることを示していた。
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