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彼らが本物の「すごい人たち」であることは分かった。
分かったのだけれど、その「すごさ」が日常生活に馴染みすぎて、僕の感覚はさらに麻痺し始めていた。
「よし、今日は隣町まで買い出しに行く日だ。ガンツさん、行ってきますね」
「おう、気をつけてな。……あー、テオ。その後ろの『ボディーガード』たちも、ほどほどにな」
ガンツさんが呆れた顔で、僕の背後を指さす。
そこには、完全武装……ではないけれど、いつでも戦えるような身軽な旅装束に身を包んだ、美形三人が整列していた。
「テオ。道中は魔物が出るかもしれない。私の後ろから一歩も離れないように」
アレク様が、僕の手をぎゅっと握ってくる。……いや、ただの買い物ですよ?
「テオ。……日差しが強いですね。私の障壁魔法で、君の周りだけ常に快適な温度と湿度を保ちましょう」
ヴィンス様が指を鳴らすと、僕の周囲に目に見えない膜のようなものが張られた。確かに涼しいけれど、なんだか歩きにくい。
「テオ! 荷物は全部俺が持つからな! お前は俺の尻尾を掴んで歩け! 迷子にならないようにな!」
ガイル様が赤い尻尾を僕の目の前でフリフリさせている。十九歳の男が尻尾を掴んで歩くのは、かなり恥ずかしい。
「……みなさん、そんなに気合を入れなくても大丈夫ですって。この辺に出る魔物なんて、せいぜい『ハネウサギ』くらいですから」
ナギの村から隣町までの道は、手入れされた街道だ。魔物といっても、子供でも追い払えるような弱いものしか出ない。
しかし、勇者一行にとって、僕の周囲一メートルは「世界で最も守るべき最前線」らしい。
街道を歩いていると、藪の中からガサガサと音がした。
「……出たな」
アレク様が鋭い目つきで腰の聖剣に手をかける。
「……殲滅しましょうか。それとも、時空ごと捻じ切りますか?」
ヴィンス様の眼鏡がキラーンと光り、指先に高密度の魔力が集まる。
「テオ! 俺の後ろに隠れてろ! 一噛みで終わらせてやる!」
ガイル様が牙を剥き、野獣のような低い唸り声を上げる。
そして飛び出してきたのは――。
耳がちょっと長い、一羽のハネウサギだった。
モグモグと草を食べているだけの、とても可愛らしい生き物だ。
「……みなさん、待ってください。ただのウサギです」
僕が止めるのも聞かず、アレク様は聖剣を抜き放ち、眩い光の斬撃を――放とうとして、寸前で止めた。
「……む。確かに、ただのウサギだ。だが、テオに飛びかかって服を汚す可能性があった」
「左様です。念のため、ウサギの存在を構成する分子レベルまで分解すべきでしたね」
「俺が捕まえて、丸焼きにしてやる!」
「やめてあげて!!」
僕は全力で三人を制止した。
ただの買い物のはずなのに、隣町に着く頃には、僕は精神的にクタクタになっていた。
英雄たちの過保護は、魔王の呪いよりもずっと僕を疲れさせる気がする。
「……都会の人は、本当に心配性なんだなあ」
僕は町で見つけた安売りの卵を抱えながら、深いため息をつくのだった。
分かったのだけれど、その「すごさ」が日常生活に馴染みすぎて、僕の感覚はさらに麻痺し始めていた。
「よし、今日は隣町まで買い出しに行く日だ。ガンツさん、行ってきますね」
「おう、気をつけてな。……あー、テオ。その後ろの『ボディーガード』たちも、ほどほどにな」
ガンツさんが呆れた顔で、僕の背後を指さす。
そこには、完全武装……ではないけれど、いつでも戦えるような身軽な旅装束に身を包んだ、美形三人が整列していた。
「テオ。道中は魔物が出るかもしれない。私の後ろから一歩も離れないように」
アレク様が、僕の手をぎゅっと握ってくる。……いや、ただの買い物ですよ?
「テオ。……日差しが強いですね。私の障壁魔法で、君の周りだけ常に快適な温度と湿度を保ちましょう」
ヴィンス様が指を鳴らすと、僕の周囲に目に見えない膜のようなものが張られた。確かに涼しいけれど、なんだか歩きにくい。
「テオ! 荷物は全部俺が持つからな! お前は俺の尻尾を掴んで歩け! 迷子にならないようにな!」
ガイル様が赤い尻尾を僕の目の前でフリフリさせている。十九歳の男が尻尾を掴んで歩くのは、かなり恥ずかしい。
「……みなさん、そんなに気合を入れなくても大丈夫ですって。この辺に出る魔物なんて、せいぜい『ハネウサギ』くらいですから」
ナギの村から隣町までの道は、手入れされた街道だ。魔物といっても、子供でも追い払えるような弱いものしか出ない。
しかし、勇者一行にとって、僕の周囲一メートルは「世界で最も守るべき最前線」らしい。
街道を歩いていると、藪の中からガサガサと音がした。
「……出たな」
アレク様が鋭い目つきで腰の聖剣に手をかける。
「……殲滅しましょうか。それとも、時空ごと捻じ切りますか?」
ヴィンス様の眼鏡がキラーンと光り、指先に高密度の魔力が集まる。
「テオ! 俺の後ろに隠れてろ! 一噛みで終わらせてやる!」
ガイル様が牙を剥き、野獣のような低い唸り声を上げる。
そして飛び出してきたのは――。
耳がちょっと長い、一羽のハネウサギだった。
モグモグと草を食べているだけの、とても可愛らしい生き物だ。
「……みなさん、待ってください。ただのウサギです」
僕が止めるのも聞かず、アレク様は聖剣を抜き放ち、眩い光の斬撃を――放とうとして、寸前で止めた。
「……む。確かに、ただのウサギだ。だが、テオに飛びかかって服を汚す可能性があった」
「左様です。念のため、ウサギの存在を構成する分子レベルまで分解すべきでしたね」
「俺が捕まえて、丸焼きにしてやる!」
「やめてあげて!!」
僕は全力で三人を制止した。
ただの買い物のはずなのに、隣町に着く頃には、僕は精神的にクタクタになっていた。
英雄たちの過保護は、魔王の呪いよりもずっと僕を疲れさせる気がする。
「……都会の人は、本当に心配性なんだなあ」
僕は町で見つけた安売りの卵を抱えながら、深いため息をつくのだった。
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