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「……ううっ、頭が……。テオ、すまないが、少し支えてくれないか……」
宿屋の廊下を掃除していた僕は、突然よろめいて壁に手をついたアレク様に呼び止められた。
まただ。昨日から、アレク様は僕と二人きりになると、急に「魔王戦の後遺症」による目眩を起こし始める。
「アレク様!? 大丈夫ですか。あ、えっと……とりあえず、そこのベンチに座ってください!」
「ああ、悪いね……。君は本当に優しい……。……ああ、まだ視界が揺れる……」
アレク様は僕の細い肩に、そのがっしりした逞しい腕を回した。
鎧を脱いでいるとはいえ、騎士としての鍛え上げられた筋肉は岩のように硬い。対して、僕はひょろひょろの村人だ。正直、支えるどころか僕の方が潰れそうである。
「……テオ。もう少しだけ、近くに……。君の体温を感じると、不思議と魔力の渦が収まるんだ……」
「そんなんで治るなら、いくらでも貸しますけど。……大変ですね、世界を救うって」
僕はアレク様をベンチに座らせると、彼の頭をそっと僕の膝に乗せた。
いわゆる膝枕というやつだ。村の小さな子供が泣いている時に、よくこうしてあやすのだが、まさか伝説の勇者にすることになるとは。
「……ふぅ……。生き返るようだ……」
「よしよし、ゆっくり休んでください。アレク様は頑張りすぎたんですよ。魔王なんて、僕だったら名前を聞いただけで気絶しちゃいますもん」
僕が子供をあやすように金髪を優しく撫でてあげると、アレク様は「完璧な勇者」の仮面を脱ぎ捨て、なんとも締まりのない、とろけるような笑顔を浮かべた。
なんだか、立派なゴールデンレトリバーの頭を撫でているような気分だ。
そこへ、パタパタと廊下を歩く音がして、ヴィンス様が現れた。
彼は本を片手に、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。
「……アレク。君の『魔力不安定』という演技は、少々使い古されていますね。……テオ、私の方も数値に異常が出ました。私の心拍数を安定させるため、指先を握ってもらえませんか?」
「ええっ、ヴィンス様まで!? もしかして、この宿の食事が合わなかったとか……?」
「いえ。君という『無害な触媒』を求めているだけです」
ヴィンス様は僕の空いている方の手を、ひんやりとした、しかし美しい指先で包み込んだ。
そして、なぜかそのまま僕の指の節々をじっくりと観察し始める。
「テオ! 俺も混ぜろよ!」
さらに、どこからともなくガイル様が飛び込んできて、僕の背後からガバッと抱きついてきた。
「お前の背中、あったかいなー! 俺、ここで昼寝する!」
「わっ、ちょっと、重い! みんなして僕にくっつかないでください!」
金髪の勇者が膝枕、黒髪の魔導師が手握り、赤髪の獣人が背後から抱きつき。
はたから見れば、豪華絢爛な地獄絵図……いや、天国のような光景だろうが、当事者の僕は「重いし暑いし、仕事が進まない」という悩みでいっぱいだった。
「……あの、みなさん。これ、都会の『最新の挨拶』か何かですか?」
「……そうだ」と、三人が声を揃えて真顔で答えた。
僕は「都会の人は、本当に変わってるなあ」と、深い溜息をつくのだった。
宿屋の廊下を掃除していた僕は、突然よろめいて壁に手をついたアレク様に呼び止められた。
まただ。昨日から、アレク様は僕と二人きりになると、急に「魔王戦の後遺症」による目眩を起こし始める。
「アレク様!? 大丈夫ですか。あ、えっと……とりあえず、そこのベンチに座ってください!」
「ああ、悪いね……。君は本当に優しい……。……ああ、まだ視界が揺れる……」
アレク様は僕の細い肩に、そのがっしりした逞しい腕を回した。
鎧を脱いでいるとはいえ、騎士としての鍛え上げられた筋肉は岩のように硬い。対して、僕はひょろひょろの村人だ。正直、支えるどころか僕の方が潰れそうである。
「……テオ。もう少しだけ、近くに……。君の体温を感じると、不思議と魔力の渦が収まるんだ……」
「そんなんで治るなら、いくらでも貸しますけど。……大変ですね、世界を救うって」
僕はアレク様をベンチに座らせると、彼の頭をそっと僕の膝に乗せた。
いわゆる膝枕というやつだ。村の小さな子供が泣いている時に、よくこうしてあやすのだが、まさか伝説の勇者にすることになるとは。
「……ふぅ……。生き返るようだ……」
「よしよし、ゆっくり休んでください。アレク様は頑張りすぎたんですよ。魔王なんて、僕だったら名前を聞いただけで気絶しちゃいますもん」
僕が子供をあやすように金髪を優しく撫でてあげると、アレク様は「完璧な勇者」の仮面を脱ぎ捨て、なんとも締まりのない、とろけるような笑顔を浮かべた。
なんだか、立派なゴールデンレトリバーの頭を撫でているような気分だ。
そこへ、パタパタと廊下を歩く音がして、ヴィンス様が現れた。
彼は本を片手に、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。
「……アレク。君の『魔力不安定』という演技は、少々使い古されていますね。……テオ、私の方も数値に異常が出ました。私の心拍数を安定させるため、指先を握ってもらえませんか?」
「ええっ、ヴィンス様まで!? もしかして、この宿の食事が合わなかったとか……?」
「いえ。君という『無害な触媒』を求めているだけです」
ヴィンス様は僕の空いている方の手を、ひんやりとした、しかし美しい指先で包み込んだ。
そして、なぜかそのまま僕の指の節々をじっくりと観察し始める。
「テオ! 俺も混ぜろよ!」
さらに、どこからともなくガイル様が飛び込んできて、僕の背後からガバッと抱きついてきた。
「お前の背中、あったかいなー! 俺、ここで昼寝する!」
「わっ、ちょっと、重い! みんなして僕にくっつかないでください!」
金髪の勇者が膝枕、黒髪の魔導師が手握り、赤髪の獣人が背後から抱きつき。
はたから見れば、豪華絢爛な地獄絵図……いや、天国のような光景だろうが、当事者の僕は「重いし暑いし、仕事が進まない」という悩みでいっぱいだった。
「……あの、みなさん。これ、都会の『最新の挨拶』か何かですか?」
「……そうだ」と、三人が声を揃えて真顔で答えた。
僕は「都会の人は、本当に変わってるなあ」と、深い溜息をつくのだった。
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