最強勇者パーティーの「普通」担当 〜平凡な村人の僕、伝説の英雄たちに離してもらえません!〜

たら昆布

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8話

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 ナギの村に戻った翌日。
 宿屋『どんぐり小道亭』の主人、ガンツさんが腕組みをして、宿泊客(という名の居候)である三人を見据えていた。

「いいか、あんたたち。ここに居座るなら、テオの手伝いくらいしろ。テオ一人が掃除して洗濯して料理して……じゃ、いくらタフな村人の子でも倒れちまうからな」
「もちろんだ、ガンツ殿。テオの負担を減らすためなら、このアレク、命を懸けて取り組もう」

 アレク様が騎士の礼を捧げると、ガンツさんは鼻を鳴らした。
「命は懸けなくていいから、ジャガイモの皮を剥け。……テオ、教えてやってくれ」
「はい、分かりました」

 というわけで、厨房での「家事修行」が始まった。
 まずは基本中の基本、ジャガイモの皮剥きだ。
 僕は三人に小さなナイフを渡し、手本を見せる。

「こうやって、親指を添えて、滑らせるように……。アレク様、やってみてください」
「承知した。……ふむ、敵の首を狙うよりは簡単そうだな」

 アレク様は真剣な顔でジャガイモを見つめた。
 ……が、次の瞬間。
 シュパッ、と空気を切り裂くような音がして、アレク様の持っていたジャガイモが、皮と一緒に中身の九割を削ぎ落とされ、サイコロほどの大きさになっていた。

「……できたよ、テオ」
「できてません! それ、ほとんど捨てちゃってるじゃないですか! 贅沢すぎます!」
「なっ……。……すまない、つい『最適解』で切ってしまった……」

 続いて、ヴィンス様。彼は潔癖症を隠すために薄い魔法の膜を手に張り、ジャガイモを浮かせていた。
「非効率ですね。……熱分解によって、外皮のみを剥離させます」
 ヴィンス様が指先でバチッと火花を散らすと、ジャガイモがポンッという音と共に弾けた。
 ……そして、中身はドロドロの液体になっていた。

「……ヴィンス様。これ、スープにもなりませんよ」
「計算外です。この個体の水分含有率を読み違えました……」

 最後はガイル様。
「俺、これは得意だぞ! 爪でピャッとやるんだ!」
「爪はやめてください! 包丁……ああっ、包丁が!?」

 ガイル様が力を入れた瞬間、鋼の包丁がメキメキと音を立てて飴細工のように曲がってしまった。
 ガイル様は「あ、テヘッ」と赤髪を掻いているが、僕の愛用の包丁が……!

「……もういいです。みなさんは、お掃除をしてください。廊下を雑巾がけするだけです。これなら壊すものはないですよね?」

 僕は泣く泣く彼らを厨房から追い出した。
 廊下にバケツと雑巾を置いて、僕は掃除の指示を出す。
 すると、数分後。

「テオ! 大変だ、アレクが倒れた!」
「えっ!?」

 慌てて廊下へ駆けつけると、アレク様が膝をついて、肩で息をしていた。
「……すまない、テオ……。……この『雑巾がけ』という行為……、全身の筋肉を使い、呼吸を整えなければならない……、なんという過酷な訓練なんだ……。……ああ、視界が……」
「……アレク様。まだ三メートルしか進んでませんよね?」
「……精神的な磨耗が激しくてね……。テオ、少しだけ……君の肩を貸してくれないか……」

 結局、アレク様の「疲れたフリ」に絆され、僕は彼をベンチまで運ぶ羽目になった。
 その横で、ヴィンス様は「摩擦係数をゼロにすれば効率的です」と言って、魔法で廊下をスケートリンクのようにツルツルにしてしまい、ガイル様がそれに乗って「ひゃっほー!」と叫びながら滑り、壁に激突して穴を開けていた。

「……みなさん」
 僕は、曲がった包丁と穴の開いた壁を交互に見て、深く、深く溜息をついた。
「……手伝わなくていいので、大人しく部屋で座ってていただけますか?」

 英雄たちは、戦場では最強かもしれないが、宿屋の平和にとっては最大級の「災害」であった。
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