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10話
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玉座の間での一件以来、僕の身体はさらに過敏になっていた。
ヴォルフ陛下の魔力なしでは、まるで呼吸ができないかのように苦しく、一日中、彼の肌に触れていなければいられない。
ある夜。
陛下が珍しく僕を抱かずに、背後から抱きしめて眠っていた時のことだ。
僕の背中に触れていた彼の指が、ふと、ある一点で止まった。
「……ユキ。これは、何だ?」
「え……?」
振り返る僕の頬は、彼の指先が触れていた背中の肩甲骨のあたりが、嫌なほど熱い。
恐る恐る手を伸ばしてみると、そこには肌の内側から盛り上がるような、硬い感触があった。
それはまるで、皮膚の下に氷の結晶が埋め込まれているかのようだった。
「ひっ……! 結晶……?」
「くそっ……。やはり、あの呪いは完全に消えていなかったのか……!」
ヴォルフ陛下が怒りに満ちた声で呟き、僕の身体をひっくり返す。
僕の肩甲骨の間には、透き通るような、けれど禍々しい輝きを放つ「結晶」が、皮膚を突き破る寸前で現れていた。
それは明らかに、人間のものではない。
「陛下……これ、僕の身体から……?」
「触るな! 汚い……っ。なぜこんなものが……」
ヴォルフ陛下の碧眼が、憎しみに歪む。
その時、寝室の窓から、冷たい風と共に人影が滑り込んできた。
「やあ、兄上。……その結晶について、僕が教えてあげようか?」
現れたのは、第二皇子のセルディク様だった。
彼は僕の背中の結晶を興味深そうに見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「貴様……! また勝手に忍び込みおって! 何を知っている、セルディク!」
「怒らないで、兄上。僕はただ、可哀想なユキ君の『真実』を教えてあげようとしているだけだよ。……ねえ、ユキ君。君は自分を『無能』だと思っていたけれど、実はこの世で一番『強力な聖器』なんだ」
「聖器……?」
「そう。君の身体は、あらゆる魔力を無尽蔵に吸い込み、そして『精製』する特異体質。……特に、聖なる魔力、つまり君自身の『聖性』が活性化するほど、その力は強くなる」
セルディク様は、僕の背中の結晶を指差した。
「その結晶は、君の体内で精製された魔力が過剰になった時に現れる『魔力の核(コア)』だよ。……エデン教国は、君を『人造の神』として崇め奉り、その核から永遠に魔力を吸い出し続けるつもりだったんだ」
「人造の神……っ?」
「そう。だから君を『魔力なし』と偽って、他国の目に触れさせないよう地下に幽閉し、密かに魔力精製の実験を繰り返していた。……そして、君の身体から安定して魔力を引き出すために仕掛けたのが、『吸魔の呪い』という名の『魔力覚醒促進剤』だったのさ」
セルディク様の言葉に、僕は愕然とした。
僕が経験した痛みも、苦しみも、すべては僕を「聖器」として完成させるための実験だったというのか。
そして、その呪いが、ヴォルフ陛下に愛されることで活性化し、この結晶を生み出した……。
「……ま、さか……。あの呪いは、ユキの命を奪うためのものではなく……」
ヴォルフ陛下の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
その碧眼に宿るのは、激しい怒りではなく、深い絶望の色だった。
「そう。兄上がユキ君を愛せば愛するほど、ユキ君の魔力は活性化し、その核は成長する。……そして、核が完成した時、ユキ君は人間としての機能を失い、ただの『魔力の塊』になる。そうなれば、エデン教国は、外部から核を操作し、好きなだけ魔力を吸い出すことができる」
「……っ、そんな……! ユキが……私のせいで……!」
ヴォルフ陛下の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
狂犬皇帝が、涙を流している。
その姿に、僕の胸が締め付けられた。
「兄上。君は、ユキ君を助けるために、ユキ君を殺しかけているんだよ。……その結晶が、完全に体外へ露出してしまえば、もう手遅れだ」
セルディク様の言葉が、僕の頭の中で何度も反響する。
僕は、ヴォルフ陛下に愛されれば愛されるほど、人間でなくなってしまう。
そして、彼は、僕を愛すれば愛するほど、僕を「殺してしまう」ことになる……。
「……ちがう、ちがいます、陛下……! 僕を、捨てないで……っ!」
僕は震える身体で、ヴォルフ陛下に必死でしがみついた。
僕のせいで、彼がこんなにも苦しんでいる。
もう、この腕の中で眠ることはできないのだろうか。
ヴォルフ陛下は、僕を抱きしめる腕に力を込めた。
その強すぎる力に、僕の身体は軋むように悲鳴を上げたが、それ以上に、彼の絶望が僕の心に突き刺さった。
「……セルディク。一つ、聞く。……助ける方法はないのか?」
ヴォルフ陛下の声は、か細く、けれど、
ヴォルフ陛下の魔力なしでは、まるで呼吸ができないかのように苦しく、一日中、彼の肌に触れていなければいられない。
ある夜。
陛下が珍しく僕を抱かずに、背後から抱きしめて眠っていた時のことだ。
僕の背中に触れていた彼の指が、ふと、ある一点で止まった。
「……ユキ。これは、何だ?」
「え……?」
振り返る僕の頬は、彼の指先が触れていた背中の肩甲骨のあたりが、嫌なほど熱い。
恐る恐る手を伸ばしてみると、そこには肌の内側から盛り上がるような、硬い感触があった。
それはまるで、皮膚の下に氷の結晶が埋め込まれているかのようだった。
「ひっ……! 結晶……?」
「くそっ……。やはり、あの呪いは完全に消えていなかったのか……!」
ヴォルフ陛下が怒りに満ちた声で呟き、僕の身体をひっくり返す。
僕の肩甲骨の間には、透き通るような、けれど禍々しい輝きを放つ「結晶」が、皮膚を突き破る寸前で現れていた。
それは明らかに、人間のものではない。
「陛下……これ、僕の身体から……?」
「触るな! 汚い……っ。なぜこんなものが……」
ヴォルフ陛下の碧眼が、憎しみに歪む。
その時、寝室の窓から、冷たい風と共に人影が滑り込んできた。
「やあ、兄上。……その結晶について、僕が教えてあげようか?」
現れたのは、第二皇子のセルディク様だった。
彼は僕の背中の結晶を興味深そうに見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「貴様……! また勝手に忍び込みおって! 何を知っている、セルディク!」
「怒らないで、兄上。僕はただ、可哀想なユキ君の『真実』を教えてあげようとしているだけだよ。……ねえ、ユキ君。君は自分を『無能』だと思っていたけれど、実はこの世で一番『強力な聖器』なんだ」
「聖器……?」
「そう。君の身体は、あらゆる魔力を無尽蔵に吸い込み、そして『精製』する特異体質。……特に、聖なる魔力、つまり君自身の『聖性』が活性化するほど、その力は強くなる」
セルディク様は、僕の背中の結晶を指差した。
「その結晶は、君の体内で精製された魔力が過剰になった時に現れる『魔力の核(コア)』だよ。……エデン教国は、君を『人造の神』として崇め奉り、その核から永遠に魔力を吸い出し続けるつもりだったんだ」
「人造の神……っ?」
「そう。だから君を『魔力なし』と偽って、他国の目に触れさせないよう地下に幽閉し、密かに魔力精製の実験を繰り返していた。……そして、君の身体から安定して魔力を引き出すために仕掛けたのが、『吸魔の呪い』という名の『魔力覚醒促進剤』だったのさ」
セルディク様の言葉に、僕は愕然とした。
僕が経験した痛みも、苦しみも、すべては僕を「聖器」として完成させるための実験だったというのか。
そして、その呪いが、ヴォルフ陛下に愛されることで活性化し、この結晶を生み出した……。
「……ま、さか……。あの呪いは、ユキの命を奪うためのものではなく……」
ヴォルフ陛下の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
その碧眼に宿るのは、激しい怒りではなく、深い絶望の色だった。
「そう。兄上がユキ君を愛せば愛するほど、ユキ君の魔力は活性化し、その核は成長する。……そして、核が完成した時、ユキ君は人間としての機能を失い、ただの『魔力の塊』になる。そうなれば、エデン教国は、外部から核を操作し、好きなだけ魔力を吸い出すことができる」
「……っ、そんな……! ユキが……私のせいで……!」
ヴォルフ陛下の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
狂犬皇帝が、涙を流している。
その姿に、僕の胸が締め付けられた。
「兄上。君は、ユキ君を助けるために、ユキ君を殺しかけているんだよ。……その結晶が、完全に体外へ露出してしまえば、もう手遅れだ」
セルディク様の言葉が、僕の頭の中で何度も反響する。
僕は、ヴォルフ陛下に愛されれば愛されるほど、人間でなくなってしまう。
そして、彼は、僕を愛すれば愛するほど、僕を「殺してしまう」ことになる……。
「……ちがう、ちがいます、陛下……! 僕を、捨てないで……っ!」
僕は震える身体で、ヴォルフ陛下に必死でしがみついた。
僕のせいで、彼がこんなにも苦しんでいる。
もう、この腕の中で眠ることはできないのだろうか。
ヴォルフ陛下は、僕を抱きしめる腕に力を込めた。
その強すぎる力に、僕の身体は軋むように悲鳴を上げたが、それ以上に、彼の絶望が僕の心に突き刺さった。
「……セルディク。一つ、聞く。……助ける方法はないのか?」
ヴォルフ陛下の声は、か細く、けれど、
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