無能と捨てられた聖子は隣国の狂犬皇帝に初夜を奪われ執着される~魔力が昂ぶるたびに陛下に抱かれないと壊れてしまいそうです~

たら昆布

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12話

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三日三晩、離宮の寝室から物音が絶えることはなかった。

「……あ、……ぁ、……様……っ」

僕の意識は、もう何度途切れたか分からない。
そのたびに、ヴォルフ陛下の熱い接吻と、身体を貫く暴力的なまでの魔力の奔流が、僕を無理やり現世へと引き戻した。
汗と涙でぐちゃぐちゃになり、声は枯れ、指先一つ動かす力も残っていない。
けれど、僕を抱きしめる陛下の腕だけは、一度も緩むことはなかった。

「……ユキ、……あと、少しだ。……耐えろ、私を信じろ……!」

陛下の掠れた声が耳元で響く。
その瞬間、背中の肩甲骨の間で、ピキリ……と硬質な音が響いた。

「っ……あ、あああああぁぁぁっ!!」

身体の内側から爆発するような衝撃。
次の瞬間、僕を蝕んでいた忌まわしい「結晶」が、内側からの膨大な魔力の圧力に耐えきれず、粉々に砕け散った。
砕けた破片は光の粒子となって僕の肌から溶け出し、空気中に霧散していく。

「……はぁ、はぁ、……終わった、のか……?」

ヴォルフ陛下が、僕の身体をシーツに横たえた。
背中の熱は引き、代わりに全身を襲ったのは、これまで感じたことのないような深い「空虚感」だった。

結晶がなくなったことで、僕の身体の中にあった魔力の供給源が消えた。
今の僕は、ヴォルフ陛下の魔力がなければ一秒も維持できない、透明な空箱のような存在。
僕は、虚ろな瞳で天井を見つめたまま、言葉を失っていた。

「ユキ? ユキ、私だ。分かるか?」

ヴォルフ陛下が、僕の頬を濡れた手拭いで拭い、必死に呼びかける。
けれど、僕の意識は、彼の魔力の波長にしか反応しなくなっていた。
彼が触れてくれている間だけ、かろうじて自分が生きていることを実感できる。
それは、セルディク様が言った通りの、完全な「依存体」への変貌だった。

「……様、……ぁ、っ……」

「……ああ、ここにいる。もう大丈夫だ。お前を苦しめるものは、すべて私が砕いた」

ヴォルフ陛下は、衰弱しきった僕を毛皮の毛布で包み込み、まるで幼子をあやすように抱きしめた。
彼の瞳には、救い出せた安堵と、僕をこんな身体にしてしまったことへの、癒えることのない罪悪感が入り混じっている。

しかし、二人がようやく掴みかけた安息を切り裂くように、本宮から緊急の鐘が鳴り響いた。

「陛下! 陛下、お召し上がりください!」

扉の向こうで、側近のカインの焦燥した声が響く。

「……何事だ。ユキが今、ようやく落ち着いたところだと言ったはずだぞ」

ヴォルフ陛下の声に、かつての狂犬としての冷気が戻る。
カインは震える声で報告を続けた。

「……エデン教国からの親善大使が到着いたしました。……その、大使として現れた者が……」

「……大使だと? あの王子がまた来たのか」

「いいえ。……陛下、信じられないことに、大使の名は『ハル』。……ユキ様と全く同じ顔を持つ、双子の弟だと名乗っております!」

「――な……っ!?」

僕の身体が、本能的な恐怖でガタガタと震え出した。
ハル。
僕と一緒に地下牢に閉じ込められていた、たった一人の肉親。
けれど、彼は僕とは違い、教国の期待を一身に背負った「完成された聖子」だったはずだ。

「……ユキに、双子がいたのか?」

ヴォルフ陛下が僕をさらに強く抱きしめる。
僕は震える唇で、絞り出すように答えた。

「……ハルは、……僕の、光……。でも、教国は……ハルを使って、僕を……」

「……案ずるな、ユキ。相手が誰であろうと、お前を奪わせはしない」

ヴォルフ陛下の碧眼に、再び苛烈な戦火が宿る。
双子の弟、ハルの登場。
それは、教国が仕掛けた最後にして最大の、二人を分かつ罠だった。

ハッピーエンドへの道は、この「鏡写しの敵」を倒さねば開かれない。
ヴォルフ陛下は、衰弱した僕の額に一度だけ口づけを落とすと、軍服を羽織り、戦場へと向かう獣の足取りで寝室を後にした。
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