無能と捨てられた聖子は隣国の狂犬皇帝に初夜を奪われ執着される~魔力が昂ぶるたびに陛下に抱かれないと壊れてしまいそうです~

たら昆布

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13話

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謁見の間へと向かったヴォルフ陛下を、僕は離宮の寝室で待っていた。
体中を巡る虚無感と、時折襲い来る悪寒。
しかし、陛下の魔力が残るこの空間にいれば、かろうじて自我を保つことができる。
不安で胸が張り裂けそうだった。ハルが、僕のたった一人の肉親が、なぜ今……。

「――ごきげんよう、ザハトの皇帝陛下」

謁見の間では、ヴォルフ陛下の前に立つ一人の青年がいた。
その顔立ちは、僕と瓜二つ。
夜空のような紺碧の髪、潤んだ翡翠の瞳。
しかし、その表情は僕とは違い、氷のように冷たく、計算された笑みを浮かべていた。

「ハル、と申します。エデン教国の第一聖子として、貴国との友好を深めに来ました」

「フン……。友好だと? 貴様らがこの私に差し出した『生贄』を、今さら返せと抜かしに来たのではないのか?」

ヴォルフ陛下の声には、一切の揺らぎがない。
ハルは悠然と微笑む。

「まさか。ユキは陛下に嫁いだ身。……ですが、あの者は魔力不全の出来損ない。陛下の御伽相手としては力不足でしょう。そこで、私がお役目を引き継ぎに参りました」

ハルは、僕と全く同じ顔で、挑発するように言った。
その瞬間、ヴォルフ陛下の碧眼が、憎悪で深く濁る。

「……黙れ。貴様が、ユキと同じ面をしているのが吐き気がするほど不愉快だ。魂の匂いが違う。……貴様は、私を惑わせるだけの偽物だ」

「おや、ご冗談を。私はユキの双子の弟。血を分けた肉親ですよ? ……それに、この魔力。陛下を癒やすには、私の方が適任かと」

ハルは、自身の魔力を開放し始めた。
清浄で、力強い、確かに「聖子」の魔力。
それは、結晶に苦しめられていた頃の僕が持っていた、純粋な癒やしの力そのものだった。
しかし、ヴォルフ陛下は微動だにしない。

「……私の求めているのは、貴様のような『完成品』ではない。……たった一人、壊れても、私を求め、私の魔力なしでは生きられなくなった……私のユキだけだ」

ヴォルフ陛下が、その膨大な魔力を解放し始めた。
謁見の間全体が、彼の怒りに震える。
ハルの顔から、余裕の笑みが消え、恐怖に引き攣った。

「っ……!? この、魔力……っ!」

「貴様のような偽物が、私のユキに触れることなど許さぬ。……私の伴侶は、最初からあいつ一人だ」

ヴォルフ陛下がハルに向かって、殺気を込めた一瞥を放った。
その威力に、ハルはまともに立っていられず、その場に膝をついた。

――その頃、離宮では。

「……ユキ……っ、ユキ……っ」

僕は、突如として頭の中に直接響いてきた声に、身を震わせた。
それは、僕と全く同じ声。ハルの声だ。

(ハル……? どうして、僕の頭の中に……?)

「ユキ。聞こえているだろう? 僕だ、ハルだ。お前を助けに来た。……今すぐ、そこから逃げろ」

ハルの声は、優しく、心配するような響きだった。
けれど、僕の身体は、その声に反応して悪寒が走る。
それは、ヴォルフ陛下の魔力ではない。
僕を侵食しようとする、別種の「魔力」だった。

「だめ……っ。ハルは、僕を……」

「馬鹿なことを言うな。お前を救えるのは、僕だけだ。……あの狂犬は、お前を壊すつもりだよ。このまま彼のそばにいれば、お前はただの『魔力の塊』になってしまう」

ハルの声が、さらに強く、僕の意識に直接語りかけてくる。
身体が、勝手に動こうとする。
まるで、ハルの意思に操られているかのように。

「……っ、やだ、……行かない、で……っ」

僕の意志に反して、身体がベッドから降りようとした、その時だった。

ドォォォォン……ッ!

謁見の間から響いてきた、ヴォルフ陛下の怒りにも似た魔力の波動が、僕の身体の奥底まで届いた。
その瞬間、ハルの声が、僕の頭の中からかき消された。

「……ユキ! 誰にも、この私からお前を奪わせはしないぞ!」

ヴォルフ陛下の声が、遠くからでも僕の意識を強く揺さぶる。
ハルが、僕を遠隔で操ろうとしていたことに、彼は気づいたのだ。

ハルが、謁見の間で屈辱に顔を歪ませたまま、再びヴォルフ陛下に魔力を向けようとした、その瞬間。

「貴様のようなカスが、私のユキに手を出すなど――万死に値する」

ヴォルフ陛下は、右手の魔力を凝縮させると、容赦なくハルへと放った。
それは殺す寸前で止められた魔力だったが、ハルはたまらず吹き飛ばされ、謁見の間の壁に叩きつけられた。

「ぐふっ……! き、貴様……っ!」

「二度と、私のユキにその汚い魔力を送り込むな。……次はないぞ、偽物め」

ヴォルフ陛下の怒りに満ちた声が、広間に響き渡る。
僕の心を操ろうとしたハルの卑劣な企みは、陛下の圧倒的な力によって、見事に打ち砕かれたのだ。
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