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11話
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「……あ、痛たたたた……。動けない、マジで一ミリも動けない……」
翌朝。僕、エルヴィンは、天蓋付きの豪華なベッドの中で、文字通り「抜け殻」のようになっていた。
指先一つ動かそうとするだけで、腰から背中にかけて、昨夜の「嵐」の余韻が激痛となって突き抜ける。全身がゼノス様の魔力にあてられて、とろとろに蕩かされた感覚がまだ残っている。
ふと横を見ると、そこには漆黒の髪を乱し、上半身を剥き出しにしたゼノス様が座り込んでいた。
いつもなら「供給完了だな」と不敵に笑うはずの彼が、今はまるで、誤って宝物の花瓶を粉々に砕いてしまった子供のような、絶望的な顔で僕を見つめている。
「……エルヴィン。……息をしているか? まだ、生きているか?」
「……かろうじて。でも、あと三回くらい死ねば、今の痛みから解放される気がします……」
「!! すまない! 俺が……俺の魔力が暴走し、お前という繊細な器を……ッ! ああ、俺はなんてことを! カイン! カインを呼べ! 今すぐ国中の治癒師と、最高級の腰痛に効く軟膏を集めてこい!!」
ゼノス様は半狂乱で叫び、全裸に近い格好のまま部屋を飛び出そうとした。
僕は慌てて(と言っても、這うような動きで)、彼の寝衣の裾を掴んだ。
「待ってください! そんな格好で外に出ないで! 魔王の威厳が、というか人間としての尊厳が死にます!」
「威厳などどうでもいい! お前の腰の方が国家予算より重要だ! いいかエルヴィン、俺は決めた。お前の腰が完治するまで、俺は魔王の座を一時返上し、お前の専属奴隷となる!」
「飛躍しすぎですよ!!」
結局、すっ飛んできたカインさんが(またしても虚無の表情で)治癒魔法と薬を用意してくれたおかげで、僕はなんとか上体を起こせるまでになった。
だが、ここからが本当の「地獄(天国?)」の始まりだった。
「……ゼノス様、お水が飲みたいです」
「待て、俺が飲ませてやる。……ほら、あーんだ。温度は大丈夫か? 冷たすぎないか? もし喉に詰まったら俺が魔法で……」
「ただの水ですってば。あと、スプーンで飲ませなくていいです。……あ、あと、ちょっとお腹が空きました」
「よし、厨房の全スタッフを招集した。今すぐドラゴンの卵(百個)と、世界一柔らかいパンを……。いや、お前の咀嚼を助けるために、俺が一度噛んでから――」
「それだけは絶対にやめてください!!」
ゼノス様の「やりすぎ反省モード」は止まらない。
少し前まで「俺の言うことを聞け」と強引に僕を組み敷いていた男が、今は僕の足元に跪き、まるで聖遺物を扱うような手つきで僕の足をマッサージしている。
「……エルヴィン。俺は、お前に嫌われたくないのだ」
不意に、ゼノス様が真剣な顔で僕を見上げた。
紅い瞳には、独占欲とは違う、純粋な……そしてあまりにも重すぎる「恋」の色が混じっている。
「昨夜、お前が俺を受け止めてくれた時、俺は生まれて初めて『満たされる』という感覚を知った。……それと同時に、お前を失う恐怖が俺を支配したのだ。俺を、許してくれ」
最強の魔王が、僕の手の甲にそっと唇を寄せる。
その姿は、あまりにも絵になりすぎていて、そして……あまりにも健気(?)だった。
「……もう。許さないなんて言ってないですよ。ただ、次は……その、もうちょっと加減してください。僕、普通の人間ですから」
「……次!? 次があると言ったな!? そうか、エルヴィン! お前はまた、俺に抱かれることを許してくれるのだな!」
「あーっ、もう! 喜びすぎです! しっぽ振ってる大型犬みたいになってますよ、ゼノス様!」
魔王のあまりの変わりように、僕は呆れながらも、その重すぎる愛が心地よくなってきている自分に気づいていた。
前の国では、僕が倒れても誰も見向きもしなかった。
けれどここでは、僕が腰を痛めただけで、世界最強の男が僕の奴隷になろうとしている。
(……このまま、このバカな魔王様と一緒にいるのも、悪くないかもな)
僕は、ゼノス様が差し出してきた「あーっ、それ、僕の着替えを勝手に選ばないで!」という、またしてもけしからん新作衣装(今度はシースルー控えめ)を押し返しつつ、賑やかな朝を満喫するのだった。
翌朝。僕、エルヴィンは、天蓋付きの豪華なベッドの中で、文字通り「抜け殻」のようになっていた。
指先一つ動かそうとするだけで、腰から背中にかけて、昨夜の「嵐」の余韻が激痛となって突き抜ける。全身がゼノス様の魔力にあてられて、とろとろに蕩かされた感覚がまだ残っている。
ふと横を見ると、そこには漆黒の髪を乱し、上半身を剥き出しにしたゼノス様が座り込んでいた。
いつもなら「供給完了だな」と不敵に笑うはずの彼が、今はまるで、誤って宝物の花瓶を粉々に砕いてしまった子供のような、絶望的な顔で僕を見つめている。
「……エルヴィン。……息をしているか? まだ、生きているか?」
「……かろうじて。でも、あと三回くらい死ねば、今の痛みから解放される気がします……」
「!! すまない! 俺が……俺の魔力が暴走し、お前という繊細な器を……ッ! ああ、俺はなんてことを! カイン! カインを呼べ! 今すぐ国中の治癒師と、最高級の腰痛に効く軟膏を集めてこい!!」
ゼノス様は半狂乱で叫び、全裸に近い格好のまま部屋を飛び出そうとした。
僕は慌てて(と言っても、這うような動きで)、彼の寝衣の裾を掴んだ。
「待ってください! そんな格好で外に出ないで! 魔王の威厳が、というか人間としての尊厳が死にます!」
「威厳などどうでもいい! お前の腰の方が国家予算より重要だ! いいかエルヴィン、俺は決めた。お前の腰が完治するまで、俺は魔王の座を一時返上し、お前の専属奴隷となる!」
「飛躍しすぎですよ!!」
結局、すっ飛んできたカインさんが(またしても虚無の表情で)治癒魔法と薬を用意してくれたおかげで、僕はなんとか上体を起こせるまでになった。
だが、ここからが本当の「地獄(天国?)」の始まりだった。
「……ゼノス様、お水が飲みたいです」
「待て、俺が飲ませてやる。……ほら、あーんだ。温度は大丈夫か? 冷たすぎないか? もし喉に詰まったら俺が魔法で……」
「ただの水ですってば。あと、スプーンで飲ませなくていいです。……あ、あと、ちょっとお腹が空きました」
「よし、厨房の全スタッフを招集した。今すぐドラゴンの卵(百個)と、世界一柔らかいパンを……。いや、お前の咀嚼を助けるために、俺が一度噛んでから――」
「それだけは絶対にやめてください!!」
ゼノス様の「やりすぎ反省モード」は止まらない。
少し前まで「俺の言うことを聞け」と強引に僕を組み敷いていた男が、今は僕の足元に跪き、まるで聖遺物を扱うような手つきで僕の足をマッサージしている。
「……エルヴィン。俺は、お前に嫌われたくないのだ」
不意に、ゼノス様が真剣な顔で僕を見上げた。
紅い瞳には、独占欲とは違う、純粋な……そしてあまりにも重すぎる「恋」の色が混じっている。
「昨夜、お前が俺を受け止めてくれた時、俺は生まれて初めて『満たされる』という感覚を知った。……それと同時に、お前を失う恐怖が俺を支配したのだ。俺を、許してくれ」
最強の魔王が、僕の手の甲にそっと唇を寄せる。
その姿は、あまりにも絵になりすぎていて、そして……あまりにも健気(?)だった。
「……もう。許さないなんて言ってないですよ。ただ、次は……その、もうちょっと加減してください。僕、普通の人間ですから」
「……次!? 次があると言ったな!? そうか、エルヴィン! お前はまた、俺に抱かれることを許してくれるのだな!」
「あーっ、もう! 喜びすぎです! しっぽ振ってる大型犬みたいになってますよ、ゼノス様!」
魔王のあまりの変わりように、僕は呆れながらも、その重すぎる愛が心地よくなってきている自分に気づいていた。
前の国では、僕が倒れても誰も見向きもしなかった。
けれどここでは、僕が腰を痛めただけで、世界最強の男が僕の奴隷になろうとしている。
(……このまま、このバカな魔王様と一緒にいるのも、悪くないかもな)
僕は、ゼノス様が差し出してきた「あーっ、それ、僕の着替えを勝手に選ばないで!」という、またしてもけしからん新作衣装(今度はシースルー控えめ)を押し返しつつ、賑やかな朝を満喫するのだった。
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