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12話
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「……はぁ? どの面下げてそんなこと言ってるの?」
魔王城の謁見の間に、僕の呆れた声が響き渡った。
目の前には、かつて僕を「我が家の恥」と罵り、魔力供給の道具としてしか見ていなかった実父――ラングリス公爵が、脂汗を流しながら震えて立っている。
彼の背後には、さらに数名の貴族が控えていた。どうやら僕を捨てたあの国は、僕がいなくなってから深刻な魔力不足に陥り、作物は枯れ、結界は弱まり、経済がガタガタになっているらしい。
「エルヴィン……っ! ああ、愛しの我が息子よ! お前をあんな不当な形で追い出した王子は廃嫡された。さあ、今すぐラングリス家へ戻り、我が国の救世主として……」
「お前の汚い口で、その名を呼ぶな」
ドォォォォォン!!
僕の隣に座るゼノス様から、執務室が揺れるほどの凄まじい殺気が放たれた。
ゼノス様は、僕の肩を抱き寄せ、これ見よがしに僕のうなじに残る「噛み跡(昨日のお仕置き跡)」を公爵に見せつけた。
「このエルヴィンは、既に俺が買い取った。……正確に言えば、俺がその魂まで含めて所有している。お前のような無能な男に、返してやる道理などどこにある?」
「そ、そこをなんとか、魔王陛下! 我が国が滅びれば、御国にとっても難民の問題などが……。ですから、その、対価として……エルヴィンを我が国に『貸し出し』ていただけるなら、相応の金貨を……」
実の親が、息子を「レンタル魔力タンク」として貸し出せと言ってきた。
僕は怒りを通り越して、冷めた笑いが出てきた。
「ゼノス様。……僕、この人たちに、今まで僕が受けてきた『供給』の苦労を少しだけ味合わせてあげたいです」
「ほう。……エルヴィンの頼みか。ならば、叶えてやらねばな」
ゼノス様は、不敵で、かつ残酷な笑みを浮かべた。
彼はスッと指を鳴らす。
「カイン。この公爵とその一族が持つ全資産、全領地の権利書を用意しろ。……それから、あの国の王に伝えろ。『エルヴィンのこれまでの精神的苦痛の賠償金として、この国を魔王領の属国とする。拒否すれば、今すぐ魔王軍十万を差し向け、国ごと蹂躙する』とな」
「畏まりました。既に書類は準備済みです。……あと、公爵閣下。あなた方がこれまでエルヴィン様に与えてきた食事の代わりとして、今後一ヶ月、魔界の特産品である『デス・スライムの煮凝り』のみを配給するよう手配しておきました」
「……デス・スライムって、あの、食べると三日三晩お腹を下し続けるっていう……?」
僕が聞くと、カインさんは無表情で頷いた。
「はい。デトックス(物理)でございます」
「な、なんだと……!? エルヴィン、お前、実の親を売るのか!」
公爵が叫ぶが、ゼノス様が軽く指を動かすだけで、公爵は床に這いつくばらされた。
「売る? 違うな。エルヴィンは、ゴミを処分しただけだ。……おい、公爵。エルヴィンの魔力はな、お前たちが考えていたような安っぽいものではないのだ。……こいつの一滴は、一国を救うのではない。俺という魔王を狂わせる、唯一無二の劇薬なのだよ」
ゼノス様は、僕を膝の上に引き上げると、公爵の目の前で、僕の唇を深く、深く塞いだ。
「ん……っ、んんっ……!」
公開処刑のようなディープキス。
公爵は、自分たちがどれほど価値のある「宝」を、下劣なプライドのために手放したのかを、その光景で見せつけられた。
「……あ、あの国は、もうおしまいだ……」
公爵は絶望の中で引きずり出されていった。
静かになった謁見の間で、僕はゼノス様の胸の中にいた。
「……ゼノス様。更地にするのは止めてくれて、ありがとうございます」
「礼を言う必要はない。……だが、エルヴィン。奴らが去ったということは、邪魔者はもういない、ということだな?」
「え、あ、ちょっと、さっきから腰を撫でる手が怪しいんですけど……」
「実家の件で心が傷ついただろう? 俺が……俺の魔力で、お前の心の隅々まで癒やしてやらねばならん。さあ、寝室へ行くぞ」
「傷ついてないです! むしろスッキリしました! 待って、昼間ですよ、ゼノス様――!!」
僕の抗議も虚しく、僕は「供給不足の魔王様」によって、再び愛の牢獄へと連行されるのだった。
実家が破滅したスカッと感よりも、今から始まる「激しすぎるお礼参り」への恐怖が勝ったのは、言うまでもない。
魔王城の謁見の間に、僕の呆れた声が響き渡った。
目の前には、かつて僕を「我が家の恥」と罵り、魔力供給の道具としてしか見ていなかった実父――ラングリス公爵が、脂汗を流しながら震えて立っている。
彼の背後には、さらに数名の貴族が控えていた。どうやら僕を捨てたあの国は、僕がいなくなってから深刻な魔力不足に陥り、作物は枯れ、結界は弱まり、経済がガタガタになっているらしい。
「エルヴィン……っ! ああ、愛しの我が息子よ! お前をあんな不当な形で追い出した王子は廃嫡された。さあ、今すぐラングリス家へ戻り、我が国の救世主として……」
「お前の汚い口で、その名を呼ぶな」
ドォォォォォン!!
僕の隣に座るゼノス様から、執務室が揺れるほどの凄まじい殺気が放たれた。
ゼノス様は、僕の肩を抱き寄せ、これ見よがしに僕のうなじに残る「噛み跡(昨日のお仕置き跡)」を公爵に見せつけた。
「このエルヴィンは、既に俺が買い取った。……正確に言えば、俺がその魂まで含めて所有している。お前のような無能な男に、返してやる道理などどこにある?」
「そ、そこをなんとか、魔王陛下! 我が国が滅びれば、御国にとっても難民の問題などが……。ですから、その、対価として……エルヴィンを我が国に『貸し出し』ていただけるなら、相応の金貨を……」
実の親が、息子を「レンタル魔力タンク」として貸し出せと言ってきた。
僕は怒りを通り越して、冷めた笑いが出てきた。
「ゼノス様。……僕、この人たちに、今まで僕が受けてきた『供給』の苦労を少しだけ味合わせてあげたいです」
「ほう。……エルヴィンの頼みか。ならば、叶えてやらねばな」
ゼノス様は、不敵で、かつ残酷な笑みを浮かべた。
彼はスッと指を鳴らす。
「カイン。この公爵とその一族が持つ全資産、全領地の権利書を用意しろ。……それから、あの国の王に伝えろ。『エルヴィンのこれまでの精神的苦痛の賠償金として、この国を魔王領の属国とする。拒否すれば、今すぐ魔王軍十万を差し向け、国ごと蹂躙する』とな」
「畏まりました。既に書類は準備済みです。……あと、公爵閣下。あなた方がこれまでエルヴィン様に与えてきた食事の代わりとして、今後一ヶ月、魔界の特産品である『デス・スライムの煮凝り』のみを配給するよう手配しておきました」
「……デス・スライムって、あの、食べると三日三晩お腹を下し続けるっていう……?」
僕が聞くと、カインさんは無表情で頷いた。
「はい。デトックス(物理)でございます」
「な、なんだと……!? エルヴィン、お前、実の親を売るのか!」
公爵が叫ぶが、ゼノス様が軽く指を動かすだけで、公爵は床に這いつくばらされた。
「売る? 違うな。エルヴィンは、ゴミを処分しただけだ。……おい、公爵。エルヴィンの魔力はな、お前たちが考えていたような安っぽいものではないのだ。……こいつの一滴は、一国を救うのではない。俺という魔王を狂わせる、唯一無二の劇薬なのだよ」
ゼノス様は、僕を膝の上に引き上げると、公爵の目の前で、僕の唇を深く、深く塞いだ。
「ん……っ、んんっ……!」
公開処刑のようなディープキス。
公爵は、自分たちがどれほど価値のある「宝」を、下劣なプライドのために手放したのかを、その光景で見せつけられた。
「……あ、あの国は、もうおしまいだ……」
公爵は絶望の中で引きずり出されていった。
静かになった謁見の間で、僕はゼノス様の胸の中にいた。
「……ゼノス様。更地にするのは止めてくれて、ありがとうございます」
「礼を言う必要はない。……だが、エルヴィン。奴らが去ったということは、邪魔者はもういない、ということだな?」
「え、あ、ちょっと、さっきから腰を撫でる手が怪しいんですけど……」
「実家の件で心が傷ついただろう? 俺が……俺の魔力で、お前の心の隅々まで癒やしてやらねばならん。さあ、寝室へ行くぞ」
「傷ついてないです! むしろスッキリしました! 待って、昼間ですよ、ゼノス様――!!」
僕の抗議も虚しく、僕は「供給不足の魔王様」によって、再び愛の牢獄へと連行されるのだった。
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