婚約破棄された魔力供給令息は絶倫魔王に愛し尽くされる~「お前の魔力、美味すぎて止まらない」と夜通し搾り取られています!~

たら昆布

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17話

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「……うぅ、頭がふわふわする……。節々が痛いです……」

 その日の朝、僕はベッドから起き上がることさえできなかった。
 城内で流行り始めた『魔力風邪』。魔力を急激に消耗させ、一時的に体温を上昇させる病だ。普段、ゼノス様に魔力を根こそぎ吸い出されている僕の体は、抵抗力が落ちていたのかもしれない。

 すると、部屋の扉が「バァン!」と、建付けが心配になるほどの勢いで開かれた。

「エルヴィン!! 大丈夫か!? 意識はあるか!? 俺が誰だかわかるか!?」

 現れたのは、いつも以上に形相を峻烈にさせたゼノス様だった。
 彼はベッドに飛びつくように膝をつくと、僕の手を握りしめた。その手からは、心配のあまり制御しきれない黒い魔力がバチバチと漏れ出している。

「……ゼノス様、そんなに叫ばなくても聞こえてます。ちょっと風邪を引いただけですよ……」

「ただの風邪だと!? お前の体温は、俺の魔力炉よりも熱くなっているではないか! カイン! カインを呼べ……あ、あいつはさっき廊下で倒れたんだった! 役に立たん奴め!」

(カインさんも病気なんだから、優しくしてあげて!)

 ゼノス様は、僕の額にそっと自分の大きな手を当てた。
「……熱い。エルヴィン、俺がお前の体内の毒素(ウィルス)を、魔力で直接焼き払ってやろうか?」

「それ、僕の細胞まで焼き払われるやつですよね!? 却下です!」

「ならば……そうだ。人間は病の時、粥というものを食べるのだな。よし、俺が自ら作ってやろう。魔王の魔力を凝縮した、至高の回復食を!」

 ゼノス様は、止める間もなくマントを翻してキッチンへと向かった。
 嫌な予感しかしない。
 僕は重い体を引きずり、フラフラになりながらキッチンの様子を覗きに行った。

 そこでは、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。

「陛下! おやめください! 鍋に直接魔力を注いでは爆発します!」
「うるさい! 米の一粒一粒に俺の愛(魔力)を刻み込まねば、エルヴィンの病は治らん!」

 ゼノス様が手に持っている鍋の中身は、もはや「お粥」と呼べる代物ではなかった。
 不気味な紫色に発光し、時折「ボフッ」と不穏な音を立てて爆ぜている。気泡が弾けるたびに、周囲の壁が少しずつ溶けている気がするのは気のせいだろうか。

「……ゼノス様。それ、お粥っていうか、魔界の深淵に溜まった溶岩になってますけど」

「エルヴィン!? 起きてきてはいかんと言っただろう! ……見ていろ、もうすぐ完成だ。仕上げに、ドラゴンの肝の粉末と、千年樹の蜜を投入して……」

「それ、絶対に胃に優しくない! むしろ弱ってる僕の胃壁が全滅します!」

 僕はなんとかゼノス様からお玉を取り上げると、彼を椅子の座らせた。
「いいですか、ゼノス様。看病っていうのは、相手が安心できるように、優しく見守ることなんです。……そんなに殺気立って料理を作られたら、病原菌より先に僕が死んじゃいます」

「……そう、なのか? 俺はただ、お前のために何かしてやりたくて……」

 最強の魔王が、しゅんとして肩を落とした。
 肖像画を飾ったり、鈴をつけたりする強引な姿からは想像もつかないほど、今の彼は弱々しく見える。
 結局、僕はマーサさんに作ってもらった普通の白いお粥を、ゼノス様に食べさせてもらうことにした。

「……あーん」

 ゼノス様は、まるでお宝を扱うような慎重さで、震える手でスプーンを僕の口元に運ぶ。
「熱くないか? 味は薄くないか? もし不味ければ、今すぐこの国すべての料理人を処刑して――」

「美味しいですってば。……ありがとうございます、ゼノス様」

 お粥を一口食べると、じんわりと温かさが体に広がった。
 ゼノス様は僕が食べる様子をじっと見つめていたが、突然、僕の額に自分の額をぴたりと重ねてきた。

「……ゼノス様?」

「お前の熱を、俺に半分寄越せ。……お前が苦しんでいる間に、俺が健康でいるなど耐えられん。エルヴィンの痛みは、俺がすべて引き受けてやる」

 彼は僕の頬を両手で包み、熱っぽい唇に優しく、本当に優しく口づけをした。
 いつもなら「供給だ」と言って奪い取るようなキスをするのに、今はただ、愛おしそうに触れるだけ。

「……馬鹿ですね、ゼノス様。風邪がうつっちゃいますよ」

「構わん。お前と同じ病にかかるなら、それも一種の『お揃い』だろう?」

(その考え方、やっぱり重いよ……!)

 でも、彼の熱い魔力が唇から流れ込んでくると、不思議と体の痛みも、心の不安も消えていく。
 結局、その日の夜。ゼノス様は宣言通りに僕の風邪を完璧に「お持ち帰り」し、翌朝には世界最強の魔王が真っ赤な顔をして「エルヴィン……お粥を……あーんしてくれ……」と、僕の膝枕で甘え倒すという、新たなコメディが幕を開けるのだった。
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