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14話
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あの日、命を削るような魔力を放ったせいで、僕は丸三日間眠り続けた。
ようやく目を覚ました時、視界に飛び込んできたのは、無精髭を隠そうともせず、僕の手を握りしめて項垂れるクロム様の姿だった。
「……あ、……クロム、さま……」
「……! ナギ……! 気がついたのかい?」
クロム様は、弾かれたように顔を上げた。その真紅の瞳は、これまでに見たことがないほど潤み、隠しきれない恐怖と安堵に揺れていた。
彼は僕の手を自分の頬に押し当て、何度も、何度も深い呼吸を繰り返す。
「無茶だ……あんな無茶をするなんて……。僕を助けるために君の命が消えていたら、僕は世界を焼き尽くして自らも死んでいたよ」
「すみません……。でも、クロム様が苦しんでいるのが、自分のことみたいに分かって……。じっとしていられなかったんです」
僕が弱々しく笑うと、クロム様は僕を壊れ物を扱うように抱きしめた。
魂を分けた今、彼の心音が僕の背中で響いている。
以前の彼は、僕を自分の「所有物」として閉じ込めようとしていた。
けれど今の彼は、僕が「彼を救う力」を持っていることを認め、対等な魂の伴侶として、畏怖すら混じった深い敬愛の眼差しを向けてくる。
「……ナギ。君はもう、ただの弱いオメガじゃない。僕の一部であり、僕の生命そのものだ。……分かっているね? 君が傷つけば、僕も死ぬんだ」
「はい……。だから、もう無茶はしません。二人で……三人で、生きていくために」
僕がお腹に手を当てると、応えるように強い胎動があった。
それから数週間。
サリアさんの厳重な管理のもと、僕の身体は驚異的な回復を見せた。
お腹の御子は、龍の血を継いでいるせいか、人間の常識では考えられない速度で成長している。今では、歩くのも一苦労なほど、僕のお腹は大きく、丸く膨らんでいた。
「きゅうー!」
「テト、走っちゃだめだよ。ナギさんにぶつかったらどうするんだ」
テトが僕の足元でじゃれていると、控えていたヴォルグさんが厳しくも温かい声でたしなめる。
神殿の中は、出産の準備で慌ただしく、けれどどこか祝祭のような幸福な空気に満ちていた。
夜。
テラスで月光を浴びていると、背後からクロム様の温かい胸板が僕の背中を包み込んだ。
「……ナギ。サリアが言っていた。……もう、いつ産まれてもおかしくない、と」
「……はい。僕にも分かります。この子が、外に出たがっているのが」
クロム様の大きな手が、僕のお腹を包み込む。
その瞬間、お腹の奥から黄金色の光が漏れ、僕たちの身体を優しく照らした。
魂を分けたことで、御子の魔力さえもクロム様を通じて僕の中で安定している。
「怖くはないかい?」
「……クロム様が一緒にいてくれるなら、何も怖くありません」
僕は振り返り、彼の首に手を回した。
「クロム様。僕を、あの絶壁から拾ってくれて、ありがとうございます。……あの日、死ななくてよかった」
「……僕の方こそ、感謝しているよ。君を見つけるまで、僕の数百年はただの虚無だった。……愛している、ナギ。永遠に」
月の光の下で交わされたのは、これまでで一番甘く、静かな誓いの口付け。
けれど、その穏やかな夜の終わり、僕の身体に激しい衝撃が走った。
「……っ、……あ、あぁっ!」
「ナギ!? ……サリア! ヴォルグ! すぐにおいで! 時が来たようだ!」
神殿が龍の咆哮のような震動に包まれる。
ついに、伝説の『龍の御子』が誕生する瞬間が訪れようとしていた。
ようやく目を覚ました時、視界に飛び込んできたのは、無精髭を隠そうともせず、僕の手を握りしめて項垂れるクロム様の姿だった。
「……あ、……クロム、さま……」
「……! ナギ……! 気がついたのかい?」
クロム様は、弾かれたように顔を上げた。その真紅の瞳は、これまでに見たことがないほど潤み、隠しきれない恐怖と安堵に揺れていた。
彼は僕の手を自分の頬に押し当て、何度も、何度も深い呼吸を繰り返す。
「無茶だ……あんな無茶をするなんて……。僕を助けるために君の命が消えていたら、僕は世界を焼き尽くして自らも死んでいたよ」
「すみません……。でも、クロム様が苦しんでいるのが、自分のことみたいに分かって……。じっとしていられなかったんです」
僕が弱々しく笑うと、クロム様は僕を壊れ物を扱うように抱きしめた。
魂を分けた今、彼の心音が僕の背中で響いている。
以前の彼は、僕を自分の「所有物」として閉じ込めようとしていた。
けれど今の彼は、僕が「彼を救う力」を持っていることを認め、対等な魂の伴侶として、畏怖すら混じった深い敬愛の眼差しを向けてくる。
「……ナギ。君はもう、ただの弱いオメガじゃない。僕の一部であり、僕の生命そのものだ。……分かっているね? 君が傷つけば、僕も死ぬんだ」
「はい……。だから、もう無茶はしません。二人で……三人で、生きていくために」
僕がお腹に手を当てると、応えるように強い胎動があった。
それから数週間。
サリアさんの厳重な管理のもと、僕の身体は驚異的な回復を見せた。
お腹の御子は、龍の血を継いでいるせいか、人間の常識では考えられない速度で成長している。今では、歩くのも一苦労なほど、僕のお腹は大きく、丸く膨らんでいた。
「きゅうー!」
「テト、走っちゃだめだよ。ナギさんにぶつかったらどうするんだ」
テトが僕の足元でじゃれていると、控えていたヴォルグさんが厳しくも温かい声でたしなめる。
神殿の中は、出産の準備で慌ただしく、けれどどこか祝祭のような幸福な空気に満ちていた。
夜。
テラスで月光を浴びていると、背後からクロム様の温かい胸板が僕の背中を包み込んだ。
「……ナギ。サリアが言っていた。……もう、いつ産まれてもおかしくない、と」
「……はい。僕にも分かります。この子が、外に出たがっているのが」
クロム様の大きな手が、僕のお腹を包み込む。
その瞬間、お腹の奥から黄金色の光が漏れ、僕たちの身体を優しく照らした。
魂を分けたことで、御子の魔力さえもクロム様を通じて僕の中で安定している。
「怖くはないかい?」
「……クロム様が一緒にいてくれるなら、何も怖くありません」
僕は振り返り、彼の首に手を回した。
「クロム様。僕を、あの絶壁から拾ってくれて、ありがとうございます。……あの日、死ななくてよかった」
「……僕の方こそ、感謝しているよ。君を見つけるまで、僕の数百年はただの虚無だった。……愛している、ナギ。永遠に」
月の光の下で交わされたのは、これまでで一番甘く、静かな誓いの口付け。
けれど、その穏やかな夜の終わり、僕の身体に激しい衝撃が走った。
「……っ、……あ、あぁっ!」
「ナギ!? ……サリア! ヴォルグ! すぐにおいで! 時が来たようだ!」
神殿が龍の咆哮のような震動に包まれる。
ついに、伝説の『龍の御子』が誕生する瞬間が訪れようとしていた。
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