お飾りの番だと言われましたが呪いを解いたら冷徹公爵様の執着が止まりません!〜聖なる緑の指で領地ごと幸せになっちゃいます〜

たら昆布

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21話

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 ロストック領の厳しい冬を象徴するような、鋭く冷たい空気が窓の外で唸っている。
 しかし、天蓋付きの大きなベッドの中だけは、まるで春の陽だまりが居座っているかのような、濃密な熱が滞留していた。

 ユアンがゆっくりと意識を浮上させた時、最初に感じたのは、頬に触れる上質なシルクの滑らかさと、背後から自分を包み込んでいる「圧倒的な熱」だった。

(……あ、たたかい……)

 寝ぼけ眼で、ユアンはぼんやりと考えた。
 これまでは、アルヴィスの「呪いの熱」を冷ますために、魔法を送りやすい距離を保って触れるのが常だった。だが、昨夜の正式な婚礼を経て、その距離は完全にゼロになったのだ。
 アルヴィスの逞しい腕が、ユアンの細い腰をしっかりと抱き寄せ、その広い胸板はユアンの背中にぴったりと密着している。

(夢じゃ、ないんだ……。僕、本当にアルヴィス様と結婚したんだ。もう『お飾り』の番なんかじゃなくて……)

 そう自覚した瞬間、ユアンの顔は沸騰したように熱くなった。
 心拍数が跳ね上がり、ドクドクという自分の鼓動が、背中のアルヴィスにまで伝わってしまうのではないかと気が気ではない。

「……ユアン。起きているのか」

 耳元で、低く掠れた声が響いた。
 朝の目覚めたての、いつも以上に重厚で、甘い毒のような色気を含んだ声。
 ユアンは肩をびくりと震わせ、首を縮めた。

「お、おはようございます、アルヴィス様……」
「……ああ。おはよう。……逃げようとするな。まだ離すつもりはない」

 アルヴィスは、抱きしめる腕にさらに力を込めた。
 彼はユアンのうなじに顔を埋め、深く、深く、その香りを吸い込む。かつての呪いに耐えていた時のような切迫感はない。今の彼からは、より根源的で逃れがたい、愛おしいものへの「執着」が感じられた。

「あ、あの……アルヴィス様。もう朝の光が差し込んでいますし、リアムさんたちが食堂で待っているんじゃ……」
「……仕事などどうでもいい。……こうして、お前の柔らかな魔力を感じている方が、よほど重要だ。……それに、昨日の今日だ。誰も文句は言わせん」

 アルヴィスは、自由になった方の手で、ユアンの亜麻色の髪を優しく梳いた。
 呪いの熱が引いた後の彼は、驚くほどに穏やかで、そして驚くほどに独占欲が強い。

「ユアン。……もう一度、名前を呼んでくれ。様(さま)は、いらない」
「……っ。アルヴィス、……様……。無理です、まだ、そんな……!」
「……ふっ。ならば、お前が慣れるまで、こうして一日中ベッドの中に閉じ込めておくしかないな」

 冗談には聞こえない。いや、今のアルヴィスなら本気でやりかねない。
 ユアンは慌ててベッドの中で体を反転させ、アルヴィスと向き合った。
 至近距離で見る騎士王の金色の瞳は、朝日を反射して眩いほどに輝いている。そこには、かつての自分を切り捨ててきた家族たちの瞳にあったような冷たさは、微塵も存在しなかった。

「……アルヴィス。……お、お腹が空きました!」

 ユアンの照れ隠しの言葉に、アルヴィスは一瞬呆気に取られたように目を見開いたが、やがてくつくつと低く笑い出した。

「……そうか。ならば仕方ない。……美食家バルトが腕によりをかけて作った婚礼翌日の朝食を、無駄にするわけにはいかないからな」

 アルヴィスは名残惜しそうに腕を解くと、先にベッドから降り、ユアンに手を差し出した。
 二人は身支度を整えると、並んで寝室を後にした。
 ひんやりとした石造りの廊下を歩く間も、アルヴィスは当然のようにユアンの手を握り、自身の指を絡ませていた。すれ違う騎士たちが「お早うございます!」と背筋を伸ばして敬礼するたび、ユアンは真っ赤になって俯いたが、アルヴィスは誇らしげに顎を引いて応える。

 食堂の扉を開けると、そこには既にリアムとバルトが待機していた。

「おやおや、閣下、奥様。ようやくお目覚めですか。予定時間を一時間も過ぎていたので、バルトがオムレツを作り直そうか悩んでいましたよ」
 リアムがわざとらしく肩をすくめて皮肉を言うが、アルヴィスは微塵も動じなかった。

「……気にするな。……リアム、今日の午前中の会議はすべて午後に回せ。……バルト、朝食を」
「はいよ、閣下! 奥様、今日は特別にユアン様の育てたハーブをたっぷり使ったサラダも用意しましたよ。これからは遠慮なく『これが食べたい』って言ってくださいね」

 バルトが置いた皿には、ユアンの魔法で冬の間も生き生きと育った緑が山盛りに乗っている。
 ユアンは温かいスープを一口飲み、その優しさに胸の奥がじんわりと解けていくのを感じた。
 
(……本当に、僕はここにいていいんだ)

 以前のような「契約」の期限を気にする必要はない。
 目の前で、自分の分だけでなくユアンのサラダにまでドレッシングが足りているかチェックしているこの大きな男が、自分を生涯の伴侶として選んでくれたのだ。

「……ユアン、どうした。手が止まっているぞ」
「あ、いえ。……幸せだなって、思っていただけです。アルヴィス」

 ユアンが勇気を出して名前を呼ぶと、アルヴィスのスプーンを持つ手が止まった。
 彼の耳が、みるみるうちに赤く染まっていく。

「…………そうか。……なら、もっと食べろ。……私の分の肉もやろう」
「えっ、それはいいです! アルヴィス様こそ、ちゃんとお仕事のために食べてください!」

 賑やかで、甘やかな、ロストック城の新しい朝。
 二人の「本物の夫婦」としての毎日は、こうして穏やかな食卓から、一歩ずつ着実に始まっていた。
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