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19話
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「アキ、明日の非番は空けておけ。貴様を……その、街の散策に連れていく」
ゼクスが耳まで赤くして申し込んだ「デート」の日。
アキは少し気合を入れて、リナが用意した活動しやすい仕立ての良い服に着替え、約束の場所へと向かった。
そこには、私服姿のゼクスが立っていた。普段の重厚な鎧を脱ぎ、黒いスリムなジャケットに身を包んだ彼は、街中の女性が振り返るほどの輝きを放っている。
「……待たせたな。よし、行こう。今日は誰にも邪魔させ――」
『アキー! 待つポム! ポムも行くポム!』
『当然、我も同行する。アキの隣という特等席を、この男に独占させるわけにはいかん』
アキの足元からポムが、肩にはルルが、当然のような顔をして飛び乗ってきた。
さらには背後から、最小化したハクとバルドスまでもがゾロゾロと現れる。
「……貴様ら。今日は『デート』だと言っただろう。空気を読め」
ゼクスの額にピキリと青筋が浮かぶ。だが、聖獣たちはどこ吹く風だ。
『デート? 美味しいのかそれは。アキが行く場所には我らも行く。それが聖獣の掟だ』
「あはは……団長、いいじゃないですか。みんなで行ったほうが楽しいですよ!」
アキの屈託のない笑顔に、ゼクスはぐぬぬと喉を鳴らしながらも、結局折れるしかなかった。
こうして、一人のイケメン騎士と一人の少年、そして「喋るウサギ、リス、虎、トカゲ」という奇妙な一行の散策が始まった。
街に出ると、アキの「聖獣番」としての本領がまたしても発揮される。
立ち寄ったカフェでは、近所の野良猫たちが「アキだ! 撫でろ!」と集結し、噴水広場では小鳥たちがアキの頭を止まり木にしようと舞い降りる。
「……アキ、その店に入ろう。そこなら個室があるはず――」
「あ、団長! 見てください、あっちの露店に聖獣用のブラシが売ってますよ! ルルたちに買ってあげたいな」
「…………」
ゼクスは、自分のために向けられるはずだったアキの関心が、次々と動物たちに奪われていく現実に、絶望の淵に立たされていた。
彼はついに、耐えかねてアキの手をギュッと握りしめた。
「団長? 急にどうしたんですか?」
「……我慢の限界だ。アキ、貴様、少しは私のことも見ろ。私は今日、貴様と手をつないで、甘い菓子を半分こして、……愛の言葉を囁くつもりだったんだぞ」
大の大人が、街中で本気の拗ねモードに入っている。
アキは驚いて瞬きをしたが、握られた手の熱さと、ゼクスの切実な瞳に、胸の奥がキュンと鳴った。
「……ごめんなさい。俺も、団長と二人で歩けるの、楽しみにしてたんですよ?」
アキが空いた方の手で、ゼクスの大きな手を「よしよし」と撫でる。
その瞬間、ゼクスの表情がみるみるうちに「蕩(とろ)けた」ものに変わった。
「……許す。もっと撫でろ。そのまま私の腕に絡みつけ。……よし、ルル、ポム。貴様らには最高級の木の実を買ってやるから、向こうの広場で遊んでいろ」
現金なもので、聖獣たちは賄賂(木の実)を提示されると、「……仕方ないポム、三十分だけだポムよ!」と、あっさり交渉に応じた。
ようやく訪れた、本当の二人きりの時間。
ゼクスはアキを人気の少ない路地へと引き込み、壁に追い詰めるようにして距離を詰めた。
「……ようやく、静かになったな。……アキ、今日の貴様は……一段と、私の独占欲を煽る」
至近距離で見つめ合う二人。
ゼクスがゆっくりと顔を近づけ、アキがそっと目を閉じた――その瞬間。
「ハッ! シャッターチャンス逃さないわよぉぉぉ!!」
ゴミ箱の陰から、潜伏していたリナ聖女が記録水晶を掲げて飛び出してきた。
「リナ殿……!! 貴様、今日こそは本気で騎士団の地下牢へぶち込んでやる!!」
怒号を上げるゼクスと、笑いながら逃げるリナ。
アキの初デートは、結局いつも通りの賑やかな騒動で幕を閉じるのだった。
ゼクスが耳まで赤くして申し込んだ「デート」の日。
アキは少し気合を入れて、リナが用意した活動しやすい仕立ての良い服に着替え、約束の場所へと向かった。
そこには、私服姿のゼクスが立っていた。普段の重厚な鎧を脱ぎ、黒いスリムなジャケットに身を包んだ彼は、街中の女性が振り返るほどの輝きを放っている。
「……待たせたな。よし、行こう。今日は誰にも邪魔させ――」
『アキー! 待つポム! ポムも行くポム!』
『当然、我も同行する。アキの隣という特等席を、この男に独占させるわけにはいかん』
アキの足元からポムが、肩にはルルが、当然のような顔をして飛び乗ってきた。
さらには背後から、最小化したハクとバルドスまでもがゾロゾロと現れる。
「……貴様ら。今日は『デート』だと言っただろう。空気を読め」
ゼクスの額にピキリと青筋が浮かぶ。だが、聖獣たちはどこ吹く風だ。
『デート? 美味しいのかそれは。アキが行く場所には我らも行く。それが聖獣の掟だ』
「あはは……団長、いいじゃないですか。みんなで行ったほうが楽しいですよ!」
アキの屈託のない笑顔に、ゼクスはぐぬぬと喉を鳴らしながらも、結局折れるしかなかった。
こうして、一人のイケメン騎士と一人の少年、そして「喋るウサギ、リス、虎、トカゲ」という奇妙な一行の散策が始まった。
街に出ると、アキの「聖獣番」としての本領がまたしても発揮される。
立ち寄ったカフェでは、近所の野良猫たちが「アキだ! 撫でろ!」と集結し、噴水広場では小鳥たちがアキの頭を止まり木にしようと舞い降りる。
「……アキ、その店に入ろう。そこなら個室があるはず――」
「あ、団長! 見てください、あっちの露店に聖獣用のブラシが売ってますよ! ルルたちに買ってあげたいな」
「…………」
ゼクスは、自分のために向けられるはずだったアキの関心が、次々と動物たちに奪われていく現実に、絶望の淵に立たされていた。
彼はついに、耐えかねてアキの手をギュッと握りしめた。
「団長? 急にどうしたんですか?」
「……我慢の限界だ。アキ、貴様、少しは私のことも見ろ。私は今日、貴様と手をつないで、甘い菓子を半分こして、……愛の言葉を囁くつもりだったんだぞ」
大の大人が、街中で本気の拗ねモードに入っている。
アキは驚いて瞬きをしたが、握られた手の熱さと、ゼクスの切実な瞳に、胸の奥がキュンと鳴った。
「……ごめんなさい。俺も、団長と二人で歩けるの、楽しみにしてたんですよ?」
アキが空いた方の手で、ゼクスの大きな手を「よしよし」と撫でる。
その瞬間、ゼクスの表情がみるみるうちに「蕩(とろ)けた」ものに変わった。
「……許す。もっと撫でろ。そのまま私の腕に絡みつけ。……よし、ルル、ポム。貴様らには最高級の木の実を買ってやるから、向こうの広場で遊んでいろ」
現金なもので、聖獣たちは賄賂(木の実)を提示されると、「……仕方ないポム、三十分だけだポムよ!」と、あっさり交渉に応じた。
ようやく訪れた、本当の二人きりの時間。
ゼクスはアキを人気の少ない路地へと引き込み、壁に追い詰めるようにして距離を詰めた。
「……ようやく、静かになったな。……アキ、今日の貴様は……一段と、私の独占欲を煽る」
至近距離で見つめ合う二人。
ゼクスがゆっくりと顔を近づけ、アキがそっと目を閉じた――その瞬間。
「ハッ! シャッターチャンス逃さないわよぉぉぉ!!」
ゴミ箱の陰から、潜伏していたリナ聖女が記録水晶を掲げて飛び出してきた。
「リナ殿……!! 貴様、今日こそは本気で騎士団の地下牢へぶち込んでやる!!」
怒号を上げるゼクスと、笑いながら逃げるリナ。
アキの初デートは、結局いつも通りの賑やかな騒動で幕を閉じるのだった。
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