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20話
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穏やかな午後の昼下がり、悲劇は突如として訪れた。
王宮の庭園でポムと遊んでいたアキの前に、空間を切り裂くようにして隣国のセレス王子が現れたのだ。
「……言っただろう、アキ君。君は私の『愛人』……いや、我が国の宝として迎えると」
セレスが手にしていたのは、禁忌とされる古代遺物「次元を縛る鎖」。
アキが叫ぶ間もなく、黒い霧が彼を包み込み、その場からアキの気配が完全に消失した。
『アキーーーッ!!』
ポムの悲鳴が王宮中に響き渡る。
数秒後、その場に駆けつけたゼクスが見たのは、アキの帽子と、地面に落ちた「誓約のバングル」の残骸だけだった。
「………………消えた?」
ゼクスの口から、体温を感じさせない声が漏れる。
その瞬間、王宮全体の温度が急激に下がり、大気がビリビリと震え始めた。彼の背後から、漆黒の魔力が炎のように燃え上がる。
「……セレス……。貴様、よりによって……私の『命』を奪ったか」
ゼクスの瞳から理性の色が消え、冷酷な「戦争の化身」としての本性が覚醒する。
『待て、黒髪の男よ! 我らも行く! アキを傷つける奴は、この世界のすべての生き物が許さん!』
ハク、ルル、バルドスがゼクスの周囲に集結する。
普段は反目し合っていた一人と四匹が、アキを奪還するという一点において、最強の軍勢と化した。
――隣国、ラズワルド王国の地下宮殿。
囚われたアキは、セレス王子の魔力によって声を封じられていた。
「無駄だよ、アキ君。ここは隔離された異空間だ。あの野蛮な騎士団長も、ここまでは――」
ドォォォォォォン!!
セレスの言葉を遮ったのは、地下宮殿の強固な城壁が「消滅」する音だった。
砂塵の中から現れたのは、もはや人間とは思えないほどの魔気を纏ったゼクスだった。
「……アキを返せ。さもなくば、この国ごと地図から消す」
「なっ……!? ここは幾重もの結界で――」
ゼクスが一歩踏み出すだけで、セレスが誇っていた結界がガラス細工のように砕け散る。
背後からは巨大化したハクが咆哮を上げ、バルドスの吐く黒炎が宮殿を焼き尽くしていく。
「あ、……団長……」
アキの束縛が解けた瞬間、ゼクスは音速で彼を抱き寄せた。
セレスを斬り伏せることすら忘れ、アキの無事を確かめるその手は、ひどく震えていた。
「……無事か、アキ。怪我はないか。……すまない、私が目を離したばかりに……」
「大丈夫です。……団長、もういいですよ。怖い顔しないでください」
アキがそっとゼクスの頬に触れると、猛り狂っていた彼の魔力が、春の雪解けのように一瞬で霧散した。
ゼクスはアキの首筋に顔を埋め、子供のように深く、安堵の息を吐く。
「……もう、絶対に離さん。たとえ神が連れて行こうとしても、私は世界を壊してでも貴様を奪い返す」
その言葉は、もはや甘い求愛ではなく、魂に刻まれた呪いのような執着だった。
セレス王子は、あまりの圧倒的な力の差に戦意を喪失し、そのまま騎士団によって捕縛された。
その夜、王宮へと帰還した二人は、一晩中離れることなく寄り添い続けた。
扉の向こうでは、リナ聖女が「本気の魔王化団長……! そしてそれを一撫でで鎮めるアキ……。これぞ真実の愛……っ!」と、涙で真っ白になったスケッチブックを抱きしめていた。
王宮の庭園でポムと遊んでいたアキの前に、空間を切り裂くようにして隣国のセレス王子が現れたのだ。
「……言っただろう、アキ君。君は私の『愛人』……いや、我が国の宝として迎えると」
セレスが手にしていたのは、禁忌とされる古代遺物「次元を縛る鎖」。
アキが叫ぶ間もなく、黒い霧が彼を包み込み、その場からアキの気配が完全に消失した。
『アキーーーッ!!』
ポムの悲鳴が王宮中に響き渡る。
数秒後、その場に駆けつけたゼクスが見たのは、アキの帽子と、地面に落ちた「誓約のバングル」の残骸だけだった。
「………………消えた?」
ゼクスの口から、体温を感じさせない声が漏れる。
その瞬間、王宮全体の温度が急激に下がり、大気がビリビリと震え始めた。彼の背後から、漆黒の魔力が炎のように燃え上がる。
「……セレス……。貴様、よりによって……私の『命』を奪ったか」
ゼクスの瞳から理性の色が消え、冷酷な「戦争の化身」としての本性が覚醒する。
『待て、黒髪の男よ! 我らも行く! アキを傷つける奴は、この世界のすべての生き物が許さん!』
ハク、ルル、バルドスがゼクスの周囲に集結する。
普段は反目し合っていた一人と四匹が、アキを奪還するという一点において、最強の軍勢と化した。
――隣国、ラズワルド王国の地下宮殿。
囚われたアキは、セレス王子の魔力によって声を封じられていた。
「無駄だよ、アキ君。ここは隔離された異空間だ。あの野蛮な騎士団長も、ここまでは――」
ドォォォォォォン!!
セレスの言葉を遮ったのは、地下宮殿の強固な城壁が「消滅」する音だった。
砂塵の中から現れたのは、もはや人間とは思えないほどの魔気を纏ったゼクスだった。
「……アキを返せ。さもなくば、この国ごと地図から消す」
「なっ……!? ここは幾重もの結界で――」
ゼクスが一歩踏み出すだけで、セレスが誇っていた結界がガラス細工のように砕け散る。
背後からは巨大化したハクが咆哮を上げ、バルドスの吐く黒炎が宮殿を焼き尽くしていく。
「あ、……団長……」
アキの束縛が解けた瞬間、ゼクスは音速で彼を抱き寄せた。
セレスを斬り伏せることすら忘れ、アキの無事を確かめるその手は、ひどく震えていた。
「……無事か、アキ。怪我はないか。……すまない、私が目を離したばかりに……」
「大丈夫です。……団長、もういいですよ。怖い顔しないでください」
アキがそっとゼクスの頬に触れると、猛り狂っていた彼の魔力が、春の雪解けのように一瞬で霧散した。
ゼクスはアキの首筋に顔を埋め、子供のように深く、安堵の息を吐く。
「……もう、絶対に離さん。たとえ神が連れて行こうとしても、私は世界を壊してでも貴様を奪い返す」
その言葉は、もはや甘い求愛ではなく、魂に刻まれた呪いのような執着だった。
セレス王子は、あまりの圧倒的な力の差に戦意を喪失し、そのまま騎士団によって捕縛された。
その夜、王宮へと帰還した二人は、一晩中離れることなく寄り添い続けた。
扉の向こうでは、リナ聖女が「本気の魔王化団長……! そしてそれを一撫でで鎮めるアキ……。これぞ真実の愛……っ!」と、涙で真っ白になったスケッチブックを抱きしめていた。
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