秘め事の共感覚 ―冷徹な支配者の声に僕は身を焦がす―

たら昆布

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7話

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翌日の夕刻、重厚な足音と共に、部屋のドアが乱暴に開かれた。
 待ちわびていた音が、静寂を切り裂く。

「……奏。私の言いつけ通り、大人しくしていたか」

 その声を聞いた瞬間、奏の全身は歓喜に震えた。
 レイヴンの声。それは数日間の飢餓を経て、以前よりもさらに濃密な、極上のビターチョコレートのような深みを持って奏の口内を支配した。

「閣下……っ、レイヴン様……!」

 奏はベッドから転げ落ちるようにして、レイヴンの足元に縋り付いた。
 レイヴンはまだ軍服を纏ったままで、その身体からは微かに硝煙と、彼自身の冷たい香りが漂っている。

「……酷い顔だ。そんなに私の声に飢えていたのか」

「はい……っ、もう、死ぬかと思いました……。あんな、泥みたいな音……二度と、聞きたくない……っ」

 奏が涙ながらに訴えると、レイヴンの銀の瞳が鋭く細められた。
 彼は奏の顎を掴み、強引に顔を上向かせる。

「エリオットに触れられた場所はどこだ。……ここか? それとも、ここか」

 レイヴンの指先が、奏の首筋から鎖骨へと這う。
 その冷徹な声が「どこだ」と問うたび、奏の脳内では痺れるような熱い衝撃が走り、口の中に甘い火がつく。

「あ、っ……そこ、です……指で、触れられて……っ」

「……汚らわしい。他人の雑音に汚されたまま、私を呼ぶなと言ったはずだ」

 レイヴンの声に、低く唸るような嗜虐の色が混じる。
 彼は奏を乱暴に抱き上げると、そのままベッドへと押し倒した。
 圧し掛かる屈強な体躯。逃げ場のない檻。
 奏の耳元で、レイヴンがわざと深く、重厚なトーンで囁きを注ぎ込む。

「今から、お前の中にある不純な音を、すべて私の声で上書きしてやる。……一滴も残さず、私という毒で塗りつぶせ」

「あ、ああ……っ! レイヴン、様……っ」

 レイヴンが奏の耳朶を食む。
 その感触と共に放たれる熱い吐息――。
 奏の共感覚は、レイヴンの発するすべての音を「極上の美味」へと変換し、全身の神経を快楽で焼き尽くしていく。

「お前は、私の声なしでは呼吸さえままならない。そうだろ?」

「……っ、はい……っ。もっと、もっと……あなたの、声で……っ、僕を、壊して……!」

 奏は自ら脚を絡め、レイヴンに縋り付いた。
 レイヴンは冷酷な支配者の微笑を浮かべ、奏の敏感な箇所に唇を寄せる。
 彼が愛を囁くのではない。
 ただ、「お前は私のものだ」という呪いのような言葉を、奏の脳に直接刻み込んでいくのだ。

 その夜、奏は何度もレイヴンの声で「絶頂」を迎え、彼の圧倒的な存在感に呑み込まれていった。
 エリオットが残した泥のような不快感は、今や一欠片も残っていない。
 あるのは、レイヴンの声という、一生解けない甘美な呪縛だけだ。

 明け方、力尽きて眠る奏の額を、レイヴンが愛おしそうに、けれど冷徹な独占欲を込めてなぞった。

「……私の、奏。お前を誰にも渡さない。たとえお前の耳が潰れようとも、私の声だけは逃がさない」

 それは、愛というにはあまりに重く、深い執着の調べだった。
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