秘め事の共感覚 ―冷徹な支配者の声に僕は身を焦がす―

たら昆布

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16話

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窓のない鋼鉄の部屋にいても、奏には分かった。
 世界が、燃えている。

 レイヴンが下した掃討作戦。それは文字通りの「粛清」だった。
 屋敷の遥か遠く、街のいたるところで上がる悲鳴や怒号、そして崩れ落ちる建物の音。
 それらは全て、奏の脳内で「どろりと濁った極彩色の奔流」となって暴れ回っていた。

「あ、っ……ぁ……っ!!」

 奏はレイヴンの膝の上で、血を吐くような喘ぎを漏らした。
 何万もの人間の恐怖と死の間際の思考が、共感覚を通じて奏の口内を焼き尽くしていく。
 それは苦く、酸っぱく、そして鉄の味が混じり合う、耐え難い「絶望の味」だった。

「耐えろ、奏。お前がその苦痛を咀嚼するたび、私の敵は一人、また一人と消えていく」

 レイヴンは奏の細い腰を抱き、その背中をゆっくりと撫でた。
 彼の指先が触れるたび、奏の脳には一筋の「純金」のような輝きが走る。
 レイヴンの存在だけが、この地獄のような感覚の濁流の中で、奏を繋ぎ止める唯一の錨だった。

「……レイヴン様……っ。聞こえる、……みんな、死んでいく……僕の、頭の中で……!」

「それでいい。奴らの死に際は、お前に捧げる旋律だ。……奏、その感覚を研ぎ澄ませろ。お前の『味』を、逆方向に流してやれ」

 レイヴンが奏の耳元で、魔王のような声で囁いた。
 奏の能力――感覚の変換効率の逆転。
 奏が受ける苦痛を、そのまま「音の波動」として外界へ解き放つことができれば、それは聴く者すべての精神を破壊する死の歌となる。

「……できない……っ。そんな、怖いこと……」

「私のためだ、奏。私を、……独りにするな。お前のその力で、私たちの平穏を邪魔する雑音を、すべて黙らせてくれ」

 レイヴンの声。
 その甘美な誘惑に、奏の理性が音を立てて崩れた。
 大好きな人のためなら、世界を敵に回してもいい。
 大好きな人が望むなら、自分は「怪物」にだってなれる。

「あ、あああああああ――っ!!」

 奏は天を仰ぎ、喉を限界まで開いて叫んだ。
 それは声ではない。奏が感じていた何万もの死の苦痛を、純粋な「思考の振動」へと圧縮し、一気に外部へ放出したエネルギーの奔流だった。

 その瞬間、屋敷を包囲していた反乱軍の兵士たちは、一斉に耳を抑えて転げ回った。
 彼らの脳内に、奏が味わった「腐った肉と劇毒の味」が直接叩き込まれたのだ。
 発狂、昏睡、そして死。
 奏の悲鳴は、物理的な破壊を伴わない、精神の大量虐殺を引き起こした。

 静寂。
 爆風が収まった後のような、重苦しい沈黙が世界を覆う。

 奏は力尽き、レイヴンの腕の中でぐったりと項垂れた。
 鼻と耳から、鮮血が伝い落ちる。
 けれど、その表情は、どこか救われたような、聖者のような微笑を浮かべていた。

「……よくやった、奏。……これで、もう誰も私たちの邪魔はできない」

 レイヴンは、血に汚れた奏の唇を深く、深く吸った。
 奏の口内には、今やレイヴンの「冷酷な愛」の味だけが、熱く、甘く、支配的に残っている。

「愛して……います、レイヴン様……」

「ああ、私もだ。……お前が壊した世界の上で、私たちだけの王国を作ろう」

 かつて繊細だった少年は、今や支配者の傍らで微笑む「死の楽器」へと成り果てた。
 二人の愛は、世界の犠牲を糧にして、いよいよ取り返しのつかない頂点へと昇り詰めていく。
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