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5話
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「セシル、今日は王宮の北庭にある『開かずの書庫』の掃除をしてこい」
アルス様のその一言から、俺の平穏(?)な雑用生活に新たな展開が訪れた。
開かずの書庫。そこはかつて大魔導師が使っていたとされる場所で、今は深い結界に守られている。
……はずなのだが、なぜか俺が近づくと「スッ……」と結界が消えた。
(あれ? もしかして悪役令息パワー? それとも前世の社畜時代に培った『どこでも馴染む空気感』のせいか?)
埃の舞う書庫に入ると、そこには一匹の、見たこともないほど美しい生き物がいた。
真っ白でふわふわの毛並み。長い尻尾。そして、知性に満ちた金色の瞳。
「……え、待って。何この可愛い生き物。造形が神すぎる。SSR確定演出じゃん」
俺が思わず膝をつくと、その白い生き物――ルナールは、警戒することもなくトコトコと歩み寄ってきた。
そして、俺の膝の上にポンと飛び乗ったのだ。
「キュイッ!」
「……死ぬ。可愛すぎて死ぬ。アルス様が『剛の推し』なら、君は『柔の推し』だ……! よし、君の名前はルナールだ。今日から僕と一緒にアルス様を愛でよう」
俺がルナールを抱きかかえ、その極上の毛並みに顔を埋めてスーハーしていると(聖獣へのセクハラ)、背後から冷たい声が響いた。
「……セシル。何をしている」
振り返ると、そこには驚愕の表情を浮かべたアルス様が立っていた。
彼の視線は、俺の腕の中でくつろぐルナールに釘付けだ。
「アルス様! 見てください、この天使! 書庫に落ちてたんです、拾ってもいいですか!?」
「落ちていた……だと? それは建国以来封印されていた聖獣ルナールだ。選ばれた聖者にしか懐かないはずの……。なぜ貴様が抱いている!?」
アルス様は信じられないといった様子で歩み寄ってきた。
実はアルス様、無口でクールだが、実は無類の「可愛いもの好き」。
俺の腕の中のルナールを、じーっと、それはもう熱烈な視線で見つめている。
(……あ、わかった。アルス様、これ触りたいんだ。でもクールなキャラを守るために言い出せないんだ。可愛い。アルス様が可愛い……!)
「アルス様、もしよろしければ……僕と一緒に、この子の毛並みの素晴らしさを堪能しませんか?」
「……フン、仕方のない。貴様が正しく世話をしているか、私が直々に確認してやろう」
そう言って、アルス様は俺の隣に座り込んだ。
狭い書庫の片隅。俺とアルス様の肩が触れ合う。
アルス様の大きな手が、おずおずとルナールの頭に伸びた。
「……っ。……柔らかいな」
「ですよね! この弾力、最高ですよね!」
「……ああ。……悪くない」
アルス様の口元が、わずかに、本当にわずかに緩んだ。
俺は横顔を盗み見ながら、胸が熱くなるのを感じた。
(推しがもふもふを撫でて癒やされている……。これ以上の平和(ピース)がこの世にあるだろうか。いや、ない)
だがその時、ルナールが何を思ったのか、アルス様の手をペロリと舐めた後、今度は俺の首筋に鼻先を押し付けてきた。
「ちょ、ルナール! くすぐったいって! あはは!」
「……セシル。あまりルナールに近づきすぎるな」
不意に、アルス様の声が低くなった。
彼の手がルナールから離れ、俺の肩をぐいっと引き寄せる。
「……? どうしたんですか、アルス様」
「……この聖獣は、魔力が高い者に惹かれる性質がある。貴様が……変な毒気に当てられないか、心配しているだけだ」
アルス様はそう言って顔を逸らしたが、その瞳には明らかにルナールに対する「嫉妬」の色が混じっていた。
相手は聖獣ですよ?
しかも、俺を心配しているという名目で、めちゃくちゃ強く肩を抱き寄せられてるんですけど。
(これ……。もしかして、ルナールをダシにして、僕との距離を詰めようとしてます……?)
「アルス様、もしかして……僕がルナールばかり構うのが、寂しいんですか?」
「……なっ!? 貴様、処刑されたいのか!?」
「いいえ、愛されたいです!」
アルス様は真っ赤になって立ち上がり、ルナールを掴んで俺の腕から引き剥がそうとした。
ルナールは「キュイッ!」と鳴いて俺にしがみつく。
図らずも始まった、一人と一匹による「セシルの取り合い」。
アルス様の独占欲が、聖獣の登場によって一気に加速し始めた。
「いいかセシル。ルナールの世話は許可するが……俺の目の届く場所だけにしろ。……わかったな」
「はい! もちろん、一生ついていきます!」
俺は、ルナールの柔らかな温もりと、アルス様の力強い手の感触に包まれながら、この世界に転生して本当に良かったと、心の底から神に感謝したのだった。
アルス様のその一言から、俺の平穏(?)な雑用生活に新たな展開が訪れた。
開かずの書庫。そこはかつて大魔導師が使っていたとされる場所で、今は深い結界に守られている。
……はずなのだが、なぜか俺が近づくと「スッ……」と結界が消えた。
(あれ? もしかして悪役令息パワー? それとも前世の社畜時代に培った『どこでも馴染む空気感』のせいか?)
埃の舞う書庫に入ると、そこには一匹の、見たこともないほど美しい生き物がいた。
真っ白でふわふわの毛並み。長い尻尾。そして、知性に満ちた金色の瞳。
「……え、待って。何この可愛い生き物。造形が神すぎる。SSR確定演出じゃん」
俺が思わず膝をつくと、その白い生き物――ルナールは、警戒することもなくトコトコと歩み寄ってきた。
そして、俺の膝の上にポンと飛び乗ったのだ。
「キュイッ!」
「……死ぬ。可愛すぎて死ぬ。アルス様が『剛の推し』なら、君は『柔の推し』だ……! よし、君の名前はルナールだ。今日から僕と一緒にアルス様を愛でよう」
俺がルナールを抱きかかえ、その極上の毛並みに顔を埋めてスーハーしていると(聖獣へのセクハラ)、背後から冷たい声が響いた。
「……セシル。何をしている」
振り返ると、そこには驚愕の表情を浮かべたアルス様が立っていた。
彼の視線は、俺の腕の中でくつろぐルナールに釘付けだ。
「アルス様! 見てください、この天使! 書庫に落ちてたんです、拾ってもいいですか!?」
「落ちていた……だと? それは建国以来封印されていた聖獣ルナールだ。選ばれた聖者にしか懐かないはずの……。なぜ貴様が抱いている!?」
アルス様は信じられないといった様子で歩み寄ってきた。
実はアルス様、無口でクールだが、実は無類の「可愛いもの好き」。
俺の腕の中のルナールを、じーっと、それはもう熱烈な視線で見つめている。
(……あ、わかった。アルス様、これ触りたいんだ。でもクールなキャラを守るために言い出せないんだ。可愛い。アルス様が可愛い……!)
「アルス様、もしよろしければ……僕と一緒に、この子の毛並みの素晴らしさを堪能しませんか?」
「……フン、仕方のない。貴様が正しく世話をしているか、私が直々に確認してやろう」
そう言って、アルス様は俺の隣に座り込んだ。
狭い書庫の片隅。俺とアルス様の肩が触れ合う。
アルス様の大きな手が、おずおずとルナールの頭に伸びた。
「……っ。……柔らかいな」
「ですよね! この弾力、最高ですよね!」
「……ああ。……悪くない」
アルス様の口元が、わずかに、本当にわずかに緩んだ。
俺は横顔を盗み見ながら、胸が熱くなるのを感じた。
(推しがもふもふを撫でて癒やされている……。これ以上の平和(ピース)がこの世にあるだろうか。いや、ない)
だがその時、ルナールが何を思ったのか、アルス様の手をペロリと舐めた後、今度は俺の首筋に鼻先を押し付けてきた。
「ちょ、ルナール! くすぐったいって! あはは!」
「……セシル。あまりルナールに近づきすぎるな」
不意に、アルス様の声が低くなった。
彼の手がルナールから離れ、俺の肩をぐいっと引き寄せる。
「……? どうしたんですか、アルス様」
「……この聖獣は、魔力が高い者に惹かれる性質がある。貴様が……変な毒気に当てられないか、心配しているだけだ」
アルス様はそう言って顔を逸らしたが、その瞳には明らかにルナールに対する「嫉妬」の色が混じっていた。
相手は聖獣ですよ?
しかも、俺を心配しているという名目で、めちゃくちゃ強く肩を抱き寄せられてるんですけど。
(これ……。もしかして、ルナールをダシにして、僕との距離を詰めようとしてます……?)
「アルス様、もしかして……僕がルナールばかり構うのが、寂しいんですか?」
「……なっ!? 貴様、処刑されたいのか!?」
「いいえ、愛されたいです!」
アルス様は真っ赤になって立ち上がり、ルナールを掴んで俺の腕から引き剥がそうとした。
ルナールは「キュイッ!」と鳴いて俺にしがみつく。
図らずも始まった、一人と一匹による「セシルの取り合い」。
アルス様の独占欲が、聖獣の登場によって一気に加速し始めた。
「いいかセシル。ルナールの世話は許可するが……俺の目の届く場所だけにしろ。……わかったな」
「はい! もちろん、一生ついていきます!」
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