悪役令息(予定)の俺、推し騎士を愛でるために破滅フラグを全力でバキ折ることにしました。

たら昆布

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6話

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「……セシル。明日、城下町へ行く。貴様も同行しろ」

執務室でルナールと戯れていた俺に、アルス様がそっけなく命じた。
城下町。それは、ゲームでは数々のイベントが発生する重要スポットだ。

「えっ、デートですか!? ついに僕とアルス様の関係が公認に!? 披露宴の会場はどこにしますか、王宮の大広間でいいですかね?」

「……買い出しだ。ルナールの寝床を作るためのな。それと、貴様の服があまりにもみすぼらしい」

アルス様は俺の着古したシャツ(牢屋上がり)を冷ややかな目で見やった。
確かに、今の俺の格好は「絶世の美少年の無駄遣い」と言われても文句は言えない。

(……待って。これって、推しが俺を自分好みにコーディネートしてくれるっていう、究極の着せ替えイベントじゃん!)

翌日。俺たちは馬車を使い、活気あふれる王都のメインストリートへと降り立った。
アルス様は目立たないようにマントを深く被っているが、その隠しきれないスパダリオーラに、道ゆく人々が思わず振り返る。

「まずは服だ。……こっちへ来い」

アルス様に連れられて入ったのは、王都でも指折りの高級仕立屋だった。
鏡の前に立たされ、次々と豪華な衣装をあてがわれる俺。

「アルス様、僕みたいな雑用係にこんな高級な服は……」

「黙っていろ。……これは、俺の隣を歩くための必要経費だ」

「……っ!!」

今の、聞きましたか!? 
『俺の隣を歩くための』! 
全米が泣くレベルの殺し文句を、アルス様は無自覚に(いや、確信犯か?)投げつけてきた。
俺のオタク心臓が激しくビートを刻む。

アルス様は、少し悩むように顎に手を当てると、一着の深いワインレッドの礼服を指差した。

「……それを試着しろ」

着替えてカーテンを開けると、アルス様の銀色の瞳が大きく見開かれた。
少しきつめの青い瞳と、輝くような金髪。ワインレッドの生地が、俺の肌の白さを引き立てている。

「ど、どうでしょうか……? 似合ってますか?」

「…………。……ああ。……悪くない。いや、その……」

アルス様が言葉を濁し、顔を背けた。
耳の先まで真っ赤だ。
店員が「まあ、本当にお似合いです! まるで絵画から抜け出してきた王子のよう……。お客様(アルス様)のセンスは素晴らしいですね!」と追い打ちをかける。

結局、その服を含めて数着を、アルス様は「俺の許可なしに脱ぐな」という謎の束縛宣言と共に一括で購入した。

買い出しの最後、俺たちは少し離れた広場で休憩することになった。
手には、城下町名物の甘い果実を挟んだパイ。

「アルス様、あーんしてください」

「……貴様、外だぞ。少しは慎みを――」

「あーん」

俺がしつこくパイを差し出すと、アルス様は周囲を警戒するように見回した後、観念したように小さな口を開けた。
パクッ。

(((全俺が歓喜の舞を踊った)))

「……甘すぎる。……だが、不味くはない」

そう言って咀嚼するアルス様の頬には、パイの欠片がついている。
俺は反射的に手を伸ばし、指先でその欠片を拭った。

「ついてますよ、アルス様。……もったいないから、僕が食べちゃいますね」

自分の指をぺろりと舐めると、アルス様の動きが完全に止まった。
彼の銀眼が、獲物を狙う猛禽類のような鋭い光を帯びる。

「……セシル。貴様、自分が何をしたかわかっているのか」

「え? 掃除の延長線上のエコ活動ですが……」

「……もういい。帰るぞ」

アルス様は俺の手首を掴むと、強引に馬車へと引きずっていった。
馬車の狭い個室に二人きり。
揺れる車内、アルス様の顔がすぐ近くにある。

「……セシル。俺を、あまり試すな。……俺は、自分でも驚くほど、我慢強くないらしい」

アルス様の低い声が、俺の鼓膜を震わせる。
その瞳の奥にあるのは、もはや「困惑」ではなく、もっとドロドロとした、逃げ場のない「独占欲」だった。

(あ、これ……。次に一線を超えたら、俺、本当にアルス様に喰べられるやつだ……)

俺は、窓の外を流れる景色を見ながら、推しからの「執着フラグ」が、もうへし折ることが不可能なほど太くなっていることを確信した。

「……受けて立ちますよ、アルス様。僕も、あなたを独り占めする準備はできてますから」

小さな声で呟いた言葉は、馬車の揺れる音に消えた。
だが、アルス様の掴む手の力は、城につくまで決して緩むことはなかった。
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