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8話
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アルス様に首筋を噛まれてから、俺の生活は一変した。
鏡を見るたびに残る赤い痕跡は、俺が「彼の所有物」であることを無言で主張している。
(……やばい。推しにマーキングされた。これ、前世ならTwitterでトレンド入りするレベルの大事件だぞ……!)
そんな浮ついた俺の前に、ついに「彼女」が現れた。
このゲームの本来のヒロインであり、国中の信仰を集める聖女――リリアーヌだ。
白磁のような肌に、慈愛に満ちた垂れ目。
彼女が騎士団を訪問すると聞いただけで、男たちは色めき立っていた。
だが、俺にとっては「アルス様と結ばれるはずの恋敵」だ。
「あなたが……セシル・フォン・ローゼンバーグ様ですね?」
騎士団の廊下で、リリアーヌに呼び止められた。
背後にはアルス様が控えているが、なぜか彼は不機嫌そうに俺とリリアーヌの間に割って入ろうとしている。
「聖女様。この男はただの雑用係です。貴女が言葉を交わすような相手では――」
「いいえ、アルス様。私は彼と二人でお話ししたいのです。……よろしいですね?」
リリアーヌは可憐に微笑んだが、その瞳の奥には断らせない圧があった。
アルス様は渋々、俺に「余計なことを話すな」という鋭い視線を送ってから、数歩下がった。
人気のない談話室。
リリアーヌは扉を閉めると、先ほどまでの「聖女」の仮面を脱ぎ捨て、ガバッと俺の両手を掴んだ。
「……ちょっと待って、今の噛み跡!? 本物!? アルス×セシル、公式が最大手だったの!?!?(クソデカ大声)」
「……はい?」
俺は呆然とした。
今、この聖女様、なんて言った?
「嘘でしょ、やっぱりあなたも『こっち側』の人間ね!? その反応、前世で同人誌500冊は出してるオタクの顔だもの!」
「ま、待ってください。リリアーヌ様、あなた……まさか……」
「そうよ! 私、前世は限界腐女子。このゲームの『アルス様受け』が地雷すぎて、せめて自分がヒロインになってアルス様を誰かいい男(右固定)に嫁がせようと思って転生したの! でも、まさか公式で悪役令息がこんなに美味しいポジションにいるなんて……ありがとう、世界……!」
リリアーヌは、涙を流しながら俺の手をブンブンと振った。
なんということだ。
本来のヒロインは、攻略対象を狙うライバルではなく、俺たちの仲を全力で「壁」になって見守りたい同志だったのだ。
「セシル様……。あなた、アルス様を狙ってるんでしょ? 安心なさい。私は全力であなたをバックアップするわ。聖女の権限をフル活用して、二人の初夜までエスコートしてあげる!」
「リリアーヌ様、話が早すぎて僕の脳内処理が追いつきません! でも、アルス様は僕のことを『異常者』だと思ってるんですよ!?」
「いいえ、あれは完全に『執着してる男』の目よ。さっきだって、私があなたに触れた瞬間、アルス様の手が剣の柄にかかってたわ。殺されるかと思ったもの」
リリアーヌは楽しそうにケラケラと笑う。
その時、扉が勢いよく開いた。
「……時間が過ぎている。セシル、戻るぞ」
待ちきれなかったらしいアルス様が、俺の腕を強引に引いて自分の方へ引き寄せた。
リリアーヌに向ける視線は、もはや聖女に対する敬意ではなく、自分の獲物を横取りしようとする不届き者へのそれだ。
「アルス様、そんなに怖がらなくても、セシル様を奪ったりしませんわ。……むしろ、もっと『仲良く』なれるようにお祈りしておきますね」
「……祈りは結構だ。行くぞ、セシル」
アルス様は俺を抱えるようにして、逃げるようにその場を去った。
背後でリリアーヌが「ああ……攻めの独占欲、プライスレス……!」と呟いているのが聞こえたが、アルス様には届かなかったようだ。
「セシル。あの女と何を話していた」
「……あ、ええと……美容について、ですかね?」
「……嘘をつくな。顔が赤いぞ」
アルス様は俺を壁に押し付けると、先ほど噛んだばかりの俺の首筋を、今度は優しく舌でなぞった。
「……聖女だろうが誰だろうが、お前を俺から引き離す奴は許さない。お前も……俺だけを見ていればいいと言ったはずだ」
アルス様の独占欲に、リリアーヌという「プロの煽り手」が加わった。
俺の破滅フラグは完全に消滅したが、代わりに「アルス様の寵愛(激重)」という、底なし沼のような新ルートが確定した瞬間だった。
(……リリアーヌ様、応援は嬉しいけど……これ、僕の腰が保つか心配になってきました……!)
鏡を見るたびに残る赤い痕跡は、俺が「彼の所有物」であることを無言で主張している。
(……やばい。推しにマーキングされた。これ、前世ならTwitterでトレンド入りするレベルの大事件だぞ……!)
そんな浮ついた俺の前に、ついに「彼女」が現れた。
このゲームの本来のヒロインであり、国中の信仰を集める聖女――リリアーヌだ。
白磁のような肌に、慈愛に満ちた垂れ目。
彼女が騎士団を訪問すると聞いただけで、男たちは色めき立っていた。
だが、俺にとっては「アルス様と結ばれるはずの恋敵」だ。
「あなたが……セシル・フォン・ローゼンバーグ様ですね?」
騎士団の廊下で、リリアーヌに呼び止められた。
背後にはアルス様が控えているが、なぜか彼は不機嫌そうに俺とリリアーヌの間に割って入ろうとしている。
「聖女様。この男はただの雑用係です。貴女が言葉を交わすような相手では――」
「いいえ、アルス様。私は彼と二人でお話ししたいのです。……よろしいですね?」
リリアーヌは可憐に微笑んだが、その瞳の奥には断らせない圧があった。
アルス様は渋々、俺に「余計なことを話すな」という鋭い視線を送ってから、数歩下がった。
人気のない談話室。
リリアーヌは扉を閉めると、先ほどまでの「聖女」の仮面を脱ぎ捨て、ガバッと俺の両手を掴んだ。
「……ちょっと待って、今の噛み跡!? 本物!? アルス×セシル、公式が最大手だったの!?!?(クソデカ大声)」
「……はい?」
俺は呆然とした。
今、この聖女様、なんて言った?
「嘘でしょ、やっぱりあなたも『こっち側』の人間ね!? その反応、前世で同人誌500冊は出してるオタクの顔だもの!」
「ま、待ってください。リリアーヌ様、あなた……まさか……」
「そうよ! 私、前世は限界腐女子。このゲームの『アルス様受け』が地雷すぎて、せめて自分がヒロインになってアルス様を誰かいい男(右固定)に嫁がせようと思って転生したの! でも、まさか公式で悪役令息がこんなに美味しいポジションにいるなんて……ありがとう、世界……!」
リリアーヌは、涙を流しながら俺の手をブンブンと振った。
なんということだ。
本来のヒロインは、攻略対象を狙うライバルではなく、俺たちの仲を全力で「壁」になって見守りたい同志だったのだ。
「セシル様……。あなた、アルス様を狙ってるんでしょ? 安心なさい。私は全力であなたをバックアップするわ。聖女の権限をフル活用して、二人の初夜までエスコートしてあげる!」
「リリアーヌ様、話が早すぎて僕の脳内処理が追いつきません! でも、アルス様は僕のことを『異常者』だと思ってるんですよ!?」
「いいえ、あれは完全に『執着してる男』の目よ。さっきだって、私があなたに触れた瞬間、アルス様の手が剣の柄にかかってたわ。殺されるかと思ったもの」
リリアーヌは楽しそうにケラケラと笑う。
その時、扉が勢いよく開いた。
「……時間が過ぎている。セシル、戻るぞ」
待ちきれなかったらしいアルス様が、俺の腕を強引に引いて自分の方へ引き寄せた。
リリアーヌに向ける視線は、もはや聖女に対する敬意ではなく、自分の獲物を横取りしようとする不届き者へのそれだ。
「アルス様、そんなに怖がらなくても、セシル様を奪ったりしませんわ。……むしろ、もっと『仲良く』なれるようにお祈りしておきますね」
「……祈りは結構だ。行くぞ、セシル」
アルス様は俺を抱えるようにして、逃げるようにその場を去った。
背後でリリアーヌが「ああ……攻めの独占欲、プライスレス……!」と呟いているのが聞こえたが、アルス様には届かなかったようだ。
「セシル。あの女と何を話していた」
「……あ、ええと……美容について、ですかね?」
「……嘘をつくな。顔が赤いぞ」
アルス様は俺を壁に押し付けると、先ほど噛んだばかりの俺の首筋を、今度は優しく舌でなぞった。
「……聖女だろうが誰だろうが、お前を俺から引き離す奴は許さない。お前も……俺だけを見ていればいいと言ったはずだ」
アルス様の独占欲に、リリアーヌという「プロの煽り手」が加わった。
俺の破滅フラグは完全に消滅したが、代わりに「アルス様の寵愛(激重)」という、底なし沼のような新ルートが確定した瞬間だった。
(……リリアーヌ様、応援は嬉しいけど……これ、僕の腰が保つか心配になってきました……!)
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