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7話
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「リト殿、この書類にサインをお願いします。これは、貴殿の魔力に耐えうる特製のクッションを、私の私費で購入するための申請書です」
「私費で購入するのに、なんで僕がサインしなきゃいけないんですか。しかも『リト殿専用膝乗せクッション』って書いてあるし」
魔導師団にいると、毎日こうだ。
デスクワークをしている僕の周囲を、ゼノが常にストーキング……いや、護衛している。
僕が椅子に座れば、すぐに膝の上に乗ろうとしてくるし、飲み物を飲めば「間接キス……!」と恍惚の表情を浮かべる。
そして、その都度、僕の愛犬(魔獣)であるココが、ゼノに向かって全力で吠えまくるのだ。
「キャンキャンッ! ウガガガガ!」
「白い毛玉、うるさい。私がリト殿の膝に乗ろうとしているのに邪魔をするな。貴様はすでに、王宮公認の『リト殿のペット』なのだから、その立場を弁えろ」
「ココもゼノさんも、どっちも落ち着いて。僕の仕事が進まない。ほら、ココ、おやつだよ」
僕がおやつを出すと、ココは一瞬でゼノへの敵意を忘れ、キラキラした目で僕を見上げてくる。
本当に可愛い。これが僕の異世界スローライフの唯一の癒やしだ。
「リト殿……私にはおやつはないのですか?」
ゼノが切ない瞳で僕を見つめてくる。
……犬か、お前は。
「ないです。仕事してください。書類の山、片付いてませんよ」
「ですが、私が片付けてしまえば、貴殿と会う時間が減ってしまう……。私はこのジレンマに苦しんでいるのですよ、リト殿」
もうダメだ、こいつ。
僕がゼノに呆れていると、突然、執務室の扉がノックされた。
「リト殿、ゼノ殿、失礼します! 王都の郊外で、未確認の魔獣が発見されたとの報告です!」
慌てた様子で入ってきたのは、若手の騎士だった。
報告を聞いた瞬間、ゼノの顔色がサッと変わった。
「魔獣だと? リト殿を危険な目に遭わせるわけにはいかない。私が単独で向かおう」
「ちょっと待ってください、ゼノさん。珍しい魔獣なら、僕も行ってみたいです」
僕がそう言うと、ゼノは「えっ!?」という顔をして僕の方を振り返った。
その目は「もしかして、私と二人きりの時間が欲しいと!?」と訴えかけている。
……勘違いが酷すぎる。
「珍しい魔獣なら、生態を観察して『もふもふ魔獣図鑑・極秘版』に書き込めるかもしれないじゃないですか。これは仕事です、仕事!」
「し、仕事……! なるほど、リト殿がやる気になっている! では、私も同行しましょう!」
こうして、僕とゼノ、そしてココの三人(と一匹)は、未確認魔獣の討伐に向かうことになった。
討伐、と言っても僕の目的はあくまで観察だけど。
現場に到着すると、そこには巨大な影があった。
体長三メートルほどの、灰色の毛並みを持った獣。
見た目は、巨大化した柴犬、といったところか。
「……これは、『グレートドッグ』と呼ばれる上級魔獣です。攻撃力も高く、群れで行動するため危険です」
ゼノが冷静に分析する。
だが、僕の目はその「巨大な柴犬」に釘付けだった。
「うわー、もふもふだ……」
僕はココを抱き上げたまま、無警戒にグレートドッグに近づいていく。
グレートドッグは僕を敵と認識し、唸り声を上げて威嚇してきた。
「グルルルル……」
「リト殿! 危ない!」
ゼノが剣を抜こうと身構えた、その時だった。
僕の腕の中にいたココが、突然「ワン!」と一吠えすると、僕の腕から飛び降りた。
そして、その小さな体で、グレートドッグに向かっていく。
「きゃんきゃん! クゥン!」
ココはグレートドッグの周りをチョロチョロと走り回り、まるで遊んでいるかのようにじゃれついた。
グレートドッグは困惑したように首を傾げ、そして――。
「クゥン……」
なんと、その巨大な体を地面に伏せ、ココに鼻を擦り寄せて甘え始めたのだ。
まるで、親子のように。
「……え? なにこれ、めっちゃ可愛いんだけど」
僕が呆然としていると、ゼノが僕の隣でガタガタと震え始めた。
「こ、ココ……だと? あの白い毛玉が、上級魔獣のグレートドッグを従えるなど……まさか、伝説の魔獣、『銀光のポメ犬』か!?」
「銀光のポメ犬? 何それ、可愛い」
「可愛くなどない! それは、あらゆる獣を従え、古の時代に存在したという伝説の魔獣の名だ! そして、その力は、一部の魔獣のみならず、人間すらも魅了する、と……」
ゼノは急に青ざめた顔で、僕の顔を覗き込んだ。
「リト殿! 貴殿も、あの白い毛玉の魅力に取りつかれているのでは!?」
「取りつかれてるっていうか、普通に可愛いから飼ってるだけだけど」
「くっ……私が! 私がリト殿の唯一の伴侶になるはずなのに、こんな小さな白い毛玉にすら嫉妬せねばならぬとは……!」
ゼノは天を仰いで絶叫した。
目の前では、ココが誇らしげな顔でグレートドッグの背中に乗っている。
まるで「見てるかゼノ。俺様のご主人様は俺様のモノだ」と言っているかのように。
「ゼノさん、あんまり大声出すと、近所の魔物も寄ってきますよ。ほら、グレートドッグも困ってる」
「グルルル……」
グレートドッグが困惑顔でゼノを見上げている。
僕の異世界スローライフには、どうやら最強の「もふもふ」と、最強の「嫉妬深いイケメン」がセットで付いてきたらしい。
「よし、ココ。このグレートドッグ、飼おう」
「キャン!」
僕の言葉に、ココは嬉しそうに吠えた。
そして、その日の夕方、僕のログハウスには、一匹の白いポメラニアンと、一匹の巨大な柴犬が、仲良く昼寝をする姿があった。
もちろん、ゼノはログハウスの外から、血走った目でその光景を睨みつけているのだった。
「私費で購入するのに、なんで僕がサインしなきゃいけないんですか。しかも『リト殿専用膝乗せクッション』って書いてあるし」
魔導師団にいると、毎日こうだ。
デスクワークをしている僕の周囲を、ゼノが常にストーキング……いや、護衛している。
僕が椅子に座れば、すぐに膝の上に乗ろうとしてくるし、飲み物を飲めば「間接キス……!」と恍惚の表情を浮かべる。
そして、その都度、僕の愛犬(魔獣)であるココが、ゼノに向かって全力で吠えまくるのだ。
「キャンキャンッ! ウガガガガ!」
「白い毛玉、うるさい。私がリト殿の膝に乗ろうとしているのに邪魔をするな。貴様はすでに、王宮公認の『リト殿のペット』なのだから、その立場を弁えろ」
「ココもゼノさんも、どっちも落ち着いて。僕の仕事が進まない。ほら、ココ、おやつだよ」
僕がおやつを出すと、ココは一瞬でゼノへの敵意を忘れ、キラキラした目で僕を見上げてくる。
本当に可愛い。これが僕の異世界スローライフの唯一の癒やしだ。
「リト殿……私にはおやつはないのですか?」
ゼノが切ない瞳で僕を見つめてくる。
……犬か、お前は。
「ないです。仕事してください。書類の山、片付いてませんよ」
「ですが、私が片付けてしまえば、貴殿と会う時間が減ってしまう……。私はこのジレンマに苦しんでいるのですよ、リト殿」
もうダメだ、こいつ。
僕がゼノに呆れていると、突然、執務室の扉がノックされた。
「リト殿、ゼノ殿、失礼します! 王都の郊外で、未確認の魔獣が発見されたとの報告です!」
慌てた様子で入ってきたのは、若手の騎士だった。
報告を聞いた瞬間、ゼノの顔色がサッと変わった。
「魔獣だと? リト殿を危険な目に遭わせるわけにはいかない。私が単独で向かおう」
「ちょっと待ってください、ゼノさん。珍しい魔獣なら、僕も行ってみたいです」
僕がそう言うと、ゼノは「えっ!?」という顔をして僕の方を振り返った。
その目は「もしかして、私と二人きりの時間が欲しいと!?」と訴えかけている。
……勘違いが酷すぎる。
「珍しい魔獣なら、生態を観察して『もふもふ魔獣図鑑・極秘版』に書き込めるかもしれないじゃないですか。これは仕事です、仕事!」
「し、仕事……! なるほど、リト殿がやる気になっている! では、私も同行しましょう!」
こうして、僕とゼノ、そしてココの三人(と一匹)は、未確認魔獣の討伐に向かうことになった。
討伐、と言っても僕の目的はあくまで観察だけど。
現場に到着すると、そこには巨大な影があった。
体長三メートルほどの、灰色の毛並みを持った獣。
見た目は、巨大化した柴犬、といったところか。
「……これは、『グレートドッグ』と呼ばれる上級魔獣です。攻撃力も高く、群れで行動するため危険です」
ゼノが冷静に分析する。
だが、僕の目はその「巨大な柴犬」に釘付けだった。
「うわー、もふもふだ……」
僕はココを抱き上げたまま、無警戒にグレートドッグに近づいていく。
グレートドッグは僕を敵と認識し、唸り声を上げて威嚇してきた。
「グルルルル……」
「リト殿! 危ない!」
ゼノが剣を抜こうと身構えた、その時だった。
僕の腕の中にいたココが、突然「ワン!」と一吠えすると、僕の腕から飛び降りた。
そして、その小さな体で、グレートドッグに向かっていく。
「きゃんきゃん! クゥン!」
ココはグレートドッグの周りをチョロチョロと走り回り、まるで遊んでいるかのようにじゃれついた。
グレートドッグは困惑したように首を傾げ、そして――。
「クゥン……」
なんと、その巨大な体を地面に伏せ、ココに鼻を擦り寄せて甘え始めたのだ。
まるで、親子のように。
「……え? なにこれ、めっちゃ可愛いんだけど」
僕が呆然としていると、ゼノが僕の隣でガタガタと震え始めた。
「こ、ココ……だと? あの白い毛玉が、上級魔獣のグレートドッグを従えるなど……まさか、伝説の魔獣、『銀光のポメ犬』か!?」
「銀光のポメ犬? 何それ、可愛い」
「可愛くなどない! それは、あらゆる獣を従え、古の時代に存在したという伝説の魔獣の名だ! そして、その力は、一部の魔獣のみならず、人間すらも魅了する、と……」
ゼノは急に青ざめた顔で、僕の顔を覗き込んだ。
「リト殿! 貴殿も、あの白い毛玉の魅力に取りつかれているのでは!?」
「取りつかれてるっていうか、普通に可愛いから飼ってるだけだけど」
「くっ……私が! 私がリト殿の唯一の伴侶になるはずなのに、こんな小さな白い毛玉にすら嫉妬せねばならぬとは……!」
ゼノは天を仰いで絶叫した。
目の前では、ココが誇らしげな顔でグレートドッグの背中に乗っている。
まるで「見てるかゼノ。俺様のご主人様は俺様のモノだ」と言っているかのように。
「ゼノさん、あんまり大声出すと、近所の魔物も寄ってきますよ。ほら、グレートドッグも困ってる」
「グルルル……」
グレートドッグが困惑顔でゼノを見上げている。
僕の異世界スローライフには、どうやら最強の「もふもふ」と、最強の「嫉妬深いイケメン」がセットで付いてきたらしい。
「よし、ココ。このグレートドッグ、飼おう」
「キャン!」
僕の言葉に、ココは嬉しそうに吠えた。
そして、その日の夕方、僕のログハウスには、一匹の白いポメラニアンと、一匹の巨大な柴犬が、仲良く昼寝をする姿があった。
もちろん、ゼノはログハウスの外から、血走った目でその光景を睨みつけているのだった。
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