伝説の聖騎士に求婚されていますが、それどころじゃないので定時で帰ります! ~もふもふと昼寝したいだけなのに愛が重すぎる~

たら昆布

文字の大きさ
10 / 23

10話

しおりを挟む
「……おかしい。絶対におかしい」

魔導師団の自分のデスクに座り、僕は首を傾げた。
ここ数日、僕の仕事が「あまりにも」順調すぎるのだ。

昨日、団長のエディから渡された『三百年解けなかった封印の解読』という分厚い資料。
定時までに終わらせようと意気込んで開いたら、中から付箋がペラリと落ちた。
そこには、僕が解くべきはずの数式が、完璧な筆跡ですべて解かれた状態で挟まっていたのだ。

「お疲れ様です、リト殿! 今日も朝露に濡れた花のように可憐ですね。何かお困りですか?」

背後から、いつもの「重すぎる愛の気配」が近づいてくる。
僕は振り返り、その完璧な笑顔を浮かべる聖騎士をジト目で睨んだ。

「ゼノさん。これ、あなたがやりましたよね?」

「何のことでしょうか? 私はただ、リト殿の大切な指先がインクで汚れないよう、世界を平和にしたいと願っているだけの男です」

「具体的に言って! この数式の解体、ゼノさんが夜中に忍び込んでやったでしょ!」

「……忍び込むなど人聞きが悪い。警備の確認中に、偶然、机の上に寂しそうに転がっている紙束を見かけたので、少しだけ『お手伝い』をしたまでです。リト殿が少しでも長く、もふもふと戯れる時間を作れるようにと……」

「……全部やってあるじゃないですか! これじゃ僕、座ってお茶飲んでるだけですよ!」

「素晴らしい。それこそがリト殿にふさわしい執務スタイルです。さあ、今朝絞りたてのヤギのミルクをどうぞ。リト殿の健康は私が守ります」

ゼノが差し出してきたミルクを飲みながら、僕は戦慄した。
この男、僕を甘やかして「無能な怠け者」に改造しようとしている……!
……いや、待てよ。

「(……これ、前世で夢見た『働かなくても給料がもらえる』っていう究極のホワイト環境じゃないか?)」

社畜の魂が、ささやき始めた。
仕事は誰かがやってくれる。自分は定時まで座っているだけ。そして五時になればココが待つ家に帰れる。
これこそ、僕が求めていたスローライフの完成形なのでは?

「……ゼノさん。これからも、こういう『お手伝い』、続くんですか?」

「もちろんです。リト殿の苦労はすべて私が背負います。リト殿はただ、そこに存在して私に微笑みかけてくれればいい」

「……分かりました。じゃあ、今日の分の資料もお願いします」

「喜んで!!」

ゼノがシュバッ!と資料を奪い取り、猛烈な勢いでペンを動かし始めた。
聖騎士の超人的な集中力と演算能力。本来、戦場で戦術を練るための頭脳が、今、僕の雑用を片付けるためにフル回転している。

僕は悠々と椅子にもたれかかり、足元で丸くなっているココを撫でた。

「ココ、見て。ゼノさんが働いてるよ。僕たち、勝ち組だね」

「キャン……(ご主人様、それ、餌付けされてるだけだよ……)」

ココが冷めた目で僕を見ているが、僕は気にしない。
一時間後。
本来なら三日はかかるはずの仕事が、ゼノの手によって完遂された。

「終わりました、リト殿! さあ、定時までまだ四時間もあります。今のうちに、私が予約した『王都一の絶景が見えるテラス』で、二人きりのティータイムを――」

「あ、定時まで時間があるなら、図書室でもふもふの資料探してきますね。ゼノさんは残りの片付け、お願いします!」

「リ、リト殿!? 私のティータイムは!? 私へのご褒美は――っ!!」

ゼノの叫びを背中に受けながら、僕は軽やかな足取りで執務室を出た。
「仕事がない」という最高の贅沢。
ゼノの過保護を利用して、僕の「ぐうたら生活」は加速していく。

しかし、僕は知らなかった。
ゼノが裏で僕の仕事を片付けているせいで、魔導師団の間で「リトは一瞬で難問を解く神童だ」という噂が広まり、さらに難易度の高い仕事が舞い込む悪循環に陥っていることに。

「……リト殿。貴殿が私を頼ってくれるのは嬉しいですが、そろそろ私の腕の中という定時に帰ってきてはいただけませんか……?」

夕暮れ時、疲れ果てた(精神的に)ゼノが僕の袖を掴んで懇願してきたが。

「あ、五時ですね。お疲れ様でしたー!」

「待ってえええええ!!」

今日も僕は、定時のチャイムと共に、愛の重い聖騎士を置き去りにして帰路につくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...