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鬼畜変態野郎と首輪の意味②
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鬼畜変態野郎の家に帰った。買ってきた物などを整理したり、枕や布団などを干したり。何だかんだしていれば、気づけば夕方になっていた。ご飯は鬼畜変態野郎がカレーを作ってくれた。そういう所だけイイ男だ。
「明日、出掛けるぜ」
「何をするの?」
「散歩」
「ほんと!? お散歩大好きなの!」
お片付けしたあとは、休んでいいってことだったので、お言葉に甘えてゆっくりしようと、お風呂を済ませてベッドに横になる。買ってもらった人間界の漫画を読んでいると、鬼畜変態野郎がベッドに腰掛けた。存在そのものを知らんふりをして漫画を読んでいるのに話し掛けてきた。
「俺を居ないモノとして扱うな」
漫画の続きが気になるし、面倒だから知らん顔したいところだ。でも、偽物の信頼関係を早く築き上げたいから、漫画を閉じて返事をしてやった。
「何? お話でもするの?」
「首輪をつけてやる。こっちに立て」
バカなことを言っている鬼畜変態野郎は、自分が座っている前方を指さしていた。
「そういうのいらない」
「来い」
「いらない」
「来るまで待つ。絶対に寝かさねぇ」
「分かったよ! んもう、頑固だな!」
文句を言いながら、ベッドに腰掛けてる鬼畜変態野郎の前に立つ。調子に乗った鬼畜変態野郎は床を指さして、「オスワリ」と言った。また真面目な顔でギャグをかましてきた。指さして爆笑してやりたいけど、信頼関係を早く築き上げるためにも、このノリに乗ってやろうと思う。
「はい!」
元気に返事をして、ノリノリでオスワリをしたら、「イイコだ」と言ってヨシヨシとしてくれた。褒められるの好きだからちょっぴりイイ気分だ。
「フフン、キツネ様はイイコなのよん」
ルンルン気分でいると、先ほど買ったチェーンを首にかけてきた。せっかくのルンルン気分が台無しだ。何で鬼畜変態野郎はそういうのをぶっ壊していくんだろ。
反抗してやりたいけど、首輪を付けるまでうるさそうだ。付けさえすれば大人しくなるだろうし、信頼関係が早く築けるのなら我慢してやる。どうせ家にいる間だけのプレイだ。
「首輪をつける、この意味を改めて問おう」
「んー、主従関係の現れ?」
「まぁ、正解だ」
留め具である鈴の付いた南京錠をチェーンに通した所で、ピタリと指の動きが止まった。
「おまえは俺に飼われる。これはその証拠となる首輪だ。これを外すまで、俺がおまえのご主人様ってヤツだ」
「外すまで? 首輪っておうち限定でしょ?」
「いいや、ずっとだ」
カチンッと鍵がかかる音がした。
それはずっと繋がれるという音。
私は取り返しのつかないことをしてしまった。首輪をするのはおうち限定と思ってた。でも違った。
この首輪が意味するのは、SMプレイとか甘っちょろいモノなんかじゃない。愛玩下僕動物としての始まりを意味するものだったのだ。
「簡単に外せるベルト型の首輪もある中、この首輪をえらんだのはおまえだ。自分でえらんで、俺の所に持ってきた」
「あんたが焦らせるからでしょ!」
「自分が繋がれる首輪を自分でえらんで持ってくる様は、とてもかわいかったぜ。しかも外れない首輪をえらぶなんてな。ああ、最高に良いセンスだ」
鬼畜変態野郎が笑った。あの時と違ってかわいいと思えない。むしろ憎しみが増した。
また手のひらで転がされていた。
でも悪いのは私だ。突然のカウントダウンに焦ってよく考えずに行動した結果がコレ。自業自得だ。飼われるって意味を軽く考えていた私の失態だ。
「鍵があるんでしょ?返してよ」
「コレか?」
南京錠の鍵をつかんで、わざとらしく顔の前でユラユラと揺らす。そのしぐさにイラッとしながら、鍵を取ろうと手を伸ばした。鬼畜変態野郎が鍵を指で挟む。何かの魔法を使っているのだろう、神々しい光がまとっている。
良き未来は見えなかった。
「や、やめて! それだけは! それだけは止めて!」
鍵が壊れる、首輪が外れない。
恐ろしい未来を回避するために、鬼畜変態野郎にすがり付いて懇願したが、そんな私を真顔で見下ろした。
「『コイツは天涯孤独で、俺が衣食住の面倒をみることになった。つまり俺がご主人様だ。ほら、キツネに似てるんだぜ。懐かれて参ったぜ』、知り合いにそう言った時、おまえはそうだと言い、俺に飼われること、俺が主人になることを認めた」
「はあ!? あれは無効でしょ! 話を合わせろって言ったのあんただよ!」
「臨機応変に、と言ったぜ。嫌なら拒否すればよかっただけの話だ。それをせずに認めたのはおまえだろ。それともお得意のウソか? もしそうなら、また尋問をする必要があるな」
なんてことだ。すでに言質をとられてた。あの時から鬼畜変態野郎のキツネ様を飼い慣らす作戦は始まってたのだ。
首輪えらびもそうだ。わざと焦らせて自らえらばせるように仕向け、飼われることを意識させるために、私にえらばせた。愛玩下僕動物としての始まりの道を自分自身で選んだと言うために。トドメはウソと仲間を使って、外堀を埋めてくるだなんて。こんなの言われたら逃げ道がない。
何で人間のこいつが魔族よりも魔族らしいことをしているのよ。
「引き返す道はもう残されてないぜ」
神々しい光に包まれてる指に力が入る。鍵が少しだけ曲がるのが見えて、サァーッと血の気が引いた。
「ダ、ダメ! それは! それだけは!」
「自分の言葉に責任を持つんだな」
「ああああああ!」
グニャリと曲がった鍵。スペアの鍵もグニャッと曲げられて、しまいにはポイッと窓から捨てられた。もはや絶望しか残されてない中、追い打ちをかけるかのように、首輪にリードを引っかけてグイッと引っ張ってきた。
首輪が食い込んで不愉快だ。
このリードに従うのも、コイツに従うのも、ぜんぶがぜんぶ、不愉快だ!
「おまえなんか大嫌い! 誰がおまえなんかに従うか! おまえの仲間になる気なんてないの! おまえは私の敵だーっ!」
リードを引っ張られた方と反対の方に引っ張って逃げようとするけど、リードを持ってる手を離してくれない。心底腹が立って、ガブッとかみついて、ギリッと歯を立てる。
血が出てるのに、歯が食い込んでるのに、それでも手を離してくれない!
「状況が読めてないらしいな。説明しねぇと分かんねぇとは、……やっぱりおまえはアホのキツネだな」
「うっさい! 離して!」
「やかましい!」
「ひええっ!」
鬼畜変態野郎の怒鳴り声にマジでビビった私は、頭を抱えてその場にうずくまった。
「いいか、よく聞け。てめぇはたった今、本心をしゃべりやがった。俺の敵だとな。そう断言した時点で、敵となった。だから今、敵である俺に殺されてもおかしくないんだぜ」
まったくもってその通り。信頼関係を早く築いて勇者討伐する作戦なのに、自ら墓穴を掘ってしまった。羞恥に耐えながら全裸でおしっこして、ようやく仲間として認めてもらえたのに、このままじゃ全てがパーだ。どうしよう。どうしよう。
「だが、ウソつきキツネに選択肢を与えてやる」
「せんたくし?」
「殺されてぇのなら、どうぞ自由に。一瞬で終わらせてやる。今、ここで」
そう言うと首輪を外してきた。
外れない首輪が外れた。
その意図が分からず、でも怖くてうずくまったままでいると、ポンと頭に何かを置いてきた。
「ほらよ、【たまたま残ってたもう一本のスペア】で外してやった首輪だぜ。自分の未来をどうするのか、今度こそ自分の意思で決めな。もう一度俺に飼われたいなら飼ってやる。しかしその場合、責任を自覚するためにも、キチンと言葉にしろ」
鬼畜変態野郎のお情けのせいで奥歯がガタガタ鳴る。恐怖じゃなく、悔しさと怒りでガタガタだ。ケツの穴に指を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろか!って言ってやりたいほど、屈辱的だ。
【たまたま残ってたもう一本のスペア】があるくせに、すべて壊したフリをして、わざと私を怒らせた。私の本心をしゃべらせた上で、本当の意味で逃げ道を完全封鎖して、今度こそ自分の意思で選ばせる気なのだ。
生きるか死ぬか、を。
何という手の込んだ作戦。ここまでしてキツネ様を飼い慣らしたいのか。その心意気や天晴れ! 大義であった!
初めてここまで屈辱的なことをされた。われを忘れて突撃してやりたい。常に無表情の顔面に何発も平手打ちしてやりたい。
でも私は、込み上げるすべての感情を抑え、我慢することをえらんだ。
大切な作戦を成功させるために。
偽物の信頼関係を早く築き上げて、信頼しきった所で、トイレでグサッと一発。
この作戦のためにも、どんな屈辱にも耐えなければならない。一緒に暮らせる、せっかくの大チャンスなんだ。もう失敗は許されない。
首輪に繋がれて飼われる? それで偽物の信頼関係が早く築けるならやってやる。処女を守れれば結果オーライだ。
外れない首輪? 鬼畜変態野郎をぶっ殺したあと、専門家を訪ねて首輪を外せばいい。
どれもこれも、勇者討伐を成功させれば解決する問題なのだ。
今は悔しくとも耐えるんだ。偽物の信頼関係を早く築くために、輝かしい未来のために、鬼畜変態野郎に懐く努力をしよう。その一歩が首輪だと思えばよい。大丈夫、やれる。キツネ様なら絶対にやれる。
すうっと息を吸い込んで、はあっと息をはいた。それを数回ほど繰り返して、むくりと起き上がった。
私の手にはいろいろな想いが詰まった首輪がある。それをぐっと握り締めて、鬼畜変態野郎の前にオスワリをした。
「これ」
首輪を差し出した手が怒りでブルブル震えている。悔しさで泣けてくる。涙があふれて止まらない。でも、それを耐えて、これからのことを自らの意思で言葉にした。
「私を飼ってもいいよ」
「飼ってもいい? 主人にお願いする側が偉そうだな」
「……もう一度、私を飼ってください」
「それでいいんだな。それを自ら言葉にしたってことは、もう逃げ場はない。それを自ら決めたって事なんだぜ」
逃げ場を完全封鎖して無理に選ばせた鬼畜変態野郎が何を言ってんだろ。
「何だよ、何か言いたげな顔してんな」
おっと、ダメよ、まだ感情を堪えて。
「い、いえ! めっそうもございません!」
「……まぁ、いいだろう」
さっきの言葉で納得してくれたみたいで、差し出した首輪を、もう一度首輪に巻き付けて、南京錠を引っ掛けた。
「一つ、言っておくぜ。……俺は寛大だからな、一度や二度の失敗は【それなり】に許す。ただし、三度目はない。……覚えておけよ」
「肝に命じます」
「イイコだ」
カチンッと鍵がかかった音が聞こえる。
これは恐怖の音なんかでも、コイツに繋がれる音でも、愛玩下僕動物としての始まりを意味する音でもない。
これは、鬼畜変態野郎をぶっ殺して、絶対に作戦を成功させるという、キツネ様の意志を表した音!
気合いを入れるように、ぐっと拳を握り締めてると、【たまたま残ってたもう一本のスペア】を、見せつけるように目の前に持ってきた。
「さて、自らの意志で飼われる事を選んだおまえに聞く。この最後のスペアを捨てようと思うのだが、どう思う?」
「ご主人様の好きにすると良いと思われます」
「好きにしていいのか。なら、二度と使えないように、曲げて、捨てる」
さっきと同じように、グニャッと曲げた鍵を窓からポイッと捨てた。腹立つ行為に違いないが、さっきと違うのは私の意思だ。この強い意思がある限り、どんな屈辱にも耐えられる。鬼畜変態野郎のおかげでその覚悟が出来た。
いいの、これで。ぶっ殺したあとに解決する問題だもの。これでよいのだ。
「ははは」
鬼畜変態野郎が笑った。
そうだよね、君は楽しいだろうね。私はちっとも楽しくないのだけど。
「このチェーンと南京錠はドラゴン級の魔獣を拘束する物で、【専用の鍵じゃないと絶対に開錠出来ない】【どんな魔法でも絶対に壊せない】らしい。まっ、俺の魔法なら、一発で壊れるだろうが」
「言ってる意味が分からない」
「スペアもなくなった。専門家でも絶対に壊せない。問い合わせようにもおまえはメーカーを知らない。俺しか外せない首輪の出来上がり。言葉通り、おまえは俺に一生繋がれる。理解出来たか」
「……はっ!」
「でもそれでいいんだよな。俺の好きにしていいと言ったのはおまえだ。飽きるまでおまえを飼ってやるぜ」
「この鬼畜変態野郎、やりやがったなッ!」
「……やりやがった?」
「さすがご主人様! 誰にも出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにしびれる! あこがれるゥ!」
ーーーーーー
○月○日
首輪を付けられました。
首輪ってスゴいです。
ただの首輪、されど首輪、たかが首輪のくせに、人生を左右するほどの威力があります。
首輪は危険です。
鬼畜変態野郎の天晴れな作戦のせいで、鬼畜変態野郎がご主人様に進化しました。キツネ様は愛玩下僕動物として飼われるそうです。
でもこれがキツネ様の作戦であることをヤツは知りません。
偽物の信頼関係を早く築くための、輝かしい未来のための、勇者である男をぶっ殺すための作戦なのです。
首輪をつけられても、どんな屈辱を受けようとも、キツネ様は負けません。絶対に勝ちます。勝ってやります。これだけは譲れません。譲るつもりもありません。
ここからがキツネ様の快進撃!
明日から頑張るぞ!
「明日、出掛けるぜ」
「何をするの?」
「散歩」
「ほんと!? お散歩大好きなの!」
お片付けしたあとは、休んでいいってことだったので、お言葉に甘えてゆっくりしようと、お風呂を済ませてベッドに横になる。買ってもらった人間界の漫画を読んでいると、鬼畜変態野郎がベッドに腰掛けた。存在そのものを知らんふりをして漫画を読んでいるのに話し掛けてきた。
「俺を居ないモノとして扱うな」
漫画の続きが気になるし、面倒だから知らん顔したいところだ。でも、偽物の信頼関係を早く築き上げたいから、漫画を閉じて返事をしてやった。
「何? お話でもするの?」
「首輪をつけてやる。こっちに立て」
バカなことを言っている鬼畜変態野郎は、自分が座っている前方を指さしていた。
「そういうのいらない」
「来い」
「いらない」
「来るまで待つ。絶対に寝かさねぇ」
「分かったよ! んもう、頑固だな!」
文句を言いながら、ベッドに腰掛けてる鬼畜変態野郎の前に立つ。調子に乗った鬼畜変態野郎は床を指さして、「オスワリ」と言った。また真面目な顔でギャグをかましてきた。指さして爆笑してやりたいけど、信頼関係を早く築き上げるためにも、このノリに乗ってやろうと思う。
「はい!」
元気に返事をして、ノリノリでオスワリをしたら、「イイコだ」と言ってヨシヨシとしてくれた。褒められるの好きだからちょっぴりイイ気分だ。
「フフン、キツネ様はイイコなのよん」
ルンルン気分でいると、先ほど買ったチェーンを首にかけてきた。せっかくのルンルン気分が台無しだ。何で鬼畜変態野郎はそういうのをぶっ壊していくんだろ。
反抗してやりたいけど、首輪を付けるまでうるさそうだ。付けさえすれば大人しくなるだろうし、信頼関係が早く築けるのなら我慢してやる。どうせ家にいる間だけのプレイだ。
「首輪をつける、この意味を改めて問おう」
「んー、主従関係の現れ?」
「まぁ、正解だ」
留め具である鈴の付いた南京錠をチェーンに通した所で、ピタリと指の動きが止まった。
「おまえは俺に飼われる。これはその証拠となる首輪だ。これを外すまで、俺がおまえのご主人様ってヤツだ」
「外すまで? 首輪っておうち限定でしょ?」
「いいや、ずっとだ」
カチンッと鍵がかかる音がした。
それはずっと繋がれるという音。
私は取り返しのつかないことをしてしまった。首輪をするのはおうち限定と思ってた。でも違った。
この首輪が意味するのは、SMプレイとか甘っちょろいモノなんかじゃない。愛玩下僕動物としての始まりを意味するものだったのだ。
「簡単に外せるベルト型の首輪もある中、この首輪をえらんだのはおまえだ。自分でえらんで、俺の所に持ってきた」
「あんたが焦らせるからでしょ!」
「自分が繋がれる首輪を自分でえらんで持ってくる様は、とてもかわいかったぜ。しかも外れない首輪をえらぶなんてな。ああ、最高に良いセンスだ」
鬼畜変態野郎が笑った。あの時と違ってかわいいと思えない。むしろ憎しみが増した。
また手のひらで転がされていた。
でも悪いのは私だ。突然のカウントダウンに焦ってよく考えずに行動した結果がコレ。自業自得だ。飼われるって意味を軽く考えていた私の失態だ。
「鍵があるんでしょ?返してよ」
「コレか?」
南京錠の鍵をつかんで、わざとらしく顔の前でユラユラと揺らす。そのしぐさにイラッとしながら、鍵を取ろうと手を伸ばした。鬼畜変態野郎が鍵を指で挟む。何かの魔法を使っているのだろう、神々しい光がまとっている。
良き未来は見えなかった。
「や、やめて! それだけは! それだけは止めて!」
鍵が壊れる、首輪が外れない。
恐ろしい未来を回避するために、鬼畜変態野郎にすがり付いて懇願したが、そんな私を真顔で見下ろした。
「『コイツは天涯孤独で、俺が衣食住の面倒をみることになった。つまり俺がご主人様だ。ほら、キツネに似てるんだぜ。懐かれて参ったぜ』、知り合いにそう言った時、おまえはそうだと言い、俺に飼われること、俺が主人になることを認めた」
「はあ!? あれは無効でしょ! 話を合わせろって言ったのあんただよ!」
「臨機応変に、と言ったぜ。嫌なら拒否すればよかっただけの話だ。それをせずに認めたのはおまえだろ。それともお得意のウソか? もしそうなら、また尋問をする必要があるな」
なんてことだ。すでに言質をとられてた。あの時から鬼畜変態野郎のキツネ様を飼い慣らす作戦は始まってたのだ。
首輪えらびもそうだ。わざと焦らせて自らえらばせるように仕向け、飼われることを意識させるために、私にえらばせた。愛玩下僕動物としての始まりの道を自分自身で選んだと言うために。トドメはウソと仲間を使って、外堀を埋めてくるだなんて。こんなの言われたら逃げ道がない。
何で人間のこいつが魔族よりも魔族らしいことをしているのよ。
「引き返す道はもう残されてないぜ」
神々しい光に包まれてる指に力が入る。鍵が少しだけ曲がるのが見えて、サァーッと血の気が引いた。
「ダ、ダメ! それは! それだけは!」
「自分の言葉に責任を持つんだな」
「ああああああ!」
グニャリと曲がった鍵。スペアの鍵もグニャッと曲げられて、しまいにはポイッと窓から捨てられた。もはや絶望しか残されてない中、追い打ちをかけるかのように、首輪にリードを引っかけてグイッと引っ張ってきた。
首輪が食い込んで不愉快だ。
このリードに従うのも、コイツに従うのも、ぜんぶがぜんぶ、不愉快だ!
「おまえなんか大嫌い! 誰がおまえなんかに従うか! おまえの仲間になる気なんてないの! おまえは私の敵だーっ!」
リードを引っ張られた方と反対の方に引っ張って逃げようとするけど、リードを持ってる手を離してくれない。心底腹が立って、ガブッとかみついて、ギリッと歯を立てる。
血が出てるのに、歯が食い込んでるのに、それでも手を離してくれない!
「状況が読めてないらしいな。説明しねぇと分かんねぇとは、……やっぱりおまえはアホのキツネだな」
「うっさい! 離して!」
「やかましい!」
「ひええっ!」
鬼畜変態野郎の怒鳴り声にマジでビビった私は、頭を抱えてその場にうずくまった。
「いいか、よく聞け。てめぇはたった今、本心をしゃべりやがった。俺の敵だとな。そう断言した時点で、敵となった。だから今、敵である俺に殺されてもおかしくないんだぜ」
まったくもってその通り。信頼関係を早く築いて勇者討伐する作戦なのに、自ら墓穴を掘ってしまった。羞恥に耐えながら全裸でおしっこして、ようやく仲間として認めてもらえたのに、このままじゃ全てがパーだ。どうしよう。どうしよう。
「だが、ウソつきキツネに選択肢を与えてやる」
「せんたくし?」
「殺されてぇのなら、どうぞ自由に。一瞬で終わらせてやる。今、ここで」
そう言うと首輪を外してきた。
外れない首輪が外れた。
その意図が分からず、でも怖くてうずくまったままでいると、ポンと頭に何かを置いてきた。
「ほらよ、【たまたま残ってたもう一本のスペア】で外してやった首輪だぜ。自分の未来をどうするのか、今度こそ自分の意思で決めな。もう一度俺に飼われたいなら飼ってやる。しかしその場合、責任を自覚するためにも、キチンと言葉にしろ」
鬼畜変態野郎のお情けのせいで奥歯がガタガタ鳴る。恐怖じゃなく、悔しさと怒りでガタガタだ。ケツの穴に指を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろか!って言ってやりたいほど、屈辱的だ。
【たまたま残ってたもう一本のスペア】があるくせに、すべて壊したフリをして、わざと私を怒らせた。私の本心をしゃべらせた上で、本当の意味で逃げ道を完全封鎖して、今度こそ自分の意思で選ばせる気なのだ。
生きるか死ぬか、を。
何という手の込んだ作戦。ここまでしてキツネ様を飼い慣らしたいのか。その心意気や天晴れ! 大義であった!
初めてここまで屈辱的なことをされた。われを忘れて突撃してやりたい。常に無表情の顔面に何発も平手打ちしてやりたい。
でも私は、込み上げるすべての感情を抑え、我慢することをえらんだ。
大切な作戦を成功させるために。
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首輪に繋がれて飼われる? それで偽物の信頼関係が早く築けるならやってやる。処女を守れれば結果オーライだ。
外れない首輪? 鬼畜変態野郎をぶっ殺したあと、専門家を訪ねて首輪を外せばいい。
どれもこれも、勇者討伐を成功させれば解決する問題なのだ。
今は悔しくとも耐えるんだ。偽物の信頼関係を早く築くために、輝かしい未来のために、鬼畜変態野郎に懐く努力をしよう。その一歩が首輪だと思えばよい。大丈夫、やれる。キツネ様なら絶対にやれる。
すうっと息を吸い込んで、はあっと息をはいた。それを数回ほど繰り返して、むくりと起き上がった。
私の手にはいろいろな想いが詰まった首輪がある。それをぐっと握り締めて、鬼畜変態野郎の前にオスワリをした。
「これ」
首輪を差し出した手が怒りでブルブル震えている。悔しさで泣けてくる。涙があふれて止まらない。でも、それを耐えて、これからのことを自らの意思で言葉にした。
「私を飼ってもいいよ」
「飼ってもいい? 主人にお願いする側が偉そうだな」
「……もう一度、私を飼ってください」
「それでいいんだな。それを自ら言葉にしたってことは、もう逃げ場はない。それを自ら決めたって事なんだぜ」
逃げ場を完全封鎖して無理に選ばせた鬼畜変態野郎が何を言ってんだろ。
「何だよ、何か言いたげな顔してんな」
おっと、ダメよ、まだ感情を堪えて。
「い、いえ! めっそうもございません!」
「……まぁ、いいだろう」
さっきの言葉で納得してくれたみたいで、差し出した首輪を、もう一度首輪に巻き付けて、南京錠を引っ掛けた。
「一つ、言っておくぜ。……俺は寛大だからな、一度や二度の失敗は【それなり】に許す。ただし、三度目はない。……覚えておけよ」
「肝に命じます」
「イイコだ」
カチンッと鍵がかかった音が聞こえる。
これは恐怖の音なんかでも、コイツに繋がれる音でも、愛玩下僕動物としての始まりを意味する音でもない。
これは、鬼畜変態野郎をぶっ殺して、絶対に作戦を成功させるという、キツネ様の意志を表した音!
気合いを入れるように、ぐっと拳を握り締めてると、【たまたま残ってたもう一本のスペア】を、見せつけるように目の前に持ってきた。
「さて、自らの意志で飼われる事を選んだおまえに聞く。この最後のスペアを捨てようと思うのだが、どう思う?」
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いいの、これで。ぶっ殺したあとに解決する問題だもの。これでよいのだ。
「ははは」
鬼畜変態野郎が笑った。
そうだよね、君は楽しいだろうね。私はちっとも楽しくないのだけど。
「このチェーンと南京錠はドラゴン級の魔獣を拘束する物で、【専用の鍵じゃないと絶対に開錠出来ない】【どんな魔法でも絶対に壊せない】らしい。まっ、俺の魔法なら、一発で壊れるだろうが」
「言ってる意味が分からない」
「スペアもなくなった。専門家でも絶対に壊せない。問い合わせようにもおまえはメーカーを知らない。俺しか外せない首輪の出来上がり。言葉通り、おまえは俺に一生繋がれる。理解出来たか」
「……はっ!」
「でもそれでいいんだよな。俺の好きにしていいと言ったのはおまえだ。飽きるまでおまえを飼ってやるぜ」
「この鬼畜変態野郎、やりやがったなッ!」
「……やりやがった?」
「さすがご主人様! 誰にも出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにしびれる! あこがれるゥ!」
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○月○日
首輪を付けられました。
首輪ってスゴいです。
ただの首輪、されど首輪、たかが首輪のくせに、人生を左右するほどの威力があります。
首輪は危険です。
鬼畜変態野郎の天晴れな作戦のせいで、鬼畜変態野郎がご主人様に進化しました。キツネ様は愛玩下僕動物として飼われるそうです。
でもこれがキツネ様の作戦であることをヤツは知りません。
偽物の信頼関係を早く築くための、輝かしい未来のための、勇者である男をぶっ殺すための作戦なのです。
首輪をつけられても、どんな屈辱を受けようとも、キツネ様は負けません。絶対に勝ちます。勝ってやります。これだけは譲れません。譲るつもりもありません。
ここからがキツネ様の快進撃!
明日から頑張るぞ!
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