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第23話 続々参戦
しおりを挟む「本当に…営業中に喧嘩を始めたりしないで下さいね…」
ジト目で背の高い2人を見上げれば、ゴコクさんは真顔でコクリと頷き、狐鈴さんは「そんな事するわけないやんか~」とケラケラと笑う。
そんな2人を見て盛大なため息をつく…本当かな…と…
本日から1週間ぶりの営業再開だ。
昨日、朝からタカちゃんにコッテリ絞られた2人が解放されたのは昼近くになってからだった。
それが効いたのか、その後から昭和のヤンキーですか?と言いたくなるような、ガンの飛ばし合いや嫌味の応酬はあれど、手が出そうな場面は一度もなかった。
まぁ、昨日の今日ですし…大丈夫だとは思うけど心配だ…。
外を見れば、営業時間前だと言うのに既に何人か並んでいる。
お客さんが離れちゃったんじゃないか!?と心配していたが、営業再開日にお客さんがゼロという事はなさそうで安心した。
「さて、お店を開けますが…キッチンはいつも通りゴコクさんが担当、キッチン補助とホールは私が兼任で担当しますので、狐鈴さんはホールと会計の担当をお願いします。」
「分かった」
「任せときー」
とりあえずやってみるしかない。
因みに、狐鈴様呼びはしないで宜しい!と言うタカちゃんのお達しにより、昨日から狐鈴さん呼びに変更となったが、狐鈴さんと呼ぶ度に「何や、こちょばいな~」と何故か嬉しそうにニヤニヤするので、少し引いているのは秘密である…
「では、本日からまた頑張りましょう!
狐鈴さん看板出しをお願いします!」
そう言うと、間延びした返事をしながら2人が持ち場へと向かう。
私も早速カウンターに向かい、お水とおしぼりの準備をしていると、お客様が続々と入店してくる。
「いらっしゃいませー」
笑顔で声をかければ、見慣れた常連さんの姿もチラホラ見えて嬉しくなる。
営業再開日は慌ただしく始まった。
お客さんが一巡しそうかな?と言ったところで、聞き慣れた声が店に響く
「青葉ちゃぁぁぁぁぁぁーーん!!」
その声に振り向けば、このお店のお客様第1号の1人
「レイさん!いらっしゃいませ!」
たった1週間だったけど、なんだか久しぶりに感じてしまう。
満面の笑みで迎えれば走り寄って来るレイさん、久しぶりの再会をレイさんも喜んでくれているのか尻尾がブンブン振られている。
ワンちゃん!!と、心の中で叫ぶが、減速せずにそのまま突っ込んでくるレイさんに思わず一歩下がる。
あれ!?抱きつかれそう!?と驚いていると、私の頭上から伸びた手がレイさんの顔面を抑える。
「フガッ!!?」
苦しそうなレイさんにはお構いなしのようで、上を見れば引き攣るような笑みを浮かべた狐鈴さんの顔
「お客様、店長へのお触りは禁止となっておりますー。
よく聞けやークソガキ、青葉の髪一本でも触れてみー生き埋めにしたるからなー
よー覚えときー」
お客様になんて事言うの!?
お客様と一応言っているだけで、一ミリもお客様と思ってないでしょ狐鈴さん!!!
すると、後ろから小走りでソラウさんがやって来る。
「このバカがゴメンねー、青葉ちゃんと新従業員さん!青葉ちゃんに1週間も会えなかったせいで頭おかしくなってんだよ、いつも以上に…まったくこの駄犬がっ!!
コイツは俺がキッチリ見張っとくから、ほらカウンター席に行くぞ!」
そう言うと、レイさんの首根っこを掴んで引きずる様にカウンターへと向かうソラウさん
レイさんは、狐鈴さんに顔面を押さえられたせいで鼻先が赤くなっているが、それを気にも止めていない様子でこちらを見ると、青葉ちゃん…と悲しそうに呟く
くっ、怒られたワンちゃんみたいで可愛い!!!
そのままカウンターの奥にいるゴコクさんを見れば、真顔で親指を立ててグッジョブと言わんばかりに合図すると、狐鈴さんもそれに応える様に親指を立てる。
なんだこの2人…私が知らぬ間に仲良くなってる?
「青葉も、気安く男に触られたりせんように気をつけなあかんよ」
こちらに向き直りながら心配するように眉を下げて、見下ろしてくる狐鈴さん
「すっ、すみません、先程はありがとうございました
今後は気をつけます…」
助けて頂いたのは大変ありがたいが、これじゃどっちが従業員かわからないな…不甲斐なし…
「はっ!?俺はいつの間にカウンター席に!?」
「お前、無意識で青葉ちゃんに抱きつこうとしてたのかよ…」
ソラウの言葉に愕然とする…青葉ちゃんに抱きつこうとした!?
言われてみれば、青葉ちゃんを見た瞬間から嬉しくなって舞い上がった…ところまでは覚えている。
「俺はなんと言うことを…」
「安心しろよ、新従業員のおかげで未遂だから」
「新…従業員?」
従業員はムカつくゴコクだけのはずでは?
正面をみれば、ゴコクと目が合う。
すると見下すような目をしたと思ったら、フンと鼻で笑って作業に戻るゴコク…
相変わらずムカつく野郎だよコイツは!!!
「後ろだよ後ろ」
そう言われて、振り返れば会計をしているスラリとした長身の吊り目の男
宝飾店で働いている女の子達が、キャッキャしながら自分達の席からその男を眺めていると、それに気付いた男が女の子達に薄っぺらい微笑みを浮かべれば、キャァーと黄色い声をあげている。
クソッ!!顔が良いって得だよな!!
ギリギリと歯軋りしていると、横から求めて止まない天使の声が響く
「レイさん、先程は大丈夫でしたか?」
おしぼりとお冷を出しながら、心配そうにこちらを見つめてくる青葉ちゃん
その可愛さを1週間待ち望んでました!!!
はわぁ~と浮き足立つ心を何とか押さえつける。
「大丈夫大丈夫!何ともないよー!
それよりさっきはゴメンね…急にその…抱きつこうとしたりして…」
「いえ、私もちょっと驚いてしまってすみません。
また来てくれて嬉しいです。
ソラウさんも、またよろしくお願いしますね」
そう言って、ソラウにも微笑みかける青葉ちゃん
はぁ~久しぶりの青葉ちゃんの笑顔
「こちらこそ、それより従業員1人増えたんだね。
なんか店の中も少し変わった?
テーブル増えたよね?」
ソラウの言葉に、改めて店内を見渡せば確かに前より2つほどテーブルが増えている。
全然気づかなかった!!!
「そうなんです。
色々あって1人従業員が増えたので、この際テーブル席を増やそうかと思いまして」
色々?色々って何!?
休みの間に一体何が!?
「あの従業員も青葉ちゃんの同郷だよね?
彼氏かなんか?」
ソラウが軽く聞くと「ダンッ」と言う音がキッチン内で響き、驚いてソラウと共にそちらを見れば、ゴコクがコチラを不愉快極まれりと言わんばかりの顔で見下ろしていた。
「あいつは勝手に転がり込んできた唯の居候のゴミ」
そう言うと、視線を落とし何かを切り始める。
先程の音は包丁をまな板に叩き落とした音か…
ゴコクさん何て言い方を!?と、青葉ちゃんに言われるがツーンとした顔をしながら「青葉はあいつに甘すぎる。B定食、2つ上がり」と言って青葉ちゃんに押し付けると、ため息をついた青葉ちゃんがそれを受け取り奥のテーブル席へと持っていく
青葉ちゃん以外どうでもいい精神のこの男が、感情を露わにすると言うことは
「オイまさか…あの新従業員は青葉ちゃん狙いなのか?」
そうゴコクに問い掛ければ、嫌そうな顔をしながらもコクリと頷く
「んなっ!?」
なんて事だ…一つ屋根の下に青葉ちゃん狙いの男が2人も…危険すぎるのでは!?
「こうなったら、俺もここに!!「バカかお前」イテッ!?」」
ソラウに頭を叩かれて正気に戻る。
「同じ家にライバルが住んでるんじゃ、どーせお互い睨みを利かせて邪魔し合って、今まで以上に青葉ちゃんに手を出しにくいんじゃねーの?なぁ?」
ソラウがゴコクに問いかけるように聞けば、悔しそうな表情を浮かべる
どうやら図星らしい。
「ますます頑張らないとだなー、駄犬のレイ君
プッ、ハハハハハ!!」
何も面白くねーよ!!クソォー!!!
本格的に青葉ちゃんをデートに誘い出す口実を探さなければ!!
頭を抱えていると、店の中に黄色い悲鳴とざわめきが起こる
何事かと振り向けば、そこに居たのはこの国では知らぬものはいない
騎士団長のハイル!?
私服という事は今日は非番なのか!?
しかも、知り合いのように青葉ちゃんに手を振っている…どっ…どう言う事…
「いやぁー、大変だなご両人!
呑気にしている間に、色男が2人も参戦と来た!
一体誰がこの戦いを制するんだろうなー、クククッ」
楽しそうに笑うソラウを、ゴコクと共に睨みつける。
いやまだ騎士団長のハイルが青葉ちゃん狙いと決まったわけじゃ…
しかし…いや…これ…本当に青葉ちゃん狙いだったとしたら…俺の勝ち目…なく無い????
言葉にならない叫びと共に、カウンターに突っ伏したのだった。
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