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第38話 感謝祭
しおりを挟む広場から、ヒューッ、パーン!
と言う小さめの打ち上げ花火の音が何回も響く、本日からいよいよ感謝祭の開始だ。
だと言うのに私は、お祭りに連れて行ってもらえない子供のように、自分の部屋の窓枠に齧り付いて外を眺める。
広場ではイベント用の舞台が数日前から設置されており、色取り取りの屋台が並んでいる。
装飾品に串焼き、焼き菓子など、色んな物が売られており、子供達が楽しそうにその店の間を駆け回っている。
「いいな…」
ゴコクさんと、狐鈴さんに言った通り、お祭りに行くつもりなどないが…。
楽しそう…。と、眺めるくらいは許してほしい。
外を眺めていると、肩の上にトンッと軽い何かが乗る。
ふと左肩を見れば、狐鈴さんの式神のリンちゃんが小首を傾げてこちらを見ている。
「ンフフ、リンちゃんは可愛いね~」
一瞬で憂鬱な気分がふっ飛んでしまうくらい、可愛いリンちゃん!!
狐鈴さんが、話し相手にとリンちゃんを呼び出してくれたのだ。
久しぶりのリンちゃんに、ちょっとはしゃいでいる私です。
そんな事を思っていると、ガタガタと言う聞き慣れない馬車の音を耳にして、また広場へと目線を落とす。
荷馬車はよく通るけど、お貴族様の乗るような馬車は滅多に見かけない。
誰が乗っているのかな?
来た方向的に、教会から出て来たようだ。
王宮での神事に向かうため、エリティナ様が乗っているのかもしれない。
白の馬車には、青い蝶と金色の花が描かれている。その美しい馬車が左折していくのを眺めるが、流石に窓からでは誰が乗っているのかは、分からないな…あぁぁぁ!?っと、何故か急にブルリと悪寒が走った。
ななななな!?何!?何でっ!?
私の異変に、リンちゃんが心配そうに私を見上げてくる。
「何でもないよ、ちょっと一瞬悪寒が走ったの…。」
風邪でも引いたのかな?
…うーん、考えた所で分かるわけもなし…。
いつまでも子供のように窓枠に張り付いてイジケテるわけにも行かない!
せっかくの休日を存分に楽しもうじゃないか!
「さっ!キッチンでおやつを確保したら、どうぶつの森やるぞ!」
「キューン!」
私の掛け声に反応するように、リンちゃんも楽しげな声をあげる。
カワエエ…。目を細めつつも、部屋を出てキッチンへと向かうと何やら言い争う声が聞こえてくる。
この家で言い争うと言えば、あの2人…連休初日から、思わず頭を抱えたくなる衝動に駆られつつも、キッチン兼リビングを覗き見れば、良いところのご家庭にあるような大型テレビとテーブルを挟んだソファーにゴコクさんと狐鈴さんが、ソファーの両端に座って何やらゲームをやっているようだ。
てっきり喧嘩かと思ったけど、どうやらゲームでやんや言い争っていただけらしい。
ホッとしながら、2人の方へと向かう。
「ほんにド下手すぎるやろ!!
こんな序盤の雑魚相手に何回乙るんや!あぁー!!そこは回避!!筆の使い方下手くそかっ!
何やっとんねん!!お前のせいで天照様が何回黄泉の国に行かなあかんねん!
ゲームとは言え!天照様が犬の姿になていたとしても!神を傷つけさせるとは神使として失格やぞ!あ“ぁん!?
聞いとんのか?ボケコラ!カス!」
「煩い狐、集中できない!」
神使様方がゲームやってる…。
何とも言えない複雑な気持ちを抱えながら画面を見れば、狐鈴さんの神様である宇迦様の一推しゲームと言っていた大神というゲームをやっているようだ。
神の選ぶ神ゲー…親父ギャグのような事を脳内でボソリと呟くと、狐鈴さんがこちらを振り向き、一瞬心の声が聞こえたのかとドキッとする。
「んっ?青葉!青葉聞いてぇー、この牛ゲームの才能が壊滅的にないんやけどぉー、狐鈴さんの隣に座って一緒に見たって」
狐鈴さんに手招きされ、お菓子…どうぶつの森…っと思いつつも、あまり俗世に詳しくないゴコクさんがゲームをする姿も気になるなーと、手招きに応じて狐鈴さんの正面を通り、ソファーのど真ん中に座ると、何とも言えぬ顔をした狐鈴さんがこちらを見つめてくる。
「青葉…フラグ折るの上手過ぎん?」
「えっ?フラグ?」
何の話ですか?と、首を傾げると
「青葉、そこは僕の隣に座らな色々とイチャイチャできひんやん、まぁ、青葉らしいと言えば青葉らしいんやけども…」
「イチャッ!?」
はぁーと、ため息をつく狐鈴さんに思わず言葉が詰まる。
何を言ってるんですか!?
私とイチャついて貴方に何の特があるというのか!?はっ!?ゴコクさんへの嫌がらせかっ!?
「なんや右斜め上のこと考えてるんやろ…手に取るように分かるわ…」
またもため息をつく狐鈴さん、なんかスミマセン…。
そうは思いつつも、狐鈴さんとゴコクさんの真横に座る気なんてありませんよ…。
いくら狐鈴さんが嫌がらせをしたいからとは言え、私が!独身女が!休日に!従業員にすり寄るなんて!!
セクハラで訴えられてしまう!
タカちゃんに!そして、ゴコクさんと狐鈴さんのお仕えしている神様方に申し訳が立ちませんからね!
一緒に住んでても、そこはちゃんと一線を引いてますからご安心ください神様方…。
と、心の中で手を合わせる。
「はぁ…無理…俺には天照様を戦わせるなんて重荷すぎる。
青葉交代」
不意にゴコクさんのため息が響いたと思ったら、コントローラをギュッと手に握らされる。
見たこともないくらいゴコクさん疲れてませんか!?
ゴコクさんと狐鈴さんの、ゲームとは言え神様!と言う言葉を聞いた後では、私も非常に扱いに困るのですが!?
「えぇっ!?
無理ですよ!ゲームやったことないんですから!
天照様に何かあったら私責任取れません!!
怖すぎます!狐鈴さんパスです!お手本見せてください!」
そのまま、反対側の狐鈴さんの手にコントローラーを置けば
「なんやー、しゃぁーないなー、僕のゲームの腕前を見せたるわ
狐鈴さんと天照様の勇士!その目に焼けるんやで青葉!
きゃぁーかっこいいぃー狐鈴さん!大好き!って、言ってくれてもえんやで」
ゲームをやる前から自信満々の狐鈴さんがこちらを向いてドヤ顔をする。
すると、ゴコクさんが覇気のない声で
「キャー カッコイイ コスズサン ソノママキエテ」
「お前には求めてないねん!
ついでに暴言吐くな!ボケ牛!!」
「まぁーまぁー、狐鈴さん!
狐鈴さんの腕前を存分に見せてください!
あっ、その前に何か飲み物を用意しますね!
何が良いですか?」
「「三ツ矢サイダー」」
仲が良いんだか、悪いんだか…ハイハイと言いつつ席を立ってキッチンへと向かう。
少しずつ賑やかになり始めた広場を、窓を横切る際にチラリと見る。
レイさん達もお祭り行ってるのかな?
ハイル様は警備だろうか?
そんな事を思いながら、冷蔵庫から三ツ矢サイダーの瓶を取り出したのだった。
広場を曲がり、王宮へと向かう教会専用の馬車の中、急に立ち上がり馬車の窓に張り付いた聖女エリティナの行動に、司教とシスターがビクリと驚いて肩を揺らす。
「いいいいい今!一瞬!!青葉ちゃんがっ!!!青葉ちゃんとめめめめめめ目があった!!!!!」
「えっ!?ちょっ、聖女様!?どうなされたんですか!?」
エリティナの側仕えの初老のシスターが上擦った声を思わずあげる。
「やっぱり、相思相愛!
ウヘヘっ、青葉ちゃんと相思相愛!!!青葉ちゃぁぁぁぁぁん!!」
窓に張り付いたまま、叫ぶエリティナを魔物でも見るかのような目をした司教がシスター共々、反対側の窓側に背を付けるほど仰け反り
「エリティナ様!?エリティナ様がご乱心だ!!
エシュテル様!!!どうか我が神よ!!どうか、そのご加護をもって聖女様をお救いください!!!」
と、叫び声を上げるのを姿を隠し馬車の上に座っているエシュテル神が、渋い顔をして米神を抑えるのだった。
「無理ですっ…」
エシュテル神の呟きが、感謝祭の青い空へと消えていった。
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