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狐鈴編
しおりを挟む「なぁー、青葉、これとかどない?
青葉にむっちゃ似合うと思うんやけど?
僕の可愛い可愛い奥さんは、なんでも似合うから困るわー
なぁー、青葉?なんか欲しいものないん?
青葉の愛しい旦那さんが買うたるから遠慮なく言うてー」
「……前から思っていたんですが狐鈴さんって、もしかして女性に貢癖あります?」
本日は店の定休日で、久しぶりにデートも兼ねて狐鈴さんと買い物に街に出てきているのだが、アクセサリーの露店や、服や小物の店で私が何か手に取る度に「買ってあげる」の言葉が出てくる狐鈴さん。
思わず、言ってしまいたくもなると言うものだ。
私の言葉に、狐鈴さんがニコニコとしながら「青葉に貢ぐ癖はあるみたいやなー」と、呑気に返す狐鈴さん。
初めて会った時は、俺様系で亭主関白になりそうとか思っていたのに、そんなことは全くなく、むしろ私の方が世話を焼かれている様な気がする……。
露店街を手を繋いで歩きながら、ふと思う。
「狐鈴さんは、何か欲しいものはないんですか?」
「んー?なんやと思う?」
質問を質問で返されてしまった…。
狐鈴さんの欲しがりそうなものと言えば、新作のゲームソフトだろうか?と、思い浮かぶ、宇迦様の事をオタクだなんだと言っているが、割と狐鈴さんもゲーマーだと思う。
リビングに増え続けているゲームソフトを思えば、それくらいしか思い浮かばない。
いやもしかしたら、新しいハードの方?
「うーん、新しいゲームのハードとかですか?
うち、1つしかないですし」
「そう来たか…。いや、青葉らしい回答といえばそうなんやけど…。
ゲーム関連じゃないんやよなー、僕の欲しいものっ……と、空が泣き出しそうやな」
そう言って空を見上げる狐鈴さんに釣られて、上を見れば先ほどよりも雲行きが怪しくなってきている。
天気予報のないこの世界は、その日その時にならないと天気がわからないのが厄介だ。
「今日は早めに家戻ろか」
「そうですね。傘とかないですし……」
デートの途中だが仕方ない……。
思わずキュッと繋いでいた手を握れば、狐鈴さんが私の顔を困った顔で見る。
「ほんま青葉は不意打ちでそう言う可愛い事するんやからー、そないにガッカリした顔せんでも、また次の休みに今日の続きのデートしたらええやんか」
そう言われて、思わず顔が赤くなる。
「そっ、そんなつもりじゃ……。」
帰りたくないって、駄々こねる子供みたいな顔してたって事!?
いい年して恥ずかしい!!!!
「ほらっ、早よ僕らの家に帰ろっ」
そんな私の心境を知ってか知らずか、狐鈴さんが私の手を引き、それに頷いて私も足早に狐鈴さんの後を追う。なんだかんだ言いながら、いつだって狐鈴さんは私を助けてくれる。
数年前、誘拐犯達に捕まった時も狐鈴さんが助けに来てくれた。
あの時、助けに来てくれた狐鈴さんの腕の中で子供のように泣きじゃくった事、今思い出しても恥ずかしい…。泣き止まない私に、狐鈴さんが言ってくれた言葉
「青葉は僕が守ったる。
もう誰にも手は出させんから、安心して、大丈夫や青葉、ずーっと側におるから、もう青葉を泣かせたりせんから」
大好きな狐鈴さんに、そんな言葉を言われたら泣き止もうにも泣き止めなくて、今度は嬉し涙で顔面グジョグジョで、後から来たゴコクさんに「何泣かせてんだクソ狐」と殴り合いの喧嘩が始まってしまったのも、よく覚えている。
あっという間の数年で、今では狐鈴さんは頼りになる優しい旦那様だ。
自分で思ってて、なんだか照れる……。
そんな事を考えてるうちに、とうとう降り出した雨に、狐鈴さんと共に「わぁー!!」と、悲鳴を上げながら走り出す。もちろん、手は繋がれたまま、離されないその手が嬉しくて、私を引っ張ってくれるその手が嬉しくて、雨に濡れているのに笑顔になってしまう。
「ひゃぁー、結局濡れてもーたわ!
取り敢えずシャワー浴びな風邪ひいてまうわ!
青葉、先にシャワー使って、僕は取り敢えずタオル!」
店の扉を閉めると同時に、狐鈴さんが濡れて張り付いた前髪をかきあげながら、2階へと向かおうとする。それと同時にスルリと離れる握られていた手、離れたくないとその手に力を込めれば驚いた狐鈴さんがこちらを振り返る。
「どないしたん青葉?
また青葉が風邪でもひいたら大変やん、早よ体温めな」
俯く私の前に狐鈴さんが心配そうに、問いかける。
私はいつも狐鈴さんに貰ってばかり……何か返したい……。
「狐鈴さん、教えてください。
狐鈴さんが欲しいもの、私も何か狐鈴さんにお返ししたいです。
いつも、いつだって狐鈴さんに私は貰ってばかりだから、物だけじゃない。
狐鈴さんからの……そのっ…あっ、愛情とかっ……」
またも自分で言っていて恥ずかしくなる。
雨に濡れてなんだか私、ハイになってたりする?
水遊びして喜ぶ子供かっ!!!恥ずかしさからプルプルと体が震える。
見上げた狐鈴さんの顔も、なんだか感情抜け落ちた顔みたいになってるし!!
スミマセン!!馬鹿な妻でスミマセン!!!
「あっ、あの「欲しい物言うたら叶えてくれる?」」
「へっ?えっ、わっ、私にできる事ならどんな事でも!!」
私の両手を取って、真剣な顔になる狐鈴さんに全力で私も答えようと真剣な顔をする。
「子供が欲しい。」
「………こっ、こども?」
「そっ、青葉との子供が欲しいんや、青葉と愛し合ったって言う確かな証、青葉と愛し合わな手に入らん証、他の誰にも叶えられんこのお願い聞いてくれる?」
あっ、愛の証って…!!!!?
言葉にされると非常に恥ずかしいが、それと同時に押し寄せる悲しみ……。
夫婦になって数年、そう言う行為は勿論しているのだが未だ……。
「いやっ、でも、その……その、そう言った事は…夫婦の営みはしてますし、授かり物と申しますので…。私の努力でどうにかなるか…」
「なるよ。青葉が決めてくれたら」
「……へっ?」
「僕ら寿命の長い神使が、そんなホイホイ子供作ってたら増えすぎて大変なことになるやん、せやからそう簡単には子供できへんのやけど、水天宮ってあるあやろ?そこの神使が主である天之御中主大神様に許可もろってくれて、神使でも子作りできるようになんねん」
「え〝っ!?
今まで何でその事言ってくれなかったんですか!?」
「子供の話を青葉一切せーへんから、子供いらんのかと思ってたわ
最近の人の子は子供望まん女の人も多いって話も聞いとったし、まぁ、僕も青葉とイチャイチャできる時間減るしなーとも思ってたけど、やっぱり青葉との子供は欲しいなーとも思っとって…青葉は僕との子供いらん?」
そう言って可愛らしく小首を傾げる狐鈴さんに、思わず「うっ…」と言葉に詰まる。
正直、もっと早く言ってくださいよ!!私の体に問題があるのかとか、人間と神使じゃ子供は作れないのかとか色々考え悩んでたのに!!!と、言ってやりたいが、不安気な狐鈴さんの目を見てしまえばそんな言葉を言えるはずもなく
「欲しいです…私も、狐鈴さんとの子供、欲しいです!」
真っ赤になりながら、狐鈴さんを見上げて両手を握り返す。
すると、一瞬驚いた顔をした狐鈴さんだったが、直ぐに花が咲いたような満面の笑みになると、私の手を離した瞬間、脇の下に手を入れ、まるで子供を高い高いするように持ち上げる。
「うわぁぁ!!?狐鈴さん!!」
「めっっちゃ嬉しいわ!!青葉も僕との子供欲しいんやー!!
どんな子かな?男?女?青葉に似て可愛い女の子やったら、一生嫁には出されへんわー!」
私を高い高いしたまま、嬉しそうな声をあげてくるくる回る狐鈴さん
嬉しい気持ちはわかるけれど!!
「狐鈴さん!気が早すぎます!というか、降ろしてください!」
「はっ!?スマン、ついつい。
せやな、気が早いにも程があったわ、まずは夫婦の営みせななー」
私を降ろしながら、ニンマリ笑う狐鈴さんから床に降り立った途端一歩離れる。
「えっ…いやその、まずは祈願してご許可を頂いてから出ないと、子供はできないのでは?」
「それはそうなんやけどー、今から練習せんとー」
一歩下がった私に、詰め寄るように一歩近づく狐鈴さんの髪から滴り落ちた雫が私の顔に落ちる。
「いやいやいや、夫婦になって数年経ってますし…予行練習は十分していると申しますか…」
顔に落ちた雫が、まるで私の冷や汗のように頬を滑りおちた。
「いやいやいや、これまでは愛の確かめ合いやったけど、これからは本気の子作りセッ!「それ以上は言わないでいいです!!」」
狐鈴さんの口を両手で塞ぐも、狐鈴さんの三日月型に歪んだ目がコチラを射抜き、ペロリと塞いでいる私の掌を舐めた。
「ヒャッ!?」
思わず手を離せば、素早く掬い上げるように私を横抱きにする狐鈴さん、その早業に目を色黒させていると
「まぁ、まずは、何はともあれはよ風呂に入らな、手もこんなに冷たくなってるやん、お風呂で一緒に温め合おなー」
「なっ!?」
お風呂は私からって話では!?
鼻歌を歌い始める狐鈴さんの腕の中で、必死にもがくも問答無用で風呂場に連行されるのであった。
十数年後、青葉と狐鈴の店に
可愛らしい看板娘の鈴葉と言う子がいると街で話題になったとかならないとか……。
狐鈴編 完
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