リグレット

たぬきよーぐると

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後悔

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 朝6時、枕元にある目覚ましの音でなんとか目を覚ます。スーツに着替えたり、ひげを剃ったりして適当に身支度を整え、20分後には家を出る。

 玄関のドアに手をかけたとき、ふと昨日届いたハガキを思い出した。靴箱の上に置いてあるそれを手に取る。表には幼なじみと知らない男の名前。裏には出席や欠席の文字と一緒に、キレイな花の模様が描かれている。

「そうちゃん!」

 彼女はいつも僕をそう呼んでいた。ちゃん付けはやめてくれと何度も言ったが、幼稚園から高校まで結局その呼び方は続いた。

 ……いや、正確には高校1年の秋までか。ある日を境に、僕と彼女は全くと言っていいほど関わりが無くなった。

 原因は僕にある。身勝手で、わがままで、どうしようもなく子供みたいな理由で彼女を泣かせてしまった。

「ごめんなさい……」

 絞り出すように小さく、震える声で発せられたその一言は、三年経った今でも僕の耳に鮮明に残っている。

「よかった。紗希は幸せになれるんだね」

 そう呟き、ため息をつく。傷つけて逃げだしたくせに、上から目線で何を言っているのだろうか。あの頃から変わらない、情けない自分に腹が立つ。

 一言だけでも直接会って謝らないと……

 仕事のスケジュールを確認し、結婚式の日付と照らし合わせる。その日は丁度、大切な会議が入っていた。

 仕事だからしょうがない、そう自分に言い聞かせ、欠席の文字に小さく丸をつけ、僕は会社へ急いだ。







 体力が小学生並みの僕でもできそうな仕事をと探して、今の職場に辿り着いた。福祉器機をレンタルする会社の事務で、主な仕事はパソコンとにらめっこだ。

 だが一つ誤算があった。1日同じ姿勢で座っているだけでも筋肉は使うらしい。いつも帰る頃には身体のあちこちがギシギシと悲鳴をあげる。

 カバンを手にフラフラと立ち上がり、帰路につく。ちゃんと定時で上がらせてもらえるあたり、ここは恵まれた職場なのだろう。

「はぁ……」

 肩を小さく回しながら、重い足を進める。ビルの影から抜けた途端、夕日が僕の視界をオレンジに染めた。

 思わず目を細め、視線を下に落とす。近くを流れる川に乱反射した夕日は、建物や街路樹、空を飛ぶ鳥まで明るく照らしている。
 
 僕のすぐ隣を、自転車に2人乗りした高校生が追い越していく。汗だくになりながらペダルを踏む男の子と、笑顔で後ろから背中を叩く女の子。恋人同士なのだろうか、それとも友達なのか……どちらにせよ仲が良いことに変わりはない。

 「……戻りたい」

 不意をついて出た言葉に、思わず苦笑いをする。社会人にもなって何を言っているのか。

 高校時代、彼女を泣かせてから何度願ったか。あの頃の僕は一度も謝りもせず、顔も合わせようとせず、なるべく楽に事を解決しようとしていた。

 時間が戻るなんて夢みたいな話、あるわけがないのに。



「――さん」

 はぁ、と今日何度目になるか分からないため息をつく。働くようになってから一気に老けた気がする。


神木かみき颯太そうたさん」

 突然後ろから名前を呼ばれて足を止める。いや待てよ、僕の近くにいる誰かを呼んでたってオチじゃないか?

 なんてことを想像して振り返るのを躊躇っていると、

「あの、あなたです。今足を止めたあなた」

 もう一度さっきと同じ声がした。

 恐る恐る後ろを向くと、そこにはスーツを着た50歳ぐらいの男が立っていた。髪の毛や髭は短く切られ、清潔感のある見た目はしているが、それらを帳消しにするほど濃いクマと痩せこけた頬が目立っていた。

「時間がありません。落ち着いて聞いてください」

 そう始まった彼の言葉は、あまりに衝撃的なものばかりだった。
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