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恐怖で毛が逆立ち、肌がピリピリするような威圧感。空気は重く、空は晴れて明るいのにこの周囲だけ暗くなったようにすら感じる。
息がしにくく、呼吸が浅くなる。全身に冷や汗が滲んだ。
この圧はレクスが出しているのだろうか?
「レ、レクス、殿下……?」
女子生徒の一人が何とか口を開いて問いかける。彼女も冷や汗をかいているが、純血主義のレクスは自分たちの味方だと思っている様子で、エステルをいじめている場面を目撃されても後ろめたい顔をすることはない。むしろ、レクスに褒められるかもと思っているのかもしれない。
一方レクスは無言のまま女子生徒二人を睨みつけていたが、次には眉間にしわを寄せたまま目をつぶり、噛み締めた歯の隙間から長く息を吐き出した。両手の拳は血管が浮くほど強く握られている。
まるで自分を必死で抑えているような姿だった。
そして数秒後、肩の力を抜いて今度は小さく息をついた後、レクスは冷たい瞳を女子生徒二人に向けて淡々と言う。
「頼むから消えてくれ」
「え?」
さっきまで感じていた威圧感は消え、エステルも呼吸がしやすくなった。
「早くどこかへ行け」
言いながら女子生徒を一瞥すると、それ以降一切レクスが彼女たちの方を見ることはなかった。そしてこちらに歩いてくると、エステルの真横に来て立ち止まる。視線はまっすぐエステルに向いていた。
「あの……レクス殿下?」
女子生徒たちが困惑気味に声をかけるが、レクスはエステルを見つめたまま何も答えなかった。
「とりあえず……行きましょ」
「ええ」
先ほどレクスに言われた言葉を思い出して、二人はこちらをチラチラ振り返りながら去っていく。レクスの目的が分からなくて混乱しているようだ。
エステルも同じく戸惑っていて、恐怖も感じていた。
(レクス殿下も、目障りな混血の私に何かしに来たのかしら? でもあの二人に『消えろ』なんて言ったのはどうして?)
レクスが自分の味方なはずがないが、彼女たちにも冷たかった。その意図が読み取れなかった。
(もしかしてこれから私にとんでもなく酷いことをするつもりなのかも。見たらトラウマになるから二人はどこかへ行かせたとか?)
暴力を振るわれる想像をしながら震えていると、レクスがふと右手を持ち上げた。
(殴られる……!)
思わず体に力を入れてぎゅっと目をつぶったが、覚悟していた衝撃は来なかった。代わりに指でそっと涙を拭われる。
「ぇ……?」
ほとんど声になっていないか細い声がエステルの喉から漏れる。まぶたを開き、身長の高いレクスを見上げて確認したが、やはり自分の涙を優しく拭っているのはレクスの人差し指で間違いない。
「ど、どういう……?」
頭の上に疑問符をたくさん浮かべ、おろおろしながらレクスを見つめると、レクスは自分の行動にびっくりしたように手を引っ込めた。
そして片手で自分の両目を覆い、そっぽを向くと、一分ほど動かなくなる。
どうしていいか分からずエステルはただ待った。
(今のうちに逃げる? でも逃げたら失礼では? 挨拶くらいすべきよね。そもそも私のこと助けてくれたの?)
頭の中でぐるぐる考えながらも、レクスを間近で見られて喜んでいる自分の恋心は何とか冷静に抑えようとする。
心の赴くままに行動すれば、今すぐレクスに抱きついてしまうかもしれない。
(殿下って体が磁石でできてて、私は金属でできているんじゃないかしら? 磁力とか引力が作用しているみたいにくっつきたくなる。ずっとそばにいたい。好きって伝えてしまいたい)
自分の瞳がハートになっているんじゃないかと心配になる。レクスを好きという気持ちがだだ漏れていないだろうか?
(駄目よ、私! 殿下に突然抱きついたりなんかしたら不敬罪で最悪処刑されるかもしれない!)
愛を伝えたいという強い衝動を何とか抑えて、エステルは逃げるようにその場から去った。走り出した瞬間レクスはそれに気づいて顔を上げたようだったが、追ってはこなかった。
「危ない……」
校舎に入ったところでエステルはホッと胸を撫で下ろす。
レクスに抱きつきたいと思うなんて、恋する乙女というよりただの変態になっているようで不安だ。
ただその抱きつきたいという衝動は性欲に起因するものではない、というのは断言できる。もふもふのナトナを見ていると「可愛いー!」と抱きしめてしまう時があるが、その時の感情に近い。好きだから、ぎゅってしたいのだ。
色々と疲弊しつつ教室に戻ると、ポートが「大丈夫だった?」と声をかけてきた。心配してくれているなら、教室でただ待っているだけでなく何らかの行動を起こしてくれると嬉しかったのだが。
「うん」
言葉少なに答えてから、エステルより一足早く教室に戻っていた女子生徒二人をちらりと見る。二人もこちらを見て何やらコソコソと話しているが、面と向かって何か言われたりすることはなかったのだった。
翌日、エステルは学園の図書室で借りた古代ドラクルス語の本を読みながら食堂へ向かっていた。
(昨日私が言われたディタロプって単語は、純粋な竜人以外を蔑んで言う言葉みたい)
『劣った混血』のような意味だろう。かなり侮辱的な言葉であるようだ。
そんな言葉をかけてくるなんて酷いと思うけれど、古代ドラクルス語を勉強する機会を与えてくれたことには感謝だ。
現代の慣用句に使われている言葉もあるし、詳しく学んでおいて損はない。
(何より、次言われた時に私も古代ドラクルス語で言い返せたら格好良いものね)
実際その時になって言い返せる度胸があるかどうかは別問題だが、言い返してギャフンと言わせる想像をしながらフフンと笑って食堂に入る。
そして食堂に入ると、まずはレクスの姿を探してしまう。学園内でレクスの姿を見かける確率が一番高いのはここだからだ。
(いた!)
今日はレクスの方が先に食堂に来ていて、明るいテーブル席にいつもの友人たちと座り、すでに食事を始めていた。おそらく一番高い美味しそうなメニューを食べている。
自然と食べているものまでチェックしている自分を嫌になりながら、エステルはレクスから視線を外した。
(ジロジロ見ちゃ駄目)
己を叱りつけながらエステルは一番安いメニューを注文し、日の当たらない少し肌寒い席に座る。
するとほどなくして隣にポートが座ってきた。
「ここ、いい?」
「ええ、どうぞ」
ポートはエステルの左隣に座ると、食事をしながら話しかけてくる。
「昨日の朝呼び出されてたのは結局何だったの? 酷いことされなかった?」
何だったの? と尋ねてはいるが、酷いことされなかった? とも聞いているので、呼び出された理由に察しはついているらしい。
打ち明けても助けてくれるわけじゃないし、あまり話したくないなと思いながらエステルは曖昧に答える。
「うん、まぁ……大丈夫よ」
「竜人の女の子って気が強い子が多いから。人間の女の子はもっと大人しいのかな? 君、知ってる?」
「ううん。私には人間の知り合いはいないから」
「そうなんだ」
ふと、ポートはどうしていつも自分に声をかけてきてくれるのだろうと疑問に思って、エステルは素直に尋ねてみた。
するとポートも率直に答える。
「うーん、竜人の男ってやっぱり強い奴がモテるんだよ。見た目も大事だし、僕みたいに頭は良いけど強くなくて、体格にも恵まれてない男は竜人の女子には相手にされない。でも混血の君なら僕のこと好きになってくれるかもと思って」
ポートは照れた様子で言った。成績以外に取り柄がないと自分で思っているようなのに、それでもエステルなら好きになってくれるとどうして思ったのだろう? ポートは悪気なく混血は劣った存在だと考えていて、竜人には相手にされそうにないから混血で手を打とうと思っているのではないだろうか。
エステルは複雑な気持ちになりながら言う。
「私は確かに強さとか体格とかは重視しないけど……でも好きになるのは、私が困っている時に助けてくれるような人よ」
言いながら、嘘をついてしまったとエステルは思った。だってレクスには一目惚れしたのだ。
(困ってる時に助けてくれる人っていうのは本当に思ってることだけど、実際は外見で好きになっちゃってるわけで、私ってなんだか薄っぺらい人間だわ)
自己嫌悪に陥っているエステルにポートは明るく言う。
「もちろん君が困ってたらいつでも助けるよ。勉強で分からないところとかあったら教えてあげるしさ」
助けてほしいのは勉強面ではないんだけどと、エステルは困った顔をする。ポートに助けてほしかったのは昨日の朝なのに。
「エステルは好きな人とかいるの?」
「え? いえ……」
ポートが振ってきた話題にも、急に呼び捨てにされたことにもエステルは戸惑った。今までは、さん付けで呼んでくれていたのに。
「その鱗……」
と、ポートはエステルの左手に視線を向け、頬を赤らめた。竜人はみんな左手の甲に鱗が五枚ほどあるが、混血のエステルにも薄いながら存在している。
「薄いピンクで綺麗だね。でも手袋で隠さないの?」
「私の鱗は子供みたいに未熟だから隠さなくていいって、母が……」
少し恥ずかしくなって、エステルは自分の膝の上に左手を引っ込めた。ポートもそうだが、子供以外の竜人はみんな左手の甲を隠す手袋をしているのだ。
「でも薄くても、異性の鱗を見ると何だかドキドキしてしまうな。触ってもいい?」
言うと同時にポートはエステルの膝の上に手を伸ばしてきて、鱗に触れようとした。
エステルの中に嫌だという強い気持ちが湧き上がったが、手の甲を触らせるくらいで過剰反応なのではとも思った。混血のエステルにとってこれはただの鱗で、ポートがドキドキしている理由も分からない。
拒否すべきかどうか迷っているうちに、ポートの指先が鱗に触れそうになる。
するとその時――、
「わっ……!」
後ろから突然肩をガシッと掴まれて、ポートは驚きの声を上げながら手を引っ込めた。
「な、何だよ急に……って、えぇ!?」
そして後ろを振り返ると再び驚愕し、口をあんぐり開けて固まった。
ポートの肩を掴んでいたのはレクスだったからだ。
息がしにくく、呼吸が浅くなる。全身に冷や汗が滲んだ。
この圧はレクスが出しているのだろうか?
「レ、レクス、殿下……?」
女子生徒の一人が何とか口を開いて問いかける。彼女も冷や汗をかいているが、純血主義のレクスは自分たちの味方だと思っている様子で、エステルをいじめている場面を目撃されても後ろめたい顔をすることはない。むしろ、レクスに褒められるかもと思っているのかもしれない。
一方レクスは無言のまま女子生徒二人を睨みつけていたが、次には眉間にしわを寄せたまま目をつぶり、噛み締めた歯の隙間から長く息を吐き出した。両手の拳は血管が浮くほど強く握られている。
まるで自分を必死で抑えているような姿だった。
そして数秒後、肩の力を抜いて今度は小さく息をついた後、レクスは冷たい瞳を女子生徒二人に向けて淡々と言う。
「頼むから消えてくれ」
「え?」
さっきまで感じていた威圧感は消え、エステルも呼吸がしやすくなった。
「早くどこかへ行け」
言いながら女子生徒を一瞥すると、それ以降一切レクスが彼女たちの方を見ることはなかった。そしてこちらに歩いてくると、エステルの真横に来て立ち止まる。視線はまっすぐエステルに向いていた。
「あの……レクス殿下?」
女子生徒たちが困惑気味に声をかけるが、レクスはエステルを見つめたまま何も答えなかった。
「とりあえず……行きましょ」
「ええ」
先ほどレクスに言われた言葉を思い出して、二人はこちらをチラチラ振り返りながら去っていく。レクスの目的が分からなくて混乱しているようだ。
エステルも同じく戸惑っていて、恐怖も感じていた。
(レクス殿下も、目障りな混血の私に何かしに来たのかしら? でもあの二人に『消えろ』なんて言ったのはどうして?)
レクスが自分の味方なはずがないが、彼女たちにも冷たかった。その意図が読み取れなかった。
(もしかしてこれから私にとんでもなく酷いことをするつもりなのかも。見たらトラウマになるから二人はどこかへ行かせたとか?)
暴力を振るわれる想像をしながら震えていると、レクスがふと右手を持ち上げた。
(殴られる……!)
思わず体に力を入れてぎゅっと目をつぶったが、覚悟していた衝撃は来なかった。代わりに指でそっと涙を拭われる。
「ぇ……?」
ほとんど声になっていないか細い声がエステルの喉から漏れる。まぶたを開き、身長の高いレクスを見上げて確認したが、やはり自分の涙を優しく拭っているのはレクスの人差し指で間違いない。
「ど、どういう……?」
頭の上に疑問符をたくさん浮かべ、おろおろしながらレクスを見つめると、レクスは自分の行動にびっくりしたように手を引っ込めた。
そして片手で自分の両目を覆い、そっぽを向くと、一分ほど動かなくなる。
どうしていいか分からずエステルはただ待った。
(今のうちに逃げる? でも逃げたら失礼では? 挨拶くらいすべきよね。そもそも私のこと助けてくれたの?)
頭の中でぐるぐる考えながらも、レクスを間近で見られて喜んでいる自分の恋心は何とか冷静に抑えようとする。
心の赴くままに行動すれば、今すぐレクスに抱きついてしまうかもしれない。
(殿下って体が磁石でできてて、私は金属でできているんじゃないかしら? 磁力とか引力が作用しているみたいにくっつきたくなる。ずっとそばにいたい。好きって伝えてしまいたい)
自分の瞳がハートになっているんじゃないかと心配になる。レクスを好きという気持ちがだだ漏れていないだろうか?
(駄目よ、私! 殿下に突然抱きついたりなんかしたら不敬罪で最悪処刑されるかもしれない!)
愛を伝えたいという強い衝動を何とか抑えて、エステルは逃げるようにその場から去った。走り出した瞬間レクスはそれに気づいて顔を上げたようだったが、追ってはこなかった。
「危ない……」
校舎に入ったところでエステルはホッと胸を撫で下ろす。
レクスに抱きつきたいと思うなんて、恋する乙女というよりただの変態になっているようで不安だ。
ただその抱きつきたいという衝動は性欲に起因するものではない、というのは断言できる。もふもふのナトナを見ていると「可愛いー!」と抱きしめてしまう時があるが、その時の感情に近い。好きだから、ぎゅってしたいのだ。
色々と疲弊しつつ教室に戻ると、ポートが「大丈夫だった?」と声をかけてきた。心配してくれているなら、教室でただ待っているだけでなく何らかの行動を起こしてくれると嬉しかったのだが。
「うん」
言葉少なに答えてから、エステルより一足早く教室に戻っていた女子生徒二人をちらりと見る。二人もこちらを見て何やらコソコソと話しているが、面と向かって何か言われたりすることはなかったのだった。
翌日、エステルは学園の図書室で借りた古代ドラクルス語の本を読みながら食堂へ向かっていた。
(昨日私が言われたディタロプって単語は、純粋な竜人以外を蔑んで言う言葉みたい)
『劣った混血』のような意味だろう。かなり侮辱的な言葉であるようだ。
そんな言葉をかけてくるなんて酷いと思うけれど、古代ドラクルス語を勉強する機会を与えてくれたことには感謝だ。
現代の慣用句に使われている言葉もあるし、詳しく学んでおいて損はない。
(何より、次言われた時に私も古代ドラクルス語で言い返せたら格好良いものね)
実際その時になって言い返せる度胸があるかどうかは別問題だが、言い返してギャフンと言わせる想像をしながらフフンと笑って食堂に入る。
そして食堂に入ると、まずはレクスの姿を探してしまう。学園内でレクスの姿を見かける確率が一番高いのはここだからだ。
(いた!)
今日はレクスの方が先に食堂に来ていて、明るいテーブル席にいつもの友人たちと座り、すでに食事を始めていた。おそらく一番高い美味しそうなメニューを食べている。
自然と食べているものまでチェックしている自分を嫌になりながら、エステルはレクスから視線を外した。
(ジロジロ見ちゃ駄目)
己を叱りつけながらエステルは一番安いメニューを注文し、日の当たらない少し肌寒い席に座る。
するとほどなくして隣にポートが座ってきた。
「ここ、いい?」
「ええ、どうぞ」
ポートはエステルの左隣に座ると、食事をしながら話しかけてくる。
「昨日の朝呼び出されてたのは結局何だったの? 酷いことされなかった?」
何だったの? と尋ねてはいるが、酷いことされなかった? とも聞いているので、呼び出された理由に察しはついているらしい。
打ち明けても助けてくれるわけじゃないし、あまり話したくないなと思いながらエステルは曖昧に答える。
「うん、まぁ……大丈夫よ」
「竜人の女の子って気が強い子が多いから。人間の女の子はもっと大人しいのかな? 君、知ってる?」
「ううん。私には人間の知り合いはいないから」
「そうなんだ」
ふと、ポートはどうしていつも自分に声をかけてきてくれるのだろうと疑問に思って、エステルは素直に尋ねてみた。
するとポートも率直に答える。
「うーん、竜人の男ってやっぱり強い奴がモテるんだよ。見た目も大事だし、僕みたいに頭は良いけど強くなくて、体格にも恵まれてない男は竜人の女子には相手にされない。でも混血の君なら僕のこと好きになってくれるかもと思って」
ポートは照れた様子で言った。成績以外に取り柄がないと自分で思っているようなのに、それでもエステルなら好きになってくれるとどうして思ったのだろう? ポートは悪気なく混血は劣った存在だと考えていて、竜人には相手にされそうにないから混血で手を打とうと思っているのではないだろうか。
エステルは複雑な気持ちになりながら言う。
「私は確かに強さとか体格とかは重視しないけど……でも好きになるのは、私が困っている時に助けてくれるような人よ」
言いながら、嘘をついてしまったとエステルは思った。だってレクスには一目惚れしたのだ。
(困ってる時に助けてくれる人っていうのは本当に思ってることだけど、実際は外見で好きになっちゃってるわけで、私ってなんだか薄っぺらい人間だわ)
自己嫌悪に陥っているエステルにポートは明るく言う。
「もちろん君が困ってたらいつでも助けるよ。勉強で分からないところとかあったら教えてあげるしさ」
助けてほしいのは勉強面ではないんだけどと、エステルは困った顔をする。ポートに助けてほしかったのは昨日の朝なのに。
「エステルは好きな人とかいるの?」
「え? いえ……」
ポートが振ってきた話題にも、急に呼び捨てにされたことにもエステルは戸惑った。今までは、さん付けで呼んでくれていたのに。
「その鱗……」
と、ポートはエステルの左手に視線を向け、頬を赤らめた。竜人はみんな左手の甲に鱗が五枚ほどあるが、混血のエステルにも薄いながら存在している。
「薄いピンクで綺麗だね。でも手袋で隠さないの?」
「私の鱗は子供みたいに未熟だから隠さなくていいって、母が……」
少し恥ずかしくなって、エステルは自分の膝の上に左手を引っ込めた。ポートもそうだが、子供以外の竜人はみんな左手の甲を隠す手袋をしているのだ。
「でも薄くても、異性の鱗を見ると何だかドキドキしてしまうな。触ってもいい?」
言うと同時にポートはエステルの膝の上に手を伸ばしてきて、鱗に触れようとした。
エステルの中に嫌だという強い気持ちが湧き上がったが、手の甲を触らせるくらいで過剰反応なのではとも思った。混血のエステルにとってこれはただの鱗で、ポートがドキドキしている理由も分からない。
拒否すべきかどうか迷っているうちに、ポートの指先が鱗に触れそうになる。
するとその時――、
「わっ……!」
後ろから突然肩をガシッと掴まれて、ポートは驚きの声を上げながら手を引っ込めた。
「な、何だよ急に……って、えぇ!?」
そして後ろを振り返ると再び驚愕し、口をあんぐり開けて固まった。
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