8 / 65
8
しおりを挟む
「ところで竜舎の掃除をしてるって?」
レクスは話題を変えてエステルに尋ねてきた。廊下を歩く他の生徒たちは、擦れ違いざまにエステルたちの様子を目を丸くして見ていく。混血と王子の組み合わせは異常に思えるのだろう。
他の生徒たちの視線を受け、エステルは居心地の悪さを感じてうつむきつつ答えた。
「昨日、掃除係に任命されたんです。元々雇われていた掃除係の方が体調不良でしばらくお休みするらしく、代わりが必要だと」
「教師から頼まれたのか? なぜ君に役割が回ってきた?」
「え? えと……」
レクスの声も顔も少し怖くなった気がして、エステルは怯んだ。それに気づいたレクスは「ごめん」と言ってから質問し直す。
「どうして君が掃除係になったの?」
「先生に頼まれたので引き受けただけです。大変ですけど、楽しいですよ」
何となく教師を庇わないといけない気がして、エステルは後半の言葉を付け加えた。
するとレクスの友人である褐色の肌に短い黒髪、レクスより少しだけ背の高い男子生徒が驚いて声を上げる。
「楽しいって? 臭くて汚いドラゴンのフンの掃除が?」
「いえ、えっと、運動にもなりますし、調教師の男性がとても良い人で、お喋りしながらやるのは楽しいんです」
エステルは学園に友達がいないが、リックはエステルが混血であることを気にすることなく話してくれた。
「調教師の男?」
小さく低い声でレクスが呟く。近くにいなければ聞こえなかったかもしれない。
エステルがレクスを見上げると、彼は窓の外を見て真顔で何か思案しているようだった。そして数秒後にエステルを見てにこやかに言う。
「そんなに楽しいなんて少し気になってきたな。私もそのうち竜舎に見学に行かせてもらうかもしれない」
「えぇ!? 掃除のですか?」
「そう」
にっこり笑ったまま頷くと、「じゃあまたね」と言ってレクスたちは去っていった。
「まさか殿下が竜舎の掃除に興味を持たれるなんて……」
エステルは彼らの後ろ姿を見ながら、唖然として呟いたのだった。
放課後になり、体操服に着替えて竜舎に行くと、小屋の前にレクスが立っていた。エステルは一瞬目を疑ったが、古びた竜舎が全く似合わないあの美麗で少し冷たそうな容貌の男子生徒はレクスしかいない。学園の白い制服も元々上等なものではあるが、レクスが着ているとさらに上品に見える。
レクスは昼間『〝そのうち〟竜舎に見学に行かせてもらうかも』と言っていたが、早速来たようだ。
驚いたし、王子にフン掃除の様子を見学してもらうなんて申し訳ない気持ちがあるが、レクスと放課後も会えたのは嬉しかったので、エステルは笑顔でレクスのもとに走った。
「殿下! 待っていてくださったんですか? 来るのが遅くなり申し訳ありません」
「いや、私も今来たところだよ」
嬉しくて笑顔になっているエステルを見て、レクスも柔らかく笑って答える。
食堂では幽霊のようだったが、もうすっかり元気を取り戻したようでエステルは安心した。
「では殿下は扉の外で見学されますか? 靴が汚れてしまうので中には入らない方がいいと思います」
「そうか」
勝手が分からないからか、レクスは素直にエステルの言うことを聞いて扉の前で立ち止まる。一方エステルは鞄を外に置くと、扉が開け放たれたままの竜舎の中に入り、すでに作業を始めていたリックに声をかけた。ドラゴンたちは今日も放牧中でいないようだ。
「リックさん、こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「エステルちゃん、よろしく。……あれ? 彼は?」
エステルの後方、扉のそばに立ってこっちを見ている男子生徒に気づいてリックが尋ねた。
しかしエステルが紹介するより先に正体に気づいたようで、だんだんリックの顔が引きつっていく。
「え? あれってレクス殿下では? この国の王子の……」
レクスに聞こえないよう小声で言う。リックは竜舎にこもってドラゴンの世話をしているだけでなく、ドラゴンの操り方や生態を教える授業をすることもあるらしいので、レクスのことを認識していたようだ。
エステルは元気よく言う。
「はい! レクス殿下です。リックさんも殿下のお顔は知ってらっしゃったんですね」
「そりゃ知ってるよ。授業もしたことあるしさ。とにかく挨拶しておかないと」
わたわたと掃除用具を置いてレクスのもとへ駆け寄ると、リックは頭を下げて挨拶をし、要件を尋ねた。
「それで……竜舎に何かご用でしょうか?」
するとレクスはリックをじっと観察した後で、親しみやすさがあまりない口調でこう答えた。
「エステルが掃除係になったと聞いたから見学しに来ただけだ」
「そ、そうなんですか」
そこでリックはエステルの方を振り返ると、緊張でカッと目を見開きながら小声で尋ねてくる。
「エステルちゃん、殿下と親しいの?」
「いえいえそんな、親しいというほどでは! 混血の私に気を遣ってくださって、ありがたくも優しくしてもらっています」
エステルがそう答えるとレクスは不満げな顔をして何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わずに唇を閉じた。
リックはエステルとレクスの正確な関係を把握できていなかったが、レクスの機嫌をうかがいながらおずおずと言う。
「彼女が掃除している様子を見学されるということですね」
「ああ、私のことは構わなくていい」
「分かりました。……じゃあエステルちゃん、掃除しようか」
リックは非常にやりにくそうに掃除を開始した。エステルも長靴に履き替えて作業に加わる。
二人で床に散らばった藁やフンを集めながら、リックはひそひそと質問してくる。
「エステルちゃんって混血なの?」
「はい。竜人の血は八分の一しか入っていません」
「そうなんだ。気づかなかった。まぁどうでもいいけどさ」
リックの返答にエステルは安堵した。混血だと分かると途端に態度を変えて見下してくる竜人もいるからだ。
「でもレクス殿下って確か純血主義だよね?」
「はい、そうですけど……でも混血がいじめられたりすることは望んでおられないようです。いじめられていた私を助けてくださったりして、良い方なんです」
「ふぅん、何かよく分からないな」
「私も最初は混乱しました」
レクスに聞こえないように話しながら掃除を続ける。
リックは少し考えた後で心配そうに尋ねてきた。
「混血だから良いように使えるってことで、助けてくれたわけではない? 助けてもらった後でこき使われたりはしてない? 今も自分の使用人が真面目に働いてるか監視しに来た感じじゃなくて?」
純血主義者の王子が混血に優しくする意味が分からず、リックは自分の中で何とか納得のいく理由を作り出した。
エステルはそんなふうに思ったことはなかったが、レクスがここに来た理由として『エステルの働きぶりを監視しに来た』というのは、『竜舎の掃除に興味を持ったから』という理由よりしっくりくる。
「で、でも、私はレクス殿下にこき使われたりしてないです。そんな方じゃないと思うんですけど」
レクスは良い人だと自信を持って言えるが、その自信は恋心から来ているものなのかもしれない。恋は盲目と言うし、客観的にレクスの人となりを把握できているかどうかは分からなかった。
と、二人でこそこそ話していると、レクスがいつの間にか竜舎の中に入ってきて不機嫌そうに言った。
「私も手伝おう」
レクスはリックの持っていた藁をすくうフォークに手をかけている。
リックは驚いてすっとんきょうな声を出す。
「うぇぇ!? 手伝うって、掃除をですか? でもここにはフンもたくさん落ちてますし、靴が汚れてしまいますよ。何より殿下に掃除だなんて……っ」
エステルはリックの気持ちがよく分かったので、リックと一緒に顔を青くして震えた。レクスに竜舎の掃除をさせるなんて、それだけで何か罪に問われるんじゃないかと思うのだ。本人が希望しようと周りの竜人が許さないのではないか?
エステルは慌ててレクスを止める。
「ででで殿下、おやめください。私たちが『殿下に掃除をさせた罪(ざい)』に問われてしまいますっ!」
「そんなものはないよ」
レクスはエステルにクスッと笑った後、リックに向かって続けた。
「いいから、手伝うと言っている。君は調教師としての仕事もあるだろう」
「いえ、今はあの、ドラゴンも放牧中ですし……」
「では竜具の手入れは完璧か?」
完璧かと聞かれると自信がなくなったのか、リックはスーッと息を吸ってレクスに持たせまいとしていたフォークから手を離した。
そして顔をこわばらせたまま懇願する。
「殿下、せめて長靴を履いてくださいませんか? 粗末な長靴ですが、あちらに予備の新品があります」
「分かった、履こう」
「ありがとうございます!」
リックは声を高くして喜んだ。レクスは制服姿のまま長靴を履いてエステルのそばに戻ってくる。
「じゃあ始めようか。汚れた藁やフンを運べばいいんだね?」
「はい、そうですが……本当にされるのですか?」
「ああ」
レクスが作業を始めたので、エステルも戸惑いながらも動き出す。せめてフンは自分が先に全部取ろうと、スコップを持って集めて回った。
(本当に良い方……)
掃除を続けながらちらりとレクスを見て思う。そしてさっきリックに言われたことを思い出した。
『混血だから良いように使えるってことで、助けてくれたわけではない? 助けてもらった後でこき使われたりはしてない? 今も自分の使用人が真面目に働いてるか監視しに来た感じじゃなくて?」』
だがレクスはエステルをこき使うどころか、こうやって掃除を手伝ってくれている。だからやはりレクスは善意でエステルを助けてくれたのだろう。
(掃除なんて一生しなくていい身分なのに、嫌がらずにやってくださって……)
真剣に作業をしているレクスを見ると、尊敬すると共にキュンともする。やっぱり自分はこの人が好きだなと思った。制服に長靴という変な格好だし、やっていることは竜舎の掃除で別段格好良いことでもないのだが、すごくグッとくるのだ。一生懸命やっている姿に惹かれるのかもしれない。
(好き。すごく好き。格好良い)
エステルはスコップの柄を両手で握って目を閉じた。掃除をしているレクスを目にしただけなのに彼への好意が溢れ出してきてしまった。キュンとするポイントが自分でも分からない。
レクスは話題を変えてエステルに尋ねてきた。廊下を歩く他の生徒たちは、擦れ違いざまにエステルたちの様子を目を丸くして見ていく。混血と王子の組み合わせは異常に思えるのだろう。
他の生徒たちの視線を受け、エステルは居心地の悪さを感じてうつむきつつ答えた。
「昨日、掃除係に任命されたんです。元々雇われていた掃除係の方が体調不良でしばらくお休みするらしく、代わりが必要だと」
「教師から頼まれたのか? なぜ君に役割が回ってきた?」
「え? えと……」
レクスの声も顔も少し怖くなった気がして、エステルは怯んだ。それに気づいたレクスは「ごめん」と言ってから質問し直す。
「どうして君が掃除係になったの?」
「先生に頼まれたので引き受けただけです。大変ですけど、楽しいですよ」
何となく教師を庇わないといけない気がして、エステルは後半の言葉を付け加えた。
するとレクスの友人である褐色の肌に短い黒髪、レクスより少しだけ背の高い男子生徒が驚いて声を上げる。
「楽しいって? 臭くて汚いドラゴンのフンの掃除が?」
「いえ、えっと、運動にもなりますし、調教師の男性がとても良い人で、お喋りしながらやるのは楽しいんです」
エステルは学園に友達がいないが、リックはエステルが混血であることを気にすることなく話してくれた。
「調教師の男?」
小さく低い声でレクスが呟く。近くにいなければ聞こえなかったかもしれない。
エステルがレクスを見上げると、彼は窓の外を見て真顔で何か思案しているようだった。そして数秒後にエステルを見てにこやかに言う。
「そんなに楽しいなんて少し気になってきたな。私もそのうち竜舎に見学に行かせてもらうかもしれない」
「えぇ!? 掃除のですか?」
「そう」
にっこり笑ったまま頷くと、「じゃあまたね」と言ってレクスたちは去っていった。
「まさか殿下が竜舎の掃除に興味を持たれるなんて……」
エステルは彼らの後ろ姿を見ながら、唖然として呟いたのだった。
放課後になり、体操服に着替えて竜舎に行くと、小屋の前にレクスが立っていた。エステルは一瞬目を疑ったが、古びた竜舎が全く似合わないあの美麗で少し冷たそうな容貌の男子生徒はレクスしかいない。学園の白い制服も元々上等なものではあるが、レクスが着ているとさらに上品に見える。
レクスは昼間『〝そのうち〟竜舎に見学に行かせてもらうかも』と言っていたが、早速来たようだ。
驚いたし、王子にフン掃除の様子を見学してもらうなんて申し訳ない気持ちがあるが、レクスと放課後も会えたのは嬉しかったので、エステルは笑顔でレクスのもとに走った。
「殿下! 待っていてくださったんですか? 来るのが遅くなり申し訳ありません」
「いや、私も今来たところだよ」
嬉しくて笑顔になっているエステルを見て、レクスも柔らかく笑って答える。
食堂では幽霊のようだったが、もうすっかり元気を取り戻したようでエステルは安心した。
「では殿下は扉の外で見学されますか? 靴が汚れてしまうので中には入らない方がいいと思います」
「そうか」
勝手が分からないからか、レクスは素直にエステルの言うことを聞いて扉の前で立ち止まる。一方エステルは鞄を外に置くと、扉が開け放たれたままの竜舎の中に入り、すでに作業を始めていたリックに声をかけた。ドラゴンたちは今日も放牧中でいないようだ。
「リックさん、こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「エステルちゃん、よろしく。……あれ? 彼は?」
エステルの後方、扉のそばに立ってこっちを見ている男子生徒に気づいてリックが尋ねた。
しかしエステルが紹介するより先に正体に気づいたようで、だんだんリックの顔が引きつっていく。
「え? あれってレクス殿下では? この国の王子の……」
レクスに聞こえないよう小声で言う。リックは竜舎にこもってドラゴンの世話をしているだけでなく、ドラゴンの操り方や生態を教える授業をすることもあるらしいので、レクスのことを認識していたようだ。
エステルは元気よく言う。
「はい! レクス殿下です。リックさんも殿下のお顔は知ってらっしゃったんですね」
「そりゃ知ってるよ。授業もしたことあるしさ。とにかく挨拶しておかないと」
わたわたと掃除用具を置いてレクスのもとへ駆け寄ると、リックは頭を下げて挨拶をし、要件を尋ねた。
「それで……竜舎に何かご用でしょうか?」
するとレクスはリックをじっと観察した後で、親しみやすさがあまりない口調でこう答えた。
「エステルが掃除係になったと聞いたから見学しに来ただけだ」
「そ、そうなんですか」
そこでリックはエステルの方を振り返ると、緊張でカッと目を見開きながら小声で尋ねてくる。
「エステルちゃん、殿下と親しいの?」
「いえいえそんな、親しいというほどでは! 混血の私に気を遣ってくださって、ありがたくも優しくしてもらっています」
エステルがそう答えるとレクスは不満げな顔をして何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わずに唇を閉じた。
リックはエステルとレクスの正確な関係を把握できていなかったが、レクスの機嫌をうかがいながらおずおずと言う。
「彼女が掃除している様子を見学されるということですね」
「ああ、私のことは構わなくていい」
「分かりました。……じゃあエステルちゃん、掃除しようか」
リックは非常にやりにくそうに掃除を開始した。エステルも長靴に履き替えて作業に加わる。
二人で床に散らばった藁やフンを集めながら、リックはひそひそと質問してくる。
「エステルちゃんって混血なの?」
「はい。竜人の血は八分の一しか入っていません」
「そうなんだ。気づかなかった。まぁどうでもいいけどさ」
リックの返答にエステルは安堵した。混血だと分かると途端に態度を変えて見下してくる竜人もいるからだ。
「でもレクス殿下って確か純血主義だよね?」
「はい、そうですけど……でも混血がいじめられたりすることは望んでおられないようです。いじめられていた私を助けてくださったりして、良い方なんです」
「ふぅん、何かよく分からないな」
「私も最初は混乱しました」
レクスに聞こえないように話しながら掃除を続ける。
リックは少し考えた後で心配そうに尋ねてきた。
「混血だから良いように使えるってことで、助けてくれたわけではない? 助けてもらった後でこき使われたりはしてない? 今も自分の使用人が真面目に働いてるか監視しに来た感じじゃなくて?」
純血主義者の王子が混血に優しくする意味が分からず、リックは自分の中で何とか納得のいく理由を作り出した。
エステルはそんなふうに思ったことはなかったが、レクスがここに来た理由として『エステルの働きぶりを監視しに来た』というのは、『竜舎の掃除に興味を持ったから』という理由よりしっくりくる。
「で、でも、私はレクス殿下にこき使われたりしてないです。そんな方じゃないと思うんですけど」
レクスは良い人だと自信を持って言えるが、その自信は恋心から来ているものなのかもしれない。恋は盲目と言うし、客観的にレクスの人となりを把握できているかどうかは分からなかった。
と、二人でこそこそ話していると、レクスがいつの間にか竜舎の中に入ってきて不機嫌そうに言った。
「私も手伝おう」
レクスはリックの持っていた藁をすくうフォークに手をかけている。
リックは驚いてすっとんきょうな声を出す。
「うぇぇ!? 手伝うって、掃除をですか? でもここにはフンもたくさん落ちてますし、靴が汚れてしまいますよ。何より殿下に掃除だなんて……っ」
エステルはリックの気持ちがよく分かったので、リックと一緒に顔を青くして震えた。レクスに竜舎の掃除をさせるなんて、それだけで何か罪に問われるんじゃないかと思うのだ。本人が希望しようと周りの竜人が許さないのではないか?
エステルは慌ててレクスを止める。
「ででで殿下、おやめください。私たちが『殿下に掃除をさせた罪(ざい)』に問われてしまいますっ!」
「そんなものはないよ」
レクスはエステルにクスッと笑った後、リックに向かって続けた。
「いいから、手伝うと言っている。君は調教師としての仕事もあるだろう」
「いえ、今はあの、ドラゴンも放牧中ですし……」
「では竜具の手入れは完璧か?」
完璧かと聞かれると自信がなくなったのか、リックはスーッと息を吸ってレクスに持たせまいとしていたフォークから手を離した。
そして顔をこわばらせたまま懇願する。
「殿下、せめて長靴を履いてくださいませんか? 粗末な長靴ですが、あちらに予備の新品があります」
「分かった、履こう」
「ありがとうございます!」
リックは声を高くして喜んだ。レクスは制服姿のまま長靴を履いてエステルのそばに戻ってくる。
「じゃあ始めようか。汚れた藁やフンを運べばいいんだね?」
「はい、そうですが……本当にされるのですか?」
「ああ」
レクスが作業を始めたので、エステルも戸惑いながらも動き出す。せめてフンは自分が先に全部取ろうと、スコップを持って集めて回った。
(本当に良い方……)
掃除を続けながらちらりとレクスを見て思う。そしてさっきリックに言われたことを思い出した。
『混血だから良いように使えるってことで、助けてくれたわけではない? 助けてもらった後でこき使われたりはしてない? 今も自分の使用人が真面目に働いてるか監視しに来た感じじゃなくて?」』
だがレクスはエステルをこき使うどころか、こうやって掃除を手伝ってくれている。だからやはりレクスは善意でエステルを助けてくれたのだろう。
(掃除なんて一生しなくていい身分なのに、嫌がらずにやってくださって……)
真剣に作業をしているレクスを見ると、尊敬すると共にキュンともする。やっぱり自分はこの人が好きだなと思った。制服に長靴という変な格好だし、やっていることは竜舎の掃除で別段格好良いことでもないのだが、すごくグッとくるのだ。一生懸命やっている姿に惹かれるのかもしれない。
(好き。すごく好き。格好良い)
エステルはスコップの柄を両手で握って目を閉じた。掃除をしているレクスを目にしただけなのに彼への好意が溢れ出してきてしまった。キュンとするポイントが自分でも分からない。
470
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!
Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。
見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、
幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。
心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、
いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。
そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、
この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、
つい彼の心の声を聞いてしまう。
偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、
その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに……
「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」
なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た!
何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、
あれ? 何かがおかしい……
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる