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一章 蔵座敷に棲むもの
六、闇堕ち 上
しおりを挟む「退けぇぇぇええ!!」
瓦を踏み抜く音と、宵の怒声を聞いた朔は慌てて旋回して群がる影男を弾いた。そこへ宵が炎で一線を走らせ朔と影男を分かつ。朔の隣へすたんっと降り立った。
「派手なご登場だなァ」
「状況は」
「ほれよ」
朔は呆れつつも懐から毛玉を取り出すと宵に放り投げる。
「おお、灰チビ! すまんかったの!」
「むにゅう~。(大丈夫です~)」
「屋台街をふらついてたら、差配屋から人がワラワラ飛び出してきてな。次の瞬間には壁ブチ破ってそいつらのご登場だ」
「差配屋から?」
宵は灰チビを袷に押し込むと、闇堕ちを睥睨した。突っ込んでこそ来ないが、やはり街の灯りにも炎にも怯んだ様子は見られない。
差配屋は正面を大きく崩し、中では慌ただしい雰囲気が感じ取れる。数名の萬者が店の大穴から現れて、各々得物を構えているが、どう見ても技量足らずで当てに出来そうにない。
闇堕ちは宵(の懐の灰チビ)に集中しており、萬者は闇堕ちの背後を取っているにも関わらず、踏み込む勇気もないのがそう見て取れる。
一匹が炎の切れ目から宵に向かって来たのを、朔が受ける。前に対峙した闇堕ちより遥かに良い体格をしている。動きも数段俊敏で怪力だ。攻撃や防御も多彩、対複数では攻めあぐねるのも納得できた。
「とにかくここじゃ戦うには狭過ぎる。火事になるぞ」
「んなこた分かっとるわ! 水智ィ!」
殆ど炎は消え、闇堕ちが宵に殺到してくる。妖怪型でない宵は簪を握っているものの、あんなもの掠っただけで吹き飛ばされそうだと判断し、今は避け続けているのみだ。
差配屋の建屋は大きく、正面の広場も広く取られていたが、三匹の手錬れな闇堕ちと闘うには狭過ぎた。屋台街の端で今は夕食時ということもあり、屋台や卓が通りからせり出して更に圧迫している。逃げ出した人々が蹴散らした卓や飯が豪い惨事になっていた。
「私にも生活があるのでー! 名前呼ぶの止めてもらえますか、宵様ー!」
「黙れ、寝取られ! 燃やしたい場所に案内しろ!」
「そんな所ありませんよ! ちょいちょい抉るの止めてくださいー!」
「……アレが宵の心当たりか?」
「あぁ、ドンピシャじゃ。ありゃぁ闇引きの合い子じゃ」
「ハァ!?」
朔は相対すれば相手の強さがおぼろ気ながらわかる程度には鍛えているが、妖力や精気を見る目は無い。ここから見た屋根の上で声を上げる男は、外見からはどう見ても普通の人だ。
合い子なんて、片端者から派生した眉唾だと思っていた。しかも闇引きとの合い子だと?
朔は驚きのあまりつい屋根の上の男に気を散じて影男を捌いていたら、刀が軒先を掠めて瓦が砕けて落ちた。
チッと朔と宵二人同時に舌打ちし、宵が声を張り上げた。
「早う案内せんか、寝取られぃ! さっさとせんと名前連呼するぞ寝取られぇ!」
「酷い! 酷いです宵様! でも愛しています!」
朔が半眼で宵を見る。宵は苛つきをぶつける様に、朔に気を取られて背中を向けた闇堕ちに蹴りをくれて吹っ飛ばした。屋台をぶち抜き後ろの店の中まですっ飛んで、どんぶりの割れる音が甲高く響く。
そんな中複数人の足音が慌ただしく近付いてくる。
「おっ、やっとのお出ましかい」
「ほお、流石に芙紫の破魔隊じゃ。田舎とは得物も防備も違うのぉ」
どこの城にも破魔隊と呼ばれる闇引き討伐隊はあるが、闇引きはあからさまに人口に因って出現率が変わる為、力の入れ様が違う。もちろん国力というものもあるが。
芙紫の破魔隊のしっかりとした防具は勿論だが、何よりも驚きなのは小隊の一人は赫巫の刀を、残りは赫巫の槍を持っていたことだ。
小さな田舎大名だとこうはいかない。隊長格の数名だけが赫巫槍を持ち、残りは刺又だったりする。もちろん普通の鉄製だ。それほど赫巫は希少で高価なのだ。
破魔隊の三人が到着する頃には、朔は黒刀を鞘に納めていた。赫巫所持は、刀所持で嫌味を言われるのと同じと言う訳にはいかない。しょっ引かれるのは目に見えている。逃げるのはわけないが、それはそれで腑に落ちない。
「闇引きの成体が三体!? しかもあの巨体……ありえない!」
「落ち着け! 応援を呼べ! "火急、出来得る限り"だ!」
破魔隊の一人が笛を長短組み合わせて吹き鳴らす。動揺の為か力んでひび割れてしまったそれは、芙紫の夜に響き渡り、すぐさま随所から笛の音が返ってくる。
隊長格の男が胡乱気に朔を見やって話しかけてきた。
「荒萬か。破魔一番隊隊長の生田だ。御苦労だったと言いたいところだが、応援が来るまで助太刀してもらえんか」
「……朔だ。それは難し――」
「そりゃあ依頼と見做すがいいんじゃな」
「おい宵!」
「そっちの女も荒萬か。
ふむ、背に腹は代えられん」
「よし! 一金じゃぞ!」
「女! それは吹っ掛け過ぎだろう」
「それはどうじゃろうか、の!」
宵に蹴られて店に転がっていた一体が屋台の残骸を蹴散らしながら飛び出し、笛を吹く男に迫る。
宵は炎で影男の顔面を焼き、笛の男を風でど突き、強引に爪を回避させる。
一家四人が慎ましく過ごせば一月持つ金額に、受諾を渋っていた隊長・生田の目が見開く。
「女は本物の妖術師で二種使いか! よかろう。だが応援が来るまでではなく、始末するまでだ」
「よいぞ!」
朔は呆れ顔で影男の一体を鞘で殴り飛ばした。
頼まれなくても宵(の懐の灰チビ)が狙われる限り参戦不可避なのだが、出来れば破魔隊と影男が闘うどさくさに紛れて脱け出そうと考えていたのだ。
「まっ、待ってくれ!!」
「今度はなんだァ?」
差配屋から膝に手をつきながらよろよろと血塗れの男が瓦礫を踏み越えてくる。
「あやつは!」
「宵、知っているのか」
「ありゃ喰い損ねた一人じゃわ」
確かに宵の好きそうな筋肉達磨だと、朔は苦笑しながら思った。今はずたぼろだが、防具もしっかりと着けた荒萬者だ。朔と背丈はさほど変わらないが、目方は倍もありそうだった。
「そいつらは闇引きじゃねぇ! 人なんだ! 仲間なんだよ!」
「ああん?」
「こン……のクソ水智ィ!!!」
宵の怒りが怒髪天を衝いた。
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