16 / 29
一章 蔵座敷に棲むもの
七、赤の少女と紫の女 上
しおりを挟む既に余裕をかましていられる状況ではなくなっている。
朔は闇堕ちの爪を弾き、なるべく遠くへ蹴やる。すかさず次の向かってくる闇堕ちを突いて飛ばす。飛ばされた先で破魔隊が囲んで斬りつけているが、闇堕ちは羽虫でも払うように隊士らを散らしてまた宵へ向かってくる。
最良は破魔隊が全てを倒し、手伝い報酬の一金をせしめる事だが、破魔隊の実力がこれならば、これから集まってくる破魔隊にも期待するべくもない。
数が集まったところで、攻撃の隙を作るためにいちいち薙ぎ払われていては、隊士が闇堕ちになる方が早そうだ。
既に逃げる事は悪手となった。破魔隊隊長に名も知られているし、何より目立つ二人なので差配屋に問い合わせれば一発である。朔たちが目を付けられるのは逃れられない。
差配屋から斡旋が受けられないだけならまだしも、参考人どころか最悪、下手人として手配がかかるかもしれない。そうなったらぶらぶらお気楽生活もお終いだ。
かと言って親切に闇堕ちを倒してやり、黒刀の出所を疑われるのも願い下げだった。
赫巫武具は金を積めば手に入るという物ではなく、表向きはお上に完全管理されている物なのだから。
朔は目まぐるしく今後を考えたが、朔も朔とて刹那的お気楽主義者である。
(めんどくせぇ。闇引きだか闇堕ちだか知らないが、向かってきたら叩っ斬る。それだけでいいぜ)
朔はさっさと考える事を放棄し、抜刀した。
「――宵。自分が弱ってなきゃ、闇堕ちにはならないんだな?」
「そうじゃ。
なんじゃ朔よ、やるのか?」
「こうなったら斬った方が手っ取り早い」
「はははっ! よいぞ、朔! 金なんかどうにでもなる!」
「お前が言うな!」
向かってきた一体を半身でかわす。その際、闇堕ちの首の位置に刀を添えるように差し出せば、闇堕ち自らの勢いで掻き斬られた。流れる様に半回転し、まだ繋がっている首の反対側を斬り落とす。
宵に辿り着く直前で、どうっと頭部の無い体が倒れ込んだ。やはりぶすぶすと蒸気を上げながら融けていくが、その勢いは緩い。
「へぇ~、やりますねぇ。貴方は宵様のなんなのです? 下僕?」
「誰が下僕だテメー」
「まさか情夫ですか!?」
「気持ち悪ぃ事言うんじゃねーよ、変態が」
「誰が変態ですか」
「化け猫に惚れるなんざ変態以外の何者でもねーよ」
「あんな素晴らしい女性になんてことを!」
「あ奴の種袋はなんてでかさじゃ! さぞかしわっちを愉しませてくれたろうに……! 疾ッッ」
「わぁ! 危ないっ! 宵様、こっちに飛ばさないで!」
「ちと避けられただけじゃ、気にするでない」
飛んできた風刃を水智はギリギリで避ける。宵と闇堕ちの一直線上に水智を置く位置取りを、わざわざ確保して技を放つあたり宵の執念は深い。
朔は、ほらみろと言わんばかりの顔で、闇堕ちと斬り結びながらその線上に誘導する。
宵は調子に乗って風刃を連発し、水智はあわあわ言いながらも危な気なく避けていたその時。
「――水智、やっと見つけた」
まったりとこびり付くほどに妖艶な声がした。
ぞくりと肌を粟立たせる声に、朔と宵は大きく飛び退って距離を取る。
見れば、艶やかな髪を緩やかに波立たせ、深い紫色で天鵞絨地の南蛮渡来の着物を着た、二十代後半程の女だった。
乳は宵よりも大きく突き出し腰から太股も張っていて、むっちりと体の線に張り付いた着物で色気が滴るようだ。大きな垂れ目の瞳を半眼にして潤み、唇は誘うようにぽってりとしている。宵とはまた違う魅力で男好きしそうな女だった。
そしてもう一人、十五才に届くか位の少女で、勝ち気そうな瞳を持ち、巻かれた赤毛を二つ結びにして、こちらも南蛮渡来の着物を着ていた。茶味がかった赤色の膝上丈の裾の広がった腰巻に、友布の短い羽織り、その下には白い縁取りのついた中衣、足元もころんとした革の長履物を履いていた。
「水智、なに遊んでるのー?」
「赤、紫……何故ここに?」
「お母様がお前をお呼びなの。今、体が空いてるのが私しかいなかったってわけ。
それから水智、紫乃お姉様と呼びなさいね?」
「赤じゃなくて紅子! 超探したんだから! ――次はないから」
「紅子は頼んでないわよ、勝手に種探しについてきただけでしょう」
「だってだって、梦瑳祠中の良い男はお姉さま方に食べられてしまったんだもの~」
「そんなことないわよ。日廼本ノ国一番の都はそんなに狭くないわ」
「銀子だって孕んだんだよ、みんなずるいよぉ」
「紅子あなた、男を見る目が鈍いのではなくて?」
「そんなことないよ! 銀子と一緒だもん!」
「あら、そういえば貴女達、いつも二人で一人とだったわねぇ。……それが原因じゃないかしら?」
「ええ!? どうして!?」
不思議な事に闇堕ちまでもが、この場違いな女達を注視しているように止まっていた。人か闇堕ちか、どちらの本能が作用しているのかはわからない。
「黒斗は?」
感情の乗らない声で水智が訊いた。二人は会話をぴたりと止め、片眉を僅かに上げる。
「黒斗がいないから水智が呼ばれるのでしょ。
いなくなるのはしょっちゅうだけど、今回は長くて困ってしまったの。そうでなければ、どうして私がこんなところまで」
「でもでも紫乃お姉様っ。ここまで来た甲斐があったじゃん? まだ美味しそうなの集まりそうだし」
異装の二人がねっとりと周りを見渡す。少女はゆっくりと舌舐めずりし、女は値踏みするように半眼で睥睨した。
そして朔のところで目を留め、二人とも目を見開いた。少女の小さな唇が小さく動く。
「……黒斗……?」
朔は二人に見据えられて毛羽立つ項を捩じ伏せ、ゆっくり静かに、深く呼吸を整えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる