文字の大きさ
大
中
小
41 / 41
奥書
〈アルファポリス版奥書〉
○この作品は、2017年6月から2018年7月にかけて、小説投稿サイト「カクヨム」に掲載したものが初出。
○カクヨムでは、「歴史・時代・伝奇」という分類は用意されているものの、あまりきちんとした基準が設けられているという感じではなく、歴史ものでは参加できるコンテストもほぼ開催されていない。そこで、アルファポリスで第五回の歴史・時代小説大賞が行われる機会に、少し手直しをして参加することとなった。
○完成させてから時間が経ってみると、自分の文章がとても下手に思え、全面的に直したいような気もしたけれども、時間が足りないことと、文体だけ整えて興を殺ぐ虞れを感じたので、最小限の修整にとどめた。
○作品中、中国語の地名や人名には、主に中古音の推定音価を参考にして読みを付けた。中国語の発音は、近世以降にかなり変化しているので、現代音では昔の感じが出ない。たとえば今の北京の人に「リーベンレン」と呼ばれても日本人はピンと来ないけれども、中世の長安に行けば「ニップォンニン」乃至は「ジップォンジン」といった風の音を聞くことができたはずだ。
○しかし昔の中国語の複雑な音を、現代日本語のカナに写すというのは、なかなか難しい所がある。和式字音の呉音や漢音は、昔の日本人が実際に耳で聞いて音訳したものなので、これも参考にはしたが、それには日本語の変化も十分に理解していなければならない。音韻と音声の違いも考慮する必要がある。初出時よりは、少しは理解を進めたつもりなので、今回の掲載に当たって整理をしたものの、やはり結局は小説という括弧が付くのに甘えたことは否定しない。
○歴史を扱うことに関しては、私は大学で専攻したわけでないとはいえ、それなりに矜恃がある。その由源は、祖父から受け継いだもので、古びた謂い方をすれば家学と言っても良い。
○かつて祖父が他界した時に、蔵書がおそらく二~三百冊は遺されていた。四十九日にもならない頃、父は近所の安っぽい古本屋を呼んで、それを売り払おうとした。私は当然自分がもらうものだと思っていた(祖父との黙契による)ので、売り渡される前の晩に、棚から良さそうなものを選んで、抜き取っておいた。それが百数十冊あり、1950年代から90年頃に出版された、日本古代史に関係するものが多い。祖父は大正末年生まれなので、敗戦後の解放感にあふれた学問を、若い感性で呼吸することができた。
○この蔵書が、私には長い間の宿題になった。一つ一つ追って読んでいくと、祖父は本をつまみ食いしていたのではなくて、ある問題意識を持って買い求めていた足跡をつかむことができた。そこで私はそれをさらに追いかけて、穴のある所を埋めていかなければならなくなった。そのために足りない書籍を博捜し、読んでは考え、考えてはまた渉猟した。幸いにも近年、史料の電子化が進み、原文に触れることが容易になったおかげで、考証を深めることができた。
○特に、近代に至る文書を網羅する「維基文庫」や、古典の検索に便利な「中国哲学書電子化計画」に助けられている。
○この作品は、《三国志・魏書・東夷伝》の一部、通称“魏志倭人伝”を中心的な題材としながら、「卑弥呼」という字は、ほとんど使わなかった。これには、通俗的な印象に引かれることを避けるという目的があった。卑弥呼という名には、時には学者をも魅了するような、ロマンティックな俗説の手垢が、厚く纏わり付いている。しかし私の考証と想像は、それとは異なる人物像を導いたと思う。それに中国的慣習では、なじみの外国人には漢語風の綽名を付けるだろうから、張政を主人公にすれば姫氏王という呼称が必要でもあった。
○張政という人物は、歴史上にほとんど名前だけしか留めていない。本来なら名前さえ伝わらない所を、倭人との交渉に関わったことで記録された程度の存在に過ぎない。それで張政については、自由にその性格や人生を想像することが許されたが、これも当時の楽浪地方の人にありうる限りを逸脱しないように気を付けた。なお「帯方太守張撫夷」の古墳は実在し、時代も近いとみられるが、それが張政の墓であるかどうかは本当は分からない。
○機会があればこの作品の題材に関する「考証篇」も書いてみたい。
○表紙画像は Pixabay License のもとで公開されている写真作品『金黄海 日落(https://pixabay.com/images/id-2762553/)』を利用させていただきました。
○カクヨムでは、「歴史・時代・伝奇」という分類は用意されているものの、あまりきちんとした基準が設けられているという感じではなく、歴史ものでは参加できるコンテストもほぼ開催されていない。そこで、アルファポリスで第五回の歴史・時代小説大賞が行われる機会に、少し手直しをして参加することとなった。
○完成させてから時間が経ってみると、自分の文章がとても下手に思え、全面的に直したいような気もしたけれども、時間が足りないことと、文体だけ整えて興を殺ぐ虞れを感じたので、最小限の修整にとどめた。
○作品中、中国語の地名や人名には、主に中古音の推定音価を参考にして読みを付けた。中国語の発音は、近世以降にかなり変化しているので、現代音では昔の感じが出ない。たとえば今の北京の人に「リーベンレン」と呼ばれても日本人はピンと来ないけれども、中世の長安に行けば「ニップォンニン」乃至は「ジップォンジン」といった風の音を聞くことができたはずだ。
○しかし昔の中国語の複雑な音を、現代日本語のカナに写すというのは、なかなか難しい所がある。和式字音の呉音や漢音は、昔の日本人が実際に耳で聞いて音訳したものなので、これも参考にはしたが、それには日本語の変化も十分に理解していなければならない。音韻と音声の違いも考慮する必要がある。初出時よりは、少しは理解を進めたつもりなので、今回の掲載に当たって整理をしたものの、やはり結局は小説という括弧が付くのに甘えたことは否定しない。
○歴史を扱うことに関しては、私は大学で専攻したわけでないとはいえ、それなりに矜恃がある。その由源は、祖父から受け継いだもので、古びた謂い方をすれば家学と言っても良い。
○かつて祖父が他界した時に、蔵書がおそらく二~三百冊は遺されていた。四十九日にもならない頃、父は近所の安っぽい古本屋を呼んで、それを売り払おうとした。私は当然自分がもらうものだと思っていた(祖父との黙契による)ので、売り渡される前の晩に、棚から良さそうなものを選んで、抜き取っておいた。それが百数十冊あり、1950年代から90年頃に出版された、日本古代史に関係するものが多い。祖父は大正末年生まれなので、敗戦後の解放感にあふれた学問を、若い感性で呼吸することができた。
○この蔵書が、私には長い間の宿題になった。一つ一つ追って読んでいくと、祖父は本をつまみ食いしていたのではなくて、ある問題意識を持って買い求めていた足跡をつかむことができた。そこで私はそれをさらに追いかけて、穴のある所を埋めていかなければならなくなった。そのために足りない書籍を博捜し、読んでは考え、考えてはまた渉猟した。幸いにも近年、史料の電子化が進み、原文に触れることが容易になったおかげで、考証を深めることができた。
○特に、近代に至る文書を網羅する「維基文庫」や、古典の検索に便利な「中国哲学書電子化計画」に助けられている。
○この作品は、《三国志・魏書・東夷伝》の一部、通称“魏志倭人伝”を中心的な題材としながら、「卑弥呼」という字は、ほとんど使わなかった。これには、通俗的な印象に引かれることを避けるという目的があった。卑弥呼という名には、時には学者をも魅了するような、ロマンティックな俗説の手垢が、厚く纏わり付いている。しかし私の考証と想像は、それとは異なる人物像を導いたと思う。それに中国的慣習では、なじみの外国人には漢語風の綽名を付けるだろうから、張政を主人公にすれば姫氏王という呼称が必要でもあった。
○張政という人物は、歴史上にほとんど名前だけしか留めていない。本来なら名前さえ伝わらない所を、倭人との交渉に関わったことで記録された程度の存在に過ぎない。それで張政については、自由にその性格や人生を想像することが許されたが、これも当時の楽浪地方の人にありうる限りを逸脱しないように気を付けた。なお「帯方太守張撫夷」の古墳は実在し、時代も近いとみられるが、それが張政の墓であるかどうかは本当は分からない。
○機会があればこの作品の題材に関する「考証篇」も書いてみたい。
○表紙画像は Pixabay License のもとで公開されている写真作品『金黄海 日落(https://pixabay.com/images/id-2762553/)』を利用させていただきました。
感想 0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】上海新選組 原田左之助 山崎烝 明治冒険譚 ──Shanghai samurai dad&son──
小海倫明治。死んだはずの新選組十番隊長・原田左之助は、大陸の租界・上海にいた。
その傍らには、京都新選組時代の諜報に利用し、奇怪な家伝の秘薬の副作用で幼い子供の姿となってしまった元新選組監察・山崎烝。
二人は偽りの「実業家 松山誠親子」として暮らしながら、大陸の租界を彷徨い、謎を追う──
洋装で槍を振るいつつ【坂本龍馬殺害】の濡れ衣に追われる原田。
大人の意識を保ち、手には武器の毒針、推理に鋭い頭脳を働かながら、肉体が少しずつ幼くなっていく恐怖に怯える山崎。
租界都市・上海からサイゴン、漢口。
そして天津での「ラスボス対決」へ。
果たして彼等2人を追うラスボスとはいったい誰なのか?
過去の史実エピソードやアクション、ミステリー要素を含めた新選組の生き残りたちが辿る、歴史伝奇冒険譚!
永倉新八、土方歳三も登場。
完結済。
黄金の艦隊 マネー・パワーで歴史を変える男
俊也「平和を金で買えるなら、それに越したことはない。
戦争が避けられないなら、せめて日本が負けない力を金で買おう」
1930年代より世界経済の混乱に乗じて自らの海運会社を急成長、新興財閥を立ち上げた男の、重課金架空戦記!??
姉妹作
「零戦戦記」
「総統戦記」
も、よろしくお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日露戦争の真実
蔵屋 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この小説は第12回歴史・時代小説大賞のエントリー作品です。
どうか皆様のご支援をお願い申し上げます。
また、この作品を最後までお読み頂き、皆様のお役に立てれば幸いです。
蔵屋日唱