【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん

文字の大きさ
25 / 50
第二章

第25話 猫のお泊り会

しおりを挟む
 マンション裏手のコインパーキングに停めてあった佐々木の車はホンダの軽自動車。赤茶色っぽい半艶の色であまり見かけない色だな。猫用品を後ろに積み込み、後部座席にナルのキャリーバックと一緒に乗り込む。俺はあまり車に詳しくないが、軽自動車と言うのはもっと狭いものだと思っていた。

「この座席、ゆったりしてるんだな。軽とは思えんな」
「そうでしょう。最近はこういう車も多いんですよ」

 佐々木専用の車じゃなくて弟さんも借りて乗るそうで、友達を乗せたいと言う弟さんの意見でこの車を選んだそうだ。

「佐々木だったらもっと派手な色を選ぶと思ったが、落ち着いた色なんだな」
「真っ赤な車と迷ったんですけどね。普段乗りするんで、このチョコレート色にしたんですよ。カワイイでしょう」

 この色がカワイイかどうか俺には分からんが、余り男が選ぶような色ではない感じだな。
 俺は座席の横に置いたキャリーバッグの中のナルをあやしながら聞く。

「座席は広いが、早瀬さんが乗って来るとなるとちょっと狭いか」
「早瀬さんは先に家に来てもらってるの。大人三人と猫二匹はさすがに狭いもの」

 まあ、乗れん事もないだろうが、その方がいいだろうな。佐々木の家には自家用車がもう一台あるそうだが、今日は父親が使うそうで、借りられなかったと言っている。

「佐々木。今日ナルを連れて行くが、もしかすると喧嘩になるかもしれんぞ」

 前に預かったシャウラとは大喧嘩をしたみたいだしな。

「ええ、結構ですよ。そういうのもマラカのいい経験になると思いますので」

 まだ仔猫だし、本来なら親や兄弟の猫から教えてもらう事を経験させたいと言っている。マラカは親兄弟が周りにいない中、一匹で道を歩いているところを拾われたらしい。確かに他の猫と触れ合う事はいい事かもしれんな。

 俺のマンションから佐々木の家までは、三十分も走れば着くそうだ。本線が三車線と側道が二車線の片道五車線ある府の中央を南北に走る幹線道路、ここを北に走って行く。今日は道も空いていて早く着いたその家は、住宅街に建つ三階建てのおしゃれな住居で小さな庭まである。
 車をカーポートに入れて佐々木に案内されるまま家の中に入る。

「こんにちは。篠崎さんですね。娘の美香がいつもお世話になっています」

 佐々木のお母さんが出迎えてくれた。佐々木とは違って小柄で落ち着いた感じの奥さんだ。物腰も柔らかく声のトーンも佐々木に比べれば低い。娘の我がままに付き合ってもらって申し訳ないと言われた。

「いえ、いえ。こちらこそ仕事でいつも助けてもらっていますから。良くできた娘さんですよ」

 佐々木はキャピキャピしているが優秀な人材であることに間違いはない。いつもは口にしない佐々木の評価を聞いてか、少し照れたように俺を階段に方に案内する。

「あたしの部屋は三階なの。班長、さあ早く来てくださいよ」

 案内された三階の部屋の中では、早瀬さんがクッションに座わってシャウラとマラカが遊んでいるのを見守っていた。

「こんにちは、篠崎班長。割と早く着いたんですね、佐々木先輩」
「うん、道が空いてたからね。班長、ナルちゃんを外に出してくれますか」

 キャリーバッグの入口を開けると、ナルはゆっくりと警戒しながら部屋の中に歩み出る。暴れる様子はないようだな。ナルを見てシャウラが近寄って来て頬ずりする。一緒に遊んでいたマラカも近づいて来た。
 生後半年の仔猫、人間だと十二、三歳だというが小さな体だな。成猫せいびょうであるナルを少し警戒しているようだが、見境なく喧嘩をしてくるような猫には見えないな。マラカを見てナルが暴れたり、喧嘩しそうなら止めれるように身構えていたが大丈夫そうだ。

「ミャー」とナルが鳴き床に腰を下ろす。シャウラが寄り添い、それにつられてマラカもナルの傍に付く。ナルはそんなマラカの体を舐めて毛づくろいしてあげている。

「三匹とも仲がいいようで安心しました」

 早瀬さんもどんな反応をするか心配で両膝を突いて見守っていたようだが安心して座り込む。佐々木もマラカの様子に安心したようだ。

「マラカはまだ仔猫だから、ナルちゃんを母親みたいに思ってるのよ」

 ナルは子供を産んだことはないはずだが、仔猫を見慣れているのか、本能として仔猫は守るべき存在と感じているのかマラカをすぐに受け入れたようだな。
 しばらくはマラカとシャウラとじゃれ合っているようだが、マラカが噛みついたのか、シャウラが声を上げて噛みつき返した。喧嘩のようになっているが、じゃれ合いの範疇はんちゅうだろう。ナルも座ったまま二匹を見守っている。

 一頻り暴れ回ったら、二匹がナルの傍に来て体を寄せ合って毛づくろいの後、眠ってしまった。

「このままで大丈夫そうね。班長、下のリビングでお茶を用意しますね」
「そうだな。ナル、その二匹を頼むぞ」

 ナルの背中を撫でると「ミャー」と鳴いて二匹を守るように丸まった。俺たちは佐々木に付いて二階に降りる。

「今日はありがとう。マラカにはいい経験になったわ」
「そうですね。シャウラにもいいお友達ができたようですし、良かったです」
「ナルも落ち着いてそうだし、明日までここに居ても大丈夫だろう」

 ナルもシャウラも今晩一晩佐々木の家に泊めて、明日俺の家までナルを連れてきてくれる事になった。

「ねえ、早瀬さんは今日ここに泊まっていきなよ。帰っても一人なんでしょう。お母さんの料理すごく美味しいの、食べていってよ」
「ご迷惑じゃないですか」
「大丈夫、大丈夫」

 早瀬さんもシャウラの事が気になっているようだし、俺も猫に慣れている早瀬さんに居てもらった方が安心だ。
 泊まるなら着替えなど用意したいと、一緒に佐々木の車に乗って早瀬さんのマンションに寄ってから、俺を家に送ってくれた。

「篠崎班長、それじゃあまた。明日のお昼頃にはナルちゃんをお返ししますので」

 そう言って佐々木は帰っていった。

 今晩は俺一人か。ナルが居なくても寂しくはないぞ。寂しくなんてないんだからな。俺は涙をこらえて天井を見上げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...