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第7章 新たな種族
第66話 転生者4
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「すごいわね。本当に飛んでいるわ」
飛行機でもない簡素な木の箱が空を飛んでいる。でも箱の先端は流線形になっていて、側面には小さな水平尾翼と背面に垂直の板。
単なる木の箱と思ってたけど、遊園地にある子供が乗る飛行機のようにも見える。尾翼で機体を安定させている科学的な作りになっているわ。
「アルディアお姉ちゃん……」
「大丈夫よ、キルーア。これはちゃんと飛ぶようにできているわ。怖くないから安心してね」
後ろに座るキルーアに手を伸ばすと、その手をギュッと握り締めて落ち着いたようね。二時間程飛んだ後、到着した場所は人家のある広い村。ここが眷属の里?
「今はね、リビティナもネイトスも出かけていて留守なの。しばらくは私と一緒に住んでもらうわね」
そう言って私達が住むと言う家に向かう。その途中、人間の女の人とすれ違って挨拶してくれた。やはりここは魔族が住む村なのね。
「さあ、上がって頂戴。あっ、靴は玄関で脱いでね。お茶とお茶菓子を用意するわね」
「あの、キルーアは王国の専門の病院に連れていくと言われていたんですけど。ここは魔国ですよね」
スリッパに履き替えて食堂に案内してもらいながら、気になっていた事を聞いてみる。
「白子の子はみんな、ここで預かってるわよ。ここは元々王国で、辺境伯様の領地だったの。だから今でも辺境伯様が白子の子供を集めて、ここに送ってくれるのよ」
「魔族の人も白子も同じ人間だからという事でしょうか」
「そうよ、よく知っているわね。あなた眷属になりたいんでしょ。眷属になれば、他の人と同じ人間の姿になれるわよ」
やはりそうなのね。でも良かったわ、これで私も元の人間の姿になれるんだわ。
「でも今、リビティナが居ないから、帰って来てからになるわね」
「そのリビティナという方がヴァンパイアの魔王様なのでしょうか」
「そうよ。でも魔王って呼ぶと怒るから、リビティナって呼んであげてね」
その話を聞いていたキルーアが、私の方を見上げて聞いてくる。
「アルディアお姉ちゃんも、ここに住むの。あたしと一緒に居てくれるの?」
「そうね。ここに魔族の人がいるなら、私もここで暮らすわ。キルーアと一緒に居るわよ」
そう言うと、花が咲いたような笑顔になって私に抱きついてきた。
「キルーアはまだ小さいから、眷属の家族の人と一緒に住むことになるけど、それもリビティナが帰って来てからね。それまでは、一階の診療室の部屋で寝泊まりしてくれたらいいわ」
伯爵様の屋敷に置いてきた荷物も、後から馬でここまで運んでくれるそうだ。案内された部屋には電気の照明があった。電子式の面照明じゃないけど文明を感じるわ。それに水道やお風呂まである。前世を知っている人がいるのは間違いないわ。
その日はこの世界に来て初めてぐっすりと眠れた気がした。
翌朝は早くに起きてしまった。まだ朝日が昇ったばかりで、キルーアもまだ眠っている。朝の空気を吸おうと着替えて家の外に出てこの眷属の里という場所を眺める。
「あの高い塔は何かしら」
曲線を描いた柱の上に白い円筒形の設備。その上で何かが動いている。よく見ると昨日私達を運んでくれたロックバードかしら。あそこが巣になっているようね。塔まで行ってみようと歩き出す。
「貴様! 何者だ」
突然、背後から鋭い声が私に突き刺さる。女の人だけど、これが殺気のこもった声というのだろうか、下手に動けば殺さねかねない雰囲気だわ。ゆっくりと両手を上げながら背後の人に声を掛ける。
「あ、あのね、昨日エルフィが私をここに連れてきてくれたのよ。あそこにいる大きな鳥に引っ張られて……」
「客人であったか」
声が和らいで、ゆっくり振り向くと若い女の人が構えていた短剣を降ろし名を名乗った。
「ここは隠れ里。見知らぬ者であれば警戒もされるぞ」
「そうね、ごめんなさい。あなたは魔族の人ですよね、少し質問してもいいかしら。木星とか土星と言うのを知っていますか?」
「モクセイ……花か何かの名前か? あいにく薬草には詳しくなくてな」
隠している素振りもない。このメルーラと言う人は転生者じゃないようね。
里の者に紹介されるまで、一人では出歩かないほうがいいだろうと家まで送ってくれた。
首都で恐れていた暴漢に私が間違われるなんて、なんて皮肉かしら。ここの人は武器を持たない私よりも弱いと言う事なのね。
「エルフィ、起きているか~。あいつはいつも朝が遅いからな。朝飯は自分で作った方が早いぞ、今年採れた米もあるはずだ」
えっ、お米があるの! 商売で各地の物産を扱うけど、お米だけはどこを探しても無かったのに。かまどの辺りを探すとお味噌まであるじゃない。
「どうだ、作り方は分かるか」
「ええ、これなら作れるわ」
こっちの世界で料理はあまりしたことがないけど、この旅でキルーアのためにかまどで料理はしてきた。お米の炊き方ぐらいは知っているし、一人でも作れるわ。
どこに何があるかを教えてもらった後、メルーラは自分の家へと帰って行った。
お米を炊いて、もうすぐご飯ができる頃に、診療室のベッドにキルーアを起こしに行く。
「お姉ちゃん、ここどこ~」
まだ寝ぼけているようね。
「もうすぐご飯ができるからね。着替えたら食堂まできなさい」
そう言ってかまどに戻り、味噌汁をテーブルに置いていく。
「あら、朝食を作ってくれたの。ありがとう」
エルフィも起きてきたようだわ。三人で囲む食卓。なんだか懐かしいような、今まで家で食べていた食事とは全く違う。私にはこっちの方が馴染む感じだわ。
飛行機でもない簡素な木の箱が空を飛んでいる。でも箱の先端は流線形になっていて、側面には小さな水平尾翼と背面に垂直の板。
単なる木の箱と思ってたけど、遊園地にある子供が乗る飛行機のようにも見える。尾翼で機体を安定させている科学的な作りになっているわ。
「アルディアお姉ちゃん……」
「大丈夫よ、キルーア。これはちゃんと飛ぶようにできているわ。怖くないから安心してね」
後ろに座るキルーアに手を伸ばすと、その手をギュッと握り締めて落ち着いたようね。二時間程飛んだ後、到着した場所は人家のある広い村。ここが眷属の里?
「今はね、リビティナもネイトスも出かけていて留守なの。しばらくは私と一緒に住んでもらうわね」
そう言って私達が住むと言う家に向かう。その途中、人間の女の人とすれ違って挨拶してくれた。やはりここは魔族が住む村なのね。
「さあ、上がって頂戴。あっ、靴は玄関で脱いでね。お茶とお茶菓子を用意するわね」
「あの、キルーアは王国の専門の病院に連れていくと言われていたんですけど。ここは魔国ですよね」
スリッパに履き替えて食堂に案内してもらいながら、気になっていた事を聞いてみる。
「白子の子はみんな、ここで預かってるわよ。ここは元々王国で、辺境伯様の領地だったの。だから今でも辺境伯様が白子の子供を集めて、ここに送ってくれるのよ」
「魔族の人も白子も同じ人間だからという事でしょうか」
「そうよ、よく知っているわね。あなた眷属になりたいんでしょ。眷属になれば、他の人と同じ人間の姿になれるわよ」
やはりそうなのね。でも良かったわ、これで私も元の人間の姿になれるんだわ。
「でも今、リビティナが居ないから、帰って来てからになるわね」
「そのリビティナという方がヴァンパイアの魔王様なのでしょうか」
「そうよ。でも魔王って呼ぶと怒るから、リビティナって呼んであげてね」
その話を聞いていたキルーアが、私の方を見上げて聞いてくる。
「アルディアお姉ちゃんも、ここに住むの。あたしと一緒に居てくれるの?」
「そうね。ここに魔族の人がいるなら、私もここで暮らすわ。キルーアと一緒に居るわよ」
そう言うと、花が咲いたような笑顔になって私に抱きついてきた。
「キルーアはまだ小さいから、眷属の家族の人と一緒に住むことになるけど、それもリビティナが帰って来てからね。それまでは、一階の診療室の部屋で寝泊まりしてくれたらいいわ」
伯爵様の屋敷に置いてきた荷物も、後から馬でここまで運んでくれるそうだ。案内された部屋には電気の照明があった。電子式の面照明じゃないけど文明を感じるわ。それに水道やお風呂まである。前世を知っている人がいるのは間違いないわ。
その日はこの世界に来て初めてぐっすりと眠れた気がした。
翌朝は早くに起きてしまった。まだ朝日が昇ったばかりで、キルーアもまだ眠っている。朝の空気を吸おうと着替えて家の外に出てこの眷属の里という場所を眺める。
「あの高い塔は何かしら」
曲線を描いた柱の上に白い円筒形の設備。その上で何かが動いている。よく見ると昨日私達を運んでくれたロックバードかしら。あそこが巣になっているようね。塔まで行ってみようと歩き出す。
「貴様! 何者だ」
突然、背後から鋭い声が私に突き刺さる。女の人だけど、これが殺気のこもった声というのだろうか、下手に動けば殺さねかねない雰囲気だわ。ゆっくりと両手を上げながら背後の人に声を掛ける。
「あ、あのね、昨日エルフィが私をここに連れてきてくれたのよ。あそこにいる大きな鳥に引っ張られて……」
「客人であったか」
声が和らいで、ゆっくり振り向くと若い女の人が構えていた短剣を降ろし名を名乗った。
「ここは隠れ里。見知らぬ者であれば警戒もされるぞ」
「そうね、ごめんなさい。あなたは魔族の人ですよね、少し質問してもいいかしら。木星とか土星と言うのを知っていますか?」
「モクセイ……花か何かの名前か? あいにく薬草には詳しくなくてな」
隠している素振りもない。このメルーラと言う人は転生者じゃないようね。
里の者に紹介されるまで、一人では出歩かないほうがいいだろうと家まで送ってくれた。
首都で恐れていた暴漢に私が間違われるなんて、なんて皮肉かしら。ここの人は武器を持たない私よりも弱いと言う事なのね。
「エルフィ、起きているか~。あいつはいつも朝が遅いからな。朝飯は自分で作った方が早いぞ、今年採れた米もあるはずだ」
えっ、お米があるの! 商売で各地の物産を扱うけど、お米だけはどこを探しても無かったのに。かまどの辺りを探すとお味噌まであるじゃない。
「どうだ、作り方は分かるか」
「ええ、これなら作れるわ」
こっちの世界で料理はあまりしたことがないけど、この旅でキルーアのためにかまどで料理はしてきた。お米の炊き方ぐらいは知っているし、一人でも作れるわ。
どこに何があるかを教えてもらった後、メルーラは自分の家へと帰って行った。
お米を炊いて、もうすぐご飯ができる頃に、診療室のベッドにキルーアを起こしに行く。
「お姉ちゃん、ここどこ~」
まだ寝ぼけているようね。
「もうすぐご飯ができるからね。着替えたら食堂まできなさい」
そう言ってかまどに戻り、味噌汁をテーブルに置いていく。
「あら、朝食を作ってくれたの。ありがとう」
エルフィも起きてきたようだわ。三人で囲む食卓。なんだか懐かしいような、今まで家で食べていた食事とは全く違う。私にはこっちの方が馴染む感じだわ。
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