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第11章 空の神

第112話 移住者1

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 春になり、里の畑に作物を植え始めた頃。南部の教国との国境付近で問題が発生したようだとネイトスが教えてくれた。

「ヘブンズ教国の国民が、魔国に移住したいと押し寄せているようですね」
「手続きしてくれれば、ボクとしては何人移住してもらってもいいんだけどね」

 南部地方で作物を増産するため、新しい村を作らないといけない。人手は何人あっても足りないくらいだ。

「ところが、それを阻止しようと国境近くの教団と争いになっているようなんですよ」

 魔国の南端、教国でいうと東部地方。先の帝国との戦争で教団が兵士を送り込んできた地方だ。報告によると国境検問所に入ろうとする住民を追い返しているそうだ。

「教国内の事だからね。直接手出しはできないけど、何とかしたいね」

 外交に関する事ならエリーシアとも相談したほうがいいかな。

「外交的にヘブンズ教国との間では、移住は自由となっていますわ。罪を犯していないなど一定条件はありますが、検問所で審査して移住してもらっています」
「出国の方は割と簡単ですぜ。犯罪歴と身元の確認をして、各領地で登録している名簿から削除するだけですからね」

 あらかじめ書類を作っている人でも、移住希望者は教国側の国境検問所を通らないといけない。それを教団が邪魔していると……。

「でもなぜなんだろうね。貿易品を扱う商人は通常通り通過させているんだろう」
「そうですわね。宗教に関わる事かもしれませんが、よく分りませんね」

 邪魔しているのが教団関係者みたいだし、少し事情を探る必要があるかな。


「という訳で、教国の人達の話を聞いて来てほしいんだよ」
「アタシがですか?」
「マリアンヌなら宗教の事にも詳しいし、教国の事情も理解しているからね」
「はい、分かりました。リビティナ様のお役に立てるように頑張ります」

 エルメスの都にいる、マリアンヌに国境を越えてどういう状況か見て来てもらおう。今はちょうど春休みだし、勉学にも影響はないだろう。
 そのお願いにマリアンヌは喜び勇んで、すぐにでも国境に行きたいと弾んだ声が通信機から聞こえる。

 もちろん護衛も付けるし、魔国内のヘブンズ教の人達と一緒に行ってもらう準備もしている。マリアンヌなら移住したいという人も、それを阻止している教団からも穏便に話が聞けるだろう。


 そして十日が過ぎ、調査をしてくれたマリアンヌから報告が入った。

「魔国に移住したいという人は、大聖堂の壁画の事を知り眷属になりたいと言っていました。アタシと同じ考えの方々です」

 そんな住民三百人ほどが、国境近くの町で足止めされているらしい。
 教皇庁が出した見解だと、神の姿は壁画に描かれた人間の姿だと認めている。獣人のウエノス神の他にも血族の神が存在し、大陸に広がる他の種族の神になっているとしている。

 ヘブンズ教国が建国する以前、魔王による統治が行なわれていた時期がある。古来より獣人の聖地であったこの地に、種族に無頓着な魔王が自らの知る四人の神を大聖堂に描いたとしている。あの壁画には魔王しか知り得ない技術が使われているそうだ。
 これらの事からアグレシアは古来より獣人の聖地であり、国際的な問題はないと教皇庁が発表した。

「教皇様が神の姿を認められ、民衆の間で魔国に行けば神様になれるとの噂が広まっているようです」
「じゃあ、それを邪魔している教団というのは、どういった人達なんだい」
「この東方地区を任されているガランド大司教様に近い教団の方で、原理主義者の方ですね」

 今の教皇は穏健派で神の教えを広げようとしているけど、原理主義者は神そのものを祀る偶像崇拝者のようだね。

「その教団の人は、魔国に行っても神の姿には成れない。眷属はまやかしで、偽者だと言って説得しています」
「暴力を振るっている訳でもないんだね」
「街道に独自の検問所を作り、出国者を監視していますが、魔王に騙されるなと説得している感じですね」

 教団関係者の話では、眷属は白子などの病気の者を集めただけで、獣人が魔国に入っても眷属の姿になれないと言っているそうだ。確かに今でも白子の子供を受け入れているから、その噂を聞きつけたんだろう。
 騙されて魔国に移住すれば、奴隷のように働かされるから止めるようにと説得しているそうだ。
 この地方の軍事部門は戦争で壊滅しているはずだ。力でねじ伏せる事もできないでいるんだろう。

「リビティナ様。提案なのですが、みんなの前でアタシを眷属にしてもらって、その様子を見せるのはどうでしょうか」

 眷属化を公開し本当の事を知れば、争いも無くなるという事か……。実際に眷属と会っているのは国の偉いさんだけだ。見も知らぬ噂ばかりが独り歩きしている感じだからね。

 マリアンヌの話を聞いたリビティナは、里のみんなにも意見を聞こうと集会場に眷属を集めた。

「まだ十四歳になったばかりのマリアンヌを晒し者のように扱うのは、いかがなもんですかね」
「ネイトスさん。これは本人から提案したことですし、魔国に移住する人が増えるならいいんじゃないでしょうか」

 アルディアは前から、魔国内で眷属である人間を増やすべきだと言っているからね。南部地方に新たな眷属の里を建設しようと主張する。

「噂は教国内の広い地域で広まっているようですわね。これからも移住したいと押し寄せてくる人は大勢いるでしょう。争いが大きくなる前に対処した方がよろしいかと」

 この際だから、眷属になれば魔法が使えなくなるとかも含め、正確な情報を開示した方がいいとエリーシアは言う。

「そうだね。魔国に行けば神様になれて、権力が手に入ると変な噂が立つのも困るしね」

 移住したいという住民の中には、力や権力欲しさに来た冒険者や下級貴族もいたようだ。

「もう少しマリアンヌと話して、本人が納得したら眷属化を公開しようか」


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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。

本編に関連した外伝の宣伝です。
「転生ヴァンパイア様-外伝 ~先代魔王の国~」(全14話)を以前に投稿しています。(元は本編の話を分離して外伝化した物です)
既にお読みの方もおられると思いますが、興味あのある方は読んでいただけると本編をより楽しめると思います。

本編共々、よろしくお願いいたします。
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