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第11章 空の神
第118話 空の神4
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「君達人類は遥か昔に絶滅しているじゃないか」
人類が絶滅!! どういうことだ。
「そ、それじゃ、私の故郷のエウロパは……太陽系はどうなったんですか」
「太陽の寿命が尽きて、巨大化した赤色巨星となって地球が飲み込まれたのは覚えているかい。その後、木星圏の人類も滅んでしまったよ」
何という事だ! 前世だと思っていた記憶は既に滅んだ人類の記憶だったなんて。夜空に輝く母星と呼ばれる赤い星、あれが今の太陽系の姿だと言う。
「私達が太陽系を離れたのは、もう百五十万年前の話だよ。こうなる運命は分かっていたからね」
一部の人達が一千二百光年を越えるこの星まで、長い年月をかけて移住して来たのだと説明された。生身の人間がそんな旅に耐えられるはずもなく、冷凍された受精卵と記録された神経回路のデータを持ち、この惑星まで来た歴史を椅子に座る彼女が語る。
確かに当時の科学技術ならば可能かもしれない。それにしても……。
「ここに来た者達はどうなった。今、人間と呼べるのはボクの眷属だけなんだけど」
「一部の人達は獣人や妖精族に姿を変えて地上に降りたよ。そのアフターサービスとして君達ヴァンパイアが居るんだろう」
アフターサービス?
一段高い場所に座る女性が椅子の手元で何か操作をすると、床から円柱のような物がせり上がった。その上面の口が開き十センチ四方のキューブ状の物体が現れた。
「それが遺伝子操作する装置でね。君達ヴァンパイアの原形となった物だよ」
これがヴァンパイアの原形だって!! こんな小さな箱が。
「私もここの管理者として新米なんでね、ここ三十年ほど修行している身なんだよ。それを作るのも修行の内でね。まあ、今ではリビティナ君のスペアであるヴァンパイアの素体も作れているから安心してくれ」
「ボクのスペアとはどういうことだい。ヴァンパイアは唯一無二の存在じゃなかったのかい」
「まあ、体は不死身なんだけどね。長くて五百年程で死んじゃうんだよ、自殺などしてね。サービスを途切れさせないように予備を造っているんだよ」
肉体ではなく、長く生きると精神的に不調をきたして自ら死を選ぶらしい。先代のヴァンパイアも五百十三歳で亡くなったと記録されているそうだ。その代わりが今のリビティナだと。
「もっと小さいけど、君の体の中にもそのキューブと同じ物があってね。それを起動させて、アルディア君のように人間に戻りたいと言う者達の希望を叶えるんだよ」
そのためにヴァンパイアが存在すると……。
「昔は、そのキューブを地上に置いていたんだけどね。知らずに動作させて死んでしまう事故や、悪用する事件が頻発してね、箱の周辺にAIをくっ付けたり改造してきたんだよ。でも正確に人間に戻りたいという意思を確認するには、君のような知能を持つ有機生命体と機械の融合体の方が都合が良くてね」
原形のこの装置の周辺に生体部品を取り付けて改良していくうちに、リビティナのようなヴァンパイアになったと語る。
――すると、ボクはただの機械の延長線として産まれたのか……。
「まあ、だからスペアのヴァンパイアの体内にあるナノマシンを調整すれば、君達の言う人間用の外殻遺伝子を埋め込むことも可能になる」
「リビティナ様のクローンという事ですか」
「素体は別の人の受精卵から作っているから、同じじゃないよ。私の趣味ではあるんだけど、今度は男の子さ」
やはり、この者は自由自在にヴァンパイアの身体を造り出す事ができるんだね。そんな技術はこの星に来てから開発されたらしい。この世界の魔素に打ち勝つための技術だそうだ。
「だからね、リビティナ君。君の体も心も元人類のものなんだよ。それは私も同じでね。ただ私はランダムに選ばれた百人の統合された意識を持っている」
目の前の女性も不死身の身体を持ち、それは前任者の男も同じだそうだ。精神的にも強く、一万年近く生き続けるのだと言う。但しこの軌道ステーションの人工的な環境から外に出る事はできないようだね。
「ここは魔素粒子から完全に遮断されていてね。だからほら君も魔法が使えないだろう」
そう言われて指先に炎を灯そうとしたけど、魔法は発動しなかった。
「一人の人間が転生したというなら、リビティナ君が一番近いだろうね。記憶を持ち姿を変えて、最初に地上に降りた人も同じだったと聞いているよ。その人達も地上で新たな人生を謳歌したそうだ。君もヴァンパイアとしての人生を謳歌してくれたまえ」
ヴァンパイアの身体と、太陽系とは違う環境に馴染むため多少の記憶を消しているけど、リビティナの精神は過去の人類の心そのものだと言われた。
「君達の希望通り、人間用の外殻遺伝子を埋め込むように調整したヴァンパイアを地上に送るようにしよう。そうだね、後五、六日は地上の洞窟で待っていてもらえるかな」
様々な事を聞かされたリビティナとアルディアは、整理がつかないまま地上に向かうゴンドラに乗せられて、またあの洞窟へと戻っていく。
◇
◇
「さてと、これから忙しくなりそうだ。まずはスペアの調整からだね。まさかワタシの代で人間用の外殻遺伝子が手に入るとは思っていなかったよ。遺伝子が地上で進化するまでにはもっと時間がかかるはずだったんだけどね」
そう言ってリビティナから受け取った、ガラスの小瓶を興味深げに眺める。
「さて、それでは人類復興計画を始めるとしようか」
その笑みには今まで見せていた表情とは違い、どす黒いものが隠されていた。
人類が絶滅!! どういうことだ。
「そ、それじゃ、私の故郷のエウロパは……太陽系はどうなったんですか」
「太陽の寿命が尽きて、巨大化した赤色巨星となって地球が飲み込まれたのは覚えているかい。その後、木星圏の人類も滅んでしまったよ」
何という事だ! 前世だと思っていた記憶は既に滅んだ人類の記憶だったなんて。夜空に輝く母星と呼ばれる赤い星、あれが今の太陽系の姿だと言う。
「私達が太陽系を離れたのは、もう百五十万年前の話だよ。こうなる運命は分かっていたからね」
一部の人達が一千二百光年を越えるこの星まで、長い年月をかけて移住して来たのだと説明された。生身の人間がそんな旅に耐えられるはずもなく、冷凍された受精卵と記録された神経回路のデータを持ち、この惑星まで来た歴史を椅子に座る彼女が語る。
確かに当時の科学技術ならば可能かもしれない。それにしても……。
「ここに来た者達はどうなった。今、人間と呼べるのはボクの眷属だけなんだけど」
「一部の人達は獣人や妖精族に姿を変えて地上に降りたよ。そのアフターサービスとして君達ヴァンパイアが居るんだろう」
アフターサービス?
一段高い場所に座る女性が椅子の手元で何か操作をすると、床から円柱のような物がせり上がった。その上面の口が開き十センチ四方のキューブ状の物体が現れた。
「それが遺伝子操作する装置でね。君達ヴァンパイアの原形となった物だよ」
これがヴァンパイアの原形だって!! こんな小さな箱が。
「私もここの管理者として新米なんでね、ここ三十年ほど修行している身なんだよ。それを作るのも修行の内でね。まあ、今ではリビティナ君のスペアであるヴァンパイアの素体も作れているから安心してくれ」
「ボクのスペアとはどういうことだい。ヴァンパイアは唯一無二の存在じゃなかったのかい」
「まあ、体は不死身なんだけどね。長くて五百年程で死んじゃうんだよ、自殺などしてね。サービスを途切れさせないように予備を造っているんだよ」
肉体ではなく、長く生きると精神的に不調をきたして自ら死を選ぶらしい。先代のヴァンパイアも五百十三歳で亡くなったと記録されているそうだ。その代わりが今のリビティナだと。
「もっと小さいけど、君の体の中にもそのキューブと同じ物があってね。それを起動させて、アルディア君のように人間に戻りたいと言う者達の希望を叶えるんだよ」
そのためにヴァンパイアが存在すると……。
「昔は、そのキューブを地上に置いていたんだけどね。知らずに動作させて死んでしまう事故や、悪用する事件が頻発してね、箱の周辺にAIをくっ付けたり改造してきたんだよ。でも正確に人間に戻りたいという意思を確認するには、君のような知能を持つ有機生命体と機械の融合体の方が都合が良くてね」
原形のこの装置の周辺に生体部品を取り付けて改良していくうちに、リビティナのようなヴァンパイアになったと語る。
――すると、ボクはただの機械の延長線として産まれたのか……。
「まあ、だからスペアのヴァンパイアの体内にあるナノマシンを調整すれば、君達の言う人間用の外殻遺伝子を埋め込むことも可能になる」
「リビティナ様のクローンという事ですか」
「素体は別の人の受精卵から作っているから、同じじゃないよ。私の趣味ではあるんだけど、今度は男の子さ」
やはり、この者は自由自在にヴァンパイアの身体を造り出す事ができるんだね。そんな技術はこの星に来てから開発されたらしい。この世界の魔素に打ち勝つための技術だそうだ。
「だからね、リビティナ君。君の体も心も元人類のものなんだよ。それは私も同じでね。ただ私はランダムに選ばれた百人の統合された意識を持っている」
目の前の女性も不死身の身体を持ち、それは前任者の男も同じだそうだ。精神的にも強く、一万年近く生き続けるのだと言う。但しこの軌道ステーションの人工的な環境から外に出る事はできないようだね。
「ここは魔素粒子から完全に遮断されていてね。だからほら君も魔法が使えないだろう」
そう言われて指先に炎を灯そうとしたけど、魔法は発動しなかった。
「一人の人間が転生したというなら、リビティナ君が一番近いだろうね。記憶を持ち姿を変えて、最初に地上に降りた人も同じだったと聞いているよ。その人達も地上で新たな人生を謳歌したそうだ。君もヴァンパイアとしての人生を謳歌してくれたまえ」
ヴァンパイアの身体と、太陽系とは違う環境に馴染むため多少の記憶を消しているけど、リビティナの精神は過去の人類の心そのものだと言われた。
「君達の希望通り、人間用の外殻遺伝子を埋め込むように調整したヴァンパイアを地上に送るようにしよう。そうだね、後五、六日は地上の洞窟で待っていてもらえるかな」
様々な事を聞かされたリビティナとアルディアは、整理がつかないまま地上に向かうゴンドラに乗せられて、またあの洞窟へと戻っていく。
◇
◇
「さてと、これから忙しくなりそうだ。まずはスペアの調整からだね。まさかワタシの代で人間用の外殻遺伝子が手に入るとは思っていなかったよ。遺伝子が地上で進化するまでにはもっと時間がかかるはずだったんだけどね」
そう言ってリビティナから受け取った、ガラスの小瓶を興味深げに眺める。
「さて、それでは人類復興計画を始めるとしようか」
その笑みには今まで見せていた表情とは違い、どす黒いものが隠されていた。
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