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プロローグ
2.転生先はどこにする? ……って、選択の余地ないじゃん、これ
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死んだらガングロコギャル(死語)おねーさんが現れて、『君を転生させてあげよう』って言われました。
「いや、そうだけど。なに50文字以内にまとめているのよ?」
いや、話を整理しようかなって思っただけ。
「で、転生する? しない?」
このままだと、僕は30分くらいで消滅しちゃうんだよね?
「残念ながらね」
さてどうしたものやら。
確かに、病室から一歩も出ないまま魂ごと消滅っていうのはイヤだけど……
うーん、でも、僕の魂が転生したら同じように病気で苦しむんじゃないだろうか?
それならいっそのことこのまま消滅した方が楽かもしれないしなぁ。
「あ、それは大丈夫。次は君の体力パラメータを高く設定してあげるから」
体力パラメータ?
「うん、生まれながらの体力とか抵抗力とかそういうのね。もっとも、高く設定するにしても普通の人の2倍くらいの潜在能力を与えるだけだから、鍛えなければ活かせないけどね」
なるほど、神様が人間の生まれながらの能力とかそういうのを決めるんだ。
パラメータっていうのは、ゲームでいうと『HP』とか『ちから』とかのことかしら。
「うーん、まあ、そんなようなもんかな……実際には魂と肉体は密接に関連しつつも別物だけど……まあ、その理解でいいんじゃない?」
いいかげんだなぁ……
でもまあ、健康な体に生まれ変われるっていうのはすごくうれしい。
来世では病室の外に出られるってことじゃないか。
それに学校にも通えるかもしれない。
友達100人できるかな?
「うんっ、きっとできるよっ!!」
だとしたら転生するのも悪くない……
……あれ?
そこまで考えたとき、ふと思う。
……ってことは……僕が病気で生まれてきたのもおねーさんのせいってことじゃ!?
「……それは……確かにそういえるかもしれないけど、でもしかたがなかったんだよ……」
しかたがない?
僕の11年の苦しみを『しかたがない』ですませるつもりなのか!?
さすがに腹が立って、おねーさんをジッとにらむ。
「そうだよね、ゆータンが怒るのは当たり前だと思う。でも、神様も、すべての人間を健康に生み出すことはできないんだ。健康なスポーツマンも、障碍を持って生まれる人も、いろいろな人がいて初めて世界はバランスが保たれる……らしいし」
それで納得できると思う?
僕がにらむとおねーさんはシュンと肩を縮めた。
「できないよね……本当、ごめんね」
おねーさんは僕に向かって頭を下げた。
……この謝罪はウソじゃない……かな?
でも、やっぱり納得はできない。
僕はずっと苦しんだ。
窓の外の世界、テレビの向こうの世界にずっと行きたくて。
でも、行けなくて。
それがすごく悔しくて。
弟が産まれても会うこともできなくて。
お母さんやお父さんも苦しんだと思う。
僕の病気に気をもんで。
口には出さないけど、僕にかかる医療費だって相当だったはずだ。
そして、僕の病気が悪化したこの半年は、2人とも病室に顔も出さなくなった。
きっと、僕の病気に関わることに2人とも疲れたんだと思う。
だから……僕が死んで2人や弟はホッとしているかもしれない。
そのくらい、僕と家族は苦しんだんだ。
「……ごめんなさい」
おねーさんは僕を――僕の魂を両手で抱きしめた。
あったかい。
抱きしめられるのは初めてだ。
抵抗力がなかった僕には誰も直接触らないようにしていたから。
お医者さんや看護師さんが診察するときですら青白い防護服を着ていた。
生前、僕は人の肌に触れることすら許されなかったのだ。
死んで初めて人(神様だけど)のあたたかさを知ったなんて、なんだか変な話だよね。
「あたしには魂を創る力はないの……それはもっと高位の神様の役目。だから、ゆータンが産まれるときにどうにもしてあげられなかった。本当にごめんね」
じゃあ、おねーさんの責任じゃないってことじゃん。それなのになんで謝ったの?
「あたしのせいじゃなくても、あたし達神様の責任だから」
このおねーさんはいいかげんなようでいて、責任逃れだけはしないようだ。
それはきっとおねーさんが誠実だからだと思う。
うん、許そう。
少なくとも、おねーさんを恨んでもしかたがないことはわかったから。
「ありがとう」
おねーさんはそう言って、僕を離した。
「あたしには魂を創る力はないけど、転生させる力はある。1度もあたしの管轄からでたことがない魂しか無理だから、赤ん坊の魂以外は今回が初めてだけど」
え?
それって、どういうこと?
「あたしの管轄は5つの世界にあるの。でもその世界全てを管轄しているわけじゃないんだ」
そっか、健康な人なら移動するものね。
きっと日本だけとかかな?
「うーん、あなたの世界の場合、あたしの管轄は『あなたが入院していた病院の分娩室を中心とした半径500メートル圏内』だけよ」
狭っ。
管轄、狭っ!?
病院から出たことがない僕が言うのもなんだけどっ!!
それって、ほぼ病院の敷地内だけなんじゃ?
「しかも、見習い期間が終わったのが20年前で。これまではその2キロ圏内から1度も出ずに死んだのって、出産時に亡くなった赤ちゃんくらいくらいなものだったのよね」
そりゃあそうだ。
僕みたいに隔離された子もいただろうけど、一生っていうのは珍しいみたいだし、他の病院に移ることもあるだろう。
僕の場合は救急車を使っても、他の病院に移るだけで命に関わったらしいけど。
っていうか……それって、まだ見習い期間なんじゃ……?
「失礼ね!!! ちゃんと、神様免許を取得したわよっ!!」
神様免許!?
何!?
神様って免許制なの!?
司法試験ならぬ神様試験とかあるわけ!?
「あなたの魂が消滅するまで、あと20分くらいしか時間がないから、そこら辺は気にしない方針で」
気になるよ!?
すごく、気になるよ!?
……まあ、自分の魂が消滅するまでの時間だから仕方がないけど。
「で、結局、転生を希望するってことでいいかしら?」
うん、それはお願い。
「OKっ!! わかったわ!! ただ、転生にはいくつか条件があるの」
条件?
「1つは私が管理している管轄にしか転生できないこと」
つまり、あの病院でもう1度産まれるってこと?
「いいえ、2つ目の条件として、同じ世界には転生できないの。つまり、私の管轄がある、他の世界から選んでもらうことになるの。この2つの条件は、どんな神様でもどうにもできない」
……そうか……同じ世界に転生すればお母さんやお父さんや弟と会えるかもしれないって思ったけど……
でも、まあ、仕方がないか。
どのみち『前世であなたの子供でした』なんて言っても信じてもらえないだろうし。
「そして、最後の条件。転生するときは前世と……ここでの会話の記憶は消させてもらうことになるわ」
……え……
それって……
転生しても何も覚えていないってこと?
「……そうなるわね……」
それじゃあ、転生しても意味がないじゃないか。
「そうね……本当にそうよ。本当は1歳以上で死んだ場合以外、転生させないのが普通なの。でも、いくつかの条件がそろえば、特例として管轄する神様が認めることで転生させることができる……でも、記憶の消去は絶対の条件なの。正直、これは神様的にも裏技中の裏技なのよ……」
裏技……
じゃあなんでおねーさんは僕を転生させてくれるんだろう?
「だって……」
おねーさんはうつむいた。
「産まれてから1度も病院から出られなかったなんて……やっぱりそんなのヒドすぎるじゃない!! 世界のバランスとか、そんなのゆータンには関係ないのにっ!! だから、せめて転生させてあげたいって……あたしにはそれができるんだからっ!!」
そう叫んで、おねーさんは目に涙を浮かべた。
慌てて涙を隠すように目をこするおねーさん。
どうやら顔は本当にお化粧だったらしく、こすった目元からは肌色の皮膚が見えた。
その涙を見て、僕はようやっと気がついた。
このガングロおねーさんは、人間以上に人間らしい神様なんだ。
記憶を失うなら、転生してもそれは僕とは違うかもしれない。
それなら、転生する意味なんてないとも思う。
だけど……少なくとも、このおねーさんの優しさに応えることはできるんじゃないか。
うん、転生しよう。
転生して、次の人生を楽しもう。
記憶を失ったって、きっとそれはできる。
「ありがとう」
にっこりほほえむおねーさんの瞳には、やっぱり涙がたまっている。
でも、僕は気づかないふりをしてうなずいた。
「じゃあ、転生先をえらんでもらうわっ!!」
ぬを!? いきなり明るく戻った。
「候補その1。科学がゆータンの世界よりも進んだ世界。なんとびっくり、ガン○ムみたいなロボット兵器まであるわよ」
おお、いいんじゃない?
ガ○ダムは見たことないけど。ロボットとかかっこよさそうだし。
「そう? じゃあ、ここにする? 半年前に世界核戦争が起きて、それでも懲りずに戦い続けているから、あと数年で人類滅亡しそうだけど」
まてや、おい!?
「しかも、その世界のあたしの管轄って、核爆弾の爆心地近くだけなのよね。まだ放射能残りまくりで。だから、どんなにパラメータをいじっても産まれた瞬間に放射能汚染されちゃうけど、それでもいい?」
いいわけあるかっ!!
ツッコミたくても声を出して叫べないのが悔しい。
「うーん、じゃあ候補2。ここは逆に自然豊かよ」
おっ、いいじゃん、自然の中で走り回るって僕の夢の1つだ。
「そうよね、やっぱり自然は大切よね。ただ1つ問題があるのよねぇ」
問題?
……いやな予感しかしない。
「うん、残念ながらまだ知的生命体が誕生していないのよ。わかりやすく言うと恐竜時代みたいな?」
コラコラ……
恐竜に転生とか……確かに元気よく自然の中を走れるだろうけどっ!!
「あ、さすがに爬虫類とは魂が違いすぎるから恐竜は無理ね。哺乳類ならなんとかなるけど。でも、ネズミみたいな小動物しかいないのよねぇ。あ、でもあたしの管轄は小さな島で、恐竜は生息していないからそこまで怖くないと思うけど……どうかしら?」
いいわけないだろっ!!
「うーん、2つともいやなんて、わがままねぇ……」
わがままなの?
僕わがままなの!?
「じゃあ、候補3。ここはすごいわよ、なにしろあたしが初めて創った世界なんだから」
……その時点でいやな予感しかしないんだけど。
「む、ヒドイ言いぐさわね。普通の世界よ。ただ、いくら頑張ってもビッグバンが起きないだけで」
……ビッグバン?
何それ?
「出来たばかりの世界は時間も空間も存在しないのよ。だから世界を創った後にビッグバンっていう大爆発を起こすことで世界――宇宙ができるのよね。でもなぜかビッグバンを上手く起こせなくてねぇ。その世界にはまだ時間も空間も存在しないのよねー」
……あ、あのなぁ……
「だってぇ、『初心者でもできる世界と宇宙の作り方』って本をいくら読んでもビッグバンができない理由がわからないのよぉ。ヒドイと思わない? 『初心者でもできる』ってタイトル詐欺よぉ」
いや、それは知らないけどっ!!
「神様になってから50年以内に世界を作ってビッグバンを起こすところまでいかないと、あたしクビよ、クビッ。どうしてくれるのよ!?」
僕に言われても困る。
っていうか、神様ってクビになるのかよ……
そもそも、時間も空間もない世界に転生って、僕は何になるわけ?
「…………」
おねーさんはしばらく首をひねり……なにやら考え出した。
そのまま体感時間で1分以上経過する。
あのぅ……僕の魂消滅まで時間ないんじゃないの?
「おお!! そういえば転生させようにも受け皿になる生物がいなかったわ。これは盲点だったわぁ」
ケラケラ笑うおねーさん。
……そろそろキレていいかな?
「じゃあ、最後の選択肢。『剣と魔法の世界』ね」
剣と魔法の世界?
それってファンタジーってこと?
「まあ、簡単に言えばそうね。でも、あんまりオススメはしないわよ。あたしの管轄はある山奥の村なんだけどね。すっごいビンボーだし、町から離れているし。自然は豊かだけど転生してもつまらないんじゃないかな?」
そこにする!!
「え? 本当に? ファンタジーっていっても、勇者になれるというわけじゃないわよ。あくまでも『村人その1』でしかないわ。せっかく転生するのに、それでいいの?」
いいよ。
魔法とか、面白そうだし。
9歳の頃、少しだけ身体の調子がよかったときにドラ○エをプレーしたことがあるもん。
勇者になれなくても、楽しそう!!
……っていうか、ぶっちゃけ、他に選択の余地ないじゃん。
「……わかったわ」
おねーさんは頷いて、胸ポケットから何か黒くて薄いモノを取り出した。
テレビで見た知識でいえばスマホみたいだけど、神様ってスマホ使うのかな?
まさかねぇ?
あ、でも人差し指でこすっているし、やっぱりスマホ?
何をしているんだろう?
「あなたのデータを入力しているの。せっかくだから体力のパラメータを上げて……この世界では魔力もたくさんあった方がいいわね……それぞれ基準の200%っと……終わったわ」
うん。
そうか。
終わったのか。
……ってことは、もうすぐ僕は転生するんだ……
そうしたら記憶も……
「……残された時間はあと5分くらいね」
……すべての記憶を失って新しい世界で新しく産まれる変わる。
魂は同じでも、記憶が無いなら、それはやっぱり僕じゃないと思う。
……それでも、きっと僕の来世は幸せになれる。
そう信じよう。
「……最後に何かお願いはある?」
お願い……
……
…………
…………………
……決まってる、お父さんとお母さんと弟に会いたい……
「……それは……無理よ……」
そうだよね。
「あと4分しかないから下界に行けないし……それに、たとえ下界に行ったとしても生きている人間には今のあなたが認識できない」
うん。
そうだと思った。
「ただ、あたしの管轄内なら、このキニトに映像として写すことはできるわ。だから、もし今、病院内に3人がいれば見せてあげることだけはできるかも……」
おねーさんはそういって、スマホみたいなもの――キニトをいじりだした。
無情に時間が過ぎていく。
あと4……いや、もう3分くらいしかないかもしれない。
「……いた!」
おねーさん僕にキニトの画面を見せた。
そこは病室だった。
僕が入院していた部屋とは違うけど。
その部屋には3人の人間がいた。
1人は僕だ。
僕の体だ。
生きていたときと同じように横たわっている。
その僕に覆いかぶさるようにしている人。
顔が見えないけど……
「お母さんよ」
うん。
お母さんの隣にはお母さんを必死に支えるお父さん。
お父さんの瞳には涙がたまっている。
お父さんに支えられるように顔を上げたお母さんはボロボロと涙を流している。
なんで、お母さんとお父さんは泣いているんだろう?
「そんなの、ゆーたんが死んだからに決まっているじゃない」
僕なんて2人に迷惑しかけていないのに。
それなのに、2人は僕の死を悲しんで泣いてくれているの?
そうだ、当たり前だ。
お父さんとお母さんは、僕が死んだから、悲しいから泣いているんだ。
2人にとって、僕は重荷だったと思っていた。
だから、僕が死んでも、2人にとってはそんなにショックなことじゃないって。
ずっと、そう考えていた。
……違う。
そんなことない。
そんなわけないじゃないかっ!!
お母さんもお父さんも、僕のことを大切に思ってくれていた。
そんなこと、本当はわかっていた。
死ぬのが怖くなるから……
死んでしまったのが悲しくなるから……
だから、2人にとって僕は死んだ方がいいのだと思いこもうとしただけだ。
いやだ……
このまま記憶を失うのはいやだ。
このまま転生するのはいやだ。
僕は……僕はまだお母さんにだっこしてもらっていない。
お父さんに高い高いをしてもらったこともない。
もう1度、もう1度でいいから、お母さんとお父さんに会いたい。
さっきおねーさんにされたように抱きしめてほしい。
このまま僕が消えたら、お父さんとお母さんはずっとその悲しみをかかえたまま生きてくことになる。
そんなのダメだ。
「ゆータン……」
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ……
お母さんもお父さんも悲しんでいるじゃないか。
僕はまだ、2人に何も親孝行していない。
それなのに、それなのになんで僕はっ!!
僕は膝をつき、うつむいた。
「あと1分よ」
おねーさんが僕の肩に手を置く。
いやだよ……
「ゆータン! もう1度画面を見て」
画面を見ると、部屋の中に1人の少年が走り込んできた。
直接面会したことはないけど、写真を見たことはある。
……弟だ。
たしか、今9歳で、名前は稔。
2年前に撮ったらしい写真よりもずっと大人っぽい表情だ。
稔は涙を流すお父さんとお母さんを後ろから抱きしめた。
力強く。
9歳とは思えないほどに力強く。
顔を上げ、弟に向き直る両親。
何事かを話し……そして3人で抱き合う。
声は聞こえない。
だけど、3人ともしっかりと抱き合っている。
大丈夫だ。
この家族は大丈夫だ。
僕は立ち上がった。
画面に向かって声なき声で叫ぶ。
稔、お母さんとお父さんを頼むぞ。
「時間よ……」
僕は頷く。
おねーさんも頷き返し、僕の額に手をかざした。
そして、白い世界に光があふれかえり――
「あれ? ヤバイ、200%に設定したつもりが200倍になってね?」
――意識が消えゆく間際、僕はそんなおねーさん神様の声を聞いたのだった。
「いや、そうだけど。なに50文字以内にまとめているのよ?」
いや、話を整理しようかなって思っただけ。
「で、転生する? しない?」
このままだと、僕は30分くらいで消滅しちゃうんだよね?
「残念ながらね」
さてどうしたものやら。
確かに、病室から一歩も出ないまま魂ごと消滅っていうのはイヤだけど……
うーん、でも、僕の魂が転生したら同じように病気で苦しむんじゃないだろうか?
それならいっそのことこのまま消滅した方が楽かもしれないしなぁ。
「あ、それは大丈夫。次は君の体力パラメータを高く設定してあげるから」
体力パラメータ?
「うん、生まれながらの体力とか抵抗力とかそういうのね。もっとも、高く設定するにしても普通の人の2倍くらいの潜在能力を与えるだけだから、鍛えなければ活かせないけどね」
なるほど、神様が人間の生まれながらの能力とかそういうのを決めるんだ。
パラメータっていうのは、ゲームでいうと『HP』とか『ちから』とかのことかしら。
「うーん、まあ、そんなようなもんかな……実際には魂と肉体は密接に関連しつつも別物だけど……まあ、その理解でいいんじゃない?」
いいかげんだなぁ……
でもまあ、健康な体に生まれ変われるっていうのはすごくうれしい。
来世では病室の外に出られるってことじゃないか。
それに学校にも通えるかもしれない。
友達100人できるかな?
「うんっ、きっとできるよっ!!」
だとしたら転生するのも悪くない……
……あれ?
そこまで考えたとき、ふと思う。
……ってことは……僕が病気で生まれてきたのもおねーさんのせいってことじゃ!?
「……それは……確かにそういえるかもしれないけど、でもしかたがなかったんだよ……」
しかたがない?
僕の11年の苦しみを『しかたがない』ですませるつもりなのか!?
さすがに腹が立って、おねーさんをジッとにらむ。
「そうだよね、ゆータンが怒るのは当たり前だと思う。でも、神様も、すべての人間を健康に生み出すことはできないんだ。健康なスポーツマンも、障碍を持って生まれる人も、いろいろな人がいて初めて世界はバランスが保たれる……らしいし」
それで納得できると思う?
僕がにらむとおねーさんはシュンと肩を縮めた。
「できないよね……本当、ごめんね」
おねーさんは僕に向かって頭を下げた。
……この謝罪はウソじゃない……かな?
でも、やっぱり納得はできない。
僕はずっと苦しんだ。
窓の外の世界、テレビの向こうの世界にずっと行きたくて。
でも、行けなくて。
それがすごく悔しくて。
弟が産まれても会うこともできなくて。
お母さんやお父さんも苦しんだと思う。
僕の病気に気をもんで。
口には出さないけど、僕にかかる医療費だって相当だったはずだ。
そして、僕の病気が悪化したこの半年は、2人とも病室に顔も出さなくなった。
きっと、僕の病気に関わることに2人とも疲れたんだと思う。
だから……僕が死んで2人や弟はホッとしているかもしれない。
そのくらい、僕と家族は苦しんだんだ。
「……ごめんなさい」
おねーさんは僕を――僕の魂を両手で抱きしめた。
あったかい。
抱きしめられるのは初めてだ。
抵抗力がなかった僕には誰も直接触らないようにしていたから。
お医者さんや看護師さんが診察するときですら青白い防護服を着ていた。
生前、僕は人の肌に触れることすら許されなかったのだ。
死んで初めて人(神様だけど)のあたたかさを知ったなんて、なんだか変な話だよね。
「あたしには魂を創る力はないの……それはもっと高位の神様の役目。だから、ゆータンが産まれるときにどうにもしてあげられなかった。本当にごめんね」
じゃあ、おねーさんの責任じゃないってことじゃん。それなのになんで謝ったの?
「あたしのせいじゃなくても、あたし達神様の責任だから」
このおねーさんはいいかげんなようでいて、責任逃れだけはしないようだ。
それはきっとおねーさんが誠実だからだと思う。
うん、許そう。
少なくとも、おねーさんを恨んでもしかたがないことはわかったから。
「ありがとう」
おねーさんはそう言って、僕を離した。
「あたしには魂を創る力はないけど、転生させる力はある。1度もあたしの管轄からでたことがない魂しか無理だから、赤ん坊の魂以外は今回が初めてだけど」
え?
それって、どういうこと?
「あたしの管轄は5つの世界にあるの。でもその世界全てを管轄しているわけじゃないんだ」
そっか、健康な人なら移動するものね。
きっと日本だけとかかな?
「うーん、あなたの世界の場合、あたしの管轄は『あなたが入院していた病院の分娩室を中心とした半径500メートル圏内』だけよ」
狭っ。
管轄、狭っ!?
病院から出たことがない僕が言うのもなんだけどっ!!
それって、ほぼ病院の敷地内だけなんじゃ?
「しかも、見習い期間が終わったのが20年前で。これまではその2キロ圏内から1度も出ずに死んだのって、出産時に亡くなった赤ちゃんくらいくらいなものだったのよね」
そりゃあそうだ。
僕みたいに隔離された子もいただろうけど、一生っていうのは珍しいみたいだし、他の病院に移ることもあるだろう。
僕の場合は救急車を使っても、他の病院に移るだけで命に関わったらしいけど。
っていうか……それって、まだ見習い期間なんじゃ……?
「失礼ね!!! ちゃんと、神様免許を取得したわよっ!!」
神様免許!?
何!?
神様って免許制なの!?
司法試験ならぬ神様試験とかあるわけ!?
「あなたの魂が消滅するまで、あと20分くらいしか時間がないから、そこら辺は気にしない方針で」
気になるよ!?
すごく、気になるよ!?
……まあ、自分の魂が消滅するまでの時間だから仕方がないけど。
「で、結局、転生を希望するってことでいいかしら?」
うん、それはお願い。
「OKっ!! わかったわ!! ただ、転生にはいくつか条件があるの」
条件?
「1つは私が管理している管轄にしか転生できないこと」
つまり、あの病院でもう1度産まれるってこと?
「いいえ、2つ目の条件として、同じ世界には転生できないの。つまり、私の管轄がある、他の世界から選んでもらうことになるの。この2つの条件は、どんな神様でもどうにもできない」
……そうか……同じ世界に転生すればお母さんやお父さんや弟と会えるかもしれないって思ったけど……
でも、まあ、仕方がないか。
どのみち『前世であなたの子供でした』なんて言っても信じてもらえないだろうし。
「そして、最後の条件。転生するときは前世と……ここでの会話の記憶は消させてもらうことになるわ」
……え……
それって……
転生しても何も覚えていないってこと?
「……そうなるわね……」
それじゃあ、転生しても意味がないじゃないか。
「そうね……本当にそうよ。本当は1歳以上で死んだ場合以外、転生させないのが普通なの。でも、いくつかの条件がそろえば、特例として管轄する神様が認めることで転生させることができる……でも、記憶の消去は絶対の条件なの。正直、これは神様的にも裏技中の裏技なのよ……」
裏技……
じゃあなんでおねーさんは僕を転生させてくれるんだろう?
「だって……」
おねーさんはうつむいた。
「産まれてから1度も病院から出られなかったなんて……やっぱりそんなのヒドすぎるじゃない!! 世界のバランスとか、そんなのゆータンには関係ないのにっ!! だから、せめて転生させてあげたいって……あたしにはそれができるんだからっ!!」
そう叫んで、おねーさんは目に涙を浮かべた。
慌てて涙を隠すように目をこするおねーさん。
どうやら顔は本当にお化粧だったらしく、こすった目元からは肌色の皮膚が見えた。
その涙を見て、僕はようやっと気がついた。
このガングロおねーさんは、人間以上に人間らしい神様なんだ。
記憶を失うなら、転生してもそれは僕とは違うかもしれない。
それなら、転生する意味なんてないとも思う。
だけど……少なくとも、このおねーさんの優しさに応えることはできるんじゃないか。
うん、転生しよう。
転生して、次の人生を楽しもう。
記憶を失ったって、きっとそれはできる。
「ありがとう」
にっこりほほえむおねーさんの瞳には、やっぱり涙がたまっている。
でも、僕は気づかないふりをしてうなずいた。
「じゃあ、転生先をえらんでもらうわっ!!」
ぬを!? いきなり明るく戻った。
「候補その1。科学がゆータンの世界よりも進んだ世界。なんとびっくり、ガン○ムみたいなロボット兵器まであるわよ」
おお、いいんじゃない?
ガ○ダムは見たことないけど。ロボットとかかっこよさそうだし。
「そう? じゃあ、ここにする? 半年前に世界核戦争が起きて、それでも懲りずに戦い続けているから、あと数年で人類滅亡しそうだけど」
まてや、おい!?
「しかも、その世界のあたしの管轄って、核爆弾の爆心地近くだけなのよね。まだ放射能残りまくりで。だから、どんなにパラメータをいじっても産まれた瞬間に放射能汚染されちゃうけど、それでもいい?」
いいわけあるかっ!!
ツッコミたくても声を出して叫べないのが悔しい。
「うーん、じゃあ候補2。ここは逆に自然豊かよ」
おっ、いいじゃん、自然の中で走り回るって僕の夢の1つだ。
「そうよね、やっぱり自然は大切よね。ただ1つ問題があるのよねぇ」
問題?
……いやな予感しかしない。
「うん、残念ながらまだ知的生命体が誕生していないのよ。わかりやすく言うと恐竜時代みたいな?」
コラコラ……
恐竜に転生とか……確かに元気よく自然の中を走れるだろうけどっ!!
「あ、さすがに爬虫類とは魂が違いすぎるから恐竜は無理ね。哺乳類ならなんとかなるけど。でも、ネズミみたいな小動物しかいないのよねぇ。あ、でもあたしの管轄は小さな島で、恐竜は生息していないからそこまで怖くないと思うけど……どうかしら?」
いいわけないだろっ!!
「うーん、2つともいやなんて、わがままねぇ……」
わがままなの?
僕わがままなの!?
「じゃあ、候補3。ここはすごいわよ、なにしろあたしが初めて創った世界なんだから」
……その時点でいやな予感しかしないんだけど。
「む、ヒドイ言いぐさわね。普通の世界よ。ただ、いくら頑張ってもビッグバンが起きないだけで」
……ビッグバン?
何それ?
「出来たばかりの世界は時間も空間も存在しないのよ。だから世界を創った後にビッグバンっていう大爆発を起こすことで世界――宇宙ができるのよね。でもなぜかビッグバンを上手く起こせなくてねぇ。その世界にはまだ時間も空間も存在しないのよねー」
……あ、あのなぁ……
「だってぇ、『初心者でもできる世界と宇宙の作り方』って本をいくら読んでもビッグバンができない理由がわからないのよぉ。ヒドイと思わない? 『初心者でもできる』ってタイトル詐欺よぉ」
いや、それは知らないけどっ!!
「神様になってから50年以内に世界を作ってビッグバンを起こすところまでいかないと、あたしクビよ、クビッ。どうしてくれるのよ!?」
僕に言われても困る。
っていうか、神様ってクビになるのかよ……
そもそも、時間も空間もない世界に転生って、僕は何になるわけ?
「…………」
おねーさんはしばらく首をひねり……なにやら考え出した。
そのまま体感時間で1分以上経過する。
あのぅ……僕の魂消滅まで時間ないんじゃないの?
「おお!! そういえば転生させようにも受け皿になる生物がいなかったわ。これは盲点だったわぁ」
ケラケラ笑うおねーさん。
……そろそろキレていいかな?
「じゃあ、最後の選択肢。『剣と魔法の世界』ね」
剣と魔法の世界?
それってファンタジーってこと?
「まあ、簡単に言えばそうね。でも、あんまりオススメはしないわよ。あたしの管轄はある山奥の村なんだけどね。すっごいビンボーだし、町から離れているし。自然は豊かだけど転生してもつまらないんじゃないかな?」
そこにする!!
「え? 本当に? ファンタジーっていっても、勇者になれるというわけじゃないわよ。あくまでも『村人その1』でしかないわ。せっかく転生するのに、それでいいの?」
いいよ。
魔法とか、面白そうだし。
9歳の頃、少しだけ身体の調子がよかったときにドラ○エをプレーしたことがあるもん。
勇者になれなくても、楽しそう!!
……っていうか、ぶっちゃけ、他に選択の余地ないじゃん。
「……わかったわ」
おねーさんは頷いて、胸ポケットから何か黒くて薄いモノを取り出した。
テレビで見た知識でいえばスマホみたいだけど、神様ってスマホ使うのかな?
まさかねぇ?
あ、でも人差し指でこすっているし、やっぱりスマホ?
何をしているんだろう?
「あなたのデータを入力しているの。せっかくだから体力のパラメータを上げて……この世界では魔力もたくさんあった方がいいわね……それぞれ基準の200%っと……終わったわ」
うん。
そうか。
終わったのか。
……ってことは、もうすぐ僕は転生するんだ……
そうしたら記憶も……
「……残された時間はあと5分くらいね」
……すべての記憶を失って新しい世界で新しく産まれる変わる。
魂は同じでも、記憶が無いなら、それはやっぱり僕じゃないと思う。
……それでも、きっと僕の来世は幸せになれる。
そう信じよう。
「……最後に何かお願いはある?」
お願い……
……
…………
…………………
……決まってる、お父さんとお母さんと弟に会いたい……
「……それは……無理よ……」
そうだよね。
「あと4分しかないから下界に行けないし……それに、たとえ下界に行ったとしても生きている人間には今のあなたが認識できない」
うん。
そうだと思った。
「ただ、あたしの管轄内なら、このキニトに映像として写すことはできるわ。だから、もし今、病院内に3人がいれば見せてあげることだけはできるかも……」
おねーさんはそういって、スマホみたいなもの――キニトをいじりだした。
無情に時間が過ぎていく。
あと4……いや、もう3分くらいしかないかもしれない。
「……いた!」
おねーさん僕にキニトの画面を見せた。
そこは病室だった。
僕が入院していた部屋とは違うけど。
その部屋には3人の人間がいた。
1人は僕だ。
僕の体だ。
生きていたときと同じように横たわっている。
その僕に覆いかぶさるようにしている人。
顔が見えないけど……
「お母さんよ」
うん。
お母さんの隣にはお母さんを必死に支えるお父さん。
お父さんの瞳には涙がたまっている。
お父さんに支えられるように顔を上げたお母さんはボロボロと涙を流している。
なんで、お母さんとお父さんは泣いているんだろう?
「そんなの、ゆーたんが死んだからに決まっているじゃない」
僕なんて2人に迷惑しかけていないのに。
それなのに、2人は僕の死を悲しんで泣いてくれているの?
そうだ、当たり前だ。
お父さんとお母さんは、僕が死んだから、悲しいから泣いているんだ。
2人にとって、僕は重荷だったと思っていた。
だから、僕が死んでも、2人にとってはそんなにショックなことじゃないって。
ずっと、そう考えていた。
……違う。
そんなことない。
そんなわけないじゃないかっ!!
お母さんもお父さんも、僕のことを大切に思ってくれていた。
そんなこと、本当はわかっていた。
死ぬのが怖くなるから……
死んでしまったのが悲しくなるから……
だから、2人にとって僕は死んだ方がいいのだと思いこもうとしただけだ。
いやだ……
このまま記憶を失うのはいやだ。
このまま転生するのはいやだ。
僕は……僕はまだお母さんにだっこしてもらっていない。
お父さんに高い高いをしてもらったこともない。
もう1度、もう1度でいいから、お母さんとお父さんに会いたい。
さっきおねーさんにされたように抱きしめてほしい。
このまま僕が消えたら、お父さんとお母さんはずっとその悲しみをかかえたまま生きてくことになる。
そんなのダメだ。
「ゆータン……」
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ……
お母さんもお父さんも悲しんでいるじゃないか。
僕はまだ、2人に何も親孝行していない。
それなのに、それなのになんで僕はっ!!
僕は膝をつき、うつむいた。
「あと1分よ」
おねーさんが僕の肩に手を置く。
いやだよ……
「ゆータン! もう1度画面を見て」
画面を見ると、部屋の中に1人の少年が走り込んできた。
直接面会したことはないけど、写真を見たことはある。
……弟だ。
たしか、今9歳で、名前は稔。
2年前に撮ったらしい写真よりもずっと大人っぽい表情だ。
稔は涙を流すお父さんとお母さんを後ろから抱きしめた。
力強く。
9歳とは思えないほどに力強く。
顔を上げ、弟に向き直る両親。
何事かを話し……そして3人で抱き合う。
声は聞こえない。
だけど、3人ともしっかりと抱き合っている。
大丈夫だ。
この家族は大丈夫だ。
僕は立ち上がった。
画面に向かって声なき声で叫ぶ。
稔、お母さんとお父さんを頼むぞ。
「時間よ……」
僕は頷く。
おねーさんも頷き返し、僕の額に手をかざした。
そして、白い世界に光があふれかえり――
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――意識が消えゆく間際、僕はそんなおねーさん神様の声を聞いたのだった。
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