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第一部 ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です
6.この力、誰がために
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「ぐぉぉぉーん」
威嚇するような鳴き声とともに僕らの前に現れた獣。
牛のような体格、太く長い2本の角、それと同じくらい大きく先のとがった牙、縞模様を彩る鱗、尻尾はそれだけで僕の体格くらいありそう。
「アベックニクス。なんでこんなところに!?」
悲鳴めいた声を女の子の誰かが上げた。
彼女の言うとおり、アベックニクスは、本来人里にはやってこない。
もっと山奥にすんでいるはずなのだ。
大人達が僕らに、『森の奥にいってはいけないよ。危険な動物もいるからね』と諭す時に出てくる名前の1つだ。
本来見かけによらず臆病な動物とされる。
むしろ、人里を避ける習性があり、こんな村の近くの川原に出現するものじゃない。
そうでなければ、村の大人達も子ども達だけを川原に送り出したりなんてしないだろう。
それに、草食で大人しいので万が一遭遇したとしても、刺激せずそうっと離れれば問題ない。
……はずなのだが。
「ぶおぉぉぉーん」
アベックニクスはもう一度雄叫びを上げると、女の子を抱えたままのテルやジラに角を向けた。
どうみても臆病でも友好的でもない。
口から涎をだらだらと垂らし、目を赤く血走らせその姿は、まるで正気を失っているかのようだった。
「逃げて、2人ともっ!!」
スーンが叫ぶ。
だが。
アベックニクスはジラに狙いを定めてツッコんだ。
「ジラっ!!」
テルが叫び、女の子を抱えたままジラを突き飛ばす。
ジラと女の子が地面に転がり、アベックニクスの攻撃をかろうじて躱す。
テルは近くに転がっていた太い枝を手に取り叫ぶ。
「ジラ、その子を連れて逃げろっ!!」
「でも……」
言いよどむジラを尻目に、テルはこちらに叫ぶ。
「キド、女子とチビ達を連れて村へ戻れ。大人達を呼んでくるんだ」
――1人で時間稼ぎをするつもりなのか!?
「とっとと立て、ジラ。男で勇者様なら皆を護れ」
「う、うん」
立ち上がり、女の子を抱き上げ、こちら岸に走るジラ。
ジラの背を追おうとするアベックニクス。
「させるかよっ!!」
テルが後ろから枝で殴りかかる。
が、ヤツの鱗は想像以上に固いらしく、枝の方が折れ曲がる。
それでも攻撃されれば気になるのか、アベックニクスはテルに振り返る。
「おら、来いよっ!! 皆には手出しさせねーぞ」
アベックニクスはまた一声。
今度はテルにツッコむ。
素手で受け止めようとするテル。
――無茶だろ、それはっ!!
と。
キドが川の中へ走る。
「スーン、チビ達頼む」
アベックニクスの角がテルを貫く寸前、キドのジャンプキックがヤツの腹に決まる。
「逃げろって言っただろ!!」
キドに怒鳴るテル。
「1人でかっこつけてるんじゃねーよ」
怒鳴り返すキド。
その間に、ジラは僕らのもとへやってきた。
――どうする?
――僕はどうしたらいい?
迷う僕の横で、意を決したようにスーンが指示を出す。
「マリーン、先に村に走って。あんたが1番足が速い」
「え、あ……」
言われた11歳のマリーンは戸惑うばかり。
「早くっ!! ジラ、その子は私が抱くわ。皆も村に急いでっ!!」
その言葉に、マリーンが村に走り出し、ジラはスーンに女の子を預ける。
だが、サンや小さな女の子達は泣き出してしまって動けない。
「皆、泣いている場合じゃないわ」
スーンがちびっ子達を促すが、混乱したままだ。
なにしろ、この突然の乱入者は、僕ら子ども達からみれば巨獣とすらいえる。恐怖で動けなくなっても無理もない。
川の中ではテルとキドがアベックニクス相手に奮戦している。
だが、テルやキドだってまだ子ども。
とても勝てそうにない。
――どうしたらいい?
――僕は戦うべき? それとも逃げるべき?
――僕のチートならヤツを倒せる?
――だけど、僕は戦い方なんて知らない。
――自分の力が本当のところどの程度なのかもよく分からない。
――ずっと力を抑えて暮らしてきた僕が、あそこにいって2人を助けられる?
なかなか動こうとしない僕らに、ジラが叫ぶ。
「サン泣いている場合か。パド、お前もぼーっとすんな。お前らも男だろ。速く走れっ!!」
ジラの言葉に、サンが涙を拭って走り出す。
女の子達もそれに続く。
「パド、お前も行けっ!!」
ジラは言いつつも、自分はテル達の方を振り返る。
テルとキドはアベックニクスをこちらにやらないよう、必死に抵抗中。
木の枝は無意味と分かったのか、大きめの石ころを両手に持って殴りかかっている。
さすがにアベックニクスもこれは痛いらしく、今のところこちらには向かってこない。
だが、そのせいで2人が攻撃を受けることになる。テルの右肩から血が流れ、キドがヤツの力強い尻尾になぎ払われている。
2人が必死に時間を稼いでいるのは僕らを逃がすためだ。
村までは300メートル。しかし整備されていない上り坂で、小さな子がたどり着くには10分くらいかかる。事情を聞いた大人がやってくるまでにはさらも数分か。
その10分ちょっとの時間が、今のテル達にはとても長い。
「ジラはどうするんですか!?」
「2人を助ける」
「無茶言わないでくださいっ」
僕はこの世界では7歳だけど、前世も合わせれば18歳だ。
無謀なことをしようとする子どもは止めなくちゃいけない。
「心配すんな、俺はお前やサンみたいに弱虫じゃないから」
「馬鹿なことを。これは勇者ごっこじゃないですよっ!!」
僕は叫ぶ。
そんな僕に、ジラは頷く。
「そうだ。これは勇者ごっこじゃない。テルもキドも命がけだし、2人がやられたら皆やばい。『まいった』って言ったら終わる勝負じゃないんだ。
――だから、助けなくちゃいけない」
「そんなこと言って、手足震えているじゃないですか。本当は怖いんでしょう!?」
「そりゃ怖いさ」
「じゃあ……」
「でも俺も男だし、それに、これでも次期村長だからな」
ジラの両親――つまり村長の娘夫婦は昨年流行病で亡くなった。
だから順当に行けば、確かにジラが次の村長になるかもしれない。
だが、いまのジラは9歳の子どもだ。
行かせるわけにはいかない。
――僕は、何をやっているんだ?
――戦うべきは誰だ?
「だめです」
僕は叫んでジラの腕を握った。
「ぐっ」
チートの力を手加減しきれなかったようで、苦痛の声を上げるジラ。
骨折まではさせていないと思うが。
「パド、お前……」
びっくりしたような顔を浮かべるジラ。
一方、川の中央でテルとキドがアベックニクスの尻尾に打ち払われ、倒れる。
――前世と今生を合わせたら18歳。
――日本ではともかくこの村では、この村においては18歳は立派な成人だ。
――2人が戦っているのに。
――ジラが皆のために戦おうとしているのにっ!!
「くそっ」
キドが飛び起きる。が、テルはすぐに立てない。
いつの間にか、肩だけでなく右足からも血を流していた。
――迷っている場合か。
――皆を護るべきは、僕だ。
――他の誰でもない。
――僕が皆を助ける!!
好機と判断したのか、倒れたままのテルにアベックニクスが近づく。
大きな牙のはえた口を開き、テルに噛みつく。
草食動物とは思えない行動。
「テルっ!!」
キドが石を振り上げてアベックニクスの腹を叩こうとするが、尻尾がそれをなぎ払う。
再び倒れ込むキド。
アベックニクスは大きな口でテルを持ち上げる。
――せっかく持っているチートの力。
――今使わないでいつ使う!!
2人の方に駆け出そうとするジラ。
「ジラ、ごめんなさい」
僕はそんなジラを後ろから突き倒す。
手加減はしたけど、もしかしたらケガくらいさせたかもしれない。
「僕が、やります。2人を助けます」
僕は膝を折り曲げ、産まれて初めて――前世も今生も含めて、それこそ本当に初めて――全力で地面を蹴飛ばす。
次の瞬間。
僕の体は上空3メートルは跳び上がり、10メートル以上の距離をそれだけで突き進む。
そして、僕が蹴飛ばした地面には大きなクレーターができ、ジラがその中に落っこちるのが見えたのだった。
威嚇するような鳴き声とともに僕らの前に現れた獣。
牛のような体格、太く長い2本の角、それと同じくらい大きく先のとがった牙、縞模様を彩る鱗、尻尾はそれだけで僕の体格くらいありそう。
「アベックニクス。なんでこんなところに!?」
悲鳴めいた声を女の子の誰かが上げた。
彼女の言うとおり、アベックニクスは、本来人里にはやってこない。
もっと山奥にすんでいるはずなのだ。
大人達が僕らに、『森の奥にいってはいけないよ。危険な動物もいるからね』と諭す時に出てくる名前の1つだ。
本来見かけによらず臆病な動物とされる。
むしろ、人里を避ける習性があり、こんな村の近くの川原に出現するものじゃない。
そうでなければ、村の大人達も子ども達だけを川原に送り出したりなんてしないだろう。
それに、草食で大人しいので万が一遭遇したとしても、刺激せずそうっと離れれば問題ない。
……はずなのだが。
「ぶおぉぉぉーん」
アベックニクスはもう一度雄叫びを上げると、女の子を抱えたままのテルやジラに角を向けた。
どうみても臆病でも友好的でもない。
口から涎をだらだらと垂らし、目を赤く血走らせその姿は、まるで正気を失っているかのようだった。
「逃げて、2人ともっ!!」
スーンが叫ぶ。
だが。
アベックニクスはジラに狙いを定めてツッコんだ。
「ジラっ!!」
テルが叫び、女の子を抱えたままジラを突き飛ばす。
ジラと女の子が地面に転がり、アベックニクスの攻撃をかろうじて躱す。
テルは近くに転がっていた太い枝を手に取り叫ぶ。
「ジラ、その子を連れて逃げろっ!!」
「でも……」
言いよどむジラを尻目に、テルはこちらに叫ぶ。
「キド、女子とチビ達を連れて村へ戻れ。大人達を呼んでくるんだ」
――1人で時間稼ぎをするつもりなのか!?
「とっとと立て、ジラ。男で勇者様なら皆を護れ」
「う、うん」
立ち上がり、女の子を抱き上げ、こちら岸に走るジラ。
ジラの背を追おうとするアベックニクス。
「させるかよっ!!」
テルが後ろから枝で殴りかかる。
が、ヤツの鱗は想像以上に固いらしく、枝の方が折れ曲がる。
それでも攻撃されれば気になるのか、アベックニクスはテルに振り返る。
「おら、来いよっ!! 皆には手出しさせねーぞ」
アベックニクスはまた一声。
今度はテルにツッコむ。
素手で受け止めようとするテル。
――無茶だろ、それはっ!!
と。
キドが川の中へ走る。
「スーン、チビ達頼む」
アベックニクスの角がテルを貫く寸前、キドのジャンプキックがヤツの腹に決まる。
「逃げろって言っただろ!!」
キドに怒鳴るテル。
「1人でかっこつけてるんじゃねーよ」
怒鳴り返すキド。
その間に、ジラは僕らのもとへやってきた。
――どうする?
――僕はどうしたらいい?
迷う僕の横で、意を決したようにスーンが指示を出す。
「マリーン、先に村に走って。あんたが1番足が速い」
「え、あ……」
言われた11歳のマリーンは戸惑うばかり。
「早くっ!! ジラ、その子は私が抱くわ。皆も村に急いでっ!!」
その言葉に、マリーンが村に走り出し、ジラはスーンに女の子を預ける。
だが、サンや小さな女の子達は泣き出してしまって動けない。
「皆、泣いている場合じゃないわ」
スーンがちびっ子達を促すが、混乱したままだ。
なにしろ、この突然の乱入者は、僕ら子ども達からみれば巨獣とすらいえる。恐怖で動けなくなっても無理もない。
川の中ではテルとキドがアベックニクス相手に奮戦している。
だが、テルやキドだってまだ子ども。
とても勝てそうにない。
――どうしたらいい?
――僕は戦うべき? それとも逃げるべき?
――僕のチートならヤツを倒せる?
――だけど、僕は戦い方なんて知らない。
――自分の力が本当のところどの程度なのかもよく分からない。
――ずっと力を抑えて暮らしてきた僕が、あそこにいって2人を助けられる?
なかなか動こうとしない僕らに、ジラが叫ぶ。
「サン泣いている場合か。パド、お前もぼーっとすんな。お前らも男だろ。速く走れっ!!」
ジラの言葉に、サンが涙を拭って走り出す。
女の子達もそれに続く。
「パド、お前も行けっ!!」
ジラは言いつつも、自分はテル達の方を振り返る。
テルとキドはアベックニクスをこちらにやらないよう、必死に抵抗中。
木の枝は無意味と分かったのか、大きめの石ころを両手に持って殴りかかっている。
さすがにアベックニクスもこれは痛いらしく、今のところこちらには向かってこない。
だが、そのせいで2人が攻撃を受けることになる。テルの右肩から血が流れ、キドがヤツの力強い尻尾になぎ払われている。
2人が必死に時間を稼いでいるのは僕らを逃がすためだ。
村までは300メートル。しかし整備されていない上り坂で、小さな子がたどり着くには10分くらいかかる。事情を聞いた大人がやってくるまでにはさらも数分か。
その10分ちょっとの時間が、今のテル達にはとても長い。
「ジラはどうするんですか!?」
「2人を助ける」
「無茶言わないでくださいっ」
僕はこの世界では7歳だけど、前世も合わせれば18歳だ。
無謀なことをしようとする子どもは止めなくちゃいけない。
「心配すんな、俺はお前やサンみたいに弱虫じゃないから」
「馬鹿なことを。これは勇者ごっこじゃないですよっ!!」
僕は叫ぶ。
そんな僕に、ジラは頷く。
「そうだ。これは勇者ごっこじゃない。テルもキドも命がけだし、2人がやられたら皆やばい。『まいった』って言ったら終わる勝負じゃないんだ。
――だから、助けなくちゃいけない」
「そんなこと言って、手足震えているじゃないですか。本当は怖いんでしょう!?」
「そりゃ怖いさ」
「じゃあ……」
「でも俺も男だし、それに、これでも次期村長だからな」
ジラの両親――つまり村長の娘夫婦は昨年流行病で亡くなった。
だから順当に行けば、確かにジラが次の村長になるかもしれない。
だが、いまのジラは9歳の子どもだ。
行かせるわけにはいかない。
――僕は、何をやっているんだ?
――戦うべきは誰だ?
「だめです」
僕は叫んでジラの腕を握った。
「ぐっ」
チートの力を手加減しきれなかったようで、苦痛の声を上げるジラ。
骨折まではさせていないと思うが。
「パド、お前……」
びっくりしたような顔を浮かべるジラ。
一方、川の中央でテルとキドがアベックニクスの尻尾に打ち払われ、倒れる。
――前世と今生を合わせたら18歳。
――日本ではともかくこの村では、この村においては18歳は立派な成人だ。
――2人が戦っているのに。
――ジラが皆のために戦おうとしているのにっ!!
「くそっ」
キドが飛び起きる。が、テルはすぐに立てない。
いつの間にか、肩だけでなく右足からも血を流していた。
――迷っている場合か。
――皆を護るべきは、僕だ。
――他の誰でもない。
――僕が皆を助ける!!
好機と判断したのか、倒れたままのテルにアベックニクスが近づく。
大きな牙のはえた口を開き、テルに噛みつく。
草食動物とは思えない行動。
「テルっ!!」
キドが石を振り上げてアベックニクスの腹を叩こうとするが、尻尾がそれをなぎ払う。
再び倒れ込むキド。
アベックニクスは大きな口でテルを持ち上げる。
――せっかく持っているチートの力。
――今使わないでいつ使う!!
2人の方に駆け出そうとするジラ。
「ジラ、ごめんなさい」
僕はそんなジラを後ろから突き倒す。
手加減はしたけど、もしかしたらケガくらいさせたかもしれない。
「僕が、やります。2人を助けます」
僕は膝を折り曲げ、産まれて初めて――前世も今生も含めて、それこそ本当に初めて――全力で地面を蹴飛ばす。
次の瞬間。
僕の体は上空3メートルは跳び上がり、10メートル以上の距離をそれだけで突き進む。
そして、僕が蹴飛ばした地面には大きなクレーターができ、ジラがその中に落っこちるのが見えたのだった。
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※小説家になろう様にも投稿しています
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