神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
10 / 201
第一部 ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

7.初めての戦い、いくつもの恐怖

しおりを挟む
 気がつくと、僕は宙を跳んでいた。

「う、うわぁぁぁあ!」

 正直予想外だ。
 自分の力が尋常じゃないとはわかっていた。だが、いくらなんでも一蹴りでここまで高く、風を切るように進むとは。
 ぶっちゃけ怖い。
 っていうか、これ着地するだけで怪我するんじゃないか!?

 それに、僕が踏みしめた地面には巨大な穴――というよりクレーター――ができている。ジラもそれに巻き込まれたみたいだ。

 彼の無事を確認するいとまもなく、僕はアベックニクスに肉薄する。
 さすがの獣もこれには驚き戸惑ったのか、こちらに身構えることもできないでいる。
 僕はアベックニクスの横……を通り越して、川の向こう岸までひとっ跳び。
 着地点にも大きなクレーターを作ってしまった。

 ……って、おい。

 とりあえず、着地で怪我はしなかったけど通り過ぎてどうする!?
 僕は慌てて自分が作ったクレーターから出る。

 戦場に乱入し、そしてそのまま通り過ぎた僕を、呆然とした表情でテルとキド、それにアベックニクスが見る。
 なんだか、空気が固まったような、唖然とした雰囲気がいたたまれない。

 しかたないだろっ。
 いくらなんでも一蹴りでこんなに跳ぶなんて思わなかったんだからっ!!

 向こう岸では、僕と同じようにジラが穴から出てきた。とりあえず彼が無事だったのは嬉しいけど、このなんとも言えない空気どうしてくれよう。
 妙な感じになったその場の空気を再び動かしたのはジラの声だった。

「すげー、パド、お前すげーじゃんっ」

 心底興奮した表情で僕をたたえるジラ。
 一方、テルとキドは困惑と恐怖が入り交じった表情で僕を見つめていた。。

「パド、お前……」

 そうだよね。
 いきなりこんな力を見せたら、みんな怖がるよね。
 それが分かっているから、僕は産まれながらのチートを必死に隠して7年間生きてきたんだ。

 あの日、産まれたばかりで立ち上がった僕を指さして悲鳴を上げ気絶したお母さん。
 その顔は忘れられない。トラウマといってもいい記憶だ。
 テルやキドが僕に向けるまなしは、あの日のお母さんととても似ている。

 ――取り返しのつかないことをしたかもしれない。
 ――ずっと隠してきたのに。

 僕がずっと恐れていたこと。
 村の皆が僕を恐れ、排除しようとする未来像。
 バケモノと罵られ、村から追い出されるビジョン。
 その想像は、目の前のアベツクニクスなんかよりずっと恐ろしくて。

 ――だけど。

 テルやキドやジラを見捨てるよりはマシだ。
 そう信じよう。

「テル、キド、その場から離れてください。あとは僕がやります」

 僕の言葉に、キドは困惑顔。

「え? でも……」

 そんなキドの手を、テルが引っ張る。

「今はパドに任せよう」
「あ、えっと、うん」

 キドもハッとなり、2人はともにジラの方に走り出す。
 ありがとう、テル。

 僕はあらためてアベックニクスと向き合った。
 ヤツも、僕に向き直り、その太く、長く、鋭いつのを向ける。

 ――怖い。

 さきほど想像した未来とはまた違った、今目の前にある現実から感じる恐怖。
 いくらチートを持っていても、あのつので貫かれたらきっと死ぬだろう。
 勢いで飛び出したけど、これは命がけの戦いだ。
 怖いに決まっている。

 ――だけど。

 キドもテルもその恐怖と対峙した。
 ジラも戦おうとしたんだ。
 僕みたいなチートもないのに。

 ――やってやる。
 ――やってやるさ。
 ――おねーさん女神様のミスだろうがなんだろうが、僕には力があるんだ。

「ぐぉぉぉ~ん」

 その日、1番のアベックニクスの咆哮。
 ヤツが一気に突進してくる。

 僕は膝を曲げ足下の大きめの石を拾おうとし――しかし、石は手の中で粉々になった。
 興奮して、力加減を間違えたらしい。
 いくら何でも、チートが過ぎるだろっ!!

 別の石を拾うひまはない。
 アベックニクスは目の前に迫っている。

「くっ」

 目の前に突きつけられるつの
 僕の小さな体なんて一刺しで終わりそうだ。

 僕は半ばパニックになりつつ、反射的に両手を振り回して防ごうとし――

 ――次の瞬間、アベックニクスの2本のつのが粉々に砕け散った。

 ---------------

 一瞬、何が起こったのか――いや、自分が何をしたのか分からなかった。
 目の前のアベックニクスは苦しげにうめき、そして憎々しげにこちらを睨む。
 そのひたいには、もうつのはない。
 折れ曲がったのではなく、粉塵となって散った。

 僕の拳だけで。

 ――こんな。
 ――ここまでなの?

 僕は自分の力に戦慄する。

 ただ防ごうとしただけなのに。
 わけもわからず振り回した拳が当たっただけなのに。

 僕の手は無事で、恐ろしい獣のつのが粉砕された。

 ――なんだよ。
 ――なんなんだよ、これっ!?

 もしも、村の誰かと喧嘩して防御しようとしたら、それだけで相手を骨折させてしまう。
 さっき、ジラを押したとき少し間違えていたら、彼を殺してしまっていたかもしれない。

 ――怖い。
 アベックニクスよりもずっと、僕自身が。
 僕自身の力が。
 恐ろしくて恐ろしくて。
 泣き叫びたいくらい恐ろしくて。

 だから、僕は一瞬忘れていた。
 目の前の脅威がまだ過ぎ去っていないことを。

 気づく余裕すらなかった。
 アベックニクスが怒りの形相で、牙をむいて襲いかかって来たことに。

 自分の力に恐怖し、我を忘れていた僕の意識を寸前のところで意識を呼び戻したのは、テルが上げた叫び声だった。

「パドっ!! まだだ!!」

 ハッと気がついたとき、ヤツの牙は僕の眼前に迫っていた。

 ――くそっ。
 ――僕は何をやっているんだ。

 恐怖も困惑も後悔も、今すべきことじゃない。
 今すべきことはっ!!

 僕は右手を握りしめ、アベックニクスの顔面に叩きつけた。
 僕の拳はアベックニクスの皮膚を、肉を、頭蓋骨を打ち砕く。
 やつの顔面のほとんどが肉塊となって飛び散り、僕の手と顔にどす黒く生ぬるいヤツの血液がまとわりつく。

 首から上を失ったアベックニクスの身体は、そのまま力なく横倒しになる。

 ---------------

 僕の初めての戦いは、こうして終わった。
 だけど、これは始まりに過ぎなかったんだ。
 いや、後々の展開を考えれば、まだ何も始まっていなかったのかもしれない。

 このとき、まだ僕は何も分かっていなかった。
 自分の力の意味も。
 それがもたらす世界への影響も。
 これから僕らに襲いかかる残酷な現実も。

 その時の僕は、ただただ目の前の脅威が去ったことにホッとしつつ、自分の力を皆にどう説明したものかと悩んでいただけだった。

 僕の平和な村人生活はまだ続くと信じていて。
 だから、後日、僕は大きな後悔に苛まれることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...