神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】 禁忌を乗り越えて

【番外編5】生きていけるならば……

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 獣人は概ね8歳~12歳で獣の因子に目覚める。
 どのような因子を持つかは、親の因子とは無関係とされ、ラピと蛇の因子を持つ親から魚の因子を持つ子どもが産まれることもよくある。
 因子が現れるのを発現、その力を使いこなせるようになるのを定着と呼ぶ。

 リラというその少女が、父親に連れられて里にやってきたのは、バウトが10歳の時だった。
 獣人であるバウトは、当時獣の因子が目覚め始めており、それはどうやら蝙蝠のものであるらしいと推察された。
 背中に蝙蝠の羽が生え、夜目が利くようになり、少しずつ空を飛べるようになっていた。
 だから、リラ達父娘おやこが暗い時分に里にやってきたことに最初に気づいたのは、バウトだった。

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 リラとその父親は別の里の住人だったが、同じ獣人の仲間として里の人々は受け入れた。
 大陸全人口を見たとき、圧倒的に人族が多く、次いでドワーフだ。
 龍族はまた特殊だが、エルフや獣人は少数民族である。それ故に、それぞれの種族ごとの仲間意識は強い。

 その時、リラは4歳。
 バウトが最初に受けた印象は『大人しい子』だった。
 言語障害があるのではないかと思うほどに言葉数が少なく、他の子ども達と遊ぶこともない。
 もっとも、里の外からやってきたという特殊な事由もあるし、全くしゃべれないわけでもないので、時間が解決するだろうというのがバウトや大人達の考えだった。

 事実、リラは徐々に明るくなり、12歳になるころには村の女の子と普通に会話するようになっていた。
 18歳になり、兄弟姉妹のいないバウトは、リラのことを妹のようにかわいがっていた。
 リラはバウトの蝙蝠の羽に抱きかかえられるのが好きで、バウトも自分の因子を気に入ってくれるリラが好きだった。

 ---------------

 リラの父は熊の獣人だったが、リラは獣の因子の出現が遅かった。
 12歳になる直前に、お腹に少しだけ鱗が生え始め、おそらく蛇か蜥蜴とかげの因子を持っているのではないかと思われたが、その後はやはり因子の定着が進まない。
 獣人ならば、どんなに遅くても12歳後半になる頃には獣の力を使えるようになって当然であるのに。
 そのせいか、最近リラは再び塞ぎ込みがちになっていた。

 里の外れにある池のそばで、1人ぽつんとしているリラ。
 バウトは背後から近づき、蝙蝠の羽で彼女を包み込む。

「リラ、どうしちゃったんだよ、そんな暗い顔しちゃって」
「私、もう12歳よ。あと4ヶ月で13歳。それなのに、因子の発現は中途半端なまま」

 リラがそのことで悩んでいるのは、バウトも知っていた。

 だが、因子の定着スピードには個人差がある。
 確かにリラの発現と定着は通常よりも遅いが、『中途半端』などと自分を責める必要はない。
 バウトはそう考え、励ます。

「リラ、心配することはないさ。貴女のお父さんは立派な獣人だし、私は会ったことがないけど、お母さんもそうだったんだろう? だったらリラの因子だって、もうすぐ定着するよ」

 だが、リラは顔を背け泣きそうな顔になる。

「立派じゃないもん」
「リラ?」
「お母さんは……お母さんは立派な獣人なんかじゃないもん」

 リラは泣きそうだ。
 バウトには意味が分からない。
 だから、リラの次の言葉を待った。

「私の母さんは、人族だもん」

 リラが嗚咽交りに発したその言葉は、特大級の爆弾だった。

 ---------------

 人族との契り。
 それは獣人にとって最大の禁忌である。
 ある意味、獣人同士の殺人よりもはるかに重い罪とされる。

 リラやバウトが産まれる遙か昔、人族は税の不払いを名目に獣人を奴隷化していた。
 獣人に言わせれば、何故人族に税を払わなければならないのかという話だし、獣人は基本的に人族と関わらず自給自足の生活をしている。
 そもそも人族の言う『かね』というモノの概念事態が獣人達にはなじみのないものだ。

 黒き歴史の果て人族の王が獣人をはじめとする亜人種からの税の接収を禁じ、亜人種の自治を認めたのが50年前。
 世代をまたいだ闘争によって得た、獣人にとってかけがえのない権利である。

 だが、その自治権や税の免除は、あくまでも純粋な亜人種であるというのが大前提となっている。
 もしも、獣人に人族の血が混じったなら、再び税の支払いを求められ、自治権も失うだろう。なぜならば、亜人種と違って人族には税の義務があり、自治権はないからだ。

 また、法的な問題以前に感情的にも、獣人は人族を『別の種族』と見なしている。
 生物的に子をなすことが可能であったとしても、先の歴史もあり人族との契りには精神的な嫌悪感を持つ者も多い。

 リラがバウトに泣きながら告白したとき、他に誰も聞いていなければその場限りの話にできたかもしれない。
 だが、リラの悲鳴のような声は思いのほか大きく、他の里の者達もすぐに知るところになった。

 リラの父親は里のおさに呼び出され聴取を受け、結果、リラの母親が人族であると認めたのだった。

 ---------------

 リラの父親は、バウトの目の前ではりつけにされた。
 里の長の命令だ。
 大人達の多くも、人族と契ったリラの父親へ憎しみと嫌悪の視線を向けている。
 特に、年配の、奴隷時代の歴史を直接見聞きした世代の者達は、口々に怨嗟えんさの言葉を投げかけている。

 リラの父親が元々この里の者であったなら、もう少し違った結果になっていたかもしれない。
 だが、同じ獣人とはいえ、彼とリラはよそ者であり、父娘おやこを受け入れた自分たちを裏切ったという想いも強かったのだろう。

 バウト達若者は、年配者ほど憎しみは持たない。
 生理的嫌悪感がないとはいわないが、少なくともバウトはリラのことを今でも妹のように思っているし、リラの父への所業も異常としか思えなかった。

 だが、バウトに大人達を止めるすべはない。
 バウトに出来たのは目をそらすことだけで、後になってリラの父親が処刑され、リラは里の外へと逃げ延びたという結果を聞いたのだった。

 ---------------

『里から逃げ出したリラを追走し、処刑すべきだ』

 その意見に対して、里は二分にぶんされた。

(もういいじゃないか)

 バウトは思う。
 実際、そういう意見は他にも多かった。

 リラの父親はともかく、リラ自身にはなんとがもない。
 彼女が里を出た以上、もはや関わりないことと思えば良いだけだ。

 そもそも、わざわざ処刑せずとも、12歳の少女1人で山の中をさまよい歩けば、遭難している可能性も高い。
 むしろ、バウト個人の感情で言うなら、いますぐリラを助けに行きたいくらいだ。

 だが、おさの決定はリラを追撃し、処刑するというものだった。
 大人達は恐れたのだ。
 父親を殺されたリラが大人になって、里に復讐することを。

 バウトはリラ追撃の任を与えられた。
 夜目が利き、空を飛べるバウトの能力はうってつけだったのだ。
 自分がリラを追い詰めるなんて冗談ではないという感情も強い。
 だが、他の追撃者達の目をごまかしてリラを助けることができる可能性も0ではない。
 バウトはその可能性に賭けて、追撃者の1人となった。

 ---------------

 そして、今。

 眼下には崖。
 崖の端に立つリラと少年。
 その横で2人を追い詰めるブルフ。

 リラと少年はすでにファッコムの羽によって身体の自由を奪われている。
 絶体絶命だ。

(どうする、どうしたらいい?)

 2人を助けたい。
 いや、そもそも人族の少年の方はブルフも殺すつもりはないだろう。
 人族の子どもを殺してしまったら、それこそ大変なことになる。

 だが、リラは。
 リラはこのままではっ!!

「リラは、渡さない」

 少年がブルフに宣言した。
 その姿は、まるで騎士ナイト
 バウトにはできなかったリラを護る役目を、人族の幼い少年がおこなっている。

 人族の少年に、ブルフが尋ねる。

「ならばどうする?」

 だが、その後の少年の行動はバウトの、あるいはブルフやファッコムの想像の斜め上だった。

「渡すくらいなら、一緒に死ぬさ」

 少年はにやっと笑ってリラと共に崖から飛び降りたのだ。
 あまりにもとっさのことで、バウトが手を伸ばそうにも届かなかった。

 ---------------

 崖の下に消えた2人。
 夜の闇の中では見えないのであろう、ブルフがバウトに叫ぶ。

「バウト、あの2人はどうなった!?」

 バウトは静かに答えた。

「死んだよ。当たり前でしょう」

 この高さから落ちて助かるわけがないじゃないかと言外に付け加える。

「くっ、死体の確認に行くぞ」

 ブルフは言うが、バウトは止める。

「やめておきな、この下は魔女の住む森だよ。関わるべきじゃない。
 それに、分かっているの? 私たちは人族の子どもを殺してしまった。今すべきことは、人族の村長むらおさに対立構造にならないよう許しを請うことでしょう」

 バウトの言葉に、ブルフは舌打ちする。
 実際正論である。
 人族の子どもを獣人が殺したなど、人族に獣人の里へ攻め込ませる口実を与えるようなものだ。
 とはいえ、あの小さな村単独では無理なはずで、だから人族の領主などに知られる前に、村長むらおさと話をつける必要があった。

「わかった。確かにこれは我らの責任だ。我が命を差し出してでも許しを請わねばなるまい」

 ブルフはうなずき、ようやく追いついたナターシャとも合流して、4人でラクルス村へと向ことになった。

 ---------------

 バウトは最後にチラっと崖の下をのぞき見た。

 リラとパドが落ちた先、ブルフ達には分からなかっただろうがバウトには見えた。
 蝙蝠の因子を持つ彼女は、夜目が利くし、さらに魔力の発動を感知する力も持っている。
 リラと少年が地面に落ちる寸前、強力な魔法が使われたことを、バウトだけが気づいていた。

 それが、2人が助かった証拠なのかは分からない。
 確かめに行きたいが、もしも自死を偽装することがリラと少年の企みであるならば、その結果はあえて知らないでおくべきなだろう。

(生きられるならば、生きなさいリラ)

 バウトは心の中でそう願い、3人の後を追った。
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