神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第四章 追放と飛躍

5.魔法についてお勉強しよう

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 その日は、毎朝の6時間ランニングを免除された。
 リラも、薬草の採取作業は免除。
 この3ヶ月でクタクタの体をゆっくり休めるようにと言われ、僕も小屋の中でゆっくりと眠った。

 そして、午後。
 ようやく魔法についての座学を受けることになった。

「では、最初に2人に問おう。魔法とは何か?」

 お師匠様はそう言って、僕とリラに考えさせた。
 お師匠様は常に僕たちに考えさせる。考察すれば答えに近づける問いの答はすぐに教えてくれない。暗記するしかない文字そのものなどは別として。

「はい。神様や精霊と契約して起こす不思議な力です」

 答えたリラの頭にお師匠様の拳骨が落ちる。

「前半はともかく、後半は答えとは言わないよ。なんて言葉は思考放棄の産物だね。パド、お前はどう考える?」

 ふむぅ。
 不思議な力じゃ駄目なのか。
 いや、確かに、それは答えになっていないよなぁ。

 僕は3ヶ月前、ルシフと契約した魔法を使った。
 魔法を使った後、魔力を放出しすぎて、熱を出して寝込んだ。
 いや、それは魔力が切れたと言うよりも、一度にたくさん放出したから……

 ……うん? 

「えっと、神や精霊の力を借りて、自分の体内の魔力をエネルギー源にして、何らかの物理現象起こすことだと思います」

 漆黒の刃や結界魔法を使ったときは、まさにそんな感じだった。

「間違ってはいない」

 とりあえず殴られなかった。

「が、不完全だ。例えば浄化系の魔法は物理現象とは違った結果を生み出すし、結界魔法は物理現象では説明がつかない。
 より正確には体内の魔力をエネルギー源にして、を起こすのが魔法だ」

 なるほど。
 確かに、僕が殴っても効果がなかった『闇』をあっさり切り裂いた漆黒の刃は、物理現象を超えていたかもしれない。

 あれ、でもそれなら……
 僕が感じたのと同じ疑問を、リラも持ったようだ。

「でも、お師匠様。それならそもそも神様や精霊と契約なんてしなくても魔法は使えるんじゃないですか?」

 リラの言う通りだ。
 自分の体内の魔力をエネルギーにして何らかの現象を起こすというならば、神様も精霊も関係ない。

「良いところに気がついたね。確かにその通りだ。
 現に獣人は自分の因子を補助する魔法を自然に使えるようになるし、ドワーフは契約することなく火の魔法を使える。
 エルフや龍族については資料が少ないが、やはり契約なく魔法を使っているらしい」

 ……???
 いまいちよく分からない。

「じゃあ、神様や精霊との契約ってなんなんですか?」

 僕の問いに、お師匠様はやはり答えを言わない。

「さて、何だと思う?」

 獣人は自分の因子に即した魔法を使える。
 ドワーフは火の魔法を使える。
 どちらも、神様や精霊との契約は必要ない。
 エルフや龍族もだ。
 産まれながらに、魔法を使えるようになるのだ。

 だけど、人族は使えない。

 ……いや、ちょっとまてよ。

「もしも、獣人が自分の因子と無関係の魔法を使おうと思ったら、精霊との契約は必要ですか?」

 僕が聞くと、お師匠様は満足げに頷く。
 僕らが正解に近づいたとき、お師匠様はこういう表情を浮かべる。

「必要だね。もっとも、精霊との契約は教会が管理しているから、現状獣人が他の魔法を手にすることは不可能に近いが」

 だとしたら……

 パドとして転生したとき、僕は自然と立ち上がれた。
 11年間下半身不随だったのに、誰にも教わることなく、立ったりジャンプしたりする方法が分かった。
 いや、そもそも人は――いや、動物は――産まれたときから息を吸って、声を上げ、母親のミルクを飲む。
 教わらなくても産まれながらに知っていることだ。
 それを本能という。

 一方で、僕は最初火打ち石を使えなかった。
 火打ち石の使い方は本能で覚えていないから、後天的に学習しなければ使えない。

 つまり。
 獣人が自分の因子に即した魔法を使うのは本能みたいなもの。
 一方で、神や精霊と契約するのは後天的な学習みたいなもの。

「神様や精霊は、本来その人が知らない魔法を教えてくれるだけってことですか?」

 僕の言葉に、お師匠様は満足げに頷いた。

 ---------------

「じゃあ、もしかして、すでに魔法を使える人に教えてもらえば、精霊と契約しなくても魔法が使えるんですか?」

 リラの疑問はもっともだ。
 だが、お師匠様は首を横に振って否定する。

「残念ながらそこまで簡単ではない。精霊が魔法を教えるというのは、言葉や行動で教えるのではない。人間の本能レベルの記憶に書き込む行為だ。これは人には再現できない。そして、魔法は単なる知識ではなく本能レベルで体に染みついていなければ発現しない」

 そう言われ、思い出す。
 ルシフと契約したとき、僕は自然と魔法の使い方を理解できた。
 言葉でなど何も教わっていないのに。
 あれは、いわば使からなんだ。

「つまり、魔法の契約とは、人の心に情報を書き込むことだ。
 パド、私が何を言いたいか分かるね?」

 ――え、何をって……えっと?
 僕が呆けた顔をしていると、拳骨ゴチン。

「魔法の契約をするとき、神や精霊に対して心が無防備になるんだよ。もしも、その神や精霊が悪意を持っていたらどうなるかって話だ」

 それはつまり……

「ルシフは、ってことですか?」
「正確にはだろうね」

 お師匠様の説明はこうだ。
 いかに神様だろうが精霊だろうが、契約外のことを書き込むには相手の心に大きな隙が必要。

 逆に言えば魔法の契約には強い精神力が求められる。
 ルシフほどではないにしろ、精霊達は人の心に悪意を書き込もうとするモノが多い。
 それに対抗するには、精霊の誘惑や挑発に乗らない強い心が必要。
 心に大きな隙があれば、魔法ではなく別の何かを心に書き込まれてしまう。
 精霊との契約はそれほど危険なのだ。

 思い出してみれば、ルシフは最初から僕に動揺を与えようとし続けていた。
 わざわざ前世の弟――稔の姿をしてみせたり、家族の命をよこせと言ったり、あるいは左手をよこせと言ったり。
 そもそも、『闇』を送り込んだのがルシフだとしたら、お母さんを攻撃したのも僕を絶望させるためだったのではないか。
 さらに、お母さんの心を封印したのも、同じ理由。

 僕はなんとか絶望に押しつぶされなかったけれど、例えばもし魔法と引き換えに前世の家族の命を差し出していたら――その時、ルシフは僕の心に何かを書き込めたのかもしれない。

「ルシフとは契約するなってお師匠様が言ったのは、そういうことなんですね」
「まあね。ルシフとやらがお前の心に何を書き込みたかったのかは分からない。が、今のお前の手に余る相手であることは間違いない。
 ルシフだけじゃない。今のお前は他の精霊とも契約すべきじゃない。いくら魔力が高くても、心はまだまだ未熟だ」

 僕はかなり危険なことをしてしまったのだ。

 ――あれ、でもさ……

「でも、それならどうして最初に教えてくれなかったんですか?」

 もし、教えてくれたら、2度目の契約はしなかったかもしれないのに。

「甘ったれるんじゃないよ。そうやって他人ひと任せにしようとすることこそ、最大の心の隙ってやつだ。悪魔はそれに付け込もうとするんだよ」

 ……うーん、納得できるようなできないような……

「リラも同じだよ。お前も獣人だけあって人族よりも高い魔力を持っていると感じるが、精霊との契約はまだ早い。獣人の因子の目覚めを待ちなさい」

 僕らはお師匠様の言葉に頷くしかなかったのだった。 
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