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第二部 少年と王女と教皇と 第一章 新たなる戦いの始まり
7.闇のマッチポンプ
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7年前。
レイクさんはルシフ(仮)に囁かれた。
『王様の子どもはもう1人いるよ。元メイド、シーラの娘のアルだ。彼女の居場所、知りたくない?』
かつて王の子を懐妊し、密かに逃されたメイドがいたこと自体はレイクさんも知っていた。
まさかその子どもが実は盗賊女帝だと言われても、俄には信じられなかったが。
さらに、シーラとグダンにもルシフは囁く。
『アルを本来の王女としての立場に戻すチャンスが来た。まずはレイク・ブルテ侯爵と接触しろ』
そして、接触した3人に、ルシフはさらなる秘策を授ける。
ただ単にアルを呼び出しても、彼女の粗暴な性格では王女という身分を受け入れないだろう。
まずは、グダンが人質になったことにして、アル1人を呼び出す。
そして、グダンが死を偽装し、その間際にアルに王女として生きるよう諭せば良い。
無茶な話とも思ったが、ただ呼び出しても応じない相手、しかし、縄で引っ捕らえたのではその後王女として擁立することは不可能。
3人は……いや、3人だけではなく国王も含め、その提案に乗った。
---------------
一方、まだ王女ではなかったアル少女にルシフはこう囁いた。
『お義父さんを助けたいんだったら力を貸すよ』
義父を助けるため、アルはルシフと契約する。
それは命の一部を差し出すことにより、10倍の力と闇の大剣をもらうという内容だ。
その時、アルの頭にあったのは義父グダンを助け出すことのみ。
それが叶えば死んでもいいとすら思い詰めていたが、自分の力だけでは難しいとも考えていた。
それゆえ、アルはルシフの提案に乗った。
---------------
「で、その後どうなったんだい?」
問うお師匠様に、レイクさんが答える。
「いやー、まいりました。用意していた戦士達は、アル殿下の圧倒的な力の前にバッタバッタと斬り捨てられまして」
頭をカキカキ言うレイクさんに、アル王女は吐き捨てる。
「戦士? どう見ても盗賊以下のゴロツキに見えたがな」
「ま、あんな作戦に正規の騎士や兵士を動員するわけにもいきませんからね。そもそも、相手は12歳の少女1人。傭兵を数人雇えば十分だと思ったのですよ」
そりゃあそうだろうな。
「ところがどっこい、アル殿下の強さといったら、もはや人外でした」
10倍の力。
僕の200倍に比べればたいしたことないように思うが、アル王女の場合は元々盗賊団で鍛えられている。
ただの村の子どもの僕が1×200なら、アル王女の場合は20×10なのかもしれない。
「で、最後の手段でそこのキラーリアを投入しました」
ずっと背筋を伸ばしたまま立っていた金髪騎士に皆が注目する。
「アル殿下はお強かったです。私も騎士として好敵手に出会えた喜びを感じると共に、いずれ仕えることになるかもしれないお方の強さに震えました」
キラーリアさんは心底アル王女に心酔するかのように言った。
そのキラーリアさんにお師匠様が尋ねる。
「だが、あんたは無事だったんだね?」
お師匠様の問いには、キラーリアさんではなくレイクさんが答えた。
「ええ、彼女はまさに天才ですから。10倍の力を持つアル殿下と互角の戦いをしましたよ」
うーん、世の中には強い人がたくさんいるものだ。
それとも、キラーリアさんも何かの事情で常人の何倍もの力を得ていたりするのかな?
「いずれにせよ、作戦ではその後グダンがアル殿下を庇って割って入り、死を偽装する予定でした。私は回復魔法も使えますからね。
――ところが」
ここからが重大な話だった。
レイクさんの言葉を、アル王女が引き継ぐ。
「ヤツは今度は私たち3人を同時に闇の世界に招いた」
そして、ルシフは言った。
『やあ、3人とも元気に戦ったね。感心感心』
そう笑うルシフの顔は、きっと僕に選択を迫ったときと同じだったんだろうなぁと思う。
ルシフは語る。
アルに授けた力は10年後に彼女の命を奪う。
これは契約通りだと。
確かに、アルはそういう契約をした。
グダンを助けることが第一だったし、盗賊稼業をしていれば10年後どころか、数年後の命だって怪しいものだと感じたから。
だが、そもそもグダンの人質事件自体の黒幕が、目の前のルシフだというならば話は別だ。
自分で人質事件を演出し、自分で救い出す力だよとアルに契約を迫る。
最悪のマッチポンプである。
欺されたことに怒り狂うアル。
いや、グダンやレイクも自身が欺されたことに震える。
「今思えば、私やグダンは何らかの洗脳状態にあったのかもしれません」
人質作戦自体、冷静に考えてみれば穴だらけだ。
レイクさんはもっと思考力のある人間だし、グダンはそういう卑怯な作戦は好まない。
にもかかわらず、特に疑問に思うこともなく実行してしまった。
突然、闇の世界に誘われ、混乱状態にある中で、心の一部を闇に塗り込まれたのかもしれない。
もしも、精霊と同じく魔法の契約――つまり、心に何かを書き込む力をルシフが持っているというならば、その可能性は高い。
怒りをあらわにする3人にルシフは笑う。
『おやおや、ボクはキミ達の願いを叶えたんだよ。
レイクくんは諸侯連立派とは別の王の子を探していた。アルちゃんは間違いなく王の子だよ。
グダンさんはアルちゃんが真っ当な道を歩むことを願った。
そして、アルちゃんはグダンさんの命が助かることを願った。
ほら、全部願いは叶った』
全てはルシフの掌の上だった。
次に言われた言葉も含めて。
『そうそう、アルちゃん。1つ良いことを教えてあげよう。
ボクとの契約だけどね。国王にだけ伝わる解呪法を使えば元に戻せるよ。
でも、今の国王様は高齢だから無理だろうね。
つまり、10年以内にアルちゃんが女王になればぜーんぶ解決』
そう言って、ルシフは笑い、『あとは自分たちでどうするか考えな』と言い残して消えた。
---------------
「で、どうなったんだい?」
「どうなったも、こうなったも、アル殿下を王女として擁立して、こうして女王に即させようとしているんですよ」
ふーむ。
ルシフのヤツ、7年前からそんなことをしていたのか。
僕に仕掛けた罠なんかよりずっと大規模だ。
しかも、途中でレイクさんの心の一部を書き換えた疑惑すらある。
いや、レイクさんだけでなく、グダンや、あるいはアル王女やシーラの心すら弄っていたようにも感じる。
「私はアイツを許さん。だが、現状私はあと3年で死ぬ。まずはそれを防がねばならん」
それ故、彼女は王位を目指している。
だが、単に王の子というだけで王位につけるわけではない。
現国王としても、今諸侯連立と正面切って戦える状態ではない。
それゆえに、レイクさんはアル王女を『元盗賊女帝の現勇者』として演出しようとしているのだ。
そんなときに出てきたのが、今回の神託だ。
勇者には仲間が必要。
なにしろ、500年前の勇者がそうだったから。
200倍の力と魔力を持つ幼き少年、勇者の仲間に相応しいと考えた。
話を聞き終え、お師匠様が言った。
「……ふむ。一応話は分かった。最後の所は半分は嘘だろうが」
「嘘? どういうことですかアラブシ先生?」
「パドを仲間にしたいという話さ。本当の目的はパドを捕えて教会に差し出すことじゃないのか? あるいは神託を利用して、勇者が倒した魔物扱いにでもするかい?」
その言葉に、場が緊張する。
世界を滅ぼすかもしれないと神に告げられた少年。
それを殺して教会にその首を差し出した王女。
――まさに勇者と呼ばれるに相応しい。
「老婆よ、私を見損なうな。私はそのようなことは考えていない」
アル王女は言うが。
「ああ、こりゃすまんかった。誤解だよアル殿下。あなたはそんな卑怯な人じゃないだろう。
私はあんたの隣に座っている男の思考を述べたまでだよ」
その言葉に、全員の視点がレイクさんに集まる。
レイクさんは慌てる。
「ちょ、ちょっとお待ちください。私は……」
言いかけたレイクさんの鼻元に、アル王女の大剣が突きつけられる。
「レイク、心して答えろ。貴様私を欺していたのか?」
憤怒のアル王女。
答え次第ではレイクさんを斬り捨てかねない勢いだ。
レイクさんは顔を引きつらせながら答える。
「……状況によっては、アラブシ先生のおっしゃるような展開もあり得るとは思っていました」
「キサマっ」
「ですが、それはあくまでも展開次第でした。例えば、神託の子どもが心から世界を滅ぼそうと画策しているとか、そういう場合の話です。
私たちの目的は世界を滅ぼすことではありませんから。
パドくんのような子であるなら、そんな必要は無いでしょう。ましてここにはアラブシ先生がいます。神託の預言を回避することもできるでしょう。
パドくんを殺すよりも、生かして、り……いえ協力してもらった方が利益があると考えます。
まして、パドくんもあの闇の幼児――ルシフに欺された経験があるというならばなおさらです」
レイクさん、利用って言いかけて協力って言い直したよね?
「ならば、何故最初から私にそう告げなかった?」
「アル殿下やキラーリアは腹芸ができるタイプではありませんから」
アル王女の表情はだんだんと収まってくる。
彼女の思考は活火山のように噴火しやすいが、一方で冷えるのも早いタイプなのかもしれない。
「……まあ、いいだろう。今の私にはお前は必要だし、理屈は分からんでもない。
だが、本当にこの小便タレのガキに利用価値があるのか?」
あ、やっぱりさっき僕がチビっていたの見抜かれていたのね。
お師匠様が水をかけてごまかしてくれたと思っていたけど。
「200倍の力と魔力。それをどう御し利用するか。
それこそアル殿下のお力が試されているかと」
「む。なるほどな。確かにそうかもしれん」
アル王女はニヤっと笑って僕に振り返る。
「小僧。聞いての通りだ。お前を私の部下にしてやろう」
いや、『してやろう』って、もう決定事項なんですか? それ。
「母親を助けたいのだろう?」
う。
それを言われると。
などと考えていたときだった。
「それにしても、今日はお客が多いね」
お師匠様がポツリを呟く。
「なんですか、今更?」
「いやね。今、もう2人……」
お師匠様が言い終える前に。
扉がノックされた。
「今取り込み中だよ」
お師匠様が答えるが。
「申し訳ありませんが、その取り込み中の事案に、おそらく我々も関わっているのですよ」
そう言いながら入ってきたのは、2人の神父。
1人は老人、もう1人は壮年。
その老人を見て、レイクさんが呟く。
「まさか。教皇猊下がこんな場所に」
現れたのは、教会最高位。
こうして事態はいよいよ混迷を深めるのだった。
レイクさんはルシフ(仮)に囁かれた。
『王様の子どもはもう1人いるよ。元メイド、シーラの娘のアルだ。彼女の居場所、知りたくない?』
かつて王の子を懐妊し、密かに逃されたメイドがいたこと自体はレイクさんも知っていた。
まさかその子どもが実は盗賊女帝だと言われても、俄には信じられなかったが。
さらに、シーラとグダンにもルシフは囁く。
『アルを本来の王女としての立場に戻すチャンスが来た。まずはレイク・ブルテ侯爵と接触しろ』
そして、接触した3人に、ルシフはさらなる秘策を授ける。
ただ単にアルを呼び出しても、彼女の粗暴な性格では王女という身分を受け入れないだろう。
まずは、グダンが人質になったことにして、アル1人を呼び出す。
そして、グダンが死を偽装し、その間際にアルに王女として生きるよう諭せば良い。
無茶な話とも思ったが、ただ呼び出しても応じない相手、しかし、縄で引っ捕らえたのではその後王女として擁立することは不可能。
3人は……いや、3人だけではなく国王も含め、その提案に乗った。
---------------
一方、まだ王女ではなかったアル少女にルシフはこう囁いた。
『お義父さんを助けたいんだったら力を貸すよ』
義父を助けるため、アルはルシフと契約する。
それは命の一部を差し出すことにより、10倍の力と闇の大剣をもらうという内容だ。
その時、アルの頭にあったのは義父グダンを助け出すことのみ。
それが叶えば死んでもいいとすら思い詰めていたが、自分の力だけでは難しいとも考えていた。
それゆえ、アルはルシフの提案に乗った。
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「で、その後どうなったんだい?」
問うお師匠様に、レイクさんが答える。
「いやー、まいりました。用意していた戦士達は、アル殿下の圧倒的な力の前にバッタバッタと斬り捨てられまして」
頭をカキカキ言うレイクさんに、アル王女は吐き捨てる。
「戦士? どう見ても盗賊以下のゴロツキに見えたがな」
「ま、あんな作戦に正規の騎士や兵士を動員するわけにもいきませんからね。そもそも、相手は12歳の少女1人。傭兵を数人雇えば十分だと思ったのですよ」
そりゃあそうだろうな。
「ところがどっこい、アル殿下の強さといったら、もはや人外でした」
10倍の力。
僕の200倍に比べればたいしたことないように思うが、アル王女の場合は元々盗賊団で鍛えられている。
ただの村の子どもの僕が1×200なら、アル王女の場合は20×10なのかもしれない。
「で、最後の手段でそこのキラーリアを投入しました」
ずっと背筋を伸ばしたまま立っていた金髪騎士に皆が注目する。
「アル殿下はお強かったです。私も騎士として好敵手に出会えた喜びを感じると共に、いずれ仕えることになるかもしれないお方の強さに震えました」
キラーリアさんは心底アル王女に心酔するかのように言った。
そのキラーリアさんにお師匠様が尋ねる。
「だが、あんたは無事だったんだね?」
お師匠様の問いには、キラーリアさんではなくレイクさんが答えた。
「ええ、彼女はまさに天才ですから。10倍の力を持つアル殿下と互角の戦いをしましたよ」
うーん、世の中には強い人がたくさんいるものだ。
それとも、キラーリアさんも何かの事情で常人の何倍もの力を得ていたりするのかな?
「いずれにせよ、作戦ではその後グダンがアル殿下を庇って割って入り、死を偽装する予定でした。私は回復魔法も使えますからね。
――ところが」
ここからが重大な話だった。
レイクさんの言葉を、アル王女が引き継ぐ。
「ヤツは今度は私たち3人を同時に闇の世界に招いた」
そして、ルシフは言った。
『やあ、3人とも元気に戦ったね。感心感心』
そう笑うルシフの顔は、きっと僕に選択を迫ったときと同じだったんだろうなぁと思う。
ルシフは語る。
アルに授けた力は10年後に彼女の命を奪う。
これは契約通りだと。
確かに、アルはそういう契約をした。
グダンを助けることが第一だったし、盗賊稼業をしていれば10年後どころか、数年後の命だって怪しいものだと感じたから。
だが、そもそもグダンの人質事件自体の黒幕が、目の前のルシフだというならば話は別だ。
自分で人質事件を演出し、自分で救い出す力だよとアルに契約を迫る。
最悪のマッチポンプである。
欺されたことに怒り狂うアル。
いや、グダンやレイクも自身が欺されたことに震える。
「今思えば、私やグダンは何らかの洗脳状態にあったのかもしれません」
人質作戦自体、冷静に考えてみれば穴だらけだ。
レイクさんはもっと思考力のある人間だし、グダンはそういう卑怯な作戦は好まない。
にもかかわらず、特に疑問に思うこともなく実行してしまった。
突然、闇の世界に誘われ、混乱状態にある中で、心の一部を闇に塗り込まれたのかもしれない。
もしも、精霊と同じく魔法の契約――つまり、心に何かを書き込む力をルシフが持っているというならば、その可能性は高い。
怒りをあらわにする3人にルシフは笑う。
『おやおや、ボクはキミ達の願いを叶えたんだよ。
レイクくんは諸侯連立派とは別の王の子を探していた。アルちゃんは間違いなく王の子だよ。
グダンさんはアルちゃんが真っ当な道を歩むことを願った。
そして、アルちゃんはグダンさんの命が助かることを願った。
ほら、全部願いは叶った』
全てはルシフの掌の上だった。
次に言われた言葉も含めて。
『そうそう、アルちゃん。1つ良いことを教えてあげよう。
ボクとの契約だけどね。国王にだけ伝わる解呪法を使えば元に戻せるよ。
でも、今の国王様は高齢だから無理だろうね。
つまり、10年以内にアルちゃんが女王になればぜーんぶ解決』
そう言って、ルシフは笑い、『あとは自分たちでどうするか考えな』と言い残して消えた。
---------------
「で、どうなったんだい?」
「どうなったも、こうなったも、アル殿下を王女として擁立して、こうして女王に即させようとしているんですよ」
ふーむ。
ルシフのヤツ、7年前からそんなことをしていたのか。
僕に仕掛けた罠なんかよりずっと大規模だ。
しかも、途中でレイクさんの心の一部を書き換えた疑惑すらある。
いや、レイクさんだけでなく、グダンや、あるいはアル王女やシーラの心すら弄っていたようにも感じる。
「私はアイツを許さん。だが、現状私はあと3年で死ぬ。まずはそれを防がねばならん」
それ故、彼女は王位を目指している。
だが、単に王の子というだけで王位につけるわけではない。
現国王としても、今諸侯連立と正面切って戦える状態ではない。
それゆえに、レイクさんはアル王女を『元盗賊女帝の現勇者』として演出しようとしているのだ。
そんなときに出てきたのが、今回の神託だ。
勇者には仲間が必要。
なにしろ、500年前の勇者がそうだったから。
200倍の力と魔力を持つ幼き少年、勇者の仲間に相応しいと考えた。
話を聞き終え、お師匠様が言った。
「……ふむ。一応話は分かった。最後の所は半分は嘘だろうが」
「嘘? どういうことですかアラブシ先生?」
「パドを仲間にしたいという話さ。本当の目的はパドを捕えて教会に差し出すことじゃないのか? あるいは神託を利用して、勇者が倒した魔物扱いにでもするかい?」
その言葉に、場が緊張する。
世界を滅ぼすかもしれないと神に告げられた少年。
それを殺して教会にその首を差し出した王女。
――まさに勇者と呼ばれるに相応しい。
「老婆よ、私を見損なうな。私はそのようなことは考えていない」
アル王女は言うが。
「ああ、こりゃすまんかった。誤解だよアル殿下。あなたはそんな卑怯な人じゃないだろう。
私はあんたの隣に座っている男の思考を述べたまでだよ」
その言葉に、全員の視点がレイクさんに集まる。
レイクさんは慌てる。
「ちょ、ちょっとお待ちください。私は……」
言いかけたレイクさんの鼻元に、アル王女の大剣が突きつけられる。
「レイク、心して答えろ。貴様私を欺していたのか?」
憤怒のアル王女。
答え次第ではレイクさんを斬り捨てかねない勢いだ。
レイクさんは顔を引きつらせながら答える。
「……状況によっては、アラブシ先生のおっしゃるような展開もあり得るとは思っていました」
「キサマっ」
「ですが、それはあくまでも展開次第でした。例えば、神託の子どもが心から世界を滅ぼそうと画策しているとか、そういう場合の話です。
私たちの目的は世界を滅ぼすことではありませんから。
パドくんのような子であるなら、そんな必要は無いでしょう。ましてここにはアラブシ先生がいます。神託の預言を回避することもできるでしょう。
パドくんを殺すよりも、生かして、り……いえ協力してもらった方が利益があると考えます。
まして、パドくんもあの闇の幼児――ルシフに欺された経験があるというならばなおさらです」
レイクさん、利用って言いかけて協力って言い直したよね?
「ならば、何故最初から私にそう告げなかった?」
「アル殿下やキラーリアは腹芸ができるタイプではありませんから」
アル王女の表情はだんだんと収まってくる。
彼女の思考は活火山のように噴火しやすいが、一方で冷えるのも早いタイプなのかもしれない。
「……まあ、いいだろう。今の私にはお前は必要だし、理屈は分からんでもない。
だが、本当にこの小便タレのガキに利用価値があるのか?」
あ、やっぱりさっき僕がチビっていたの見抜かれていたのね。
お師匠様が水をかけてごまかしてくれたと思っていたけど。
「200倍の力と魔力。それをどう御し利用するか。
それこそアル殿下のお力が試されているかと」
「む。なるほどな。確かにそうかもしれん」
アル王女はニヤっと笑って僕に振り返る。
「小僧。聞いての通りだ。お前を私の部下にしてやろう」
いや、『してやろう』って、もう決定事項なんですか? それ。
「母親を助けたいのだろう?」
う。
それを言われると。
などと考えていたときだった。
「それにしても、今日はお客が多いね」
お師匠様がポツリを呟く。
「なんですか、今更?」
「いやね。今、もう2人……」
お師匠様が言い終える前に。
扉がノックされた。
「今取り込み中だよ」
お師匠様が答えるが。
「申し訳ありませんが、その取り込み中の事案に、おそらく我々も関わっているのですよ」
そう言いながら入ってきたのは、2人の神父。
1人は老人、もう1人は壮年。
その老人を見て、レイクさんが呟く。
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