神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第二部 少年と王女と教皇と 第二章 決意の時

2.それぞれの望み

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 僕、お師匠様、アル王女、教皇の4人で机を囲む。
 小屋の外にはレイクさん、キラーリアさん、枢機卿レオノルさんが待機していて、隣の部屋にはリラとお母さんがいる。

 なんとも混迷とした状況だが、最初に口を開いたのはお師匠様だった。

「さて、うるさいのは追い出したところで、話し合いだ。
 が、その前に懸案事項と片付けておこう」

 懸案事項?

「懸案事項ってなんですか?」

 僕の質問に、お師匠様が言う。

「半日ほど前、ウチの馬鹿弟子2人が教会の異端審問官に殺されかけ、アル殿下が2人を助けるために彼らを殺した。
 教皇さんからすれば王女に仲間を殺されたことになるし、王女殿下からすれば当然のことをしたと考える。この馬鹿弟子パドからすれば、教会には言いたいことがあるだろう。私としても、神託の対象になったパドはともかく、無関係なリラまで殺されそうになったことには色々と文句がある」

 いや、僕も『ともかく』にしてほしくないんですけど。
 今はそこをツッコむタイミングではないか。

「何しろ、話は殺す殺されるということで、しかも事実として人が死んでいるからね。
 この点をきちんと処理した後でないと、話し合いもクソもないよ」

 そりゃあそうだ。
 今だって、教皇さんが僕を殺そうとしているんじゃないかってヒヤヒヤしているんだから。

 教皇とアル王女もそれぞれも頷く。

「確かにそれは通りですね。私としてもそこをきちんとせずに話を進めるのは遺恨を残すと考えます」
「老婆――アラブシとかいったか――お前に仕切られるのはしゃくだが、確かに言葉は尤もだろう」

 お師匠様は「ふむ」と頷く。

「時に教皇殿、結局、あれは異端審問官だったのだな?」
「それはノーコメントですね」
「だろうな。そもそも異端審問官はすでに・・・存在しない・・・・・はずの・・・役職・・だからな」

 そうなのか。
 確かに、あの問答無用のやり方をする存在を教会が正式に認めるのは差し障り在りそうだけど。

「そこでだ、問題を整理するために敢えて先ほどの王女殿下の話に乗らないか?」
「どういうことでしょうか?」
「パドとリラを襲ったのは神父に化けた盗賊だった。教会とは無関係。そういうことにしちまおうって話だ」

 いやいや、それは無茶でしょ、お師匠様。
 事実としてあったことを無かったことになんてできるわけがないだろう。
 そう思ったが、お師匠様がさらに続けると、アル王女も教皇も興味深げにした。

「そうすれば、教会は異端審問官や子どもを殺そうとした神父の存在を無かったことにできる。
 王女殿下としても、教会と正面からぶつかるのは得策ではない。
 私としても教会に目を付けられたくはないね。
 馬鹿弟子2人パドとリラの気持ちは……このさいどうでもいいだろ」

 そうですか、僕とリラの意志はどうでもいいですか。
 確かにこの状況じゃその通りだけどさぁ。

「私としてはそれで構わんぞ。面倒だしな」

 アル王女はお師匠様の言葉に乗る気になったらしい。

「致し方がありませんね。ここは譲歩しましょう」

 教皇も頷いた。

 いいのかよ、それで。
 正直、納得しにくいのだが、しかし確かに丸く収めるにはそれが一番なのかもしれない。
 死んだ異端審問官はかわいそうな気もするけど、さすがに僕だけでなくリラまで殺そうとしたあいつらに、同情以上の感情は抱けないし。

「そうかい。懸案事項もなくなったところで、じゃあ本題に入ろう」

 ---------------

「さて、こういう話し合いでは、まず3者が望む事柄が何かをそれぞれ提示してもらうべきだろうね」

 お師匠様、いつのまにか場を仕切っている。
 すごいなぁ。

「まず、王女殿下、あんたの望みは王位ということでいいのかい?」
「最終的にはな。そのために力あるものを集めている」
「それが、神託の子ってわけか」

 いや、あの、僕が力になれるとはとても思えないんですけど。

「そう思ったが、むしろ今は老婆、あんたが欲しいな。そのガキが役に立つかは判断保留だ」
「ふむ、なるほど。だが力あるものを集めたからといって王位は手に入らないだろう?
 それとも私かパドに他の王子達の暗殺でもさせるつもりか?」
「それに関してはここではコメントできないな。ただ、暗殺などという手段をとるつもりはない。今のところはな」

 アル王女の言葉に、お師匠様は「なるほど、なるほど」と頷く。

「次に教会だ。あんた達の望みは?」
「ここに来た理由は世界の存続ですよ。神託の内容を知って、王女殿下は200倍の力に価値を見いだされたようですが、教会としては世界が滅びるかもしれないという言葉に重きを置いています」
「つまり、パドを今のうちに殺しておこうというわけかい?」
「必要とあれば」

 やっぱり、僕、殺されるの?
 それはイヤだなぁ。
 でも、僕のせいで世界が滅びると言われると……

 それにしても、お師匠様は何を考えているんだろう?
 結局、教会との対立は不回避に思えてきたんだけど。

「さて、最後にパド、あんたの願いは?」

 問われ、考える。
 願い。
 僕の望み。

「僕は……そんな大それた願いなんてありません」
「ふむ、つまりここで世界のために殺されてもいいと?」

 お師匠様は冷たく僕を睨む。
 もし、お師匠様が僕を教皇に差し出せば、お師匠様やリラが教会と対立する意味は無くなる。
 アル王女がどう考えるかは分からないけど、お師匠様とリラ、それにお母さんは護られる。
 ならそれでも……

 ……などと考えてはいけないのだろう。
 お師匠様の問いはそういう答えを期待したものじゃないと思う。
 それに、それは僕の望みじゃない。

「僕の望みは、家族と幸せに暮らすことです。お母さんの呪いを解いて、いつかは村に帰って僕と両親と、それに友達もいっしょに。それ以上は望みません。でも、そのためならどんなことでもします」

 これが僕の答え。
 王位とか、世界の運命とか、そんな大それた話は僕には考えられない。
 でも同時に、神託なんていうワケの分からないものを根拠に、世界のために死んでくれなんて言われて頷くつもりもない。

 前世の両親は僕のために泣いてくれた。前世の弟は僕の代わりに両親を支えてくれた。
 お医者さんや看護婦さんは最後まで僕を見捨てないでくれた。
 今のお父さんはチートや前世の記憶を持つ僕を受け入れて一緒に泣いてくれた。お母さんは7年かけて笑ってくれた。
 お師匠様は厳しいけど僕に生きる方法を教えてくれる。
 リラは僕を信じてくれたし、ジラは僕を待っていてくれる。

 僕の命は僕だけのモノじゃないから。
 だから、僕は簡単に自分の生を捨てたりしない。

「いい回答だ」

 お師匠様は僕の答えに、一言そう、満足げに言った。

 ---------------

「さて、この場合、一番の懸念事項はやはり、神託においてパドが世界を滅ぼすかもしれないと語られていることだろうね」

 お師匠様の言葉に、教皇、アル王女、僕もそれぞれ頷く。

「ええ、教会としてはそれは絶対に認められません」
「確かに世界が滅んでは王位もクソもないな」
「僕も、世界の滅びなんて望んでいません」

 それでも僕の力と魔力チートは世界を滅ぼす呪いとなるのだろうか。
 わからない。
 そもそも、神託の言葉が曖昧すぎる。

 もう一度思い出してみよう。

 =====================
 エーペロス大陸の南西、ゲノコーラ地方、ペドラー山脈にあるラクルス村。
 その地に神の手違いにより転生しせりパド少年。
 その者、200倍の力と魔力を持ち、闇との契約に至れり。
 放置すれば世界が揺らぎ、やがて滅びるであろう。
 =====================

 前半2行は事実を述べただけだ。

 問題は3行目。

 200倍の力。
 200倍の魔力。

 ――これはもうどうにもならない。

 だが。

 闇との契約。

 これはルシフとの話だろう。
 ならば、これ以上契約しなければ良いことなのではないか。

 いや、それは甘いのか?
 すでに契約したという事実がある以上、世界は滅ぶのか?

 僕が今までルシフと契約したのは以下の通りだ。

 結界魔法、フェイク死体作成魔法、漆黒の刃の魔法、怪我の治癒魔法。

 どれも世界を滅ぼすような魔法とは思えない。

「そこで教皇、あなたが知らない情報をやろう」

 そしてお師匠様は語り出す。
 僕に接触したルシフについて。

「なるほど、その『闇』とやらがルシフの手のものだったと仮定するならば、確かに神託にある『闇との契約』という言葉も理解できますね。
 それで?」

 お師匠様、闇との契約を認めたらますます僕の命が危うくなると思うんですけど……

「あんたが今回聞いた“神託”、本当に・・・神の・・言葉かい・・・・?」

 お師匠様の問いに、教皇が顔をしかめる。

「あなたは神の言葉を疑うのですか?」
「いいや、神の・・言葉で・・・あるかどうか・・・・・・を疑っている」

 微妙に違いが分からない。
 教皇も困惑しながらブツブツと言う。

「それはどういう……いや、まさか……」

 その教皇の困惑に、アル王女が言う。

「なるほどな。神の振りをしてあのガキルシフが教皇に囁いた可能性か。確かにありそうな話だ」

 アル王女の言葉に、僕はようやくお師匠様が何を言いのか理解した。

「アル殿下、あなたもルシフと出会ったことがあるのですか?」
「まあな」

 アル王女は教皇に、7年前の話をかいつまんで説明した。

「そんな……あれは神の言葉ではなく……いやまさか……」

 教皇は1人でブツブツいいながら歩き回る。
 だが彼に――いや、彼だけでなく僕らにそれ以上考えている時間は無かった。

「うん? みんな、伏せなっ!!」

 お師匠様が唐突に叫ぶ。

 ――なに?

 考える間もなく。

 小屋の天井と壁を破って漆黒の攻撃が僕らに襲いかかる。
 家具や机の破片が飛び散る。

 ――今後は何!?

 僕は壊れた天井から空を見上げる。

 そこにいたのは……

「……『闇』」

 そう。
 数ヶ月前、ラクルス村を襲い、お母さんに大怪我をさせた『闇』が、空に佇んでいた。
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