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第三部 エルフと龍族の里へ 第一章 よもやま旅路
2.リリィとダルト/またはテルグスの街の話
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お師匠様の小屋を旅立って4日目。
僕たちは最初の目的地テルグスの街に到着した。
「ここがテルグスの街」
僕はあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと観察してしまう。
複数の街道の分岐点でもあるこの街は、宿場街でもあり、商業街でもある。
もちろん、現地に住んでいる人もたくさんいる。
今、僕の視界に入る街並みだけでも、ラクルス村よりもたくさんの人々と建物がある。
街全体ではこの10倍、20倍もの広さがあるらしい。
ラクルス村とお師匠様の小屋くらいしか知らない僕にとっては、当然こんな大きな街は初体験。
……いや、11年桜勇太として入院してた病院のあった街はもっと大きかったかもしれないけど、病室の外に出たことなかったしね。
ラクルス村とちがって、石やレンガでできた建物もあるし、露天商の呼びかけ声は活発だ。一方、走り回る子ども達はジラやキドと同じく元気いっぱいだ。
「パドくん、キョロキョロするのはいいですが、いきなり迷子にならないでくださいね」
レイクさんにそう言われてしまうくらい、僕は興奮していた。
――その一方で。
リラはなんだか体を縮こませて辺りをうかがっている。
その理由はハッキリしている。
彼女は4歳までこの街で暮らした。
祖父母とは色々あったとも聞いている。特に祖父に対してはトラウマのようなものすら持っている様子だ。
ビクビクするのもわからなくはない。
――とはいうものの。
テルグスに行くとレイクさんに聞いて、リラの身の上は多少問題になったのだが、冷静に考えてみれば4歳で街を出たのだ。現在12歳のリラを見て、祖父母を含めてリラのことを判別できる人間がいるとは考えにくい。
むしろ。
「リラ、おじいさんとおばあさんに会わなくて、本当にいいの?」
僕は改めて尋ねてしまう。
なんだかんだいっても、リラにとって唯一の肉親だ。
これから長い旅に出ることを考えたら、過去はともかく現在は一言挨拶くらいした方がいいのではないか。
もちろん、それでまた祖父が包丁を持って追いかけてきたら、その時は僕が護る。
だが。
「いいわよ。いまさら意味ないもの」
そう言われては、返す言葉がない。
---------------
やがてたどり着いたのは街の中心からちょと西寄りにある宿屋だった。
最高級ではないものの、3階建ての立派な宿だ。
なんでも、アル王女達はここに誰かを待たせているらしいのだが。
「うわぁぁぁぁっ!!」
唐突な悲鳴。
僕らの誰かではなく、宿の上階から聞こえてきた。
「リリィ、落ち着いて、落ち着けってっ!!」
若い男性の声かな?
それと共に3階の窓が開き……
……え?
窓から、男の人が飛び降りた。
こうして、テルグス到着早々僕らは投身自殺の現場に立ち会ったのだった。
---------------
――というわけではなく。
窓から落ちた男性は、即座になにやら呪文のを唱えると、ポゥっと体全体を光らせる。
どうやら、自分自身に回復魔法を使ったらしい。
「ダルト、大丈夫ですか」
やれやれといった感じで、その男――ダルトさんに近づいたのはレイクさん。
「レイク様ぁ、やっとお戻りですか」
うわ、いきなり半泣き状態。
っていうか、合流したかったというのはこのダルトさんなのか?
などと思っていたら。
「ダルトぉぉぉぉ!!」
宿の扉がバンっと開き、現れたのはリラと同じくらいの年頃の少女。
ブロンドの短髪で、片手にはショートソードを抜き身で振り回している。が、何よりも目につくのはその服装。パンツとブラジャーだけという、はっきりいってどこに目をやったらいいのか分からなくなるような姿だった。
――なに? この子?
「逃げるんじゃないわよぉ!! とっととアルお姉様のところに……」
そう叫ぶ彼女は、ようやく宿の前にいる僕ら――というよりも、アル王女とレイクさんに気がついたらしい。
「あ、あら、アルお姉様。お待ち申し上げておりましたわ」
そう言って、アル王女に抱きつくリリィ。
――えーっと。
「リリィ、いい加減になさい!!」
レイクさんが少女――リリィに怒鳴る。
「伯父様は黙っていてください。私とアルお姉様は将来を約束した仲なのです」
は?
伯父様ってことは、レイクさんの姪ってこと?
いや、それ以前に将来を約束した仲って……
リラと僕は困惑するばかり。
「パド、これ、どういうこと?」
「さあ?」
将来を約束した仲とは、普通ならば婚約という意味だろう。だが、アル王女もリリィもどうみても女性だ。
いや、この世界で同性婚がどういう扱いかはよく分からないが……
レイクさんが頭を抱える。
「何を馬鹿なことを」
「私はアルお姉様と結婚するのっ」
「あなたとアル様が結ばれるなどありえるわけがないでしょう」
ちなみに、レイクさんがアル王女ではなく、アル様と呼んでいるのは王女がこんなところにいるなどと周囲にばれないため。僕らも王女という単語は口にしないようにと言われている。
というわけで、ここから先は僕もアル王女ではなく、アル様と呼ぶことにする。
「愛があれば年の差なんて」
「それ以前の問題ですっ!!」
「身分差も関係ないわっ」
「ですから、それ以前の問題です」
「性別だって乗り越えられますっ!!」
「アホですか、あなたはっ!?」
ついにレイクさんは頭痛がするとばかりに座り込んでしまった。
……すごい。
なんか、ものすごい。
このリリィという少女には、『闇』とかアル様とかとは全く別の意味で圧倒される。
アル様に抱きついたまま、ここまで我を通すとはただ者ではない。
――って。ちょっと待って。
アル様に抱きついたまま……?
こんな状況、アル様がキレてしまうのでは……
まずい。
これはまずいよ。
僕は数秒後に起きるであろう、彼女の首が胴体と離れる姿を予想して、思わず目をつぶった。
だが。
「おう、リリィ、久しいな。相変わらず元気そうだ」
アル様は怒るどころか、今まで見たこともないほどのご機嫌な声で、リリィを抱き上げたのだった。
――なに、これ?
「とりあえず、宿に入りましょう。お互い情報交換や自己紹介の必要もあるでしょうし」
レイクさんが疲れた表情で言った。
---------------
リリィ。本名リリアン・ブルテ。現在11歳。
レイクさんの弟の娘、らしい。
ただしその弟さん夫婦はリリィが産まれてすぐ亡くなったらしく、以後レイクさんの養子扱い。もっとも、リリィは未だにレイクさんのことを『お父様』ではなく『伯父様』と呼んでいる。
「それって、ひょっとして例によって謀殺ってやつですか?」
「いえ、さすがにそれはないでしょう。普通に弟夫婦は病死です」
一方のダルトさん。現在16歳。
騎士見習いにて、リリィの従者のような存在らしい。
「全く、あなたは毎回毎回ダルトを半殺しにして。彼だって不死身ではないのですよ」
「大丈夫。3階からは落っことしても、4階から落とすのは自重しているから」
「それは自重とはいいませんっ!!」
まったくです。
現在、宿の部屋の中にいるのは僕、リラ、レイクさん、アル様、リリィの5人。
ダルトさんとキラーリアさんは部屋の外で警備中。
「だって、お慕いしているアルお姉様の元に、いくら言っても連れて行ってくれないんだもん」
「ですから、それは今回山登りだし、何が起きるか分からない状況だからと何度も説明したでしょう」
レイクさんは頭を抱え込む。
そんな様子を楽しげに見るアル様。
「あ、あのー、1つ質問なんですが」
僕はおずおずと手を上げる。
ちなみに、リリィ達のことを紹介される前に、僕らのことは彼女たちに紹介している。
「なんですか、パドくん」
「それで、結局、アル様と将来を約束したうんぬんというのは……」
「この子の妄想、妄言です」
断言するレイクさん。
そりゃあそうだよね。
アル様も付け加える。
「私としても、さすがに婚姻の約束をした覚えはないな」
「まあ、照れなくてもいいではありませんか。2年前、『一生アルお姉様に従います』と申し上げたら、アルお姉様も『わかった。よろしく頼む』とおっしゃってくださいましたわ」
いや、それはさぁ……
「それはあくまでも貴族としてアル様の陣営に参画するという意味でしかないでしょう。なぜそれが婚姻の約束になるのですか!?」
レイクさんのもっともすぎるツッコミ。
「まあ、それは見解の相違ですわ。リリィは一生のご縁をお願いしたつもりでしたもの」
「悪質な詐欺師ですか、あなたは……」
うん。確かに悪質な詐欺みたいな話だ。
例えるならば……
『この商品はいかがでしょうか』
『結構です』
『結構なのですね。では商品を送りますからお支払いをお願いしますね』
……こんな感じの振り込め詐欺みたいである。
どこぞの闇の少年ですらマシに感じる屁理屈だ。
ともあれ。
アル様達が合流したかったのは、どうやらリリィとダルトさんの2人だったらしい。
本来、リリィはこの旅に連れてくるつもりはなかったのだが、王都があまりにもキナ臭く、彼女を置いてくるよりもいっそ一緒に旅をした方が安全という判断らしい。
彼女自身、『冒険者』や『勇者』に憧れており、なによりも『盗賊女帝』の物語が大好きだったらしく、アル様に付き従うことを承諾。
というよりも、だめだと言っても着いてきただろうとはレイクさんの談。
「とにかく。あとでちゃんとダルトには謝りなさい」
「えー、どうしてですか? 死なない程度に手加減したのに」
……ガチで言っていますか、この少女は。
というか、3階から突き落とすのは、むしろ謝ってもすまないレベルだと思うんだけど。
「パド、この子ヤバくない?」
「うん、なんつーか、ねぇ?」
倫理観のどこかがぶっとんでいるようにしか感じない。
ちなみに、彼女は未だ下着姿のままである。
どうやらアル様の姿をまねしているつもりのようだ。が、アル様は露出度は高いものの下着姿というわけではない。
「そこ、聞こえているわよっ!!」
リリィが立ち上がり、僕らにすごむ。
「そりゃあ、聞こえるように言ったつもりだし」
え、リラ、そうなの!?
「なんですってっ!!」
「なによ!?」
うわぁ、こんなところで女の戦いを勃発させないでくれよ。
冷静に考えてみると、リラも結構高飛車というか、毒舌なところあるからなぁ。
そんな2人の背中を、アル様が軽々と掴む。
「2人とも、喧嘩なら外でやれ。剣はナシでな」
そう言って、リリィのショートソードを取り上げてから、窓から2人を放り出すアル様。
「って、アル様、ここ2階」
僕は慌てて言うが。
「あれだけ元気があれば大丈夫だろう。せいぜい捻挫くらいだ。それならレイクかダルトの魔法ですぐ完治する」
なんか、もう、無茶苦茶な気がするが、確かに1番手っ取り早い解決方法かもしれない。
――ちなみに。
1時間ほどして戻ってきたリリィとリラは、お互い顔面にひっかき傷を作りつつも、なぜだかやたらと固い女の友情を築いていた。
全く意味が分からないよ。
僕たちは最初の目的地テルグスの街に到着した。
「ここがテルグスの街」
僕はあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと観察してしまう。
複数の街道の分岐点でもあるこの街は、宿場街でもあり、商業街でもある。
もちろん、現地に住んでいる人もたくさんいる。
今、僕の視界に入る街並みだけでも、ラクルス村よりもたくさんの人々と建物がある。
街全体ではこの10倍、20倍もの広さがあるらしい。
ラクルス村とお師匠様の小屋くらいしか知らない僕にとっては、当然こんな大きな街は初体験。
……いや、11年桜勇太として入院してた病院のあった街はもっと大きかったかもしれないけど、病室の外に出たことなかったしね。
ラクルス村とちがって、石やレンガでできた建物もあるし、露天商の呼びかけ声は活発だ。一方、走り回る子ども達はジラやキドと同じく元気いっぱいだ。
「パドくん、キョロキョロするのはいいですが、いきなり迷子にならないでくださいね」
レイクさんにそう言われてしまうくらい、僕は興奮していた。
――その一方で。
リラはなんだか体を縮こませて辺りをうかがっている。
その理由はハッキリしている。
彼女は4歳までこの街で暮らした。
祖父母とは色々あったとも聞いている。特に祖父に対してはトラウマのようなものすら持っている様子だ。
ビクビクするのもわからなくはない。
――とはいうものの。
テルグスに行くとレイクさんに聞いて、リラの身の上は多少問題になったのだが、冷静に考えてみれば4歳で街を出たのだ。現在12歳のリラを見て、祖父母を含めてリラのことを判別できる人間がいるとは考えにくい。
むしろ。
「リラ、おじいさんとおばあさんに会わなくて、本当にいいの?」
僕は改めて尋ねてしまう。
なんだかんだいっても、リラにとって唯一の肉親だ。
これから長い旅に出ることを考えたら、過去はともかく現在は一言挨拶くらいした方がいいのではないか。
もちろん、それでまた祖父が包丁を持って追いかけてきたら、その時は僕が護る。
だが。
「いいわよ。いまさら意味ないもの」
そう言われては、返す言葉がない。
---------------
やがてたどり着いたのは街の中心からちょと西寄りにある宿屋だった。
最高級ではないものの、3階建ての立派な宿だ。
なんでも、アル王女達はここに誰かを待たせているらしいのだが。
「うわぁぁぁぁっ!!」
唐突な悲鳴。
僕らの誰かではなく、宿の上階から聞こえてきた。
「リリィ、落ち着いて、落ち着けってっ!!」
若い男性の声かな?
それと共に3階の窓が開き……
……え?
窓から、男の人が飛び降りた。
こうして、テルグス到着早々僕らは投身自殺の現場に立ち会ったのだった。
---------------
――というわけではなく。
窓から落ちた男性は、即座になにやら呪文のを唱えると、ポゥっと体全体を光らせる。
どうやら、自分自身に回復魔法を使ったらしい。
「ダルト、大丈夫ですか」
やれやれといった感じで、その男――ダルトさんに近づいたのはレイクさん。
「レイク様ぁ、やっとお戻りですか」
うわ、いきなり半泣き状態。
っていうか、合流したかったというのはこのダルトさんなのか?
などと思っていたら。
「ダルトぉぉぉぉ!!」
宿の扉がバンっと開き、現れたのはリラと同じくらいの年頃の少女。
ブロンドの短髪で、片手にはショートソードを抜き身で振り回している。が、何よりも目につくのはその服装。パンツとブラジャーだけという、はっきりいってどこに目をやったらいいのか分からなくなるような姿だった。
――なに? この子?
「逃げるんじゃないわよぉ!! とっととアルお姉様のところに……」
そう叫ぶ彼女は、ようやく宿の前にいる僕ら――というよりも、アル王女とレイクさんに気がついたらしい。
「あ、あら、アルお姉様。お待ち申し上げておりましたわ」
そう言って、アル王女に抱きつくリリィ。
――えーっと。
「リリィ、いい加減になさい!!」
レイクさんが少女――リリィに怒鳴る。
「伯父様は黙っていてください。私とアルお姉様は将来を約束した仲なのです」
は?
伯父様ってことは、レイクさんの姪ってこと?
いや、それ以前に将来を約束した仲って……
リラと僕は困惑するばかり。
「パド、これ、どういうこと?」
「さあ?」
将来を約束した仲とは、普通ならば婚約という意味だろう。だが、アル王女もリリィもどうみても女性だ。
いや、この世界で同性婚がどういう扱いかはよく分からないが……
レイクさんが頭を抱える。
「何を馬鹿なことを」
「私はアルお姉様と結婚するのっ」
「あなたとアル様が結ばれるなどありえるわけがないでしょう」
ちなみに、レイクさんがアル王女ではなく、アル様と呼んでいるのは王女がこんなところにいるなどと周囲にばれないため。僕らも王女という単語は口にしないようにと言われている。
というわけで、ここから先は僕もアル王女ではなく、アル様と呼ぶことにする。
「愛があれば年の差なんて」
「それ以前の問題ですっ!!」
「身分差も関係ないわっ」
「ですから、それ以前の問題です」
「性別だって乗り越えられますっ!!」
「アホですか、あなたはっ!?」
ついにレイクさんは頭痛がするとばかりに座り込んでしまった。
……すごい。
なんか、ものすごい。
このリリィという少女には、『闇』とかアル様とかとは全く別の意味で圧倒される。
アル様に抱きついたまま、ここまで我を通すとはただ者ではない。
――って。ちょっと待って。
アル様に抱きついたまま……?
こんな状況、アル様がキレてしまうのでは……
まずい。
これはまずいよ。
僕は数秒後に起きるであろう、彼女の首が胴体と離れる姿を予想して、思わず目をつぶった。
だが。
「おう、リリィ、久しいな。相変わらず元気そうだ」
アル様は怒るどころか、今まで見たこともないほどのご機嫌な声で、リリィを抱き上げたのだった。
――なに、これ?
「とりあえず、宿に入りましょう。お互い情報交換や自己紹介の必要もあるでしょうし」
レイクさんが疲れた表情で言った。
---------------
リリィ。本名リリアン・ブルテ。現在11歳。
レイクさんの弟の娘、らしい。
ただしその弟さん夫婦はリリィが産まれてすぐ亡くなったらしく、以後レイクさんの養子扱い。もっとも、リリィは未だにレイクさんのことを『お父様』ではなく『伯父様』と呼んでいる。
「それって、ひょっとして例によって謀殺ってやつですか?」
「いえ、さすがにそれはないでしょう。普通に弟夫婦は病死です」
一方のダルトさん。現在16歳。
騎士見習いにて、リリィの従者のような存在らしい。
「全く、あなたは毎回毎回ダルトを半殺しにして。彼だって不死身ではないのですよ」
「大丈夫。3階からは落っことしても、4階から落とすのは自重しているから」
「それは自重とはいいませんっ!!」
まったくです。
現在、宿の部屋の中にいるのは僕、リラ、レイクさん、アル様、リリィの5人。
ダルトさんとキラーリアさんは部屋の外で警備中。
「だって、お慕いしているアルお姉様の元に、いくら言っても連れて行ってくれないんだもん」
「ですから、それは今回山登りだし、何が起きるか分からない状況だからと何度も説明したでしょう」
レイクさんは頭を抱え込む。
そんな様子を楽しげに見るアル様。
「あ、あのー、1つ質問なんですが」
僕はおずおずと手を上げる。
ちなみに、リリィ達のことを紹介される前に、僕らのことは彼女たちに紹介している。
「なんですか、パドくん」
「それで、結局、アル様と将来を約束したうんぬんというのは……」
「この子の妄想、妄言です」
断言するレイクさん。
そりゃあそうだよね。
アル様も付け加える。
「私としても、さすがに婚姻の約束をした覚えはないな」
「まあ、照れなくてもいいではありませんか。2年前、『一生アルお姉様に従います』と申し上げたら、アルお姉様も『わかった。よろしく頼む』とおっしゃってくださいましたわ」
いや、それはさぁ……
「それはあくまでも貴族としてアル様の陣営に参画するという意味でしかないでしょう。なぜそれが婚姻の約束になるのですか!?」
レイクさんのもっともすぎるツッコミ。
「まあ、それは見解の相違ですわ。リリィは一生のご縁をお願いしたつもりでしたもの」
「悪質な詐欺師ですか、あなたは……」
うん。確かに悪質な詐欺みたいな話だ。
例えるならば……
『この商品はいかがでしょうか』
『結構です』
『結構なのですね。では商品を送りますからお支払いをお願いしますね』
……こんな感じの振り込め詐欺みたいである。
どこぞの闇の少年ですらマシに感じる屁理屈だ。
ともあれ。
アル様達が合流したかったのは、どうやらリリィとダルトさんの2人だったらしい。
本来、リリィはこの旅に連れてくるつもりはなかったのだが、王都があまりにもキナ臭く、彼女を置いてくるよりもいっそ一緒に旅をした方が安全という判断らしい。
彼女自身、『冒険者』や『勇者』に憧れており、なによりも『盗賊女帝』の物語が大好きだったらしく、アル様に付き従うことを承諾。
というよりも、だめだと言っても着いてきただろうとはレイクさんの談。
「とにかく。あとでちゃんとダルトには謝りなさい」
「えー、どうしてですか? 死なない程度に手加減したのに」
……ガチで言っていますか、この少女は。
というか、3階から突き落とすのは、むしろ謝ってもすまないレベルだと思うんだけど。
「パド、この子ヤバくない?」
「うん、なんつーか、ねぇ?」
倫理観のどこかがぶっとんでいるようにしか感じない。
ちなみに、彼女は未だ下着姿のままである。
どうやらアル様の姿をまねしているつもりのようだ。が、アル様は露出度は高いものの下着姿というわけではない。
「そこ、聞こえているわよっ!!」
リリィが立ち上がり、僕らにすごむ。
「そりゃあ、聞こえるように言ったつもりだし」
え、リラ、そうなの!?
「なんですってっ!!」
「なによ!?」
うわぁ、こんなところで女の戦いを勃発させないでくれよ。
冷静に考えてみると、リラも結構高飛車というか、毒舌なところあるからなぁ。
そんな2人の背中を、アル様が軽々と掴む。
「2人とも、喧嘩なら外でやれ。剣はナシでな」
そう言って、リリィのショートソードを取り上げてから、窓から2人を放り出すアル様。
「って、アル様、ここ2階」
僕は慌てて言うが。
「あれだけ元気があれば大丈夫だろう。せいぜい捻挫くらいだ。それならレイクかダルトの魔法ですぐ完治する」
なんか、もう、無茶苦茶な気がするが、確かに1番手っ取り早い解決方法かもしれない。
――ちなみに。
1時間ほどして戻ってきたリリィとリラは、お互い顔面にひっかき傷を作りつつも、なぜだかやたらと固い女の友情を築いていた。
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