神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第一章 王都への行程

7.拷問と解毒剤

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 悲鳴を上げたのはリラとバラヌ。
 あるいは、僕も無意識に上げていたかもしれない。
 そのくらい、部屋の中は凄まじい状況だった。

 床や壁や天井を汚すどす黒い大量の血痕。
 あたりに転がる何十個もの人間の首。
 返り血だらけで無造作に剣を握るキラーリアさん。
 そして、床に転がったブッターヤ領主とにらみ合うアル様とレイクさん。

 はっきりいって、トラウマ物の光景だ。

「う"」

 リラがうめいてその場にうずくまる。僕の腕の中のバラヌは泣き叫んでいる。僕もその場で胃の中の物を吐きそうになるが、なんとかこらえた。

 ルアレさんが呆然と言う。

「これは……すさまじいですね」

 ピッケが言う。

「だから、ちょっと待ってって言ったのに」

 彼はそこまで衝撃を受けてはいないらしい。龍族は感覚が違うのだろうか。
 レイクさんがルアレさんに語りかけた。

「ルアレさん、子ども達を外に連れて行ってもらえませんか? ここから先は、子どもが見るものではありません」
「そうしたいところですが、我々も兵士に追われていましてね」
「なるほど。今、兵らにやってこられるのは避けたいのですが」
「では、なんとかしましょう」

 ルアレさんは自信満々に言うが、どうするつもりなんだろうか?
 などと思っていると、彼の手の中のベニーラの鞭が扉のとってに巻き付いた。
 どうやら、これも魔法らしい。

「そんなのすぐに破られると思いますけど」
「ご心配なく。見た目よりも固いですから」

 魔法で強化しているってことか。
 実際、扉の向こう側で兵士らが騒ぎ、扉を押し開けようとしだしたようだが、ベニーラの鞭はビクともしない。
 これなら、しばらくは余計な乱入者は現れないだろう。この部屋、窓もないし。
 もっとも、扉や壁自体に穴を空けられたらお手上げだが。

 こうなると僕らもこの血まみれの部屋から出られないか。
 本気で幼少期のトラウマ光景だぞ。バラヌは自らギュッと目を瞑っているが、できるだけそのままでいてほしいな。

 僕の思いとは別に、レイクさんはブッターヤ領主に向き直って尋問を始めた。

「それで、解毒剤はどこです?」

 ブッターヤ領主は視線をそらす。
 レイクさんはひたすら冷たい表情で、床に這いつくばる彼を見下ろす。

「仕方ありませんね。キラーリア」
「はっ」

 キラーリアさんは血まみれの剣を、ブッターヤ領主の右手の甲に突き立てた。

「ぎ、ぎやぁぁぁぁ」

 部屋の中にこだまする悲鳴。
 僕の腕の中でバラヌが震える。リラも泣きそうだし、ルアレさんも顔をしかめる。ピッケだけは無表情だけど、この子が無表情になること自体珍しい気もする。

「レイクさん、キラーリアさん、何を!?」

 思わず、怒鳴る僕。
 イマイチ状況がつかめない。
 いや、ブッターヤ領主とアル様が敵対関係になってしまったことは分かるが。

 領主の悲鳴を聞いて、扉の向こう側がいよいよ騒がしくなる。
 このままだと破られるのも時間の問題かもしれない。

 レイクさんが僕に説明する。

「アル様が毒を飲まされましてね。彼が解毒剤を隠し持っているようなので」

 毒?
 確かにアル様に対しては、剣で殺そうとするより有効っぽいけど。
 さっき毒味はするとか言っていなかったっけ?

「教えたらその場で殺すつもりだろうがっ!!」

 もはや、体面も気にせず叫ぶブッターヤ領主。

「教えなかったら、さらに苦しませて殺します。教えていただければ、少なくとも陛下よりこの地を任された領主としてしかるべき裁きを受ける権利は保障しますよ」

 それでも、ブッターヤ領主は口を割らない。
 レイクさんはキラーリアさんに言う。

「キラーリア」
「はい」

 キラーリアさんは無造作にブッターヤ領主の手から剣を抜く。入院中に何度も注射や点滴のために針を刺された経験でいえば、刺されるよりも抜かれる方が痛い場合も多い。

 ブッターヤ領主の右手から血が流れ落ちる。
 が、キラーリアさんは容赦しない。

 今度は右足の脹ら脛に剣を突き立てた。
 再びあがるブッターヤ領主の悲鳴。

 勘弁してよ。
 本気でバラヌのトラウマになるぞ、この状況。

「わ、わかった、解毒剤は渡す。渡すからっ」

 ブッターヤ領主、もはや泣き顔で、懐から手のひら大の青い小瓶を取り出した。
 レイクさんはそれを受け取ると、ルアレさんに視線を向けた。

「これが本物の解毒剤かどうか調べられますか?」
「使われた毒の種類にもよりますが、おそらくは」

 ルアレさんはそう言って小瓶を受け取り、蓋を開ける。

「ふむ」

 小瓶の中身の臭いを嗅ぎ、一滴指に落とすルアレさん。

「どうやらアルバカ茸系列の毒物を中和する解毒剤ですね。アル殿下がどのような毒を盛られたのかは分かりませんが、少なくともこの液体自体に毒素はありません」

 ――おお。
 ルアレさん個人なのか、エルフ族の能力なのか微妙だけど、すごいな。

「そうですか、ではアル殿下」
「うむ」

 アル様はルアレさんから小瓶を受け取る。心なしか、右手が震えているように見える。
 リラが誰にともなく解説する。

「アルバカの毒は、少量なら手足の震え、大量なら死にいたる。お師匠様の言っていたとおりね」

 だとしたら妙だな。アル様を殺すつもりなら、なんで致死量の毒を盛らなかったんだろう?
 アル様が人並み外れて毒に強かったとかかなぁ。確かにルシフの祝福だか呪いだかを考えるとそうであってもおかしくないけど。

 アル様は薬を一瞥すると、ルアレさんに尋ねる。

「この薬は飲み干せばいいのか?」
「ええ、それで問題ありません」
「そうか」

 アル様は解毒剤を一気に飲み干したのだった。

「お前のおかげで助かったぞ。礼を言う」

 アル様はルアレさんにそう言った。
 解毒剤を鑑定したことだけじゃなさそうだけど、どういう意味だろう?

「さて、領主殿。いい加減降伏してはいただけませんか。そろそろ兵士達が扉を破るでしょう。そうなったら、また余計な血が流れます」

 レイクさんの言葉に、ブッターヤ領主は力なく頷いたのだった。
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