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第四部 少年少女と王侯貴族達 第一章 王都への行程
9.お願いと提案
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「あのですね……」
僕のお願いを聞き終えた彼は額を右手で押さえながら言った。
「あなた方は教会を介護施設か何かと勘違いしていませんか? パドくんのお母さんに次いで、今度は弟さんとか、もうね……」
確かに彼――教会の枢機卿たるラミサルさんがそう言いたくなるのも分かる。
お母さんを預かってもらっているのに続いて、今度は僕の弟――バラヌを預かってもらえないかとお願いしているのだから。
ブツブツ文句を言い続けるラミサルさんに、レイクさんが言う。
「ですが、教会にも益がある話だと思いますよ」
「それは分かりますよ、分かるだけに上手く使われているようで腹が立つんです」
「いけませんね、神に仕える枢機卿ともあろう方が簡単に腹を立てては。
それに、上手くつかっているようではありません。上手く使っているんです」
にっこり笑って言うレイクさん。ラミサルさんにしてみればムカつくだろうなぁ。
「なおさらたちが悪いでしょ、それは!?」
「代わりに教会も我々を上手く使えばいい。Win-Winというやつです」
「ああ、もう、分かりました。ここで議論するのも面倒くさい。バラヌくんを預かれというなら預かりますよ」
ラミサルさんはそう言ったあと、付け加えた。
「ただし、条件がありますけどね」
---------------
ラミサルさんがブッターヤ領主――いや、元領主の屋敷にやってきたのは、あの戦いから3日後だった。
アル様達にこの地を治める余裕はない。かといって、他の諸侯連立派の貴族の手に戻すのも馬鹿馬鹿しい。
そんな中での折衷案が、この地をひとまず教会総本山にあずけてしまうことだった。
実際、教会が実質政治のトップにいる領地は多く、王都の総本山からもほど近い場所に教会勢力の土地ができることは教会にとっても望ましいらしい。
そんなわけで、やってきたのがラミサルさん。
今回彼が来たのは、レイクさんと旧知の仲っていうのもあるだろうか。
そして、僕はバラヌについてラミサルさんに相談することにした。
このまま、血なまぐさい世界に彼を連れて行きたくはない。だけど、エインゼルの森林に戻す気もしない。そもそもその方法がない。ピッケに運ばせるのは色々な意味で避けたい。
ならば、いっそのこと第三勢力である教会に預けてしまおうという発想だ。
一応、ブシカ師匠の弟子という立場を考えれば、僕もラミサルさんに個人的なコネはあるといえなくもないわけだし。
この情勢下、王都近隣で考えるなら、教会総本山は比較的安全な場所だろう。
リスクもあるがメリットもある。他に方法がないとも言うが。
そういうわけで、バラヌの出自を説明し、彼を預かって欲しいとお願いした後のラミサルさんの言葉が、冒頭のものだった。
---------------
僕はラミサルさんに尋ねた。
「条件って何ですか?」
「彼に出家してもらうことです」
「出家? それって……」
「つまりは神父見習い――厳密には修道士見習いになっていただくということです」
出家――お寺の小坊主さんみたいなものかな?
ラミサルさんがそう言い出した意図はなんだろう?
「ラミサル、彼はエルフとのハーフですよ。そのことは分かっていての提案ですか?」
「分かっているからこその提案です」
「なるほど」
レイクさんが右手でメガネを触る。考え事をしているときの癖だ。
つまり、ラミサルさんのこの提案には考えなくちゃいけない余地があるということ。
「エルフ族の中にもテオデルス信教を信仰する者がいるという実績作りですか」
「同時に、アル殿下御一行の関係者の1人の中にもということになりますね。お母さんの現状は信仰とかそういう状況ではありませんし」
「教会は出家しなくても孤児を預かるんじゃなかったのですか?」
「ええ、だから、これは弟弟子2人との交渉のつもりです。そもそも、バラヌくんの現状は孤児といえるか微妙でしょう?」
さて、どうしたものか。
この提案にどんな意味があるのか考えないと。
ラミサルさんが考えているのは、エルフとの関係構築だろう。確かに賢者ブランドの子孫といわれる教皇の存在があるとはいえ、それだけでは関係性が薄い。
そもそも、ラミサルさんもレイクさんと共に、少年時代に500年前の真実の一端を知ったはず。それを考えれば、勇者伝説に基づく関係性だけでは不安なのは当然だ。
単にバラヌを預かるのではなく、教会勢力が取り込むことで、エルフとの関係強化をもくろんでいるのか。
「パドくん、一応申し上げておきますが、これはバラヌくんの安全のための配慮でもあるのですよ」
「どういう意味ですか?」
「教会はエルフとそれなりに懇意とはいえ、純粋な人族以外を保護するとなれば軋轢が生じる可能性があります。しかも、例の神託の子どもの弟となればなおさらです。
教会の中にも過激な一派がいることは私も認めざるをえません」
過激な一派。
たとえば異端審問官か。
いや、あれは盗賊だったってことで話を終えたのだから、蒸し返さないけど。
「ただ預かった子どもとなれば、保護するにも限界があります。私は枢機卿という立場ではありますが、他の枢機卿の意向もありますしね。
教会内の政治闘争に巻き込まないためには、いっそバラヌくんを修道士見習いとしてしまった方が都合がいいのです」
どんどん外堀が埋められていくような気分になる。
思わず頷いてしまいそうになるくらいに。
そんな僕をよそに、レイクさんが言う。
「教会内部も色々と大変なのですね。何か大きな動きでもあるのでしょうか?」
「いえいえ、あくまでも一般論ですよ。恥ずかしながら、神に仕える我々も、怒りや嫉妬といった感情と無縁でいることはなかなかに難しいのです」
微妙に教会の内情を探ろうとしているレイクさんを、さらっと交わすラミサルさん。
僕はレイクさんに尋ねる。
「レイクさん、この提案をのんだらアル様に不利になりますか?」
「さあ、どうでしょう。直接的に問題にはならないと思いますが。あるとしたら、バラヌくんが教会勢力の思想に染まりかねないことくらいですね。
仮にそうなったとしても、アル様には直接影響はないでしょう。あとは、パドくんとバラヌくん次第ですよ」
それはそうか。
それにしても、子どもを戦いから逃れさせるために出家させるって、なんだか日本の大河ドラマでありそうな話だなぁ。
「ラミサルさん、バラヌは出家して上手くやっていけますか?」
「さあ、それはまだバラヌくんと会ってもいませんからなんとも。
修道士見習いは出家した後、ある程度の年齢まで共同生活を送りながら学問や信仰について学びます。色々と抑圧される生活ではありますが、この世界最高の学び舎でもあると思いますよ」
要するに、全寮制の宗教学校って考えればいいのかな。
僕はジッと考える。
バラヌをこのまま連れてはいけない。
だったら、誰かに預けなくちゃダメだけど、その相手はたぶん教会しかない。
それに、これは日本人的な感覚かもしれないけど、学校に通うのは悪いことじゃないと思う。
もちろん、日本の学校とは違うだろうけどね。
うん。この提案は受け入れるべきだ。
でも、やっぱり、本人の意志は大切だろう。
「一度、バラヌと話をさせてください。彼が頷けば、ラミサルさんにお任せします」
ラミサルさんは頷いて言う。
「わかりました。それでは私達は一度戻りましょう。領地の引き継ぎで忙しいですし」
「ルアレさんには私から話しておきましょう」
レイクさんはそう付け加えた。確かにエルフの代表者であるルアレさんの許可も必要だろう。たぶん、彼は反対しないと思うけどね。
僕のお願いを聞き終えた彼は額を右手で押さえながら言った。
「あなた方は教会を介護施設か何かと勘違いしていませんか? パドくんのお母さんに次いで、今度は弟さんとか、もうね……」
確かに彼――教会の枢機卿たるラミサルさんがそう言いたくなるのも分かる。
お母さんを預かってもらっているのに続いて、今度は僕の弟――バラヌを預かってもらえないかとお願いしているのだから。
ブツブツ文句を言い続けるラミサルさんに、レイクさんが言う。
「ですが、教会にも益がある話だと思いますよ」
「それは分かりますよ、分かるだけに上手く使われているようで腹が立つんです」
「いけませんね、神に仕える枢機卿ともあろう方が簡単に腹を立てては。
それに、上手くつかっているようではありません。上手く使っているんです」
にっこり笑って言うレイクさん。ラミサルさんにしてみればムカつくだろうなぁ。
「なおさらたちが悪いでしょ、それは!?」
「代わりに教会も我々を上手く使えばいい。Win-Winというやつです」
「ああ、もう、分かりました。ここで議論するのも面倒くさい。バラヌくんを預かれというなら預かりますよ」
ラミサルさんはそう言ったあと、付け加えた。
「ただし、条件がありますけどね」
---------------
ラミサルさんがブッターヤ領主――いや、元領主の屋敷にやってきたのは、あの戦いから3日後だった。
アル様達にこの地を治める余裕はない。かといって、他の諸侯連立派の貴族の手に戻すのも馬鹿馬鹿しい。
そんな中での折衷案が、この地をひとまず教会総本山にあずけてしまうことだった。
実際、教会が実質政治のトップにいる領地は多く、王都の総本山からもほど近い場所に教会勢力の土地ができることは教会にとっても望ましいらしい。
そんなわけで、やってきたのがラミサルさん。
今回彼が来たのは、レイクさんと旧知の仲っていうのもあるだろうか。
そして、僕はバラヌについてラミサルさんに相談することにした。
このまま、血なまぐさい世界に彼を連れて行きたくはない。だけど、エインゼルの森林に戻す気もしない。そもそもその方法がない。ピッケに運ばせるのは色々な意味で避けたい。
ならば、いっそのこと第三勢力である教会に預けてしまおうという発想だ。
一応、ブシカ師匠の弟子という立場を考えれば、僕もラミサルさんに個人的なコネはあるといえなくもないわけだし。
この情勢下、王都近隣で考えるなら、教会総本山は比較的安全な場所だろう。
リスクもあるがメリットもある。他に方法がないとも言うが。
そういうわけで、バラヌの出自を説明し、彼を預かって欲しいとお願いした後のラミサルさんの言葉が、冒頭のものだった。
---------------
僕はラミサルさんに尋ねた。
「条件って何ですか?」
「彼に出家してもらうことです」
「出家? それって……」
「つまりは神父見習い――厳密には修道士見習いになっていただくということです」
出家――お寺の小坊主さんみたいなものかな?
ラミサルさんがそう言い出した意図はなんだろう?
「ラミサル、彼はエルフとのハーフですよ。そのことは分かっていての提案ですか?」
「分かっているからこその提案です」
「なるほど」
レイクさんが右手でメガネを触る。考え事をしているときの癖だ。
つまり、ラミサルさんのこの提案には考えなくちゃいけない余地があるということ。
「エルフ族の中にもテオデルス信教を信仰する者がいるという実績作りですか」
「同時に、アル殿下御一行の関係者の1人の中にもということになりますね。お母さんの現状は信仰とかそういう状況ではありませんし」
「教会は出家しなくても孤児を預かるんじゃなかったのですか?」
「ええ、だから、これは弟弟子2人との交渉のつもりです。そもそも、バラヌくんの現状は孤児といえるか微妙でしょう?」
さて、どうしたものか。
この提案にどんな意味があるのか考えないと。
ラミサルさんが考えているのは、エルフとの関係構築だろう。確かに賢者ブランドの子孫といわれる教皇の存在があるとはいえ、それだけでは関係性が薄い。
そもそも、ラミサルさんもレイクさんと共に、少年時代に500年前の真実の一端を知ったはず。それを考えれば、勇者伝説に基づく関係性だけでは不安なのは当然だ。
単にバラヌを預かるのではなく、教会勢力が取り込むことで、エルフとの関係強化をもくろんでいるのか。
「パドくん、一応申し上げておきますが、これはバラヌくんの安全のための配慮でもあるのですよ」
「どういう意味ですか?」
「教会はエルフとそれなりに懇意とはいえ、純粋な人族以外を保護するとなれば軋轢が生じる可能性があります。しかも、例の神託の子どもの弟となればなおさらです。
教会の中にも過激な一派がいることは私も認めざるをえません」
過激な一派。
たとえば異端審問官か。
いや、あれは盗賊だったってことで話を終えたのだから、蒸し返さないけど。
「ただ預かった子どもとなれば、保護するにも限界があります。私は枢機卿という立場ではありますが、他の枢機卿の意向もありますしね。
教会内の政治闘争に巻き込まないためには、いっそバラヌくんを修道士見習いとしてしまった方が都合がいいのです」
どんどん外堀が埋められていくような気分になる。
思わず頷いてしまいそうになるくらいに。
そんな僕をよそに、レイクさんが言う。
「教会内部も色々と大変なのですね。何か大きな動きでもあるのでしょうか?」
「いえいえ、あくまでも一般論ですよ。恥ずかしながら、神に仕える我々も、怒りや嫉妬といった感情と無縁でいることはなかなかに難しいのです」
微妙に教会の内情を探ろうとしているレイクさんを、さらっと交わすラミサルさん。
僕はレイクさんに尋ねる。
「レイクさん、この提案をのんだらアル様に不利になりますか?」
「さあ、どうでしょう。直接的に問題にはならないと思いますが。あるとしたら、バラヌくんが教会勢力の思想に染まりかねないことくらいですね。
仮にそうなったとしても、アル様には直接影響はないでしょう。あとは、パドくんとバラヌくん次第ですよ」
それはそうか。
それにしても、子どもを戦いから逃れさせるために出家させるって、なんだか日本の大河ドラマでありそうな話だなぁ。
「ラミサルさん、バラヌは出家して上手くやっていけますか?」
「さあ、それはまだバラヌくんと会ってもいませんからなんとも。
修道士見習いは出家した後、ある程度の年齢まで共同生活を送りながら学問や信仰について学びます。色々と抑圧される生活ではありますが、この世界最高の学び舎でもあると思いますよ」
要するに、全寮制の宗教学校って考えればいいのかな。
僕はジッと考える。
バラヌをこのまま連れてはいけない。
だったら、誰かに預けなくちゃダメだけど、その相手はたぶん教会しかない。
それに、これは日本人的な感覚かもしれないけど、学校に通うのは悪いことじゃないと思う。
もちろん、日本の学校とは違うだろうけどね。
うん。この提案は受け入れるべきだ。
でも、やっぱり、本人の意志は大切だろう。
「一度、バラヌと話をさせてください。彼が頷けば、ラミサルさんにお任せします」
ラミサルさんは頷いて言う。
「わかりました。それでは私達は一度戻りましょう。領地の引き継ぎで忙しいですし」
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