神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

7.11枚目のクッキー(前編)

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 王都のレイクさんのお屋敷について、早4日目。

 僕はこの数日、とくにすることもなく、リラと2人でちまちまメイドさんのお手伝い。皿洗いとか、水くみとか、洗濯とか。
 別に求められたわけじゃないけど、いつまでもタダ飯喰らいも気が引けるからね。

 食事はお屋敷の使用人、つまりメイドさんや庭師さんなどと一緒。
 アル様やレイクさんの食事とは格差があるらしいけれども、ラクルス村の食事の100倍豪華だ。
 白いパンにお肉や野菜やソースを挟んだサンドイッチは大変ジューシー。
 スープにもお肉や野菜がちゃんと入っているし、サラダにはドレッシングがかかっている。前世を含めて初めて食べたパスタもとっても美味しかった。

 ---------------

 5日目朝。
 僕は今日もメイドさんの1人と従業員屋敷裏にある井戸のそばでお皿洗い中。
 片手の僕はお皿を運ぶしかできないののだけど。
 ちなみに、リラは屋敷の中で別のメイドさんと掃除中。

「パドくんは偉いわね。その歳でしっかりしている」

 一緒にお皿を洗っていたメイドのラナアさんがそう言った。

 ラナアさんは40代の女性。メイドさんたちのまとめ役みたいな人だ。
 そのわりに、僕やリラにも気さくに声をかけてくれる。

「そうでしょうか。僕にはよく分かりません」

 僕はそう答えた。
 褒められたのだから、素直に照れるとか、お礼を言うとか、あるいは謙遜するとか、もっと別の反応をすべきだったかもしれない。だけど、どうしても自分が『偉い』なんて思えなかった。

「そうよ。本当だったらまだお母さんに甘えているべき年齢なのに」
「ああ、そういうことですか」

 転生やら神託やらについては、お屋敷の使用人たちには教えていない。
 そりゃあ、7歳児が親と引き離されて、貴族様の屋敷で使用人のまねごとをしていたら、偉いだろね。僕だってそう思うよ。

 でも、僕の場合、実際には18歳だし、そういう言い方をするなら12歳のリラの方が偉いといえるだろう。
 日本でならともかく、この世界では10歳にもなれば奉公に出るのも珍しくない。

 7歳として『偉い』と言われても、前世での11年間がある以上、反則技を褒められているようなもんだ。
 むしろ、本当は18歳なのにお皿洗いの手伝いくらいしかできない僕は、『情けないヤツ』なんじゃないかなとすら思う。

 やばい、どんどん思考が暗い方向に進んでいる。
 僕には自己嫌悪に陥っている余裕なんてないのに。

 ――と、そんなことを考えていたら、指先に余計な力がかかってしまった。

 カチャ。
 僕の手のひらの中で、持っていたお皿が割れる。

「あら、またね。パドくん、怪我はない?」

 ラナアさんが言う。

「……ごめんなさい。怪我はしていません」
「そんな、暗い顔しないの。子どもの力で割れちゃうなんて、もう寿命だったのよ」

 こ4日目で食器を割るのは3回目だ。
 ラクルス村の食器はほとんどが木製だったけど、お屋敷の食器は陶磁器。
 当然、木製よりもはるかに割れやすい。ついでにお値段もお高い。

 僕のチートは、ちょっと油断をするとすぐに食器をダメにする。
 ラナアさんはそいう事情を知らないから、食器が寿命だったと思うのだろうけど。

「ねえ、パドくん、何か悩んでいない?」

 その言葉に僕の心臓がドキッと高鳴る。

 実際、僕は悩んでいたからだ。

 このままアル様の味方を続けていいのか。
 バラヌのこと。
 お母さんのこと。
 リラのこと。
 そして――初めて人を殺したこと。

 僕がラナアさんと初めて会ったのは5日前。
 ラナアさんがぼくの悩みを知っているわけがない。

「どうして僕が悩んでいるって思うんですか?」
「そりゃあね、年の功? これでも5人の子どもを育てたし、レイク様やリリィお嬢様の乳母代わりもしたもの。子どもの顔を見ればそのくらいはね」

 ラナアさんはそう言って微笑みながら、僕の頭を優しくポンポンっと叩いた。

「悩みがあるなら聞くわよ」
「……話してもラナアさんには解決できないと思うから」

 病気で悩んでいるなら医者に相談すればいい。
 算数の問題が分からなければ教師に聞けばいい。
 トイレの場所が分からなければメイドさんに尋ねればいい。

 だけど、今僕が悩んでいる問題は、きっと誰にも解決できない。

「はははっ、そりゃそうだ。ほんの数日前に出会ったばかりのオバチャンに解決できる話なら、はなっからそんなに深刻に悩まないものね」

 そういって、ラナアさんは豪快に笑う。

「だったら……」

『口を挟まないで』と言いかけた僕をラナアさんは遮る。

「でも、解決は無理だとしても、聞くくらいはできるよ」

 そう言われても、どこまで話していいのか分からない。
『この間、人を殺してしまったんだけどどうしたらいいんでしょう』なんて、聞けるわけもない。
 まして、王位継承問題や神託、転生なんかについてなど話していいものか見当がつかない。

 だけど。
 自分の苦しい気持ちを少しでも吐き出したかったことも事実で。
 だから、気がつくと、僕はポツリポツリと話し始めていた。

 ---------------

 僕は泣き言みたいに話した。

 村の皆を助けようとして、結局迷惑をかけてしまったこと。
 お師匠様を助けられなかったこと。
 たくさんの人々が死んだこと。

 具体的なことは言えない。
 チートのことも、『闇』やルシフのことも。
 エルフや龍族のことも、僕自身が人を殺したことも。
『闇』になったリリィを殺したことも。

 僕の話はぐちゃぐちゃで、とりとめもなく、ラナアさんには意味不明だっただろう。

 それでも、ラナアさんは僕の話を黙って聞いていてくれた。
 口を挟むことすらせず、僕が泣きそうな顔で吐露する言葉を受け止めてくれた。
 それこそ、『年の功』ってやつなのだろう。

「幸せになりたいと思ったんです。それに、皆を助けたいって思ったんです」

 ぐちゃぐちゃの話の最後を、僕はそうまとめた。

「パドくんって、とても優しくて、責任感があるのね」

 具体的なことは何1つ伝わっていないはずなのに、ラナアさんはそう言ってくれた。

「そうでしょうか?」
「ええ、私がパドくんと同じ年の頃に、今みたいなこと、考えもつかなかったと思うもの」

 それは、僕が転生者だからだ。
 転生については一切話していないし、ラナアさんには想像もできないだろう。

「さっき、『皆を助けたい』って言ったわね」
「はい」
「あなたがどんなに優秀な子でも、誰も彼も助けるのは難しいと思うの」
「それは……わかりますけど」

 僕の言葉に、ラナアさんは頷く。

「そうね。1つお話をしてあげる」

 ラナアさんはそう言って語り出した。
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