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第五部 時は流れゆく 第一章 未来を考えよう
6.最後の罠
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王城の魔法研究所。
その地下に、今巨大な魔法円が描かれている。
魔法円の中央に、心を失ったお母さんが立たされ、その周囲に、僕、リラ、国王陛下、ホーレリオ王子、ジガザリアさんがいた。
「よろしくお願いします」
僕は国王陛下やホーレリオ王子に頭を下げた。
王家の解呪法は、本来国王にしか使えない。
国王陛下は高齢で魔法の使用に耐えないため、アル殿下は自ら王位を継ぐことで解呪法を使おうとしていた。
現在、王位継承問題は解決したとはいえ、ホーレリオ王子が正式に王位を継いだわけではない。
それじゃあ、結局解呪法は使えないじゃないかと思うのだが、そうでもないらしい。
つまるところ、王家の血を濃く継ぐ者の魔力があればいいのだ。
だったら、アル王女は王位に拘る必要は無かったはずなのだが、テキルース王子達がここの使用を許さなかったというのが実情らしい。
いずれにせよ、これからお母さんの解呪が始まる。
王家の解呪法は一度行なったら半年は使えない。解呪を司る精霊との契約でそうなっている。
だから、アル殿下の解呪は半年以上先になる。
お母さんの解呪を優先してくれたのは、アル殿下か、あるいは国王陛下の配慮なのだろう。
頭を下げた僕に、ホーレリオ王子が言う。
「君達は納得していないだろうな」
「……何がですか?」
「私が王位を継ぐことだ」
「それは……」
思わず口ごもる僕。
次期国王に対して失礼極まる対応をしてしまったが、ホーレリオ王子は特に気にした様子はない。
「何、かまわん。誰よりも私が1番驚いている。まさか、こういう結末になるとはな」
ホーレリオ王子は疲れた表情で言う。
「我が兄や姉がしたことを考えれば、私もまた同罪なのかもしれぬ。それでも、私は王族だ。役目は果たさなければならない」
ホーレリオ王子が悪いわけじゃない。
そうは分かっていても、やっぱり、色々思うところはある。
――いや、今はお母さんのことだ。王位継承問題はもう、僕には関係ないことだ。
自分に必死にそう言い聞かせる僕。
ジガザリアさんがホーレリオ王子に声をかける。
「では、殿下、こちらに来て、魔法円へ両手をついてください」
「ふむ」
ホーレリオ王子は頷いて、魔法円に両手をついた。
魔法円が光り輝き、お母さんの解呪が始まった。
---------------
光り輝く魔法円の中心で、お母さんが苦悶の声を上げる。
「あぁぁ……」
「お母さんっ!!」
僕は心配になって叫ぶ。
邪魔をするわけにはいかないけど、お母さんが苦しそうだ。
ホーレリオ王子も心配になったらしい。
「ジガザリア、大丈夫なのか?」
「魔法は正常に作動しております。殿下はそのまま魔力を注いでください」
だが。
お母さんの苦悶の声はさらに大きくなる。
それだけじゃない。
お母さんの瞳孔が開き、口から涎を垂らし、目からは涙が流れ出す。
「お母さんっ!!!!」
僕はもう一度叫ぶ。
「ジガザリア、いくらなんでもこれはっ」
ホーレリオ王子の言葉に、ジガザリアさんも慌てた様子。
「まさか、これは……しかし……殿下、一度魔力を止めて……」
ジガザリアさんはそれ以上言うことができなかった。
地下室の中を、まるで台風のような暴風が襲ったからだ。
その中央にいるのはお母さん。
僕らはそれぞれ壁に叩きつけられる。
「くっ」
一体何が。
慌てて状況を確認すると、お母さんの全身から、真っ黒な煙のようなものがたちのぼっていた。
「あれが、呪い?」
僕の隣に倒れたリラが呟く。
だが、ジガザリアさんが否定する。
「馬鹿な、可視化される呪いなどありえんっ!!」
国王陛下が叫ぶ。
「ならば、これはどういうことじゃ、ジガザリア!?」
「分かりませぬ、ですが、これは……呪いなどというものではありませぬ」
どういうこと!?
お母さんは呪われていなかった?
僕が迂闊に使ったルシフの回復魔法の呪いで、お母さんの心が封印されたんじゃなかったの!?
――その時だった。
「その儀式、待てっ!!」
地上からの階段を駆け下りてきたのはアル殿下。
かなり慌てた様子だ。
アル殿下の後ろにはレイクさんやキラーリアさんもいる。
国王陛下がアル殿下に尋ねる。
「アル、これは一体!?」
だがアル殿下は国王陛下を一瞥もせず、お母さんの様子を見て舌打ちする。
「遅かったかっ」
一体、何がどうなっているんだ?
アル殿下は魔法円の中に飛び込み、お母さんを引きずり出そうとする。
だが、心を失っていたはずのお母さんが激しく抵抗する。
10倍の力を持つはずのアル殿下を、お母さんはあっさり振りほどく。
なんだ、これはなんなんだ。
部屋の中に、さらなる強風が巻き上がる。
僕も、アル殿下も、リラも、ホーレリオ王子も、国王陛下も、ジガザリアさんも、キラーリアさんさえも壁に叩きつけられる。
「一体何なんだよ、これ!?」
僕の叫びに、アル殿下が叫び返す。
「罠だっ!!」
「罠!?」
「ルシフの最後の罠だったんだよっ!」
――ルシフ。
アイツの罠?
「お前の母親は呪われたわけじゃない。お前の母親の胎内には、『闇の卵』が植え付けられていたんだ」
「『闇の卵』って、なんですか、それ!?」
「知らんっ!! さっきルシフがニヤニヤ笑いながら私に告げた言葉だ。ヤツは最初から、闇の卵の封印を解くために、王家の解呪法を狙っていたんだ」
――なんだよ、それ!?
――ルシフの目的は僕を『闇』にすることじゃなかったのか!?
などと考えているうちに、お母さんの周囲にたちのぼる真っ黒な煙――『闇の波動』とでもいうべきそれは、いよいよ拡大していた。
まずい。
なんだかわからないけど、これはものすごくまずい。
とんでもないことが起ころうとしている。
その次の瞬間だった。
お母さんを中心に、これまでの何百倍もの強風――いや、衝撃波が放たれた。
まずいっ!!
せめて結界魔法をっ!!
リラだけでも!!
僕はそばに転がっていたリラだけでも護ろうと、結界魔法を全力で使った。
――そして、僕の意識はそこで途絶えた。
---------------
聖歴0523年の暮れ。
この日、聖テオデウス王国王都は消滅した。
そして、少年と少女が、この世界から姿を消したのだった。
その地下に、今巨大な魔法円が描かれている。
魔法円の中央に、心を失ったお母さんが立たされ、その周囲に、僕、リラ、国王陛下、ホーレリオ王子、ジガザリアさんがいた。
「よろしくお願いします」
僕は国王陛下やホーレリオ王子に頭を下げた。
王家の解呪法は、本来国王にしか使えない。
国王陛下は高齢で魔法の使用に耐えないため、アル殿下は自ら王位を継ぐことで解呪法を使おうとしていた。
現在、王位継承問題は解決したとはいえ、ホーレリオ王子が正式に王位を継いだわけではない。
それじゃあ、結局解呪法は使えないじゃないかと思うのだが、そうでもないらしい。
つまるところ、王家の血を濃く継ぐ者の魔力があればいいのだ。
だったら、アル王女は王位に拘る必要は無かったはずなのだが、テキルース王子達がここの使用を許さなかったというのが実情らしい。
いずれにせよ、これからお母さんの解呪が始まる。
王家の解呪法は一度行なったら半年は使えない。解呪を司る精霊との契約でそうなっている。
だから、アル殿下の解呪は半年以上先になる。
お母さんの解呪を優先してくれたのは、アル殿下か、あるいは国王陛下の配慮なのだろう。
頭を下げた僕に、ホーレリオ王子が言う。
「君達は納得していないだろうな」
「……何がですか?」
「私が王位を継ぐことだ」
「それは……」
思わず口ごもる僕。
次期国王に対して失礼極まる対応をしてしまったが、ホーレリオ王子は特に気にした様子はない。
「何、かまわん。誰よりも私が1番驚いている。まさか、こういう結末になるとはな」
ホーレリオ王子は疲れた表情で言う。
「我が兄や姉がしたことを考えれば、私もまた同罪なのかもしれぬ。それでも、私は王族だ。役目は果たさなければならない」
ホーレリオ王子が悪いわけじゃない。
そうは分かっていても、やっぱり、色々思うところはある。
――いや、今はお母さんのことだ。王位継承問題はもう、僕には関係ないことだ。
自分に必死にそう言い聞かせる僕。
ジガザリアさんがホーレリオ王子に声をかける。
「では、殿下、こちらに来て、魔法円へ両手をついてください」
「ふむ」
ホーレリオ王子は頷いて、魔法円に両手をついた。
魔法円が光り輝き、お母さんの解呪が始まった。
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光り輝く魔法円の中心で、お母さんが苦悶の声を上げる。
「あぁぁ……」
「お母さんっ!!」
僕は心配になって叫ぶ。
邪魔をするわけにはいかないけど、お母さんが苦しそうだ。
ホーレリオ王子も心配になったらしい。
「ジガザリア、大丈夫なのか?」
「魔法は正常に作動しております。殿下はそのまま魔力を注いでください」
だが。
お母さんの苦悶の声はさらに大きくなる。
それだけじゃない。
お母さんの瞳孔が開き、口から涎を垂らし、目からは涙が流れ出す。
「お母さんっ!!!!」
僕はもう一度叫ぶ。
「ジガザリア、いくらなんでもこれはっ」
ホーレリオ王子の言葉に、ジガザリアさんも慌てた様子。
「まさか、これは……しかし……殿下、一度魔力を止めて……」
ジガザリアさんはそれ以上言うことができなかった。
地下室の中を、まるで台風のような暴風が襲ったからだ。
その中央にいるのはお母さん。
僕らはそれぞれ壁に叩きつけられる。
「くっ」
一体何が。
慌てて状況を確認すると、お母さんの全身から、真っ黒な煙のようなものがたちのぼっていた。
「あれが、呪い?」
僕の隣に倒れたリラが呟く。
だが、ジガザリアさんが否定する。
「馬鹿な、可視化される呪いなどありえんっ!!」
国王陛下が叫ぶ。
「ならば、これはどういうことじゃ、ジガザリア!?」
「分かりませぬ、ですが、これは……呪いなどというものではありませぬ」
どういうこと!?
お母さんは呪われていなかった?
僕が迂闊に使ったルシフの回復魔法の呪いで、お母さんの心が封印されたんじゃなかったの!?
――その時だった。
「その儀式、待てっ!!」
地上からの階段を駆け下りてきたのはアル殿下。
かなり慌てた様子だ。
アル殿下の後ろにはレイクさんやキラーリアさんもいる。
国王陛下がアル殿下に尋ねる。
「アル、これは一体!?」
だがアル殿下は国王陛下を一瞥もせず、お母さんの様子を見て舌打ちする。
「遅かったかっ」
一体、何がどうなっているんだ?
アル殿下は魔法円の中に飛び込み、お母さんを引きずり出そうとする。
だが、心を失っていたはずのお母さんが激しく抵抗する。
10倍の力を持つはずのアル殿下を、お母さんはあっさり振りほどく。
なんだ、これはなんなんだ。
部屋の中に、さらなる強風が巻き上がる。
僕も、アル殿下も、リラも、ホーレリオ王子も、国王陛下も、ジガザリアさんも、キラーリアさんさえも壁に叩きつけられる。
「一体何なんだよ、これ!?」
僕の叫びに、アル殿下が叫び返す。
「罠だっ!!」
「罠!?」
「ルシフの最後の罠だったんだよっ!」
――ルシフ。
アイツの罠?
「お前の母親は呪われたわけじゃない。お前の母親の胎内には、『闇の卵』が植え付けられていたんだ」
「『闇の卵』って、なんですか、それ!?」
「知らんっ!! さっきルシフがニヤニヤ笑いながら私に告げた言葉だ。ヤツは最初から、闇の卵の封印を解くために、王家の解呪法を狙っていたんだ」
――なんだよ、それ!?
――ルシフの目的は僕を『闇』にすることじゃなかったのか!?
などと考えているうちに、お母さんの周囲にたちのぼる真っ黒な煙――『闇の波動』とでもいうべきそれは、いよいよ拡大していた。
まずい。
なんだかわからないけど、これはものすごくまずい。
とんでもないことが起ころうとしている。
その次の瞬間だった。
お母さんを中心に、これまでの何百倍もの強風――いや、衝撃波が放たれた。
まずいっ!!
せめて結界魔法をっ!!
リラだけでも!!
僕はそばに転がっていたリラだけでも護ろうと、結界魔法を全力で使った。
――そして、僕の意識はそこで途絶えた。
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追記:2025/09/20
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