神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】王女の後悔、少女の悔恨

【番外編32】王女の後悔

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(アル視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ずっとずっと、突っ走ってきた。
 脇目も振らず、自分の信じる道を疑わず。
 過去を振り返ることなど無駄の極み。
 ただ、自らの力で未来を切り開く。

 それが、アルの信念であった。

 だから、自分と『後悔』などという感情は無縁のモノだと思っていたし、事実今まで無縁だった。
 決して失敗が無かったという意味ではない。
 だが、後悔する暇があったら打開を考えるのが彼女の生き方だったのだ。

 だから。

 その時。パドという幼子の右腕が吹っ飛び床に転がるのを見た時。

 自分が、強い後悔を覚えたことに、アルは激しく動揺した。

 そして。

 片腕を失って尚、立ち上がりテミアール・テオデウス・レオノルのなれの果てを斬り捨てたのち、空しそうに血まみれで佇む彼を見て、アルは底知れぬ恐怖を感じた。
 ただ、純粋に家族と幸せに暮らしたいと願っていただけの少年が、なぜ右腕を失い血まみれで戦っているのか。

 自分はこの少年をとんでもない場所に連れてきてしまったのではないか。

 アルは、これまでに感じたことがない焦燥を覚えた。

 ---------------

 翌日。
 パド達がレイクの屋敷に戻った後、アルはレイクと2人王宮の一室にいた。

「王位をホーレリオに譲ろうと思う」

 アルの言葉に、レイクは一瞬目を見開いて絶句し、そして言った。

「ご自分が何を仰っているか分かっているのですか?」
「もちろんだ」

 レイクが困惑するのも無理はない。
 それでも、アルは自分が王位を継ぐ気になれなくなっていた。

 それはもしかするとほんのひとときの気の迷いだったのかもしれない。

 だが、自分が王位を継げば諸侯連立との対立は避けられない。
 パドやリラは自分についてくるだろう。
 そうなれば、あの純粋な少年少女を、こんどは戦争に巻き込むことになる。
 それだけは絶対に避けたい。

 昨日の戦いの最中に感じた後悔は、アルにそう思わせるに十分だった。

「わけを聞かせていただけますか?」
「私が王位を継げば諸侯連立との戦争だ。この大陸が血にまみれることになるだろう。だが、ホーレリオが王位を継ぐというならば、この際諸侯連立も妥協できるのではないか?」

 アルの言葉に、レイクは黙想し、そして言う。

「政治判断として、間違っているとまでは言いません。ですが、今さらの話すぎます。龍族やエルフにはなんと説明するのですか? いや、それ以前に、キラーリアやパドくん達だって納得はしないでしょう」
「……かもな」
「ならば、せめて私にだけは本音を話してください。今のお言葉は本音ではなく建前にしか聞こえません」

 今度は、アルが黙想する番だった。

「パドを……パドとリラを、これ以上王家のきな臭い話に巻き込みたくない」

 レイクはしばらく黙り込み、そして、「ふぅ」っとため息を一つついた。

「それこそ今さらでしょう。2人は貴女に裏切られたと感じると思いますよ」
「そうだとしてもだ」
「なぜ、そこまで心変わりをされたのですか?」

 レイクの問いに対して、アルは解答に詰まる。
 なんと答えたものか、迷う。
 建前ならいくらでも言える。
 だが、本音は――いや、本音を言うべきなのだろう。
 この数年間、自分を支え続けてきたこの男に対してだけは。

「恐くなった」
「……恐く?」
「ああ、自分のしてきたことが、本当に正しかったのか。昨日、血まみれで佇むパドをみていたら、急に恐ろしくなった。このままだと、アイツを取り返しの付かない場所まで連れて行ってしまうような気がした」

 その言葉に、レイクは先ほどよりもさらに深くため息をつく。

「王位継承を目の前にして、弱気になっているだけではないのですか?」
「そうかもな」
「貴女らしくありません」
「しょせん、私はその程度の人間だということだ。剣を振るうことはできても、王座に座る器ではないと思う」

 レイクは冷たい目で自分を見返す。
 ガッカリさせたか。それとも、蔑ませたか。

 だが、しばしの沈黙の後、レイクは言った。

「わかりました。まずは陛下と、それにホーレリオ王子と話をしましょう。その前にキラーリアにも話すべきかとは思いますが」
「すまない、レイク」
「いえ。そもそも、王位継承問題に、貴女を巻き込んだのは私ですから」

 ---------------

 王位継承を放棄したと告げた後、ピッケ、パド、リラはそれぞれの言葉でアルに対して憤りを見せた。

「僕も、リラと同じ気持ちです。お母さんの治療が終わったら、ここから去ります。バラヌもいっしょに」
「……そうか」

 寂しく感じつつも、致し方がないと思った。
 少なくとも、これでパドやリラをこれ以上巻き込むことはなくなる。

 リラに提案した共に獣人の里を回りたいという言葉も、所詮は未練がましい話に過ぎなかったのだ。
 なんだかんだ、パドやリラと共に旅する日々が楽しくて、だからもう少し一緒に旅をしてみたかっただけだ。
 拒否されて当然の提案だった。

 彼らが応接間から出て行った後、アルはポツリとレイクに呟いた。

「私は最後の選択肢を間違えたのだろうな」

 それに対して、レイクはひと言。

「選択の是非は、未来からみて初めて分かることです。今、貴女はこういう選択をした。ならばせめてそれが正しいと信ずるべきでしょう」
「……そうだな」

 むなしさに押しつぶされそうになりながら、アルはレイクの言葉に頷くしかないのだった。
 そんなアルに、キラーリアは言った。

「私は残念です」
「残念、か」
「私には政治のことなど分かりません。ですが、残念だとは思います」

 キラーリアはそれ以上は何も言わなかった。
 アルもレイクもそれ以上は何も言えなかった。
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