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第六章 決戦準備

20.トモ・エの決断

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「どうするんだよ!?」

 しばしの沈黙の後、ソラが叫んだ。

「あいつらに襲われたら、地球なんてひとたまりもないだろ」

 ソラはトモ・エを仰ぎ見る。

「今の地球の文明レベルはイスラ星よりはるかに劣ります。イスラ星は軍事力に力を入れていなかったとはいえ、地球よりは遥かに優れたな宇宙防衛機構を持っていました。それでも、イスラ星の人々は僅かな人数を宇宙船で逃がすだけでやっとだったんです」

 トモ・エは淡々と言う。

「それはもう分かっているよ。だけど地球には逃げ出すような宇宙船すらないじゃん」

 現在の地球の宇宙船はほとんどが事実上の人工衛星に行くためのものである。つまり、宇宙ではなく地球の重力下の範囲内に行くことを想定しているに過ぎない。ごく僅かに地球の重力圏を抜けることが出来る宇宙船もあるが、人を乗せて行けるのはせいぜい月までだ。それすら、近年は実行されていない。イスラ星人のように星を捨てて逃げ出すなどという科学力は無いのだ。

「おちついてください。まだ奴らの目的が地球だと決まったわけでは……」

 トモ・エが言うが、それで落ち着けるわけもない。

「何か……、何か方法はないの!? 地球を救う方法は!?」
「それは……」

 すがりつくように訪ねるソラから、トモ・エは視線をそらす。

『せいぜい先回りしてお前らの家族だけでも船に乗せてくらいだろうな。もっとも、先回りできるかどうかも微妙だが』

 ケン・トの言葉は、多分正しいのだろう。

「そんなっ、他の人達は見殺しにするのかよ!?」
『そう言われてもな、それともお前はあのバケモノ達を全部倒すとでも言うのか?』
「それはっ……だけど……」

 ケン・トの言葉は正しい。正論だ。
 だけど、それでもソラは納得できない。

「トモ・エ、なんとかしてよ」
「ソラさん……」

 トモ・エは目を伏せる。
 そして、ケン・トに語りかけた。

「ケン・ト。先にあなたが回収したレランパゴは今も手元にありますか?」
『え? ああ、そりゃああるが……まさか、お前っ!?』
「申し訳ありませんが、そのレランパゴを私にください。その上で、ソラさんと舞子さんを預かって欲しいのです」

 ……?

「トモ・エ、それって?」

 ソラが戸惑い、舞子が何かに気がついたように目を見開く。

「ヒガンテの殲滅はイスラ星人の悲願です。その為に、私は作られました。この船にありったけのレランパゴを詰んで、ヤツらの本隊の中心点に侵入し、自爆させます」

 レランパゴはヒガンテの餌だが、強力なエネルギー源でもある。
 自爆という形でヒガンテの集団の中央でそのエネルギーを放てば、ヤツらを殲滅できるかもしれない。

「でも、ヤツらの中心点にたどり着くのって難しいんじゃ。まして自動操縦や遠隔操縦じゃ不可能でしょう?」

 舞子の言葉に、トモ・エが頷く。

「はい。ですから、船は私が直接動かします。舞子さんには空間認識能力でヤツらの中央点にたどり着くまでのアシストをケン・トの船からお願いします。
 それでヤツらを倒せるかどうかは分かりませんが、他に手段がありません」

 トモ・エはそう言う。

『……確かに、今一番現実的な手法かもしれねーな』

 ケン・トが言う。
 この船をトモ・エが操縦して自爆させる。

(でも、それって)

「だけど、そんなことをしたらトモ・エが死んじゃうじゃん」

 ソラは叫んだ。

「ソラさん、私はアンドロイドです。アンドロイドに死という概念はありません。あるのは壊れるという概念だだけです」

 そうなのかもしれない。
 でも。
 それでも。

 ソラは、初めて無重力空間を体験した日のことを思い出す。
 それからずっと、トモ・エと一緒だった。

 彼女は確かに人間じゃないかもしれない。
 だが、そうだとしても。
 自爆攻撃なんて、そんなの……

「時間がありません。ケン・ト。お願いです。レランパゴの引き渡しを」

 ケン・トは数秒悩むそぶりを見せつつも、頷いた。

『わかったよ。まったく、大損もいいところだぜ』

 ブツブツいいながらも、ケン・トは承知したのだった。
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